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魔封じの種類

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「ハハハハ!これはこれは、このようなところでお会いするとは。お初にお目にかかりますよ。王女様?」



 壁にもたれ掛かりながら、戯けた調子で王女に挨拶をするアンドリュー。その様子に王女がスッと目を細める。



「随分と余裕そうだな。貴様らが逃げることは出来ないぞ。まさか、この人数を相手取れるとは、よもや思ってはおらんよな?」
「クックック。もし、そう思っていたらどうすんだ?」



 アンドリューのその言葉を聞いた瞬間、人魚達が殺気立ち、各々の魔力が高まり、人間たちの内の何名かは武器を構える。それ以外の人間は馬鹿にしたように眺めていた。


 空気がピリついていた。今にも一触即発しそうだ。















 でもさ?もう俺は関係ないよね?帰りたいんだけど。てか、ズィーリオスはどこだ?近くに気配はないし、念話もいまだに繋がらないってことはここには来てないってことだよな。

 流石に、自己治癒では骨折を治すことは出来ないみたいなんだよな。早くズィーリオスに会って、肉体的にも精神的にも癒してもらいたい。もふもふ不足だ。モフりたい。どこかにもふもふが落ちてないだろうか?

 辺りを見渡すがどこにも見当たらない。





 それにさっきから俺、放置されてんだけど。

 ジュリアはダガリス達のところへ行き、人魚の王子とラシェンダと呼ばれていた女性は、人魚の人と何か話をしている。

 腕と脚が折れている奴はヘラヘラして、挑発的な笑みを浮かべている奴と睨み見下ろしている人を交互に見ている。ずっと進展がない状態が続く。時間止まってたりしないよな?

 彼らの周囲を見渡す。と、冷え冷えとした冷戦が繰り広げられているその隣で、熱い熱い、近づくだけで火傷しそうな熱い抱擁をしているバカップルを発見。片方を抱き上げてクルクル回り出した。

 うん、大丈夫だな。時間は動いているようだ。いつの間にそうなったのかは知らないが。


 ああ、1番のリア充はこいつらだった。先程の人魚の人に魔封じのブレスレットを取ってもらおうとしているが、ここが陸地で地下だからか、力が出ずに上手く出来ないようだ。




 実はこの魔封じ、俺がつけていた魔封じと違うのだ。

 魔封じには大きく分けて2種類ある。特殊型と普遍型だ。俺がつけていたのが特殊型。そして彼らがつけているのが普遍型だ。


 特殊型は、親が子に送る、健康に無事に育ってほしいという願いを込めた物だ。血の繋がった親しか付けることも外すことも出来ず、イヤリング型の耳飾りということもあり、魔封じだけを壊すことは不可能だ。耳を切り落とせば物理的に取り外すことはできるが、そこまでして魔封じを強引に取り外すより、俺が使った外し方が良いのは考えるまでもないことだろう。ただ、難易度で言えばかなりのものになるため、耳を切り落とす方が簡単であるのは事実だ。

 上級ポーションであれば部位欠損の修復も可能なため、一時的に訪れる激痛に耐えきれれば、耳を切り落として上級ポーションを使って修復することが可能だ。

 だが、簡単とは言え、上級ポーションを手に入れるのは現実的でなく難しい。ならば俺のように、遁走の花を探す方が可能性が高い。精霊の祝福が必要らしいが、だいたい遁走の花がいるところには、植物の精霊がいるらしい。その精霊たちが祝福は施してくれるとか。俺の場合は、精霊王がその役割を奪し・・・じゃなく代わってもらったとか。

 さらにその性能は強力。俺の莫大な魔力量をほぼ完全に封じ込めることができるぐらいだ。まあ、その辺りは全ての特殊型がそうなのではなく、俺のものは貴族だけあって特注品だったからだろうが。




 それに対し普遍型は、誰でも扱う事ができる魔封じだ。そのため、様々な形が存在する。だが、だからこそ、犯罪人に対して軍が使用することができるのだが、それは逆に、悪事を働こうとしている人も使うことが出来るのだ。今回のように。


 しかし、普遍型は取り外すことが特殊型よりも簡単だ。取り付ける前に魔力を記憶させた人物の魔力であれば誰でも外すことが出来る。ただし、記憶出来る魔力は1人分だけだが。

 そして特殊型と違うのは、記録した魔力の人物が死んだら勝手に外れるようになっている点だ。特殊型は親が子を守るためのものなので、子が幼いうちに親が死んだとしても外れることのないようになっている。しかしその代わり、その子が10歳になったときに勝手に外れる。

 つまり、俺の場合は10歳の誕生日のあの日、俺の耳飾りをつけた俺のが死んでいないことを示す。

 あの人は今も尚、生きているんだ。




 あまり嬉しくないことに。







 でもだからと言って、復讐したいとかは考えていない。そのおかげで精霊王と出会えたのだろうから。ま、もしかしたら精霊王のことだから、そんなことがなくとも出会っていた可能性は高いけど。



 まあ、あいつらについて考えるのは時間の無駄だ。どうでもいいな。思考を切り替え、何を考えていたか思い出す。




 つまりジュリアたちの魔封じが取れていないということは、ザスかアンドリューのどちらかが付けた可能性が高い。

 なら、彼らを殺すのかと問われれば、そうではないと答えよう。
 殺すのではなく、壊すのだ。魔封じ本体を。


 普遍型は扱いやすさを重視されているため、今回のブレスレットのように、簡易的なリング型が多い。ただ、壊れにくい金属で出来ているものが多いだけで、壊れないことはない。壊せる人は壊せる。


 実際、ジュリアはダガリスに壊してもらったようで、ブレスレットがついていた手首を頻りに触っている。そんなジュリアを、ダガリスは涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした顔で抱きしめようとして嫌がられていた。ジュリアはそんなダガリスに対して、ジト目でバカップルたちの魔封じも壊すように言っている。


 ジュリア、なんか変わったな。成長したっていうかなんていうか。自分だけでなく、周りのことも考えるようになったというか。冷静に物事を見ようとしている。ああ、やっぱり成長しているか。こんな目にあったから成長せざるを得なかったのだろう。


 それに比べて俺は・・・“あの日“から成長したのだろうか?






 まっ、どうでもいいか。
 ルーデリオは死んだのだから。俺は、13歳のリュゼだ。それ以外の何者でもない。そう、俺は俺だ。


 自分自身に言い聞かせるように、それ以外を考えないように。無意識のその思考は、思考の停止だと言うことに気付くことはなく。


 更に何かを考えることもなく、ダガリスと目が合ったことで全て忘れ去られた。



「おお!リュゼ殿遅くなってすまなかった!」



 俺の存在に気付いたダガリスが、顔に小さな赤い手形をつけてやって来て、小声で話しかけてきた。そして表情を引き締め、増援が来た時に被り直していたフードの中の俺の目を覗き込みながら、言葉を続ける。



「礼を言わせてくれ。ジュリアを助けてくれて本当にありがとう!本当に・・・、本当にっ!」



 引っ込んでいたはずの涙がダガリスの瞳に滲み出る。しかし、ここは先程とは違って溢れ落ちる様なことにはならないようで、ぐっと堪えていた。


「別に。俺は大したことはしてない」
「そんなことはない!ジュリアを助けてくれただけでなく、貿易問題に発展確実の案件を何とかギリギリ防げたんだ!礼を言うのは当然のことだ!」
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