はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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樹洞

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「ズィー!!ここで何してんだ?」
『げっ!?』



 ズィーリオスを追いかけ、世界樹の幹の一部に開いている穴の中に入ろうとしているところに声を掛ける。しかし、俺の存在が想定外だったのか、驚きを表すように白い尻尾の毛がブワッと広がる。お互いに位置が分かるとはいえ、位置を探ろうと意識しない限り把握は出来ない。ズィーリオスは俺がここに来ているとは微塵も考えなかったのだろう。




『なんでここに・・・・!?』




 ズィーリオスの困惑した声が聞こえ、その視線が俺の後ろに向く。




『エリムランデルト・・・・』
「すみません」




 エリムを見ると、深々と頭を下げていた。俺が世界樹を見に行きたいと言った時、渋っていたのはズィーリオスに止められていたからなのだろう。




『はあー。リュゼ、後から追いかけて合流するから先に帰ってて』
「え?なんで?ズィー1人だけで世界樹の穴の中を探検するとかズルい!俺も行く!!」




 ズィーリオスが帰そうとするが、もちろん大人しく帰るわけがない。世界樹の中の探検という明らかに楽しそうなイベントを1人で味わうのは、同行者がいる旅でのマナー違反だ。絶対に俺も付いて行く!

 俺の言葉にズィーリオスが反応する前に、俺の後方にいる者が反応した。



「ええ!?樹洞があるのですか!?」



 いきなりのエリムの叫びに思わず振り返ると、目をキラキラさせて俺に接近しているエリムがいた。



「あ、ああ。あそこにあるけど・・・・」



 引き気味に穴の方を指差すが、エリムは首を傾け、どこにもないと首を振る。俺は見えるが、他の人は見えないこの現象、覚えがある。

 ジト目でズィーリオスを見つめる。するとズィーリオスは諦めるように溜息を吐いた。



『聖域の結界を張るだけだから。中も広くないし、準備も終わったからすぐ張り終える。見る物はないよ』



 やっぱり聖域があった。世界樹の中に聖域があるなんてピッタリな組み合わせだ。それにしても、聖域は俺も一緒に行くと前から言っていたのに、なぜ今回だけこれほど回りくどくしてまで、俺を聖域に行かせようとしないのだろう。ロザロ山脈の聖域のように何かに呼ばれる感覚もしないから、ズィーリオスが嫌がるほどの何かがあるとは思えない。それに、ここまでされたら逆に行きたくなる。ズィーリオスは、自分の抵抗のせいで余計に俺が行きたくなっていることを分かっているのだろうか。気付いていないだろうな。



「そんなこと言われたら余計に一緒に行くに決まってるじゃん」
『ダメ!』
「えー!なんで!」
『それは言えない!』
「言えないのはおかしいでしょ。隠すような何かがあるっていうわけ?」
『・・・いや?』



 今の一瞬の間が怪しい。即答しなかったってことは、見る物ないとは言っていたけど、絶対に見せたくない何かがあるってことだ。やっぱりこれは中に何かあるに違いない。



「えーっと、リュゼさんはズィーリオスさんと会話しているのですか?」



 念話が聞こえないエリムが質問してくる。その質問にそうだとだけ答える。悪魔も精霊王と同じように聖域の穴は見えないが、念話の会話は聞こえているので、俺が聖域に付いて行こうとしていることは理解している。この場でついていけてないのはエリムだけだった。

 精霊王がエリムになら教えても大丈夫だと判断したのか、聖域があることを伝える。すると驚いた様子ながらもどこか納得したように頷く。エリムも聖域の存在を知っていたようだ。本人は、そのようなものが存在すると聞いたことがあっただけのようで、実物は見たことはないらしい。そもそも見えないのだから仕方ないが、すぐそこにあるという場所に来たことはなかったようなので、少し興奮気味だ。



「私も入ることは出来るのですか?」
『無理だと思うわぁ。私も入れないしぃ、多分そこの悪魔も無理だと思うのぉ。入る資格があるのはあそこの2人だけねぇ』



 エリムの質問に精霊王が答える。エリムは残念そうにそうですかと答え、悪魔もだろうなと納得を示していた。

 俺はどうやって中に入るか考えていた。ズィーリオスが結界を張るだけと言っていたことから、準備は整っているとみて間違いない。最近早朝で俺が稽古をしている時に居なかったのは、結界を張るための準備をしていたからかもしれない。


 ズィーリオスは俺との距離を詰めていた。直接俺の動きを抑え込もうとしているのかもしれない。あのモフモフの毛皮に包まれたら、俺は簡単に寝落ちしてしまう。それだけは避けなければならない。嬉しいけど今だけは!それに気づいた俺はズィーリオスとの距離を保ちつつ、世界樹に近づくように動く。ただ離れるだけではズィーリオスの思惑通りかもしれないからだ。

 そして思いつく。中に入りたいなら、ズィーリオスが結界を張り替える前に入り込んでしまえば良いじゃないかと。

 だから俺は一目散に聖域へ向けて泳ぎ出した。俺とズィーリオスの位置的に、俺の方が僅かに近い。全力で行けば俺が先につく!俺の意図に気付いたズィーリオスが慌てて後を追いかけてくるが、予想通り、俺の方が中に入り込むのは早かった。

 暗い穴の中に飛び込む。魔力を周囲に放ち、見えない道を魔力で確認しながら進む。するとそんなに深くない位置で広めの空間に出た。確かに中は広くはないようだ。

 すると不自然な魔力の流れが生じた。何かに魔力が吸い込まれている気がする。これは、丸い球体?



『リュゼ!!絶対に水晶にだけは触るな!!』
「え?これの事?」



 丸い球体を掴んだ瞬間に聞こえたズィーリオスの声に、その球体を掲げて答える。暗闇に包まれた視野の中では、自分が掴んでいる球体が何なのかを確認することさえ出来ない。だから、ズィーリオスに尋ねたのだが・・・。



『なっ!!??』



 直後、ズィーリオスが水魔法で周囲の海水を操って俺の手にしていた球体を奪い取り、元あった場所に戻す。そして光球を出して周囲を照らし、俺の顔を覗き込んだり、手足を確認されたりした。



「ちょっとズィーリオス?いきなり何なんだよ」
『何なんだじゃないよ!!気分悪いとか、体の中が痛いとかはない!?おかしなところは!?』



 詰め寄られ、必死の形相で俺の体をチェックするズィーリオスに引きながら、どこも悪くないと答える。おかしな感覚はない。



『本当だよね!?はあーー、良かったーー』



 力が抜けたようにズィーリオスは座り込んだ。そのあまりの心配ぶりに俺も罰が悪い。



「えーーっと。なんかごめん」
『本当に悪いと思っているっ!?下手したら死ぬところだったんだよ!?』
「えっ!?」
『前に言ったよね!?聖域には世に出てはいけない危険なモノが封印されていることもあるって!!今までのように聖域内は安全とは限らないんだよ!?』



 ズィーリオスに烈火の如く怒られ、自分の認識の甘さを反省する。ズィーリオスが聖域内に入れたくないという行動にはきちんと意味があったのだ。その行動の意味を考えきれなかったのは俺が悪い。例え分からなかったのだとしても、勝手に飛び込まないで話し合うべきだった。



「本当に俺が浅はかだった。すまない」



 だから誠意を込めてズィーリオスに謝る。ズィーリオスは俺のために注意をしていたのに。



『まあ、俺も悪かったよ。リュゼの性格上、理由も言わずにあんな風に拒否されたら、余計に気になってしまうものだよね。次からは理由まで話すから、勝手に突撃するのだけはやめてね』
「本当にごめん。俺も次からはちゃんとズィーの話を聞く。納得出来なかったとしても、突撃せずに理解出来るまで質問するから、ちゃんと教えてな?」



 俺が悪いのに、ズィーリオスも悪いところがあったと謝った。そして、お互いの悪いところをお互いが直すよう気を付けることにした。例え契約による繋がりがあったとしても、言わなければ伝わらないことはある。

 相棒だからこそ、ぶつかり合ってそのたびにお互いに話会うことで、関係を更に強固なものにし、お互いに成長する。

 だけどそれが出来るのは、ズィーリオスが俺を裏切らないと分かっているから。相手がズィーリオスだからこそ、俺は素直に反省出来るのだろうと思いながら、仲直りのハグをした。
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