はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

文字の大きさ
上 下
120 / 340

必ずしもそこにいるとは限らない

しおりを挟む
「良かったな。謹慎開始が1日だけでも伸びて」

「・・・ふんっ!」







 領主邸で昼食をとった後、ジュリアとズィーリオスと共に海へ向かっていた。道中暇だったのでジュリアに声を掛けるが、俺はいつの間にか嫌われたようだ。ジュリアはべったりとズィーリオスにくっついている。初めて会った時は、俺の胸で泣いていたと言うのに。涙と鼻水で、俺の数少ない服の1着をぐちゃぐちゃにしてくれてさ!いくらクリーンの生活魔法で汚れを落とせると言っても。





 俺は現在13歳。ダガリスに教えてもらったのだが、ジュリアは7歳。歳は俺の半分ほどしかなく、前世の年齢と合わせると、俺より一回りも二回りも年下だ。多少、身体年齢に少し引きずられている気がするが。だけど精神は十分に大人だ。子供相手になに対抗心燃やしているんだ。もっと寛大な心を持たないと。そう、俺は今目の前に広がる海の様な広さの心を持った・・・・。





「ズィーリオス!このままこの町にずっといてくれても良いんだぞ!あんたが家うちに滞在出来るように、俺がじーさんに掛け合うぜ!」





 俺は海のように広い・・・。





「なぁ?どうよ。考えてみてくれよ。魔法が得意なんだろ。俺の魔法の師匠として教えてくれよ!」





 寛大な心を持って・・・。





「そうなると剣はリュゼに習うつもりかい?」

「何言ってるんだ?剣の師匠ならじーさんという偉大な師匠がいるんだ。ガキに教わることなどないだろ」





 ブチ。・・・・・海の様な広さの寛大な心は、今だけはいらーーーん!!





「ガキはお前の方だろ!自分の姿を見てから言え!!」

「はあ?うるさい!多少剣が使えるからって調子乗るなよ!どうせじーさんよりは弱いくせに!」

「んなのやってみなけりゃ分からんだろうが!」

「ハッ。あんたの相手をしてやるほどじーさんは暇じゃないんだよ!」





 ギャーギャー騒ぐ俺たちに、何事かと町の人たちが顔を出すが、ジュリアの姿を目にすると一様に穏やかな視線を向けられる。どこも穏やかではないと思うのだが。





「はいはい、2人共ー。着いたからおしゃべりは終わりなー」





 パンパンとズィーリオスが両手を打ち付けて、俺たちの注意を自分に向けて話しかける。引率の先生みたいだ。それと、今の様子を見てどこが”お・しゃ・べ・り”だったんだよ。



 内心思うところはあるが、相手は子供だ子供、と自身に言い聞かせて気持ちを切り替える。今から本物の人魚が観れるのだからな!人間の子どもを相手にしている暇はない。





「今、しつれーなこと考えてただろ」

「うるせー。薬草が必要なんだろ。早く呼べよ」

「分かってるっつーの」





 何だかんだと文句を言いながらも、ジュリアも今はそれどころではないと考えたようだ。ポケットから貝殻に紐が付いた、小さなキーホルダーの様な物を取り出す。



 紐の先を摘み貝殻を揺らすと、カラ~ンと軽やかな音が聞こえた。大きくもなく、響くこともなさそうな小さな音だったが、たった一度それを振っただけで再びポケットにしまい込んだ。





 海は心地良い程穏やかで、青空が広がる空と対比する海の色も美しい。

 幾度となく打ち寄せる波が砕け散る音。爽やかな潮風が鼻腔を擽る。



 平和だ。レジャーシートでも敷いて、ズィーリオスのもふもふを堪能しながら昼寝をしたら最高だろうなー。貝類をバター醤油で焼いて、採れたての新鮮な魚を捌いて刺身で。じゅるっ。涎が!口の中に涎が溢れて止まらない!



 その匂いは海辺で見ることはほとんどない、エルフやドワーフさえも呼び寄せるほど香しいだろう。そう、あのエルフとドワーフのように。・・・・・ん??



 やばいな。いくら海鮮ものが食べられないからと言っても現実逃避し過ぎだな。パチンッ。痛い。





「・・・」





 目を覚ますために両頬を叩いたが、視界に映る光景は変わらない。あれ?おかしいな。海の中から”エルフとドワーフが出て来た”ように見えるんだが。とうとう俺の頭がイカれたか?





「なあ、海からエルフとドワーフが出て来たように見えるんだが。俺はもう正気じゃないのかもしれない」

「大丈夫だよ、リュゼ。ちゃんと正気だから」





 ポツリと呟いた言葉にズィーリオスが返答する。良かった。ズィーリオスも正気を失っているわけではないなら、俺はイカれたわけではないようだ。







「ヤッホーお嬢ちゃん!お久しぶり!呼んだってことは本当にロックゴーレムの核を持って来たんだ?持って来れるとは思ってなかったよ!どこから持って来たんだい!?」





 ドワーフの女とエルフの男の2人が海から上がって来る。どこも濡れた様子は見えない。俺が唖然とこの2人を見つめている間に、ドワーフの女がやたらテンション高めにジュリアに片手を上げて近づいて来る。ジュリアも笑顔で駆け寄って行くのを見る限り、2人は知り合いのようだ。





「ロザロ山脈の祠のところに現れたアイアンゴーレムの核だ!ロックゴーレムの核ではないが、交換してくれないか?」

「何だって!?アイアンゴーレム!そりゃ上物じゃないか!ゴーレムの核なのは変わらないし、上位素材ならば文句は言わないよ!」





 女性同士で楽しそうに盛り上がっている。話を聞く限りどうやら交渉成立だ。随分と簡単に済んだな。

 だが、先ほどからジーっと俺たちを見ているエルフの男が気になる。手には大きめの巾着の袋を持っている。あの中に薬草が入っているのだろう。



 男はエルフらしく細身で整った顔立ちだ。丸メガネをかけており、ヨレヨレの白衣を身に纏っている。研究者然とした雰囲気であった。







『ズィー。人魚って、海にいるエルフとドワーフのことではないよな?』





 密かに疑問に感じていたことをズィーリオスに聞いてみると、否定の言葉と、俺が想像していた人魚の姿が人魚であると教えてもらった。良かった。幻想が打ち砕かれたわけではないようだ。だとすると、何故人魚との取引のはずなのに、エルフとドワーフが出て来たのか。



 逸らしていた視線をエルフの男に向けると、目を見開いてこちらを見ていた。なんだ?はっ!そうだ、精霊王!バッと横にいて隠れていない精霊王に振り返る。・・・本人、全くに気にした様子がないのだけれど。エルフが近くにいたら隠れるっていう話は忘れたのか?半年以上前の話だから忘れていても仕方ないか。



 うん。仕方ない。・・・・・どうしよう。あのエルフの人、ずっと見てるんだけど。そして精霊王よ。エルフが見ていると分かった上で、俺の周りを飛び回ってチラチラとエルフに視線をやるのを止めてくれないか。





 やっと話が終わったらしいドワーフの女性とジュリアが、仲良く俺に近づいて来る。が、デジャブ。この光景さっきも見たな。ドワーフの女性の歩みが止まり、目を見開いて俺と精霊王を見ている。



 そうだった。ドワーフも魔力量は多い種族だ。エルフ程ではないが、それでも人間に比べたら圧倒的に多い。そしてドワーフは斧を振り回す接近戦闘が得意のイメージがあるが、魔法も使えるのだ。ただ、ドワーフらしく鍛冶職人になる者が多いため、使う方法が主に鍛冶場での作業で使われる。勿論、普通に冒険者として生きているドワーフなんかは、戦闘で魔法を使う。そしてドワーフが使う魔法も、エルフと同じで精霊魔法だ。精霊と契約が出来るほどの魔力量を有している者がほとんどなのだ。



 いきなり立ち止まり微動だにしなくなったドワーフの女性と、俺とを交互にジュリアが見ている。不思議そうな顔だ。・・・仕方ないことだものな。うん。



 何故と質問されることが大いに予想出来るこの後の展開を想像しながら、説明諸々はズィーリオスに丸投げしようと決意した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―  “賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。  だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。  当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。  ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?  そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?  彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?  力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...