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暗雲立ち込める話し合い

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「ジュリア。ゴーレムの核を欲しいと言った人物との薬草の受け渡しについてはどうなっているんだ?」





 十分すぎるほどにジュリアを怖がらせた張本人が、一拍置いたのち、領主の顔になりジュリアに質問を投げかける。ジュリアはやはりと言うべきか、切り替えが上手く出来ない様で開いた口と閉じるという行為を繰り返している。まるで陸に打ち上げられた魚のようだ。



 それでも流石領主の孫だ。顔色はすこぶる悪いが、何度か深呼吸を繰り返し、意識を切り替えようと努めている。





「わ、私が直接、お、お渡しする、ことに、なっています」





 あのジュリアが、敬語を使っているなんて。更に”俺”じゃなくて”私”と言って、敬語になっている所が余計にことの深刻さを表している。ダガリスは怒るととても怖いようだな。ダガリスの前では黙っていよう。





「そうか。ならば謹慎の前に、ゴーレムの核と薬草を手に入れて来る仕事を任せよう。いいな?」

「は、はい」





 これでジュリアとの話は終わりという様に、ジュリアを部屋から追い出した。追い出されたジュリアはどことなくホッとしているようにも見えた。何だかんだと言ってはいたが、ダガリスもやっぱりジュリアのことが心配だったのだろう。怒られる前までジュリアが寝ていたことから、部屋で休むようにという気遣いなのだろう。





「では、ズィーリオス殿。ゴーレムの核を見せて頂けるか?」

「わかった。リュゼ」





 ズィーリオスに合図されたので、マジックバッグの中から核を取り出す。その様子を見てダガリスが片眉を上げる。





「それはマジックバッグか。君たちは冒険者だったんだな。それに、荷物の管理はズィーリオス殿ではなくリュゼ殿が行っているのだな」

「ええ。以前に潜ったダンジョンで手に入れたものだ。その時に見つけたのがリュゼだったから、リュゼの物として荷物の管理もまとめて任せているんだ」

「それでロザロ山脈から来たにも関わらず荷物が少ないのだな。ズィーリオス殿に至っては手ぶらのようであるしな」

「俺は魔法職なもので。接近戦闘はリュゼに任せている」





 なぜだ。会話の上では穏やかにやり取りされて、お互いの表情もにこやかなはずなのに、この寒気は何だ?





「それなら普通は前衛が荷物を持つのは邪魔ではないか?あ、いやいやすまない。リュゼ殿のマジックバッグであったな。補助具なしで魔法が行使出来るとは、兄弟そろってかなりの実力者のようだ。是非ともギルドランクを教えて欲しい」

「どちらもBランクだ」

「ほう。それはそれは。Bランクのギルドカードなど滅多に見れるものではない。見せてほしいものだ」

「残念だがそれは出来ない。強制ではないのだろう?」

「理由を教えてもらえるかな?ずっとフードを被ったままで、ギルドカードの確認も出来ていないと?」





 どうしよう。ズィーリオスとダガリスの両者の間に火花が散って見える気がする。いくら現在この町で指名手配がされていないと言えども、領主となると知っていても不思議ではない。下手にギルドカードを見せてバレたら逃げないといけない。そもそもどちらもと言ってはいたが、ズィーリオスはギルドカードを持っていない。ズィーリオスはこの状況をどうするつもりなのだろう。

 取り出したまま握っているゴーレムの核を掌の中で弄ぶ。





「はぁ。今この町で、人魚と人間との関係が非常に悪いという話は聞いているか?」

「ジュリアから聞いている」





 張り詰めた空気を破ったのはダガリスだった。溜息を吐き、組んでいた脚え組み替えて、椅子に深く沈み込み天井を見上げる。





「君たちにも何かしらの事情があることは見ていれば分かる。ズィーリオス殿は特にリュゼ殿に関わることには気が立っているようだしな。大切に思っているのだろう?」

「何が言いたい」





 ダガリスが視線を天井から俺に向けた後、再びズィーリオスに戻す。





「君たちがこの件に関わっているとは思わないが、これでもこの町を預かる身なのだ。不審な者達を見過ごすわけにはいかない。後ろめたいことが無いのならば、それを証明してくれ」

「・・・・・」





 ズィーリオスが黙り込む。顎に手を当ててどうするか考えているようだ。





『精霊王』

『何かしらぁ』

『あいつが指名手配に関しての情報を得ているのか”視て”くれ』

『何言っているのぉ。相手が嘘を言っているかどうか判断出来るだけで、心の中までは読めないわよぉ』





 呆れたような声色の精霊王がズィーリオスに答える。心の中が丸見えになっているなら怖いことこの上ない。良かった。心を読むことは出来なくて。でも分かるぞ、ズィーリオス。精霊王なら出来そうな気がするからな。

 心の中で頷きながら念話に意識を傾ける。





『なら俺がダガリスにいくつか質問するから、それが嘘ではないか教えてくれればいい』

『ふぅーん。それならお安い御用よぉ。聖獣の言うことを聞くのは癪だけどぉ、リュゼの為だものぉねぇ』





 そうして精霊王が俺の前に移動して来て・・・おい!邪魔だ!前が見えないって。手を振って退かそうとするが、相手は肉体のない魔力体だ。退かすことなど出来るわけがなかった。それにズィーリオスは何が起きているか見えるから分かるが、ダガリスは見えない為、精霊王がいることに気付いていない。どうした?という目を向けられて、思わずこういう時の常套句である「虫がいた」と言いかけて、寸前で口を閉じる。忘れてはいけない。あの時のズィーリオスの二の舞になってはいけないのだ。



 首を振って何でもないと返すその間に、精霊王は場所を移動してズィーリオスの反対側の俺の隣に座り、片腕を俺の首に回ししな垂れかかる。



 重くもないし、視界はクリアになったが、物理的な障害が無いとはいえ・・・邪魔だ!気が散る!肉体があれば・・・と多少考えもしたが、あったら尚更気が散っただろう。これで良かったのかもしれない。





「証明する前にこちらの質問にいくつか答えてくれ」

「・・・良いだろう」

「他国から政治的協力を要請されてそれに答えたか?」

「いや。そんな話はきてない」

『嘘はついてないわぁ』

「では次に、この町の冒険者ギルドはあるか?」

「ああ、あるが?」

「そこのギルドマスターと仲は良いか?」

「まあ、どちらかと言えば良い方だろうな。この町の住人は皆が仲が良いからな。そこのギルドマスターもこの町の出身だ」

『今のところは嘘はないわよぉ』





 ハーデル王国からの指名手配が、この町にまで届いていることはないようだな。問題はギルドの方か。





「俺たちの容姿について、今ここでフードを脱いで見せてもいい。けれど、この容姿や俺たちに関しての情報をギルドに聞かれてたとしても知らないと通してくれ。これが約束できるなら、ギルドカードも俺たちの顔も見せよう」

「分かった。約束しよう」

『本心のようよぉ』

「後ろの奴もだ」

「ライナー」

「初めまして。領主様の補佐を担当しているライナーだ。領主様と同じく俺も約束する」

『嘘ではないわぁ』

「きちんと守ってくれよ」





 ズィーリオスがフードに手を掛け取り払う。真っ白で短くサラサラとしたとした髪が、隠していたものから解放される。その髪と顔を見て、ダガリスとライナーが息を飲んだのが聞こえた。そしてゆっくりとダガリスが俺を見たので、俺もフードを外す。背中の間に挟まっている髪が違和感に感じ、引っ張り出してマントの外に取り出す。頭を左右に振る。解放感が心地いい。



 ダガリスとライナーは目を見開いたまま微動だにしなくなっていた。この反応もだいぶ慣れてきたものだ。身を乗り出し、ダガリスの目の前で手を振ってみるも意識は戻ってこない。







 パンッ!!





 部屋中に響いた破裂音でダガリスとライナーの意識が戻って来る。ズィーリオスが手を打ち合わせた音だ。ズィーリオスと俺を交互に見て来るダガリスの視線がうるさい。





「念のために言っておくが、俺は女じゃなく男だからな?」





 勘違いをされても困るので先手を打っておく。案の定、2人の目が丸くなるが、ここは放心気味の内に次に話を進めた方がいい。ズィーリオスの名を念話で呼ぶと、心得たとばかりにダガリスに向けて口を開く。

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