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来訪の目的

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「ズィーリオス殿はエレメントウルフだったのか・・・」



 ダガリスが噛みしめる様に言葉を繰り返す。人ではないということにかなり衝撃を受けたようだ。反対に大地の剣のメンバーたちは、エレメントウルフだからな、といった感じですぐに受け入れていた。やはり詳細が知られていない魔物だと、あり得るのかもと納得してくれるみたいだ。




「指名手配されたと聞いて驚いたけど、リュゼの兄弟はいないはずだからおかしいなとは思っていたんだ。人の姿を取れたのか・・・」



 ガルムがズィーリオスを見ながら感嘆とする。そんなズィーリオスは、この場の全員が獣だと知ったことで、もふもふ状態で俺にモフられている。ガルムの今の言葉に、ダガリスが俺が指名手配されていると聞き、どういうことかとガルムを問い詰め、説明を行った。ダガリスの視線が突き刺さるが、俺は悪いことはしてないぞ!

 ダガリスの視線を無視し、俺はダガリスの隣の用意されていたソファに座って、ズィーリオスをモフっていた。フードも外し、隠すことなく髪を垂らす。因みに悪魔は俺のダガリスの反対側の隣である。

 そして気付いた。ナルシアが先ほどからある一点を見つめたまま固まっていることに。そうだった。ナルシア達に出会った後にユヴェーレンと出会ったんだった。ユヴェーレンを見たまま固まっているナルシアの異変に気付いたジェイドがどうしたかと尋ねる。これはユヴェーレンの存在も隠し通せない感じか。そもそもユヴェーレンが先ほどから自分の存在を紹介しろと催促していた。契約者であることを皆に見せつけたいらしい。



「リュゼ。あの、その方はまさか・・・?」



 ナルシアがおずおずと俺に問いかける。そのナルシアの反応から、ナルシアの事を知っているジェイドたちはまだ何かあるのかと、目を見開いて俺を見てくる。ダガリスだけ置いてけぼりで、不思議そうな顔をしている。



「ナルシアの想像通りだ」



 いつも冷静なイメージのあるナルシアが口を開けたまま呆けた。どういうことだと集まる視線を見渡し、息を吸って紹介する。



「俺の契約精霊のユヴェーレンだ」
『よろしくぅーー!』



 俺の紹介と共に顕在化したユヴェーレンが、満面の笑みでこの場の全員に念話で挨拶する。一方通行の念話だが、普通に話してもらえば会話は出来るので問題ない。

 ユヴェーレンが俺の頭を抱き締める様に、背後から一同を見渡しているその顔は、きっとドヤ顔をしているのだろう。


 静まり返った室内で、最初に我に返ったのはダガリスだった。呆れた表情で溜息を吐く。



「初めの頃にズィーリオス殿が君たちについて詮索しないようにと言っていたが、これほどの爆弾をかかえているとは思わなかったよ。精霊が見えているのではとか、精霊に好かれているのではと思ったことはあったが、まさか契約しているとはね」



 今までのことからなんとなく察していたらしい。けれど契約関係にあるとは思っていなかったようだ。契約したのはつい昨日なんだけどね。それにしてもなんかダガリスが疲れて見えるな。最近ずっと忙しそうだったから、疲れが溜まっているのかも。もふもふは良いぞ!疲労回復に抜群だ!ダガリスにはモフらせないけど。



「まあ、リュゼだからな」
「そうね」
「そうっすね」
「だな」
「ええ」



 ガルムの言葉に全員が同意する。ちょっと待て、それはどういう意味だ!不満を露わにして彼らを睨み付けるが、乾いた笑みを浮かべ無視される。酷い。



「彼の紹介もしてくれるか?新しいリュゼの仲間か?」



 ガルムが俺に尋ねてきて、ずっと蚊帳の外で不貞腐れていた悪魔が輝きだす。



「俺様はなっ!むごっ」



 変な事を言い出しそうだったので口を塞ぐ。悪魔だとバレないようにしろと言っているが、こいつのせいでややこしいことになるのは勘弁だ。まあそんな状況になったらズィーリオスにバトンタッチするが、なるべく面倒は少ない方がいい。俺の意図を汲み取ってくれたのかどうなのか、ユヴェーレンが悪魔の耳元で何かを言い黙らせた。ダガリスが苦笑いを浮かべている。



「ただの迷子の同行者だ」
「迷子??」



 アネットが訝し気に悪魔を見る。悪魔は俺の発言の後何かを言ったらしいが、直前にズィーリオスが悪魔の周囲に風の結界を張ったようで、悪魔の声が一斉聞こえなくなった。口を一生懸命パクパクしている成人男性の姿は滑稽に映る。ユヴェーレンが爆笑し、そんなユヴェーレンに対して文句を言っている様子の悪魔を見て、こちらへの意識が薄れたことを確認する。

 俺は無害なストーカーだと追加で説明したが、ストーカーの時点で有害だと全うな事を言われた。当然の流れで排除するか?と問われたが、彼らにはそれは出来なく、そんな武力行使をしようものなら大変な事になる。俺は気にしていないと宥めてガルム達には気にしないようにと伝えた。
いや、もう大地の剣にはそういうことで納得してもらった。納得してなくともしたことにする。異論は認めない!












「そういえば、なんでここにいるんだ?拠点のネーデからはかなり遠いだろ?」



 他愛無いことを話していたら、当初の疑問を思い出す。



「依頼だよ。依頼。リュゼを知っている俺たちへの指名依頼が入ってな」



 そう言ってガルムが懐から手紙を取り出す。それを俺に投げて寄こすと、開けてみろと顎をしゃくる。


 手紙はどこかの家紋の蝋で封がされていた。家紋があるということは貴族か。それにしてもこの家紋、どこか見覚えがあるような、ないような?思い出せないので、思い出すことは諦めて、さっさと開封してみることにした。


 開けてみると一枚の手紙が入っていた。取り出して中身を読む。読み終える頃には頭の中は混乱していた。どういうことだ?


 詳しい内容を求めてガルムを見るが、あっけらかんと拒否される。



「詳しいことは俺たちも知らない。そこに書いてある通り、直接会ってから話したいそうだ」



 もう一度手元の手紙を見下ろす。

 手紙はアンナからのものだった。協力者と共に俺の無実を証明を行うつもりらしい。ただ、その本人である俺がいないと、やましいことがあるから隠れているのだと言われる可能性があるため、事実無根である証として姿を現して欲しい、とのことだった。それも、その協力者が相当に用意周到に準備をしてきたので、必ず勝てるとのことだった。だが、作戦の詳細は手紙には書けないので、俺が直接来てほしいと。しかも、その協力者が俺の居場所を絞り込んで、俺がベイス近辺にいると特定したらしい。


 誰だよ、その協力者。ヤバいな。つまり再びハーデル王国に戻って来いという手紙なのだ。俺に確実に手紙を届けるため、そして俺を連れてくるために、俺が知っている冒険者パーティである大地の剣を寄こしたというのだ。


 相手は国の上層部だけでなく、裏ギルドまで絡んでいるというのに、そのような危険を冒す価値があると判断してくれたのだろう。下手したら貴族としての地位だけでなく、命が脅かされるというのに。それだけ、ネーデを救ってくれた恩に報いたいというのだ。


 悩む俺を見て、ズィーリオスが手紙を見せろと言うので渡す。隠れて生きることは確かにストレスになるから大変だ。街に入ることも、観光や美味しい物を手に入れることも簡単には出来ない。ご飯が食べたいのだ。どこかにあるかもしれないが、今のままでは探すことさえ気ままに出来ない。
けれど、人と触れ合わずに生きていくことは別に苦ではない。今ではズィーリオスだけでなく、ユヴェーレンだって、一応悪魔だっている。1人ではないから寂しくはないのだ。人里離れた場所を通って旅をするぐらいなので、必ずしも人と関わらなければならないというわけではない。


 だから今のままでも問題はない。

 けれど俺が行かなければ、準備万端に整えてくれているというアンナとその協力者は、きっと何かしらの重い罰を受けることになるのだろう。俺のせいで。



 悩む俺に、優しいズィーリオスの声が聞こえた。

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