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襲い掛かるものたち

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「その見たって言う人は誰だ!どこにいる!?」





 ダガリスがラナンに鋭い眼光を向けて問う。その視線から庇う様に、エリムがラナンとダガリスの間に入る。





「その方は、昨日目の前で消えたという人物の婚約者だ。勿論、人間ではなく人魚だ」





 エリムは俺たちに話す時とは違い、高圧的な態度でダガリスの質問に答える。そしてそのまま言葉を紡ぐ。





「そしてその目撃者は、今日の昼前から行方知れずになっている。その方の名は、ラドリー・プェリンツ・アクスリウムだ」

「なッ!!??」





 エリムの告げた人物の名前を聞いた瞬間、ダガリスとライナーが目が零れ落ちそうなほど見開いて、驚愕の表情のまま固まる。





 誰だか全く分からない。首を傾げているとラナンがこそっと耳打ちして教えてくれる。





「人魚達の次期王、深海の国アクスリウムの王子サマだよ。プェリンツが王子の地位を表してるの」





 うわぁーお。・・・なんでそんな大物まで巻き込まれているんだよ。唖然としたままズィーリオスを見上げると、コクンと頷かれる。今の話を聞いていたようだ。それにしても、確実に外交問題となり得る事態に発展しているのに、随分と冷静だ。



 きっと、ズィーリオスがいなくて俺だけだったら、面倒ごとに関わるのはごめんだからこの町からすぐにでも離れていただろうな。ズィーリオスには何か策でもあるのだろうか?





「このままでは、人魚達は”人間”全てを敵視し、同胞の奪還にやって来る可能性があるな」





 ズィーリオスの発言にエリムが肯定する。





「領主の孫とは約束だったので我々はやって来ましたが、出発前の国はかなり慌ただしかったです。あの様子では、すぐにでも出撃しそうな雰囲気でしたが・・・・。そういえば、そろそろ来ていてもおかしくない頃合いですけど・・・」





 エリムはダガリスに話す時の口調とは違い、ズィーリオスに対しては相変わらず丁寧だ。その様子をライナーは何を思っているのかは分からないが目を細めて見つめている。





 ダガリスは興味深げに見つめていたが、その発言の内容を遅れて理解し、真っ青な顔になって慌てだす。





「何!?アクスリウムあちらの軍が動いているだと!?それはまずい!ライナー!今すぐ戻って皆を避難させろっ!!」

「はいっ!」





 ダガリスの指示でライナーが大急ぎで町中へと駆けて行った。砂浜ゆえ走りにくそうだ。あ、こけた。





「すみませんが我々もそろそろ戻ろうと思います。海の底が慌ただしい時に、陸の者と会って話し合いをしていることがバレると何を言われるか分かりませんからね」





 エリムが言いながら立ち上がり、ラナンの腕を引いて立ち上がらせる。そしてその耳元に何かを呟く。するとラナンが俺近づいて来た。なんだなんだ?





「ゴーレムの核、ありがとうね!また今度会おう!・・・・・精霊を通して情報を」





 明るい声で話しかけて来たと思ったら、最後に小さく呟くように伝えられる。その言葉の意味を瞬時に理解し、エリムとラナンを見送った。





 精霊の言葉が聞ける者の特権的な情報収集方だろう。相手側にも精霊がいるのは便利だな。ただ、精霊たちに伝達のために働いてもらわなければならないけど。





 ・・・精霊王がそんなことをやってくれるのだろうか。ズィーリオスと精霊王にもラナンから伝えられた内容を念話で伝え、そのまま精霊王に聞いてみる。





『それぐらいのことなら良いわよぉ。なら眷属に任せるわぁ。そういうことだから皆お願いねぇ』





 精霊王の協力も無事に取り付けらた時、精霊王の周囲の魔力が歪み、直ぐに元に戻る。





『今のは?』

『この辺にいる眷属たちにお願いしたのよぉ』





 そうだった。これでも精霊”王”なのだった。初めて王らしい?ところを見た気がする。情報がほとんどない現状で、見えない手数を駆使出来るのは助かる。ただ茶化し、煽るだけが精霊王の出来ることではないのだ。





「分かった。勿論だ」





 俺が精霊王と念話をしている間に、ズィーリオスはダガリスと話し合いを行っており、予想通り今回の件に協力する事をズィーリオスが決めたようだった。・・・ここに来てから俺の決定権がほとんどなくなっているんだけど。え、俺って契約者だよね?一心同体の相棒じゃなかったかな。これじゃあ、完全に俺がズィーリオスの付属物じゃないか!!





『どーしたのぉ?また顔芸してぇ』

『・・・』





 とりあえず、俺はまず無表情を習得しよう。出来るかな?・・・出来なさそう。今のも意識だから、認識できてない時点で無理な気がする。よし、諦めよう。













「「っ!?」」

『うそ・・・』





 その時、突如海の方角から物々しい数の気配を捉える。その気配は、今見える視界いっぱいの水平線全域から感じていた。





「ダガリス!今すぐ逃げろ!走れ!」

「え?なぜだ?まだ話がの「良いから早く!!」・・・わ、分かった!」





 ズィーリオスがダガリスに吠える。その異常性を理解しきれてはいないが、何か起きたことを把握し、吐き出しかけた言葉を飲み込む。そして振り返ることなく、海辺から離れるように走り出した。そしてその時、タイミング良く精霊王がエリムたちからの知らせを受け取ったと伝えられた。その内容は、先ほどエリムがアクスリウムの軍が到着していないことを訝しがっていた、その原因を解明するものだった。





 アクスリウムの軍の優先順位が、町を襲撃するよりも高くなったわけで。

 それは、町を襲撃する暇も余裕もないわけで。

 そして、驚異的な速さで近づいて来て、もうすぐその姿を現すほどに近づいて来ている、見える範囲の海全体の広がる大量の気配。







 すなわち。

 エリム達からの知らせは。





 異常な規模のサハギンの群れがアクスリウムを襲っている。そしてその一部が、ベイスへ向かっているようだ。







 現状を更に混沌とさせる内容だった。







 そして、タイミングを見計らったかのように海面から魔物が姿を現す。その数は数えきれない。



 サハギン。

 半魚人の魔物で、全身水色をした二足歩行をする醜い魚。大きさは大人の人間と同じぐらいだ。口の中には無数の牙が見える。サハギンたちの両手には盾と剣が握られ、中には斧を持っている個体もいる。ギョロギョロした目を忙しなく動かし、海岸線に立つ俺たちの姿を捉える。







 「ギャギャッ!」





 俺たちを見つけた瞬間一斉に押し寄せ来た。が、どうやら陸上では素早く動けない様で、その動きは遅い。逆に言えば、海の中で戦っているだろうエリム達はかなり苦戦していることだろう。







「ズィー!」

「任せろ!」







 ゴゴゴゴゴゴ。



 俺の声に応じ、ズィーリオスが砂浜全域にわたる長さの防御壁を建てる。どこまで続いているかは分からないが、かなりの長さだ。その分、消費される魔力量も多い。だがここは流石ズィーリオス。全く堪えていないようだ。



 壁の反対側ではサハギン達の鳴き声で騒めいている。これだけ大量の獲物がいるのだ。ならばここは俺の出番だろう。この状況で使う属性はやはり、雷一択!壁の上に飛び乗り、黒の書を召喚する。



 フハハハッ!殲滅してやろうじゃないか!実戦で使ってみたかったんだよな!そして・・・俺の存在感をアップするのだ!





 さあ。覚悟しろ、魔物共!いざっ!!











「リュゼ、ストーープッ!」





 なのに、ズィーリオスにいきなり止められた。





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