はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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それぞれの為すべきこと

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「この部屋は見ての通りだ。執務の合間に一休みしたい時に使う部屋なんだ。ここなら静かに、誰にも聞かれずに話が出来るだろう。時間もないことだし早速本題に入ろうか」





 ダガリスが向かいのソファーに腰掛け、脚を組んで深くもたれ掛かる。帯剣していた剣は外し、ソファーに立てかけている。俺も同じだ。両者共に直ぐに剣を引き抜ける位置に置いている。抜剣すれば相手の喉元に突きつけることも可能な距離だ。いくら警戒しなくてもいいと言われても、聖獣アーデ直伝の身体強化を施している俺がギリギリ反応出来たレベルなのだ。本気で殺し合いに発展してしまったら無事じゃすまない。





 それに・・・、先ほど剣を合わせた時に分かったが、ダガリスの側に立てかけてあるあの剣は、多分純ミスリルの剣だ。咄嗟に剣に魔力を流して強化したから良かったが、もしそのまま受けていたら刃こぼれしていたことだろう。なぜこれほどの剣の使い手の存在が他国まで知られていないのか。不思議だ。





「リュゼ殿はズィーリオス殿の言うことしか聞かないのかな?」





 俺が未だに警戒している様子を見て、呆れた顔をして戯言を口にする。そりゃあ、信用出来ない相手のことを全面的に信じることなど無理だろ。





「まあ、悪いのは俺の方だ。警戒するなって言っても無理か。仕方ないが、警戒したままで構わない。・・・本題に入ろう」





 無言のままで居ると肯定と捉えたようだ。実際、ズィーリオスの言うことは信じているから合っているけど。





『この人嘘は言っていないわよぉ?』

『だとしても、いつその気持ちが変わるか分からない。気を緩める必要はないだろう』

『まぁーリュゼがそーいうなら別に良いんだけどねぇ』





 精霊王がダガリスの言葉が本心からのものだと証明してくれるが、警戒を解くことが出来なかった。





「それで、今ズィーリオス殿は人魚達の相手をしてくれているのか?」





 ダガリスが質問をしてくる。そうだった。今はズィーリオスが1人で抑え込んでくれているが、あの数だ。大丈夫だとは思うが、俺は俺のやるべきことに集中しないと。そしてジュリアを見つけ出し次第、援護に向かおう。・・・魔物を集めることしか役に立たなさそうだけど。





「いや、人魚達は攻めてきていないが、代わりに大量のサハギンが襲い掛かって来ている」

「はぁっ!?大量のサハギンだと!?」





 予想外の展開にダガリスが目を見開いて叫ぶ。うるさい。ただでさえ声量があるのに、こんな小さな部屋の中で叫ばないでほしい。顔を顰めた俺を見て、「すまない」と謝った後、真剣な表情で俺を見る。





「数は?」

「少なくとも数千匹」

「なッ!?」





 再び驚いているが今度は叫ぶことはなかった。声が出ない程の驚きとも言えるか。





「それほどの相手をズィーリオス殿だけで抑えきれるわけがない。今すぐギルドに連絡して冒険者と兵たちを増援を送ろう」

「待ってくれ」





 立ち上がり部屋を出ようとするダガリスに声をかけて止める。振り返った表情には苛立ちを含んでいた。





「なんだ。時間が無いんだ!もう既に町中に来てる可能性が高いんだぞ!」

「落ち着け。サハギンは町中に入ってきていない。全部ズィーリオスが食い止めている」

「そんなわけがないだろう!」





 声は何とか抑えてくれているが相当イラついている様で、威圧が部屋中に放たれ、空気が張り詰めている。他人が焦っているのを見ると自分は冷静になれるとはよく言ったもので、警戒し張り詰めていた緊張が緩み、冷静にダガリスを見返す。



 俺のその様子を睨みつけていたダガリスだったが、次第に冷静さを取り戻す。流石領主だ。気持ちの切り替えが早い。落ち着いたダガリスがソファーに座り直し、俺の目をジーっと見つめながら問う。





「今言ったことは本当か?」

「ああ。ズィーが海辺に、端が見えない程長大な防壁を築いた。一匹たりとも後方に逃しやしないさ。今頃防壁の上に立って、一方的に魔法をぶっ放している頃だろうよ」

「長大な防壁だと?そんな大魔法を使えるのか?使えたとしても魔力が足りなくなるだろ。ましてやさらに攻撃など・・・事実か?」





 考え込み、有り得ないと首を振って否定するも、何かを思い出すかのように再び考え込んだ後、俺を見て嘘をついていないと感じたのだろう、確認の言葉を放つ。そのダガリスの言葉に、俺は静かに頷いて肯定して見せた。





「そうか・・・」





 するとダガリスはただそれだけを言って、片手で頭を押さえながら上を向く。





「正直、今この町にそれだけの数の魔物を抑え込める戦力はない。ズィーリオス殿だけで抑え込めるのであればとてもありがたいが、流石にこの町のことを、旅人の君たち兄弟に全て任せるわけにはいかない。援軍は送る。話を聞く限り魔術師を中心に送ろうと思う。それで良いか?」

「ああ」

「ただ問題はどのようにして、ズィーリオス殿が建ててくれた防壁の上に登るかだが・・・」

「それならズィーがどうにかしてくれると思うぞ」

「そうか。なら問題はなさそうだな」





 これで話は終わったとばかりにダガリスは立ち上がり、部屋の外に出ようとする。それを俺は呼びかけて止める。





「なんだ?まだ何かあるのか?」

「ジュリアについてだ」

「・・・分かった。暫く待っていてくれ。取り敢えずライナーに今の話を伝えて来る」





 そう言い残しダガリスは部屋を出て行った。











































~~~~~~ズィーリオス視点~~~~~~

















 リュゼが去って残された俺は、眼下で蠢くサハギン達を見下ろしていた。もう少しリュゼを止めるのが遅かったら、今頃ベイスの町は魔物共々綺麗さっぱり消滅してしまっていただろう。危なかった。





 雷属性の魔法を乱発してサハギンの群れの中に落としながら、現在の状況について考える。





 ジュリアがいなくなり、人魚の王子がいなくなったタイミングでサハギンの群れの襲来か。まるで謀ったかのようなタイミングの良さだ。



 それに・・・これほどの大軍の魔物が町に押し寄せて来ること自体が尋常ではない。これは明らかに何者かが意図して引き起こした人災だ。



 きっと魔物をおびき寄せる魔道具の効果だろう。それも特定の魔物に作用する代物。そうでなければ、サハギンだけというのはおかしい。



 敵は、この魔道具でおびき寄せられたサハギンの群れに町が混乱している隙に、逃走しようとしている可能性が高い。このサハギンの群れはダガリスの意識を逸らすための陽動。





 リュゼに念話で連絡を入れておいた方が良いな。

 契約がきちんと正規の形になったことにより、昔よりも広範囲に念話を飛ばすことが出来る。契約関係にない相手との念話は、相手が視界内、または半径十数メートル以内にいる場合じゃないと届かない。それは繋がりが無い故のことだ。この町の範囲ならリュゼに念話が届くだろう。





 念話を入れようとした時、海からサハギンとは違う気配を感知する。これはタイミング的にリュゼの魔力に惹かれた魔物か。



 その魔物は進行方向にいるサハギンを食い散らかしながら直進してくる。しかし、海から上がることはなく、その魔物が泳げるギリギリの辺りで居座りながら、周囲にいるサハギンを襲っていた。



 海面から透けて見えるその姿は、キラーフィッシュと呼ばれる魔物だ。丸い円形に開く、体に合わない大きさの口を持ち、その口内にはギザギザの歯が生えている。その口で自分以外のありとあらゆる魔力を持つ生き物に襲い掛かる。それは相手が魔物でも関係ない。目はなく、その代わり魔力感知能力がかなり高く泳ぐスピードも速い。そしてその姿は醜い。



 海で出会うと厄介な存在な為、船乗りの間では恐れられ嫌われているが、今だけは殲滅に協力してくれているので助かる。最終的には勿論消すつもりだが。



 キラーフィッシュのお陰で近場の海にいるサハギンの数が減り、陸に上がって来ていたサハギンは大方減らすことが出来た。それにサハギン達がキラーフィッシュに攻撃を仕掛けていたのもあり、キラーフィッシュもかなり弱っている。リュゼの魔力の残滓があるせいでこの場から離れなかったのだろう。







 キラーフィッシュもまとめて消そうかと考えていると、町の方からたくさんの人がやって来る気配を感じる。振り返り暫く待っていると、多くの冒険者や兵たちの魔術師だった。防壁の何か所かに階段を作り、防壁の上まで誘導する。



 話を聞くと、ダガリスからの増援だった。ならこの場は彼らに任せても大丈夫だろう。そして彼らに後を任せ、防壁を飛び降り町へと駆けだした。



 そしてその時、精霊王が残して行った眷属が、エリムランデルトの精霊からの伝言が伝えられた。それは、ジュリア探しの手掛かりになりえるものであった。

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