はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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その後の状況

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 目を覚ますとそこは、ダガリスの屋敷の俺の部屋だった。部屋にはズィーリオスはおらず、1人で寝ていたようだ。だが、精霊王がいたので状況の確認は出来た。何故か疲れた雰囲気を漂わせながら、驚愕の表情をしていたが。

 どうやら俺は、馬車に乗ったあの後すぐに寝てしまったようで、夜になる今の今までずっと寝ていたようだ。そして日付は超えていないらしい。珍しいこともあるものだ。特に、今日は起きないと思っていたようで精霊王に驚かれた。うん、まあ、普段の俺から考えたら驚くよな。だから起きた時、あのような表情だったのか。


「そうだ!ジュリアは無事か!?アンドリューの奴に放り投げられてしまったんだ!」


 精霊王の異変の理由が分かり安心した後、直ぐに思い浮かんだのは、アンドリューがジュリアを放り投げた瞬間の出来事だった。


『あの人間の女の子のことぉ?うーん、わかんないわねぇ』
「そうか・・・」
『後で聖獣かぁ、この屋敷の人間に聞いてみたら良いんじゃなぁい?』
「そうだな。そうしよう」


 多少ダメ元ではあったが、やはり精霊王はジュリアのことに関しては分からないらしい。後ほど誰かに聞く方が良いだろう。ズィーリオスがいるから重体であったとしても大丈夫ではあろうが・・・。それでもやはり、本人は強がってはいるが、まだジュリアは小さい女の子だ。怪我をさせてしまったのは事実だが、長時間も痛い思いをさせたくない。大丈夫だと良いが・・・。

 ジュリアの容態に意識を向けていると、そうとは知らない困憊した精霊王が、俺の怪我について説明し出した。

 どうやら折れていた手首の骨は、痛みも全くなく、完治していた。俺が寝ている間にズィーリオスが治療したらしい。

 骨折し、意識のない状態で帰って来た俺を見たズィーリオスが、一時かなりヤバイことになっていたらしく、人化を保てない程荒れていたそうだ。なんとか精霊王が抑え込んでいたらしい。人化が解けてしまった時は、ズィーリオスの周囲にいた人達に暗示を掛けて、認識を阻害して乗り切ったとか。それはそれはとてもげっそりとしながら教えてくれた。


「えーっと、ごめん?」
『ほんっとあの聖獣には手を掛けさせられたわぁ』
「・・・お疲れ様」


 こんなやつれて、消え入りそうな精霊王は初めて見た。完全に魔力不足。特訓により、無意識下でも魔力の拡散をしないようになっているからか、俺が寝ている間に魔力の補給が出来なかったのだろう。

 普段は欲しいと言われた時に、魔力鎧とは違う精霊王の吸収用の魔力を放出するのだが、俺が眠っていたらその要求は出来ないし、自然回復を待つしかない。早めに目覚めて良かったかもな。今回はズィーリオスに関するねぎらいの意味を込めて、いつもより多めに放出する。俺から魔力が溢れだした事に反応を示して、すぐさま俺の放出した魔力を吸い込みだした。まあ、良いんだけどね?そのための魔力だから。ただ、出来れば一言欲しいな。いきなり、周囲からごっそり魔力が無くなったらびっくりするから。

 精霊王の吸引っぷりに感心していると、部屋の外の気配がざわつきながら近づいて来るのを感じた。その中心部にはズィーリオスがいるもよう。大方、俺の魔力変動で意識が戻ったことに気付いたのだろう。そうだ、念話入れれば良かったなー。

 部屋の扉の向こう側で、小声で騒ぐという器用なことをしている男たち、早く入ればいいのに。ベッドから足を出し、腰掛ける形になる。いつ入って来るんだろうと扉に視線を向けていると、やっとコンコンと音がしてゆっくりと扉が開かれた。

 そこにいたのは、ズィーリオスとダガリス。ズィーリオスの黄金の双球と視線が交わる。


 1歩、2歩と、よろけるように前に足を踏み出し、近づいて来たズィーリオスに向けて自然と笑みが零れる。なんだか1カ月ぶりの対面の様に感じる懐かしさだ。

 ゆっくりと近づいていたはずのズィーリオスが、突如として飛び掛かって来た。勢いを受け止めて、ベッドに倒れ込まないように耐えることは出来た。しかし、ズィーリオスのタックルは綺麗に腹部にヒットし、カエルが潰されたような声を上げてしまう。



「ね、リュゼ。どこか痛い所はない?具合は?手首はちゃんと動く?」
「だ、大丈夫だ!だから落ち着いてくれ!!」
「良かったぁー。本当に良かった!目を開けるまでは安心出来なかったんだよっ!!」
「・・・ごめん。心配かけてごめん」



 最近は滅多に見ることが無くなった幼いズィーリオスの姿に、自分がどれだけズィーリオスを不安にさせたかを知る。今まで骨折などという重症になった事が無かったからかもしれない。それも、ズィーリオスが側にいない時に負った怪我だ。ネーデの魔物襲撃の時も、何故かはわからないが聖域の結界張り後の時も、ここまで心配そうにする事はなかった。それだけ俺は今回、ズィーリオスを不安にさせてしまったのだろう。


 ズィーリオスは、俺の体をあちらこちらペタペタと触りながら、問題が無いかの確認をしている。くすぐったいが、ここはズィーリオスの好きにさせてあげよう。


「どうやらどこも問題はなさそうだな、リュゼ殿」


 聞こえて来た声に視線を上げると、ダガリスが近づいて来ていた。ほっとしたような柔らかい表情をしている。そうだ!ダガリスならジュリアについて知っているだろう。


「ジュリアは?」


 眉を八の字にしながら答える。


「かなり疲れていたようだな。まあ、無理もない。丁度先ほど様子を見て来たんだが、今は自分の部屋で休んでいるぞ」
「そうなのか。その、・・・・怪我の方は?」


 すると、微笑を浮かべてダガリスが口を開く。


「人魚の王子の婚約者殿から何があったか聞いている。その時に負った怪我についてだろ?ジュリアは、打ち身による打撲や擦り傷といった比較的軽い怪我で済んでいた。既に治療済みで完治している。どちらかと言うと、精神的、肉体的疲労の方が大きかったようだ。大丈夫だ。安心して良い」
「そうか。良かった・・・」


 ジュリアに大した怪我はない。その事実にホッと息を吐く。目が覚めた時から感じていた張り詰めていた何かが、スッと溶けて消えていく。しかしそれと同時に、新たに、靄が心の奥底から滲み出て来る。


「けど、すまなかった」


 丁度、落ち着いてペタペタ触るのをズィーリオスが止めたタイミングで、ベッドから立ち上がり、ダガリスに頭を下げる。立ち上がる際に少々勢いあまりふらついたが、体勢をすぐさま立て直し、真っ直ぐ立つ。頭を下げた瞬間、視界外で息を飲む気配がした。気配の位置的にはズィーリオスのようだ。しかし、俺はズィーリオスに意識を向けることもなく、ダガリスの反応に集中している為、気付いてはいなかった。


「リュゼ殿?なぜ君が謝るんだ?私は君に感謝こそすれ、君に謝ってもらう様な事はされていないが?」


 そのダガリスの言葉により一層、鬱々とし出す。頭を下げたまま口を開く。


「いや、俺は謝らないといけない。謝りたいという、俺の自己満足だということは分かっている。だから許してくれなくても構わない」
「・・・・・リュゼ殿。先ずは、その理由を教えてくれないか?」


 ダガリスはその理由について心当たりはないようだ。だからこそ理由を話し、謝罪する意味を理解してもらわなければならないだろう。言わなければ、ずっとモヤモヤしたものが俺の心に蔓延ることが予想出来ていた。それをどうにかしたいという俺のエゴなのは分かっている。だけど、ダガリスが知らないからと、謝罪しなくても良いとは思えない。そんな風に、他の人なら隠して過ごすだろうこの状況に、俺は黙っている事が出来なかった。

 だから、俺はゆっくりと口を開いた。
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