はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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「何故止める!ここは俺の出番だろう!?」





 壁の上に立つ俺の隣に並び立ったズィーリオスに言い放つ。舌戦はズィーリオスに任せるが、戦闘では俺の担当だろう。というかそうじゃないのか?何度1人で戦わされてきたことか。誰かさんたちは毎度観戦しているじゃないか。俺の存在感を取り戻す!



 サハギンは、今分かる限りでも優に数千匹近くいる。剣でちまちま切り捨てるより、黒の書の魔法を一発ドカーンと放つ方が効率が良いだろう?













 それに・・・こんな面白い状況になっているんだから暴れてもいいはずだ!





 圧倒的な数の暴力を目の前にしているにも関わらず、絶望感よりも高揚感があった。無意識に口角が吊り上がり、瞳孔が開いていく。



 魔力を海側に向かって放つと、壁の下で集まっている魔物が一斉に俺を見て騒ぎ出す。俺へと剣を伸ばす個体もいるが、5メートル近い壁の上に立つ俺には届かない。遠くの壁の方に居た魔物達も反応し、壁へと向かっていた進路を俺がいる場所へと変えた。集まって来た魔物が押され合い、密集することにより、魔物達が身動きがとれなくなり混乱が発生していた。あははっ!















「だからダメだと言っているだろ!」

「はっ!?」





 たった僅かな間のことであったが、完全にズィーリオスの存在を忘れてしまっていた。腕を掴まれその存在を思い出す。大好きな相棒のズィーリオスが側にいるのに、その存在を忘れてしまっていたことがショックだった。まさか、俺が一時の間とは言え忘れ去るとは思わなかった。







 完全に血が騒いでいた。いくら心では繋がりを切ったと思っていても、この体に流れる血がバルネリアとの繋がりを示していた。バルネリアの闘争本能を。危機的状況になればなるほど、苛烈な戦いとなればなるほど強くなる、その本能を。





 ネーデの町での魔物襲撃事件の時は何ともなかったのに。・・・いや、もしかして、似た状況になってたのか?ただ記憶ないだけで。・・・分からない。けど今はそんなことどうでもいい。







 気持ちが落ち着き、ズィーリオスの話を冷静に聞けるようになる。ズィーリオスの目を見返し、もう大丈夫だと意志を込める。ズィーリオスが頷き、海へと顔を向けながら口を開く。





「リュゼが魔法攻撃を行ってしまうと、いくら威力も範囲も抑えたとしても、ベイスの町にも影響が出かねない。それに、どこにいるか分からない、海の中にいる人魚達にも影響が出るかもしれない。だから、ここは俺が受け持つ」

「なら俺は?俺はどうすればいい?剣で戦うには効率が悪すぎるぞ」

「今の状況を忘れたのか?リュゼはジュリアを探してくれ。誘拐じゃなかったとしても、この状況下では避難させるべきだ。だから探してくれ!」

「分かった!」







 壁から飛び降りようと振り返りかけた時、再びズィーリオスに止められる。まだ何かあるのか?





「行く前にリュゼの魔力を見える範囲の海全域に広げて、周囲の魔物を集めてくれ。ほとんどは既にこの海域にいるが、どこにいるか分からないが、人魚達側の魔物もここに引き付けたい」

「任せろ!」





 それは俺にしか出来ないことだった。俺の魔力を海の中へ入りこませ、遠く深く、見えなくとも広げられる範囲まで広げていく。広がり過ぎて操作が出来なくなるまで広げると、俺の魔力に反応してやって来る気配がした。もう十分だろう。





「流石リュゼの魔力だな」

「そりゃどうも」



 魔物がやって来る気配をズィーリオスも感じたのだろう、魔物を引き寄せる魔力を褒められても嬉しくない。それに、何かサハギンっぽくない魔力の気配を感じたが、それはまあ・・・ズィーリオスがどうにかするだろう。やれって言ったのはズィーリオスだからな。何が釣れたのか分からないが俺は知らない。





『私はリュゼと一緒でいいかしらぁ?』

「そうしてくれ。リュゼ!そっちは任せたよ!」

「おう!任された!ズィーもそっちは頼むよ!」

「勿論だ!」





 今度こそ俺は壁から飛び降り、町に向かって駆ける。風圧でフードが脱げそうになり、慌てて手で押さえる。



 着地した直後、背後で急激な魔力の高まりを感じ、次の瞬間には海辺一帯に爆発音が響き渡った。ここは気にしなくとも良さそう。









 さて、ズィーリオスにジュリアの捜索を任されたはいいが、何から手を付ければいいんだ?とりあえずサハギンが襲い掛かっていることは誰も知らないはずだから、ダガリスを探すことにするか。報告とジュリアについての情報を聞こう。



 町の中に入り、周囲の人の気配を探る。この辺りは完全に避難が完了しているようだ。人っ子一人気配を感じない。魔力を薄く広げ、更に広範囲の気配を探る。どうやら町の住人達は、ダガリスの領主邸に避難しているようだ。領主邸に多くの人の魔力反応がある。



 領主邸に向かい速度を上げる。細い入り組んだ道は移動し辛く、家々の屋根に上がり、屋根を走り抜ける。





 領主邸の目の前まで走り抜け、玄関の扉の前に降り立つ。

 その瞬間、強烈な殺気と共に扉が乱暴に開かれ、中から出て来た何者かに襲われる。その攻撃を反射的に剣を鞘から引き抜き、受け止める。襲ってきた剣は速くて重い!襲い掛かって来たのは・・・。





「なんだ。リュゼ殿か」

「・・・。ダガリス。なんだじゃない」





 俺を襲ってきたのはダガリスだった。ダガリスは俺だと認識し、更に他に周りに誰もいないのを確認して剣を下ろす。腕が痺れている。身体強化をしているのに腕が痺れるなど初めてだ。ジュリアが騒ぐだけのことはある。ダガリスは正真正銘の剣の達人だ。





「いきなり襲い掛かって来るとは。下手したら死んでたぞ」

「すまないな!猛スピードでこちらに近づいて来る気配がしたから、てっきり人魚達が襲ってきたと思ってな!それに・・・奇襲した俺の剣を受け止めた奴はお前が初めてだ。なかなかやるじゃないか。がっはっはっはっはっ!」

「・・・・・笑いごとじゃないんだけど」





 剣を収めて笑い出したダガリスを睨みつける。身体強化をした俺でもギリギリの攻撃だったんだけど。相手が俺だったから何とかなったものの。そもそも、相手が人魚だったとしてもいきなり切りかかったらダメだろう。もし相手が交渉が目的でやって来ていた場合、その使者を殺してしまったら、それこそ交渉決裂の殺し合いに発展しかねない。



 そして・・・そろそろ笑うのを止めろよ。いつまで笑ってるんだ。そんな面白いことじゃないだろ。ダガリスの足を踏みつける。





「痛いな。いきなり何するんだ」

「ずっと笑っているからだろ」

「ハハハ。それはすまない」

「もういいから」

「所で。ズィーリオス殿はどうした?」

「その件について話が有って来たんだけど」

「そうか。では中に入ってくれ」





 やっと建物内に入ることが出来た。中には多くの町の住人達が至る所に座り込んでおり、やって来たのが敵ではないと分かった安堵からか、小さな子どもが泣き叫ぶ声と、その子達をあやす彼らの親や兄弟の声があった。





 邸宅の奥へと進んで行くダガリスを見つめる。先ほどまであった、剣士として、また強者としての殺伐とした殺気が消え、見慣れた領主の爺さんの雰囲気が、俺の先を先導するその背中から漂う。切り替えの落差が激しく、本当に先ほど強烈な殺気を飛ばしてきた爺さんなのか疑うほどだ。



 すると、ふとダガリスが立ち止まり、振り返り俺を見る。





「またリュゼ殿を襲う気は無いからそう警戒しないでくれ。ちゃんと寸止めするつもりだったんだぞ」





 あれだけ殺気を飛ばしておきながら寸止めするつもりだっただと?





「敵は人魚達だけではないからな。ジュリアを襲った輩の可能性もあるだろう?強力な幻影魔法の使い手がいるようだしな」

「そうだな」





 その可能性も考えたうえでの行動だったのか。なら仕方ない。





 一先ず話し合いが先だ。ダガリスが歩き出した後を追いかけ、そしてある部屋の前で止まる。その扉を開けてダガリスが中へ入っていくのに続き、俺も中へ入って行った。どうやらそこはダガリスの書斎のようだ。だがダガリスは更に奥にある扉まで移動し、その扉の先へ行く。付いて行くと、そこは小さな部屋だった。壁一面に姿絵が飾られている。その姿絵には、ダガリスやジュリア、ジュリアより幼い男の子、若い男女の絵が飾られている。家族の姿絵か。

 そして部屋の中央には対面になるように置かれたソファが一対ある。





 ダガリスが部屋を見まわし、ある一点で視線を止め、家族の姿絵と思われる絵を見て目を細める。そして俺に振り返り、ソファーに座るように促した。



 特に危険はなさそうだ。促されるままにソファーに腰掛けた。

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