はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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リア充撲滅運動

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 どうしよ、この状況。ザスに何があったかは全くわからないが、ご愁傷様です?あ、骨を折った件はお互い様ってことで謝る気はないからな?アンドリューが両手を上げながら近づいてくる。





「かなり魔力が多いとは聞いていたがこれほどとは。お前を連れて行くのは諦めよう。降参だ。今回は、な?」





 ニヤリと笑った顔が一瞬で消え、俺の後方ザスのそばにその気配が現れる。はっと振り返ると、ザスの怪我をしていない方の腕をアンドリュー自身の肩に掛けて、立ち上がらせていた。





「待て!今降参と言っただろう!大人しく捕まれ!」

「そうだな。我々の方でも裁かなければならない」





 ジュリアの慌てた声に、人魚の男が同意する。だが、制止の声を掛けられているザスとアンドリューがいるのはザスがいたところ。つまり、出口側の通路だ。そして既に、俺たちに背を向けて歩き出していた。







「おい!そこのお前!領主の孫の知り合いなのだろう?そいつらを捕まえろ」







 人魚の男が俺に命令してきた。なんでお前に指図されないといけないんだ。それに、捕まえるなんて殺すよりも難しいんだぞ!面倒臭い!俺の仕事はジュリアの奪還だけだ。







「お前の命令に従う謂れはない。何様のつもりだ」

「私の言葉が聞けないというのか?私は王子だぞ」







 なるほど、王子様だったか。

 ・・・え?てことは、レオと一緒ってこと?敬う気にならないな。







「貴方がどなたかは存じ上げませんが、お願いします!生きている主犯格を捕まえることで、私たち人魚と陸の者の関係の修復に繋がるのです!」

「ラシェンダ。君がこんな人間に頭を下げる必要はない。あげるんだ」

「いいえ。捕まえることが出来る可能性があるのは、この場ではこの者だけなのですよ。私だってこんな可愛らしい子にこんな酷なことをお願いしたくはないのです」

「ラシェ・・・」







 だからここで2人の世界に入るな!周りを巻き込むな!





 そう思っていると、ジュリアが俺を見ながら小さく口を開く。部位強化で耳を強化してその小さな声を聞き取る。







「事実なんだ。お願いだ。捕まえてくれ」







 その切実なジュリアの哀願は、どうしても聞き入れざるを得ない。







「わかったから。たっく、しょうがねぇ。乗り掛かった船だ」







 だからジュリアの、いや、ジュリアも含めた人魚たちの願いを引き受ける。それにしても、俺が一番この4人の中で大怪我していることわかっているのだろうか。人使いが荒いんだけど。



 よろよろと支えながら歩いていくザス達の背後まで一気に移動する。そして、やっと多少見れる顔に戻った美女に仕事を頼もうとしたとき、くるりとアンドリュー達が歩みを止めて振り返る。思わず身構えると、苦笑いしたアンドリューが顎をしゃくってザスを示す。そこに視線を向けると、肩を震わしている厳つい顎髭の男がいた。





「・・・」





 俺にどうしろと言うのだろう。こんなおっさんの泣き姿を見ても、逃してやろうとは思わないんだがな。







「こいつはつい最近、10年近く付き合っていた彼女にフラれたんだ。可哀想だよな、見逃してあげようとは思わない?」

「思わない」

「・・・」

「・・・」







 こちとら前世も今世も含めて一度も恋人が出来たことないんだよ!10年も続くとかリア充じゃねぇか!滅びろリア充!・・・あ、滅んだのか。よし!







「・・・因みに俺は今、彼女3人いる。他にも俺の女になりたいって奴がわんさかいる。だから彼女達を泣かせないために見逃してくれないか?」







 てめぇのことは聞いてねえ!しかも三股とか不誠実過ぎる!モテ自慢か!モテ自慢だな!モテ自慢すんじゃねぇ!それにその女達が泣くとしたらお前のせいで泣くんだろうが!人のせいにすんな!







「このリア充、滅びやがれ!!」







 剣を抜き、首を狙って横薙ぎに斬り払う。捕まえる?そんなことは知らない。物理的に滅びてもらおう。こういう奴が女の敵というんじゃーーー!!



 しかし、俺の剣が不誠実野郎の喉元に届くよりも早く、横から剣による切り上げの攻撃が割り入った。







「危ないな。いきなり何をするんだ、ザス」







 据わった目をしたザスが、アンドリューに切り掛かっていたのだ。思わず剣を振りかぶった体勢のまま固まってしまう。ザスの剣の軌道が、明らかに体を真っ二つに切り分ける軌道だった。そう、下から切り上げる・・。



 うん、とりあえず・・・剣を納めて脚を閉じておこう。





「落ち着けザス。そんな怪我をした体で俺と一戦交えようってか?ムリに決まっているだろう。それに今までここまで大きな怪我をしたことないだろ。元カノに心配してもらえるんじゃないか?もしかしたら面倒見てもらえるかもな」





 その言葉を聞いたザスは、剣を振り上げアンドリューに振り下ろ・・・さずに鞘へと戻した。心なしか今日1番機嫌がよさそうだ。





 まじでなんなんだよ、こいつら。

 内輪揉めしてくれた方が色々と楽だったのに。





 片足折れているくせに、わずかにスキップ気味のザスの心の内が、逸るその行動から丸見えだ。





 俺は、こんなアホに手こずって左手首をやられたのか?魔力制御ばかり訓練し過ぎたのだろうか。剣もきちんと毎晩いつも通りに鍛錬していたんだけど?やっぱ朝じゃないと上達しない呪いでもあるのだろうか。一定値以上の強さを得るには時間帯が重要なのか??この俺に毎朝早く起きろと?この惑星の反対側に行かないとムリだろ。反対側があるかわからないし、惑星かどうかもわからないけど。





 考え込んでいるうちに彼らが通路の先に進んでしまっていた。慌てて追いかけて殺気を飛ばすことで、彼らの歩みを止める。





「さっきから本当なんなんだ?俺がお前達を見逃してやっていることぐらいお前もわかるだろ。魔法を使う前に俺はお前を殺やれる。いくら馬鹿みたいな魔力量があったって、発動前に術者を殺せばなんの問題もない。それに・・・お前、ッ!?」







 俺に何かを言いかけたアンドリューが息を呑み、言葉を切る。

 それもそうだ。いきなり、通路の前後から人々の雄叫びと足音が聞こえ、この場に反響していた。



 いつの間にか付いて来ていたジュリア達も驚愕の表情で固まっている。いや、全員ではない。人魚の男だけ、内部側の通路の先を睨み付けていた。





 もしかしたら敵の可能性もあるのだ。味方とは限らない。そして暫くして、内部側からダガリスを先頭にし、その後ろで両腕を後ろに縛られたライナーを引き連れた領主軍と、エリムと人魚の女性を先頭にした人魚と人間の混成軍っぽいものが現れた。







「姉上!?何故ここに!?それにエリムランデルト殿まで!!」







 現れた人物達を見て、人魚の人質だった王子が叫び、ラシェンダと呼ばれていた女性は無言で頭を下げる。



 アネウエ?姉上!?王女!?人魚の王女!





 王女は切れ長の瞳に、コバルトブルーの長い髪、エメラルドグリーンの瞳をしていた。因みに王子も同じ配色だが、王女の方が透き通るような色合いで美しい。その立ち姿は凛としていて、これぞ王族と感じる、上に立つ者らしい王者の風格があった。





 弟に質問された王女だが、弟の姿を一瞥しただけで表情一つ変えることなく、地面に座り込んでいるザスとアンドリューに視線を向ける。



 この2人は、どうやらやってくるのが敵だということがわかっていたようなのだ。そのため、あの時早々に座り込んでしまっていた。逃げようという素振り一つ見せない。





 アンジュはダガリスの姿を見た瞬間、その広げられた両腕の中に飛び込んで行った。ジュリアの様子を見ていたラシェンダという女性は柔らかな微笑を浮かべている。

 味方が来たことが分かり、その安全をきちんと認識したからだろう、どっと疲れが押し寄せたようで、フラついたところを王子が支える。





「お前達が主犯か。他の我々同胞はどこだ」





 そんな中、ザスとアンドリューを見下ろした王女が口を開いた。
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