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助けに来た者〈ジュリア視点〉

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 う、うぅ。頭がクラクラする。そっと目を開いてみるも、視界がぼやけており上手く焦点が合わない。あれ?そういえば俺は何をしていたんだっけ?たしか、リュゼとズィーリオスと一緒に薬草を受け取りに行って、それでなんか2人はまだ残ってラナン達と話があるからって、俺は先に1人家に帰ることにしたんだ。



 はっ!?薬草!早くジュドに持って行ってやらないと!父さんと母さんにジュドのことは任されているんだ。俺が守ってやらないといけないんだ!



 勢い良く上体を起こす。勢いがあり過ぎて体勢を崩してしまうが、肘をついて体を支える。





「ウッ」





 突いた肘がかなり痛いが、今はそれどころではない。今の痛みではっきりとした視界に映ったのは、意識を失う前に見た場所ではなかった。



 どこだ、ここは?

 そこは薄暗く、埃っぽい小屋の中のようだった。周囲を見回しても、持っていたはずの薬草はどこにもない。ただ部屋の中で転がされているだけのようだ。小屋の入口らしきところに行き、手を掛けて扉を開けようとしてみるも、鍵がかかっている様で開く気配はない。



 誘拐、されたのか?クソッ!今はじーさんは町のことで忙しいのに!俺はじーさんの迷惑にならないように手を貸そうと思っていたのに、まさか足を引っ張ることになっていしまうなんて。



 強くなろうって・・・、あの日、父さんも母さんも死んで弟と残された時、家族を守るために強くなるって、そう、誓ったのに・・・。だから、同世代の子達にも舐められないように、男らしくなるって。勿論、じーさんに憧れもあったから、あんな風に強くなりたいって。うぅ。うっ。







 怖い。





 怖いよ。





 父さん。母さん。





 私、どうなるの・・・?





 やっぱり、じーさんみたいに強くなるなんて出来ないよ。私は、弱い。





 ・・・怖い。





 ごめんね、ジュド。姉さんまでいなくなるかも・・・。ジュドに薬草を届けてあげたかった。誰か拾って届けてくれていないかな?



 もう一度ジュドと一緒に、じーさんの船で海に出たかった。ごめん、本当にごめん、ジュド。





 ・・・怖い。死にたくない!







 膝を抱え座り込む。自分自身を抱き締めるように。震えるを体を慰めるように。















 カラン。





 その時、いきなり部屋の中で聞こえた小さな音に、体がビクつく。そっと音がした方向に視線を向けると、そこには小さな可愛らしい貝殻があった。



 あっ。これはラナンに貰った鈴だ。音の存在が見知った物だったので、ホッと息を吐く。貝殻についている紐を摘まみ上げる。ポケットに入れたままだったから、きっと偶々出て来たのだろう。



 そういえば、これに魔力を込めながら音を鳴らすと場所が分かるって、ラナンが渡す時に言っていた!ただ、海辺じゃないから聞こえるか分からないけど、それでも!やってみるだけやってみよう!諦めたくない!まだ、死にたくない!





 紐を摘まんだまま、鈴に魔力を込めて軽く揺らす。



 カラン。



 先ほどポケットから落とした時よりもはっきりとした音が鳴る。けれどその音は、海辺で鳴らす時と同じように小さい。お願い!届いて!



 貝殻を握り締め祈る。















 ガタッ。ガタガタガタ。



 突如、小屋の中に響いた音に飛び上がる。音は入口からで、急いで部屋の奥の壁際まで移動して、入口の様子を窺う。



 唾を飲み込み、呼吸が浅くなる。指先1つすら動かせない程の緊張感に包まれる。





 ガラガラガラ。



 開いた扉からは男が1人入って来た。その顔は見慣れた人物のものだった。





「ライナー!?」

「おっと!しっ!静かにしてくれ!」





 小屋の中に入って来た人物はライナーだった。ライナーは直ぐに、小屋の奥の壁際にいる私のところまで近づいて来ると、口元に人差し指を当てて静かにするように囁く。貝殻の効果だ!ここにいるって伝わったんだ!





「良かった。嬢ちゃんが無事で良かった!あ、そのまま黙って聞いててな」





 耳元で小声で話しかけるライナーに頷いて答える。





「これから安全な所まで移動するから、そこに移動するまで静かにしていてくれ。小屋の見張りは一応倒しているが、替わりの見張りがしばらくしたら戻って来るから、今のうちになるべく早くこの場から離れる」





 顔から血の気が引くのを感じる。だが、ライナーがもう移動するという言葉に従い、力が抜けて崩れそうになる脚になんとか力を入れて、静かにその後ろについて歩く。小屋を出ると、どうやらここは森の中のようだった。そして小屋から少し離れたところに用意されていた馬車に乗り込む。その馬車は商人が良く使う行商の馬車に良く似ていた。御者は見たことない人だが、馬車が行商のものっぽいし、きっと救出してくれる協力者なのだろう。





 馬車に乗り込み、ライナーに指示されるままに、中に積んである大量の木箱の奥に入り、身を隠すようにして座り込む。ライナーは馬車の入口の幌を下ろして、外から中の様子が分からないようにすると、私の反対側に座る。





「今から状況を説明するな?」





 コクンと頷く。丁度その時、馬車が静かに動き出した。





「だからかなり揺れるだろうが辛抱してくれ」

「わかった」

「実は今、ベイスにはサハギンの群れが襲い掛かっていて、その対応に領主様もあの兄弟も当たっているんだ。だが、数がかなり多い。こちらに人手が割けずに俺が来ることになったんだ」





 ベイスにサハギンの群れが襲い掛かっている!?





「多いってどれぐらい?」

「それが・・数が多すぎて分からない。町の戦力を総動員しても町への被害は抑えきれないだろう」

「そ、そんな・・・」





 私がいない間にベイスがそんなことになっていたなんて。でも、リュゼとズィーリオスの2人がいるから、きっと大丈夫だと思うけど、リュゼは魔法よりも剣の方が得意らしいからな。相手の数が多いなら無事じゃすまないかもしれない。あれだけの強さがあるなら大丈夫だとは思うけど、でももしかしたら怪我しちゃうかもしれない。こんなことなら、治癒魔法の方も勉強しておくんだった。攻撃魔法しか勉強してないから2人が怪我をしちゃっていたら治してあげることが出来ない。折角、私は水属性持ちなのに。帰ったらじーさんに治癒魔法も勉強させてもらえるように頼み込もう。





「だから今、町に戻るには危険な状態なんだ。向かっている先は領主様のところじゃない。いいな?」

「うん」

「嬢ちゃんが何者かに襲われ、こうして誘拐されていることは領主様も知っている。領主様も嬢ちゃんも一刻も早くお互いに会いたいはずだが、安全が確保されるまでは我慢してくれ」





 段々揺れが激しくなり、体を安定させることが難しくなってくる。先ほどライナーが言っていた揺れるという話の通りだ。でも、予想よりもかなり揺れる。ウッ。吐きそう。





「気分が悪いなら横になっておくと良い」

「そうする」





 ライナーに促され、体を横たえる。体全身に揺れが伝わって来るが、座った状態よりはマシだ。体を丸め、固く目を閉じる。すると思っていたよりも疲れが溜まっていたのか、それとも助けが来たことで安心したからか、ユラユラと意識が微睡んで来た。意識が落ちる寸前、最後にもう一度ライナーの顔を見たくて薄っすらと目を開いた。助けが来たことをもう一度確認して実感したかったのかもしれない。



 すると、そこに映ったライナーの表情は、何故か悲しみを耐えるように笑っているように見えた。その理由を問いたくなったが、もう睡魔に抗うことも出来ずに意識を暗闇に沈めていった。
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