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兄?

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「と、まあ、見ての通り俺たちはこんな容姿をしているから目立つんだよ。だけど俺たちは目立ちたくない。特にリュゼは色々と勘違いされやすいんだ。そして俺たちは、他国で厄介な連中に目を付けられている。それもギルドにまで影響を与えられる連中にな。だから、ここのギルドに知られたらもしものことがあるかもしれない。ギルドって国を跨いで繋がっているだろう?ギルドカードは持っているが使うことは出来ないんだ。冒険者ではないただの旅人ってことにしといてくれ。な?」





 ズィーリオスが放心状態のダガリスとライナーを相手に、怒涛の攻めをする。早口で捲し立て、言葉を挟む隙を与えない。まるで言葉の嵐だ。相手は身動きが出来ずにただ受け入れ、耐えることしか出来ない。



 それも、言っていることは嘘ではないが、勘違いして受け取れる内容だ。わざとなのだろうけど。





「あ。あぁ。無理言ってすまなかった。その容姿なら確かに隠した方が良いな。それにそんな髪色の奴は今まで見たことも聞いたこともない。分かった。今後、絶対にフードを取るなよ。ジュリアの命の恩人なんだ。誰かに何か言われてフードを取らないといけない状況になったら、俺の名前を出せ。俺の力が及ぶ範囲で力になろう」





 ダガリスが深刻そうな、真面目な表情に顔を切り替え告げる。ズィーリオスは僅かに笑みを浮かべている。





「見目が良いし髪色も珍しいから、かなりの高値が付くだろうな。それに魔力量も多い」





 ダガリスがゆっくりと頷く。





「こりゃあ、奴隷商が欲しがるわけだ。それにリュゼ殿は一部の嗜好家にも人気だろう」





 ッ!?鳥肌が立つ。それはもう全身に。ズィーリオスが奴隷商を匂わす発言をして、ダガリスがそのように勘違いをするように仕向けたのは理解できる。出来るけど!





「ダガリスさん」

「おっと、すまない」





 ズィーリオスが咎めるような声でダガリスの名を呼ぶ。ズィーリオスが軽く抱き締めてくれる。その温もりを感じてホッとする。俺の貞操の危険もあるが、それはズィーリオスもだろう。抱き締め返す。筋肉質な体だ。こんな時に思うことではないかもしれないが、もふもふの方が良かった。





「そういうわけだから約束は守ってくれよ」

「ああ。勿論だとも。奴隷の売買は禁止しているが、裏では人攫いによる違法な奴隷売買が行われているのは事実だからな。俺もこの町で起こらないように目を光らせているが、それでも完全には防げていないのが現状だ。人攫いがどこに潜んでいるか分からない。それにギルドにまで影響を及ぼせるような相手だとすると、こりゃ相当な権力者だな。英雄の森を迂回する南の街道を通らず、ロザロ山脈などという場所を通って来るから、訳アリとはわかっちゃいたが、なるほどな」





 ダガリスの表情が緩む。そして言葉の後半辺りは、独り言のように小さく呟く。身体強化をしている為、普通に聞こえている俺たちには関係無いが。





「怪しい人物を見かけたら君たちにも伝えよう。せめてこの町にいる間は、安心して楽しい時間を過ごしてほしい。ギルドカードも、もう見せる必要はない。君たちの実力が十分にあるのは今の間でわかった。先ほどは失礼したな」





 ギルドカードを出さなくていいのは、ズィーリオスが持っていないことがバレないから良かったけど、実力が今ので分かったとはどういうことだ?先ほどって?





「リュゼ殿・・・気付いていなかったのか。いや、意にもしない程度だったということか・・・」





 俺が疑問に思っていたことをダガリスが察したようだが、今度は勝手に何かに納得し落ち込んでいる。何なんだ一体。





『リュゼ、気付かなかったのか?』

『え?何を?』

『・・・そうか。先ほどダガリスが俺たちを怪しんでいた時に、ダガリスは威圧を向けていたんだよ』





 全く気付かなかった。多少空気が重苦しいっていう認識だったんだけど。チラッとダガリスに視線を向ける。ライナーに励まされていた。うん。何も言わない方が良さそうだ。





『そうだったんだな』





 ズィーリオスに返事だけを返す。殺気ではないから分からなかった。威圧ってことは俺たちを試していたっていうことか?それで謝っていたんだな。言葉の意味をそこまで捉えられるとは。流石ズィーリオスだな。



 ・・・まるでズィーリオスの方が兄らしくなってきたような?周りから見たらそう見えるのだろうか。ま、まさかー・・・・そんなわけないよな?

























 話し合いは穏やかな空気に変わり、一度休憩を挟むことになった。新しいお茶がカップに注がれ、小腹が空いただろう?とマフィンを出してくれた。バターの風味が香り、至福のひと時となる。





 その後、渡しそびれていたゴーレムの核をダガリスに渡す。ダガリスはその核を確認しただけで、再び返してきた。ゴーレムの核は貴重なものである為、俺たちが持っていた方が安全であるという判断だ。その為、ジュリアと一緒に人魚との取引に同行することとなった。ジュリアの護衛兼監視というわけだ。話し合いの結果、人魚との交渉には明日の昼頃に行くことになった。











 夕食の時間まで自由時間になったので部屋に戻り、ズィーリオスと二人っきりになる。精霊王?先ほどまでいたが気付いたらいなくなっていた。どこかでフラついているのだろう。





「ズィー。癒してー。疲労がー」





 ベッドの1つにダイブして全身から力を抜く。気を緩めたらすぐにでも意識が沈みそうだ。主に精神の疲労が蓄積されている。もふもふとはご無沙汰しているのだ。人目もなく、周りに気配もない今のうちに堪能しておかないと。





「分かった。なら場所を開けてくれ」





 のそのそとベッドの端までにじり寄る。すると、ベッドが軋み揺れる。空けたベッドのスペースに、元の姿に戻ったズィーリオスが乗って来たのが気配で分かった。ベッドの上を転がり、ズィーリオスの腹部の定位置に納まる。



 あぁ。これだよこれ。このもふもふ。はぁー、至福。美味しい食べ物とズィーリオスがいればもう何もいらない。



 久方ぶりの魅惑のもふもふは、思考力と気力を奪う。

 そういえばここは港町なんだよな。ってことはきっと美味しい新鮮な魚介類がたくさん夕食では出てくるはず。この世界では初めての生魚が出るはずだ。前世は寿司が好物だったからな。寿司はなくとも美味しい魚がたくさん・・・たくさん、えへへ。口の中に滲み出る涎を飲み込みながら意識は沈んで行った。











 結局のところ、いくら領主邸と言えども海のものが取れなくなっている現状の食卓に、海鮮ものが上がることはなかった。夕食の呼び出しが来たタイミングでズィーリオスに起こされた。夕食は、領主家の食事としてはかなり質素なものだった。ジュリアは疲れが溜まっていたようで、起きて来ることはなく欠席であった。病床に着いているジュリアの弟も欠席で、ダガリスとズィーリオス、俺の3人だけだ。



 食事はクリーム系のスープとパンだった。ずっとあっさりとしたスープと肉だけだったので、こってりとしたクリーミーなスープはパンとの相性も良く、食事は勝手に希望していた内容でなくとも十分に満足のいく美味しさだった。それにパンも半年ぶりに食べる炭水化物だ。



 だが、このメニューには魔物の素材は使われておらず、魔力のある食料ではなかった。人化中のズィーリオスは魔力のあるもの以外も食べることは出来るが、それらは栄養にはならないらしい。後で再度食事をする必要があるだろう。マジックバックの食料はまだあっただろうか。



 お腹いっぱい食事をとり、部屋に戻って何とか残っていた魔力を含む食材を全て取り出し、ズィーリオスの腹の中に収める。そして、再びもふもふになったズィーリオスと共に、眠りに着いた。

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