はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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悪魔

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 起き上がる気配のない2人の下に駆け寄り、まずは安全確認のためにラダーガの様子を確認する。意識を完全に失っているが、呼吸をしていることから生きているようだ。膨れ上がっていた筋肉は元に戻っており、多分目の異変も直っているだろう。

 ダガリスも同じく背中が上下していることから生きているのは間違いない。全身傷だらけだが、今すぐ命に係わるような大けがは負っていないようだ。


 さっさとダガリスを治療に連れて行きたいが、そうなると誰もこの場で見張っている人がいなくなり、ないとは思うが目が覚めたラダーガが逃げるかもしれない。それに、先ほどから大人しい悪魔を監視することが出来なくなる。


 どうしようか悩んでいると、ズィーリオスとエリム、その他騎士数名が入って来た。服装からダガリスのところ所属の騎士だろう。 



「お前らナイスタイミングだ!こっちに来てくれ!!」



 速攻で声を掛け、呼び寄せる。全員が一瞬俺を見てギョッとした顔をしたが、ダガリスとラダーガが倒れている姿を見てすぐに駆けつけてくれた。



「容体は?」
「大丈夫。両方とも生きてて、致命傷はない」
「そうか。エリムランデルトは騎士たちと共に、ダガリスさんとそこの男を連れて行ってくれ」



 ズィーリオスの簡素な質問に端的に答え、ズィーリオスはエリムに指示を出す。その指示にエリムは頷き、騎士と俺たちもダガリスを持ち上げるのを手伝う。その間にズィーリオスに確認を取る。


「人魚たちはどうなった?」
「安心して。別室にいた人達は突入と同時に保護し、リュゼが逃がした人達は此処に来る途中で合流して、一緒に同行していた同じ人魚の人達に頼んで保護してもらった」
「それは良かった。あ、変態は?」
「変態?」
「領主の息子だ」
「ああー、あの男ね。精霊王が悪夢追加の雁字搦めにして捨ててたのを拾って拘束した」
「いい仕事をしたな」


 そしてエリムは軽く俺に頭を下げた後、騎士と共にダガリスの肩を支えて多少引きずりながら歩き出した。残りの騎士でラダーガを担ぎ上げる。



「その男は置いていけ」



 騎士たちがラダーガを連れて行こうとした時、黙って観ていた悪魔が口を開いた。ズィーリオスとエリムはやはり存在に気付いていたようで、顔を顰めるだけだったが、騎士たちは今気づいたのか怯えた声を出した。



「もう一度言う。次はない。その男は置いていけ」



 悪魔の言葉に、騎士たちが助けを求める様にズィーリオスに視線を向ける。ズィーリオスが悪魔に向かって口を開く。



「なんでお前のような存在がここにいるのかは知らないが、理由を教えろ」



 今まで聞いたことがないほど低い声でズィーリオスが告げる。それに対し、悪魔は面白そうに、けれど面倒臭そうに答える。



「俺様とそこの男が取引をしたからだ。お前ならそれが何を意味するか分かるだろう?」



 そのセリフにズィーリオスは目を見開いてラダーガを見た後、溜息を吐き騎士たちにラダーガを降ろすように指示する。騎士たちがラダーガを降ろすと、ラダーガの周りに黒い靄が掛かり覆い隠す。そして黒い靄が収縮して拳大の大きさになり、悪魔のところに飛んで行った。黒い靄が消えた後のラダーガがいたはずのその場所には、何も存在しなかった。

 騎士たちが目に見えて怯える。その様子にすぐにこの場から離した方が良いと判断したのか、エリムがダガリスを運ぶのを手伝うように命令して、引きずられることはなくなったダガリスと共に扉の外に消えて行った。


 部屋の中に沈黙が落ちる。
 沈黙を先に破ったのは悪魔の方だった。


「よー、人間。会えるのを楽しみにしてたぞ」


 相変わらずどこから出したか分からないテーブルと、イスに腰掛けたまま、なぜか軽い感じで俺に声をかけてきたので返事をするが、悪魔は喚び出されたのだから、還す方法もあるはずだ。しかし俺にはその方法は分からない。ズィーリオスなら知っているだろうか?


「・・・俺の事を知っているのか?」
「もちろんだとも!だからわざわざ雑魚の召喚に割り込んで来たんだ。お前に会うためにな!」



 なんで悪魔が俺の事を知ってるんだ。たまに俺の方に視線を向けていたのは、俺の事を知っていたからなのか。それに、本来なら別の悪魔が来る予定だったらしい。



「割り込んだ?」
「ああ。でなければ簡単に俺様レベルの大悪魔がこちら側に来れるハズがないだろ?」



 いや、知るか。悪魔の事情など知ったこっちゃーない。それにこちら側とは、あちら側もあるということか?



「なるほど。お前レベルの悪魔がどうやってこっちの世界に入って来たのかと思ったら、そういうことか」



 なぜかズィーリオスが1人納得したようだった。俺にも説明してくれ。



「どゆこと?」
「悪魔が暮らしている世界と俺たちがいるこの世界は、切り離されている別々の世界だということだ。だから、世界の壁を超えることは途轍もなく難しいのだが、それぞれの世界が完全に切り離されているわけではないんだよ」
「そう、だから通り道はいくつかある」



 ズィーリオスの説明に、悪魔も便乗してくる。戦いに発展しなかったのは安心だが、この悪魔まさかの観光に来たのか?



「世界の壁が薄いところが世界にはいくつもあってね。そこを通って来る方法と、もう一つは今回の召喚のように、無理やり人の手で作られた世界の穴を通してやって来る方法なんだよ」
「だけどその穴は基本的に小さいから、俺様みたいな力の強い奴は通れない。通って来たとしても力の弱い雑魚しかいないってわけだ」



 なんかこの2人、2人?息ピッタリだ。交互に説明するなんて思ってもなかったぞ。特に、悪魔の方が。



「けど、穴が小さすぎて通れないのなら広げちまえば良いってことで、強引に穴を拡張して通って来たんだぜ!」



 最終的に悪魔がズィーリオスに代わって纏めてくれる。なんか悪魔のイメージが粉砕されたわ。というかちょっと前までの緊張感は何だったんだよってぐらいに、丁寧な説明だった。これは、穏便に還ってもらえそうな気がするぞ。



「そうそう簡単に穴を広げられるもんじゃないんだけど?」
「ふんっ!俺様に掛かればちょちょいのちょいよ!」



 得意げな顔で胸を張って威張る悪魔。その顔、イラっとするなー。ズィーリオスに至ってはジト目を向けていた。



「簡単に穴を広げられるなら、開けることも出来るだろ?さっさと還れよ」
「は?ヤダね。それに穴を開けるのと、広げるのじゃー全然労力がちげぇんだよ。簡単に穴を開けられるなら、とっくの昔にこっちに来てるから。だから俺は還らねーよ!」



 還らないじゃなくて、還れないの間違いだろ。



「それに俺は目的があってこっちに来たわけだしな」
「目的?」
「ああ、知りたい?知りたいか!?」
「どうでもいい」
「そうか知りたいかー!」



 うぜぇ。この悪魔うぜぇ!テーブルの上に両肘を付け、組んだ手の上に顎を乗せ笑顔で頷いている。
 悪魔を無視してズィーリオスに尋ねる。



「ズィー。因みにだけど、悪魔を強制送還する方法はないのか?」
「あるぞ。面倒だけど」
「おお!どんなの!?」
「こいつみたいな肉体を有しているタイプは力で叩き伏せてしまえば良い。殺すとはちょっと違うが、肉体がなくなれば戻って行くぞ」
「なるほど」



 つまり穏便な方法じゃあ無理ってことか。うーん、どうしようか。



『リュゼぇー、お仕事まだ終わらないのぉ?』
「なっ!」


 俺が悩んでいると精霊王がやって来た。外で待っててくれたのだろうか。あと、なんか驚いた声が聞こえた気がしたが、きっと疲れが溜まっているだけだろう。



『ふーん?』



 精霊王が悪魔を物珍し気に眺める。対して悪魔の方は、精霊王を見て目を見開き、陸に上がった魚のように口をパクパクさせている。悪魔は精霊を初めて見て驚いているようだ。リアクションが大きすぎる気もするが、これがこの悪魔の普通の反応なのかもしれない。



『リュゼぇ、保護した人たちと救助に来ていた人達はぁ、全員この辺りから退避させたからぁ、一発どぉーんとやっちゃって大丈夫よぉ!』
「よし!任せて!」
「え?ちょ、え?」



 精霊王の言葉に元気よく、やる気満々で悪魔に笑顔を向ける。ズィーリオスは即座に結界の準備をし出した。久しぶりの黒の書の使用許可に、悪魔への対処は決定したのだった。
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