はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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生贄の待遇

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 よし、これで人魚たちが全員こちらに集められるまでは、外からの突撃の時間を稼げたな。下手に侵入して、他の人魚たちを人質に取られたり、殺されたりでもしたらいけないからな。いつでもすぐに突入出来るように準備しておくと言っていたから、俺たちだけでは対応しきれない事態が起こったとしても安心だな。





「おいっ!そこの人間!」





 ズィーリオスとの念話会議が終わり一息ついていると、言い合いをしていた人魚たちの代表らしき1人が声をかけてくる。この男は、人間など全員悪と言っていた派の奴っぽいな。これしか出来ないが目だけをその男に向けると、怪訝な顔をする。





「おい、返事ぐらいしろっ!」





 出来るもんならそうしたいんだけどねー。この全身力が抜けた状態を認識出来ないのか?喋ることすら出来ねぇっての。はあ、話が通じないタイプの奴か?うるさい、めんどくさい。





「無視するんじゃない!」





 俺が視線を逸らしたことは認識しているようだ。目が良いのか悪いのか、どっちだろうか。





「騒がしいな」





 精霊王への追加の魔力提供を行おうと思った途端、また扉が開かれ、大勢の者たちが入って来る。その一言で、大声を上げていた人魚の男がピタリと押し黙る。俺としても、魔力感知の能力が高い者がいては変に警戒せれてしまう可能性があるので、魔力の放出をストップする。今回連れてきた人数も先ほどと同じぐらいのようだ。それに先ほどと同じように金属音も聞こえるので、別の部屋にいた人魚たちもいるのだろう。







「まだまだ人魚どもは元気そうだな。・・・まあそうじゃないと困るが」





 ぼそりと呟かれたセリフは、入口の反対側にいる人魚たちには聞こえていない。そして気になる言葉を漏らした男が、周りの者達に指示を出していく。





 連れてこられた人魚たちが、先に来ていた同胞たちの下へ連れていかれ、彼らの前に器を1つずつ置いていく。その後、器を持って来た人魚たちも壁際に鎖で繋がれていた。こちらからは器の中に何が入っているか見えない。だが、何が入っているかは察せられた。俺のいる中央を通り過ぎる際に、良い匂いがしたのだ。ならば、器の中身は食事だろう。



 俺のその推測は合っていた。器を渡された人魚たちがそれぞれ器の中身を口へと運び出したのだ。俺はパーティーで鱈腹食ったから食事はくれなさそうだ。まあ、その食べたものが薬入りだったけど。







 目に入る光景と言えば人魚たちの食事風景しかなく、ぼーっと眺めていると、俺に近づいてくる気配がする。すぐそばで立ち止まった気配の主は、いきなり俺の頬を片手で乱暴にガッチリと鷲掴みにして、無理やり男の方に顔を向けさせた。



 指が食い込む痛さに寝ているふりなど出来ず、思いっきり俺を掴んでいる男を睨み付ける。





「ほう、若旦那から聞いていた様子とはずいぶん違って、生意気な目をしているじゃないか。こっちが本当の性格か?クックックッ。若旦那も良いように弄ばれたみたいだな。ま、これからは嬢ちゃん自身が弄ばれるわけだが」





 言うだけ言って、俺の顔をグイっと人魚たちの方に向ける。だから痛いんだっつーのっ!ぶん殴ってやるっ!体がまだ動けないながらも動かそうとしたとき、僅かに指先が動いた。たった少しの変化だが、薬の効果が抜けてきている証拠だ。見えてきた光明にいら立ちが治まる。





 無理やり向けられた人魚たちの方向だが、彼らは食事を取りながらもチラチラと俺の方を見ていた。







「お前ら人魚どもは人間の事を憎んでいるだろ?なら、こいつに対してその恨みをぶつければいい。鎖があるから直接殴るなどは出来ないが、こいつは今薬の効果もあって、見ての通り身動きが取れない状態だ。喋るのは・・・元々出来ないんだったか?情報とは違い、実際は生意気だったからもしかすると、喋れないという話も嘘の可能性はあるか。ん?」







 俺の顔を片眉を上げて覗き込んであからさまに挑発してくる男に、唾でも吐き捨ててやりたいが、生憎とまだ口の方の自由は戻っていない。







「そういうわけだから、ストレス発散にはこいつを使えばいい」





 パッと俺の顔から手を離され、支えがなくなった頭は自身のその重さでガクンと落ちる。うっ。首が・・・。おい!生贄ってそういう生贄なのか!?マジでこの男だけは許さん!男の気配が部屋の外に出て行くまで、心の中で悪態を吐きまくった。













 散々好き勝手言ってくれた男が、人魚たちの食事が済んだ後の器を回収した部下の者達を引き連れて出て行き、辺りは俺一人だった時のように静寂に包まれる。あれ程俺に騒ぎ立てていた人魚の男も無言だ。どうしたのだろう?気になり様子を見てみると、人魚たちと目が合うが、どの人魚にもすぐに視線を逸らされてしまう。そして、ひそひそと近くの者と会話をし出してしまった。





 よく分からないが、俺とお喋りをする気分ではなくなったらしい。なので俺も、人魚たちの事は気にしないことにした。





 さて、今後の事について考えなくてはならない。

 薬は抜け始めているが、いつ完全に抜け切るか分からない以上、無理は出来ない。それに、事前に人魚の王女から聞いていた行方不明者数より、ここに集められた人魚の数は少ない。まだ、連れてこられていない人達がいる。これらもここに集めてもらいたいが、人魚たち全員を一か所に集めるかは分からない。



 今まで別々にしていたのだから、1つの部屋に集める可能性は低いだろう。だから今後、この部屋にまだいない人魚たちが連れてこられることはないと見た方がいい。けれどもし、集められそうならば是非とも連れてきてもらおう。一番可能性が高いのは、ここにいる人魚たちにどこに閉じ込められていたかを聞き出し、その監禁場所付近を捜索しに行くのが確実ではあるが。さらに言えば、またやって来た男たちから聞き出せれば好都合だ。





 だが、今すぐ出来そうなことは何もない。精霊王に頼み、縄を切ってもらって磔から降ろしてもろう事ぐらいは出来るだろうが、男たちが再び現れる前に薬が抜けきっていなければならない。いつやって来るか分からない以上、大人しくしておく方が良いだろう。だから今はもう寝よ。今日は一日大変な日だったからな。眠れるときに寝ようということで、はい、お休み。

































 鼻腔を擽る芳しい匂いに意識が浮上する。寝ぼけた脳であっても、それが食べ物の匂いだということぐらいは直ぐに判断がつく。その匂いに反応し空腹感に襲われ、空腹を満たすために目の前にあるのだろう食べ物を認識しようと目が開く。





 湯気が立ち上がり、温かく美味しそうな匂いを周囲にまき散らせた食事を人魚たちが食べている光景が広がった。求めているのは他人の食事風景ではない。自身の分を探し周囲を見渡すが、俺の分らしき食べ物は見当たらなかった。







「お。目ぇー覚めたか。それに薬の効果も切れているようだな。よし、人魚どもも食べ終わったようだし行くか」





 この声は昨日の男か?未だぼんやりとした頭で記憶を辿る。そして今どんな状況にいるか思い出し、完全に頭がさえたころには、男たちの姿はどこにもなかった。勿論、俺の分の朝食らしきものも。







 え?俺の分の食事は!?寝坊したからってことなのか?そんなことはないよな?だって人魚たちは昨日よりも美味しそうな食事をしていたぞ。監禁している沢山の人魚たちに出来立てを食べさせているのだから、俺の一人分ぐらい増えても問題ないと思うんだが。あ、それともあれか?人魚たちも生贄にする予定だから最後の晩餐的な?あれ?だとしても俺も同じだよな?





 1人朝からグルグルと思考の渦に嵌まっていた。そのお陰か、気付いた時には空腹感が通り過ぎ、何も感じない状態になっていた。

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