はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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反撃

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 ラダーガの言葉に俺は、剣を薙ぎ払い応答する。ゴトッと落ちた首を一目見ることもなく。自身の首を追いかけるように胴体が後を追い、床に倒れる音が響く。







「抗うということか!?もう良い!死なない程度に痛めつけて、手足を切り落とし逃げられないようにしろっ!」







 ラダーガの命令により、一斉に騎士たちが取り囲み攻撃を仕掛ける。しかし、先ほどまでと同じでその数を少しずつ減らしていく。けれど、全てが先ほどと同じように進むわけではない。







「全員退けぇえーーッ!!」







 空気を震わす大声と共に、ドワーフの男が斧を振りかぶり突っ込んでくる。大振りの一撃をまともに受けるほど、その攻撃は速くない。剣の腹が斧に一瞬触れるか触れないかのタイミングで捌き、勢いそのままに踏み込みながら、剣先が首元へと吸い込まれるかのように剣を振るう。





 ギィイィーーン!





 しかし、剣先は人の肌に当たったとは思えぬ音を出し、ドワーフの首に傷1つ付けることなく勢いを殺す。そして剣を引き戻すよりも早く、まるでこうなることが予め分かっていたかのように、ドワーフの男は剣先を掴む。すると、ドロリと鉄の剣が熔解し形を失った。後方に飛びのき距離を取る。ドワーフから目を逸らすことはせず、剣身がなくなり柄だけになった元剣を乱雑に放り投げる。







「ガッハッハッハー!狙う場所さえ分かっていれば簡単に防げるわっ!もう武器はないがどうするつもりだ?そこらの奴の剣を拾ったところで、今と同じ様になるだけだぞ!!」







 武器がないのなら、剣を拾う前と同じように己の手足を武器とすれば良いだけの事。それに、こんなことに時間をかけている暇はない。







「ぅるっせぇ・・・」

「あ?今なんて・・・?」





 フラッと前に倒れるかのような重心移動からの急接近。だが、相当自分の防御力に自身があるようで、一切防ぐような動作をせず、斧を袈裟斬りに振るう。それをワンステップジャンプで一回転しつつ上空へ躱す。その際、上空で回転しながらドワーフの男の頭を両手で鷲掴みにし、男ごと巻き込み回転し着地と同時に床に叩き付ける。手に感じた手応えが、首の骨が折れた感覚が、この勝負の決着を決定付ける。



 頭から手を離し、斧を手に取り上体を起こす。敵はまだまだ残っている。







「嘘だろっ・・・。精霊魔法による物理結界を力で捻じ伏せたとでもいうのか!?」





 様子を見ていた騎士たちがザワつきつつも剣を構えるが、全く動揺を隠しきれていない。



















 結界の種類は様々存在するが、そもそも結界とは何か。

 結界は術者または起点となる発動元を中心として完全に覆い、魔力で構成された魔術的な、領域を切り取り支配するものだ。そのため、一方方向にしか展開出来ない結界は結界とは呼べず、多くは防御壁と呼ばれたりする。



 それに伴い、展開される結界の表面積が防御壁よりも格段に広くなるため、魔力消費量が増いこともその特徴の1つでもある。



 また、結界には属性の魔力で展開することも出来、防ぎたい攻撃に対して特化させることが出来る。そして多くは、自身の属性が一番操りやすいため、自身の属性の結界を展開することが多い。ただ、自分が持っていない属性の結界はもちろん展開出来ない。これらの結界は俗に、魔法結界または単に結界、複数属性持ちであれば属性の種類が頭につけて呼ばれる。



 それに反して、物理結界と呼ばれる結界がある。物理結界は、精霊と契約したドワーフやエルフが精霊魔法として行使していることが有名だ。物理結界は属性の種類に左右されず、純粋な魔力で構成される。そのため、属性を一切含まないようにする緻密な魔力制御能力が必要になり、人だけで展開するにはかなり難しい。



 しかし、そこを精霊が補う。精霊はその存在自体が魔力の塊であり、魔力の扱いに関してはお手の物。契約者の人が困難であるその緻密な制御をいとも簡単に行ってくれるのだ。



 更に、結界は籠める魔力密度が高ければ高いほど、強固な物になる。その密度の調整も精霊がやってくれるので、簡単に強固な物理結界を張ることが出来る。ただし、その分魔力を多く消費することは言わずと知れたことだろう。



 通常の身の回りを覆う程度の魔力の結界を、その魔力量をそのままに、範囲を狭め表面積を小さくするとどうなるか。必然的に結界の魔力密度が上がり、防御力が跳ね上がる。



 更に今回のドワーフのようなほど肌にピッタリとした結界であれば、その分、結界を張っていることを敵に悟らせず、防御力を高めた魔力効率の高い運用方法と言えるだろう。





 けれど、そんな物理結界にも弱点は存在する。この結界が防ぐことが出来るのは名前の通り、物理的な攻撃のみだ。防いだ攻撃の衝撃は防ぐことが出来ない。一撃目の剣を首元に突き立てた時、ドワーフの男が一瞬だけ顔を顰めていたことで、物理結界が張られているのだろうと確信した。



 そして肌に沿うように結界が張られているのなら、結界ごと鷲掴みにし、体が本来なら曲がらない角度に曲げてしまえば、自然と体内を負傷する。更に叩きつけた効果も合わさり、衝撃により内臓からダメージを与える。



 これがドワーフの男との一戦の実状であった。

























 及び腰の騎士たちを、斧を軽く振り回すことで威嚇する。逃げ出したそうな様子の騎士たちだが、彼らが守るべき主がこの場に留まっているため、そういう訳にもいかないようだ。





 その時、開け放たれていた扉から1人の騎士が転がり込んで来た。





「領主様!!緊急事態です!」

「何事だ!」

「襲撃者です!現在手の空いている者達で応戦していますが、強すぎて我々の手には負えません!増援を要請したいのですが・・・ッ!?」





 報告に来た騎士が初めてこの部屋の状況に目を向けると、驚愕を露わにし、青ざめた顔で俯いた。





 このタイミングでの強襲。待機していると言っていたズィーリオス達だろう。ならば、この場に居ない人魚の救出も行ってくれるはずだから、余計な人員を送り込ませるわけにはいかない。



 この場に居る敵は、全て俺が、この場で。







 ラダーガが騎士の報告への対応に悩んでいる間に、付近の騎士たちを一掃する。自らの重量と遠心力によって破壊力の増す斧は、剣を振り回していた時よりも圧倒的な速度で敵を沈黙させていく。それこそ、他へ増援を回す余裕など残らない。



 残されたのは、ラダーガの周りにいる騎士たち、領主親子、報告に来た騎士、エルフの男のみとなっていた。





 あれ程大量にいた騎士が全滅しても尚、領主親子は余裕そうな表情を浮かべている。エルフの男をそれほど信頼しているのか。結局、増援の騎士はいなくなったが、このエルフの男が俺を制圧した後に、増援として送ることに決めたようであった。





 エルフの男の側に精霊が見える。あれは中位精霊か、それも2体。







 突如猛烈な突風が襲い吹き飛ばされそうになるが、持っていた斧を床に突き刺し、耐え凌ぐ。その突風により転がって来た死体がぶつかる。蹴り飛ばそうとした瞬間、その死体の隙間から一瞬見えた種が発芽し、一気に生えてきて俺の片足を拘束する。そのまま捕まえた片足を引っ張り上げる様に床から引き離され、宙ぶらりんとなってしまう。





 その状態で鋭い刃となった風が襲い来るが、それらは全て魔力鎧によって無効化される。その様子になぜか喜々とした表情を浮かべるエルフだが、植物で俺の四肢を固定し封じ込める。魔法ではないただの植物は、魔力鎧で無効化し消滅させることは出来ない。燃やしたり、切り刻むことで脱出することも出来ない。





 完全に拘束された俺を見て、ラダーガたち一同が安堵の息を漏らす。そして、エルフの男に対して賞賛し出す。敵を制圧したことを確信したラダーガはエルフの男に命じ、俺はゆっくりと降ろされていった。
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