はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

文字の大きさ
上 下
139 / 340

魔封じの種類

しおりを挟む
「ハハハハ!これはこれは、このようなところでお会いするとは。お初にお目にかかりますよ。王女様?」



 壁にもたれ掛かりながら、戯けた調子で王女に挨拶をするアンドリュー。その様子に王女がスッと目を細める。



「随分と余裕そうだな。貴様らが逃げることは出来ないぞ。まさか、この人数を相手取れるとは、よもや思ってはおらんよな?」
「クックック。もし、そう思っていたらどうすんだ?」



 アンドリューのその言葉を聞いた瞬間、人魚達が殺気立ち、各々の魔力が高まり、人間たちの内の何名かは武器を構える。それ以外の人間は馬鹿にしたように眺めていた。


 空気がピリついていた。今にも一触即発しそうだ。















 でもさ?もう俺は関係ないよね?帰りたいんだけど。てか、ズィーリオスはどこだ?近くに気配はないし、念話もいまだに繋がらないってことはここには来てないってことだよな。

 流石に、自己治癒では骨折を治すことは出来ないみたいなんだよな。早くズィーリオスに会って、肉体的にも精神的にも癒してもらいたい。もふもふ不足だ。モフりたい。どこかにもふもふが落ちてないだろうか?

 辺りを見渡すがどこにも見当たらない。





 それにさっきから俺、放置されてんだけど。

 ジュリアはダガリス達のところへ行き、人魚の王子とラシェンダと呼ばれていた女性は、人魚の人と何か話をしている。

 腕と脚が折れている奴はヘラヘラして、挑発的な笑みを浮かべている奴と睨み見下ろしている人を交互に見ている。ずっと進展がない状態が続く。時間止まってたりしないよな?

 彼らの周囲を見渡す。と、冷え冷えとした冷戦が繰り広げられているその隣で、熱い熱い、近づくだけで火傷しそうな熱い抱擁をしているバカップルを発見。片方を抱き上げてクルクル回り出した。

 うん、大丈夫だな。時間は動いているようだ。いつの間にそうなったのかは知らないが。


 ああ、1番のリア充はこいつらだった。先程の人魚の人に魔封じのブレスレットを取ってもらおうとしているが、ここが陸地で地下だからか、力が出ずに上手く出来ないようだ。




 実はこの魔封じ、俺がつけていた魔封じと違うのだ。

 魔封じには大きく分けて2種類ある。特殊型と普遍型だ。俺がつけていたのが特殊型。そして彼らがつけているのが普遍型だ。


 特殊型は、親が子に送る、健康に無事に育ってほしいという願いを込めた物だ。血の繋がった親しか付けることも外すことも出来ず、イヤリング型の耳飾りということもあり、魔封じだけを壊すことは不可能だ。耳を切り落とせば物理的に取り外すことはできるが、そこまでして魔封じを強引に取り外すより、俺が使った外し方が良いのは考えるまでもないことだろう。ただ、難易度で言えばかなりのものになるため、耳を切り落とす方が簡単であるのは事実だ。

 上級ポーションであれば部位欠損の修復も可能なため、一時的に訪れる激痛に耐えきれれば、耳を切り落として上級ポーションを使って修復することが可能だ。

 だが、簡単とは言え、上級ポーションを手に入れるのは現実的でなく難しい。ならば俺のように、遁走の花を探す方が可能性が高い。精霊の祝福が必要らしいが、だいたい遁走の花がいるところには、植物の精霊がいるらしい。その精霊たちが祝福は施してくれるとか。俺の場合は、精霊王がその役割を奪し・・・じゃなく代わってもらったとか。

 さらにその性能は強力。俺の莫大な魔力量をほぼ完全に封じ込めることができるぐらいだ。まあ、その辺りは全ての特殊型がそうなのではなく、俺のものは貴族だけあって特注品だったからだろうが。




 それに対し普遍型は、誰でも扱う事ができる魔封じだ。そのため、様々な形が存在する。だが、だからこそ、犯罪人に対して軍が使用することができるのだが、それは逆に、悪事を働こうとしている人も使うことが出来るのだ。今回のように。


 しかし、普遍型は取り外すことが特殊型よりも簡単だ。取り付ける前に魔力を記憶させた人物の魔力であれば誰でも外すことが出来る。ただし、記憶出来る魔力は1人分だけだが。

 そして特殊型と違うのは、記録した魔力の人物が死んだら勝手に外れるようになっている点だ。特殊型は親が子を守るためのものなので、子が幼いうちに親が死んだとしても外れることのないようになっている。しかしその代わり、その子が10歳になったときに勝手に外れる。

 つまり、俺の場合は10歳の誕生日のあの日、俺の耳飾りをつけた俺のが死んでいないことを示す。

 あの人は今も尚、生きているんだ。




 あまり嬉しくないことに。







 でもだからと言って、復讐したいとかは考えていない。そのおかげで精霊王と出会えたのだろうから。ま、もしかしたら精霊王のことだから、そんなことがなくとも出会っていた可能性は高いけど。



 まあ、あいつらについて考えるのは時間の無駄だ。どうでもいいな。思考を切り替え、何を考えていたか思い出す。




 つまりジュリアたちの魔封じが取れていないということは、ザスかアンドリューのどちらかが付けた可能性が高い。

 なら、彼らを殺すのかと問われれば、そうではないと答えよう。
 殺すのではなく、壊すのだ。魔封じ本体を。


 普遍型は扱いやすさを重視されているため、今回のブレスレットのように、簡易的なリング型が多い。ただ、壊れにくい金属で出来ているものが多いだけで、壊れないことはない。壊せる人は壊せる。


 実際、ジュリアはダガリスに壊してもらったようで、ブレスレットがついていた手首を頻りに触っている。そんなジュリアを、ダガリスは涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした顔で抱きしめようとして嫌がられていた。ジュリアはそんなダガリスに対して、ジト目でバカップルたちの魔封じも壊すように言っている。


 ジュリア、なんか変わったな。成長したっていうかなんていうか。自分だけでなく、周りのことも考えるようになったというか。冷静に物事を見ようとしている。ああ、やっぱり成長しているか。こんな目にあったから成長せざるを得なかったのだろう。


 それに比べて俺は・・・“あの日“から成長したのだろうか?






 まっ、どうでもいいか。
 ルーデリオは死んだのだから。俺は、13歳のリュゼだ。それ以外の何者でもない。そう、俺は俺だ。


 自分自身に言い聞かせるように、それ以外を考えないように。無意識のその思考は、思考の停止だと言うことに気付くことはなく。


 更に何かを考えることもなく、ダガリスと目が合ったことで全て忘れ去られた。



「おお!リュゼ殿遅くなってすまなかった!」



 俺の存在に気付いたダガリスが、顔に小さな赤い手形をつけてやって来て、小声で話しかけてきた。そして表情を引き締め、増援が来た時に被り直していたフードの中の俺の目を覗き込みながら、言葉を続ける。



「礼を言わせてくれ。ジュリアを助けてくれて本当にありがとう!本当に・・・、本当にっ!」



 引っ込んでいたはずの涙がダガリスの瞳に滲み出る。しかし、ここは先程とは違って溢れ落ちる様なことにはならないようで、ぐっと堪えていた。


「別に。俺は大したことはしてない」
「そんなことはない!ジュリアを助けてくれただけでなく、貿易問題に発展確実の案件を何とかギリギリ防げたんだ!礼を言うのは当然のことだ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

処理中です...