はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

文字の大きさ
上 下
184 / 340

見知った顔

しおりを挟む
 昼食のために迎えに来てくれたエリムが来るまで、ズィーリオスとユヴェーレンの口論は平行線を辿り、見かねた悪魔が仲裁に入ることで終結した。悪魔が喧嘩を仲裁するという、悪魔らしくないことをしていた。




 そして、山盛りの魚介各種を好きなように好きなだけ取って食べられる、バイキング形式の昼食を済ませた。ご飯があれば丼が出来たというのに。そろそろご飯が恋しい。米探しをしないとな。


 食後は、ラナンと共に通信機のデータ取りの実験に付き合わされ、気付けば夕方になっていた。今のところは、ベイスの町の中までの距離であれば連絡が可能なようだった。沿岸部から深海の国アクスリウムまでどれぐらいの距離があるのか分からないが、想像以上に高性能だった。声は念話のように直接頭の中に聞こえ、雑音が混じることもなくクリアだった。

 ラナンはふざけたところもあるが、優秀な鍛冶職人であることだけでなく、優秀な魔道具職人でもあるのは明白だった。


 俺たちをベイスまで送ってくれたエリムに礼を言い、そのまま1泊2日の短い慰安旅行は幕を閉じた。


 そして旅行から帰った次の日からは、これまで通りの早朝稽古を繰り返す日々となった。






















 今日は、以前から予定されていたダガリスたち領主が集まる会議の日だ。そのお陰でダガリスとの稽古はお休みになったが、代わりにベイスの町を出た西側の、英雄の森外周部の森の木の葉切りを命じられた。勿論、空中で舞っている木の葉を斬るのだ。審査員はズィーリオス。サボれない。


 剣の風圧で吹き飛ばないように、調整して剣を振らないといけないから難しい。そして木の葉が地面に落ちるまでなので、ゆっくり過ぎてもダメで、早すぎてもダメ。まさに技術確認には打ってつけの方法だろう。


 落ちる木の葉が少ない時は良い。けれど、多い時は滅茶苦茶大変だ。しかし、今までの稽古の成果が出ているのか、何とか食らいつくことは出来ている。だってもし、今回のズィーリオスの判定で合格判定が出ないと、普段の稽古の内容が明日から2倍になるのだ。早朝から領主邸周辺を100周などふざけてる!!絶対に走ってなるものか!

 黙々と木の葉を斬っていく。順調だと思っていたが、余程暇だったのか突如として悪魔が、舞う木の葉の中に石を投げ込み始めたのだ。それにズィーリオスも乗っかり、石に当たると減点だと言い出した。マジで鬼畜だ!











 汗を大量に掻き、集中力が限界に近い俺は、ズィーリオスからの終了の合図に歓喜して剣を納め、近くの木を背もたれにして座りこんだ。もう暫くは動きたくない。


 結果は合格。
 どういう判定基準だったのかは全く分からないが、ズィーリオスがオーケーを出したのだから、きっとダガリスも稽古を2倍にすることはないだろう。それが今はないよりも嬉しい!



 聞こえてくるガヤを無視して目を瞑る。お願いだから今は俺を無視してくれ。喋る気力もないんだよ。そう思うも、結局寝入るほどゆっくりと休憩することは出来ず、いつの間にか反省会のようなものが開かれていた。技術は手に入っても、普段ダガリスとしか相手をしないため、もっと対人戦の経験を積む必要がある。最終的なまとめとしてそのように着地した。それは俺も感じていたことなので、次にジュリア奪還の時に出会った2人組と出会った時は、なかなかいい戦いが出来るのではないだろうか。




 そして十分に休憩を取ったが、時間帯はまだ朝だ。お昼には早いが少し腹が減った。領主邸に戻り、何か軽く食べられるものを貰うことにしよう。ズィーリオスにクリーンを掛けてもらい、さっぱりとした後、領主邸へ帰ることにした。

















 部屋で軽食を食べた後、特にすることもないのでのんびりと過ごしていた。剣の手入れをした後に、もふもふになったズィーリオスをモフる。モフっていれば時間は直ぐに過ぎていくものだ。



 コンコン。



 扉がノックされる音が響いた。ほら、もう昼食の時間だと使用人が呼びに来てくれたのだろう。すぐにズィーリオスが人化してしまったが、まあ食事の時間なら仕方ない。コートを羽織り、フードを被る。おい悪魔、笑うなら思いっきり笑え。ぶん殴ってやるから!


 折角の食事だというのにイライラしてしまう。ズィーリオスが扉を開けると、使用人がダガリスが呼んでいるからついて来るようにと言われた。え?昼食じゃないの?大人しく皆して部屋から出て、ぞろぞろと使用人の案内の下付いて行く。

 ダガリスに呼ばれることに心辺りはない。そもそも今日のこの時間は、ダガリスは忙しくて屋敷にいないはずだ。なぜいるのだろうか。付いて行ったら分かるのだろうけど。



 そして使用人がとある扉の前で立ち止まり、ノックして中の人物に入室の許可を取る。返答した声はダガリスのものだ。中にダガリスがいるのは間違いない。


 開かれた扉をくぐり中に入ると、ダガリス以外に客人がいた。


「えっ?」


 そこにいるはずのない、見知った懐かしい顔ぶれが揃っていた。思わず、入った途端に立ち止まる。俺を見た彼らは嬉しそうに笑った後一瞬固まり、男性2人は苦笑いを、女性2人は目を輝かせた。若干一名は俺に飛び掛かりかけて、男性に頭を鷲掴みにされて止められていた。



「・・・・なんで?ここにいるんだ?」



 ズィーリオスが肩を叩いてくれたおかげで止まっていた頭が動き出す。



「久しぶりだな!リュゼ!一気に有名人になってしまって俺たちの事は忘れたか?」



 おどけたように片手を上げて声を掛けてくる熊獣人の大男。そう、呼び出された先にいたのはまさかの「大地の剣」のパーティメンバーだった。



「・・・・ごめん、忘れた。どちらさま?」
「嘘はいけないぞ!俺たちの姿を見てすぐの反応から、俺たちのことを知っているだろ」




 知っている。知っているが名前を思い出せないのだ。暫く会っていない、ちょっとの間だけ関わった程度の人の事を普通覚えているものか?顔は覚えていても名前は思い出せないって。

 本気で名前を思い出せず、念話でズィーリオスに聞く。ズィーリオスはちゃんと覚えているようだ。呆れられたが、目的を達成しているので気にしない!



「本当に知り合いだったのか」



 その時、ずっと蚊帳の外に放り投げられていたダガリスが俺たちに尋ねる。それにズィーリオスが答え、大地の剣のメンバーがこいつ誰だ?という顔をした。一応ダガリスはズィーリオスが人間だと思っていて、大地の剣のメンバーはズィーリオスが人化出来ることを知らない。面倒な事になった。

 どうやら、ダガリスが大地の剣のメンバーが言う俺の関しての情報が間違っているのに、どうしても俺に会いたいと言って譲らなかったので、実際に俺を呼んで判断してもらうことにしたらいい。俺の髪の色が白いってことだけがあっていたので、もしやと思いつつも、何か恩人に何かあってはいけないとダガリスが同席しているらしい。

 そしてそのダガリスだが、会議が急遽延期になったようで、この場に居合わせているらしい。なんかお疲れのようだが、俺には関係ないだろうし、まあいいや。



「なんか人が増えたっすね」



 ジェイドが俺の後ろのメンバーを見て答える。人化したズィーリオスと悪魔が増えたように見えるのだろう。



「あれ?ズィーリオス君は?」



 ガルムに押さえつけられた状態から抜け出したアネットが尋ねる。ああ、ついにきてしまったようだ。ガルム達に訝し気な眼差しを向けるダガリスを尻目に溜息を吐き、ズィーリオスと視線を合わせる。面倒だからもうバラしてしまった方が良いだろう。

 ズィーリオスは彼らなら大丈夫と判断しているようで、それぞれの姿を教えるつもりらしい。ズィーリオスが良いなら俺はそれで構わない。


 そして、もふもふズィーリオスに驚くダガリスと、人化したズィーリオスに驚く大地の剣の驚愕の声が室内に反響した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...