はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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ダガリスとジュリア

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 弱々しい姿を見せていたダガリスだったが、吹っ切るように明るい声を出して歩き始めた。それでも道中はそれ以降会話はなく、どことなく暗い雰囲気が漂っている。





 そんな空気の中、暫く歩き続けていると、他の民家よりも大きめの建物の前に辿り着く。途中途中で同行していた人が分かれていったので、今ではジュリアとダガリス、ライナーと呼ばれた男と、俺たちだけになっていた。





「この町に滞在している間は我が家の客室を使用してくれ」

「ありがとうございます。ダガリスさん」

「部屋は2人とも一緒が良いか?」

「はい。お願いします」

「分かった、用意させよう」





 流されるままズィーリオスについて行きながら、家の中に入っていく。そしてふと気づく。

 うん?あれ?この家って他よりも大きかったよな。そしてさっきダガリスは、”我が家”って言っていたよな?使用人が家の中から何人かやって来て、ダガリスに指示を受けてどこかへ消えていく。使用人?

 ダガリスの服装を見てジュリアの服装を見る。もう一度ダガリスを見る。





「どうした?リュゼ殿。何か尋ねたいことでも?」

「ここがあんたとジュリアの家?」

「ああ。そうだが?・・・それにしてもジュリアと呼ぶとは、仲が良いようだね?」

「何言ってんだ?俺よりもズィーの方が仲いいと思うぞ?」

「はは。そうかい?」





 何だかどこかで見覚えのある種類の笑顔をダガリスは浮かべていた。そんなに満面の笑みを浮かべなくてもいいのに。ジュリアは意外と同世代の友達が少ないのか?

 ん?ズィーリオスの様子がおかしい。どうしたんだ?





「リュゼ。ダガリスさんの自己紹介は聞いていたのかな?」





 なんでズィーリオスの口の端が引き攣っているんだ?





「聞いてたけど?」

「あまりジロジロ見るのは失礼だろ?」

「ジロジロ?」

「見てただろ?」





 あれか。2人の服装を見ていた時のことを言っているのか。・・・だって、な?どこをどう見ても使用人を雇う様な家に住んでいるとは思えないんだが。







「まあ。見てたな」

「また勘違いしているようだから言っておくけど、ダガリスさんが家名を名乗っていたことに気付いてる?」

「え?」





 名乗っていたか?いたっけ?んん?

 残念なことに俺の乏しい記憶力では思い出せないようだ。諦めてズィーリオスに顔を向ける。





「何で開き直っているんだよ。全く・・・」

「ズィーリオス殿、気にしなくても構わない。ここの”領主”であっても、実際には他国の貴族の様な位置づけとは多少違うからな。俺は町のまとめ役というだけだ。家は確かに少し他より大きいが、町の者達と話し合いをするための場としての役割もあるからだ。使用人の数も3人と少ない。そんなに偉い者ではないから気にすることはないぞ?」





 疲労を顔に浮かべたズィーリオスの溢した呟きをダガリスが拾う。そしてまさかの領主ということが発覚した。だから町の現状について詳しく知っていたのか。それに・・・ダガリスは耳が良いみたいだな。本人が気にするなって言っているし、大丈夫だよな!何か問題があってもズィーリオスが何とかしてくれるだろ。きっと。



 待てよ?そうなると・・・・。ジュリアを見ると、ニヤニヤとした笑顔でこちらを見ていた。





「ジュリア!お前貴族だったのか!?」

「あはは!そうだぜ!あんた等を驚かそうと思ってな。だが、ズィーリオスには気付かれていたみたいだが、リュゼは気付いてなかったみたいだな?ひれ伏して謝っても良いんだぜ?」

「は?ヤダね」

「俺は領主の孫だぞ!」

「先に身分を明かさずに仕掛けたのはそっちだろ!今更態度を変えるわけがあるか!そもそも俺は誰に対しても態度を変える気は無い!」

「俺はまだ分かるが、さっきからじーさんにもタメ口で喋りやがって。じーさんはこの町で一番どころか、この国で一番強い海の漢なんだぞ!?敬意を払えよ!もごっ!?」

「そんなこと知るか!本人が良いって言ってんだからいいだろ!もがっ!」





 ジュリアはダガリスに、俺はズィーリオスにそれぞれ口を塞がれる。抵抗するがやっぱり逃げられない。





「申し訳ありません、ダガリスさん」

「いやいや、こちらこそすまないな、ズィーリオス殿。リュゼ殿。俺はタメ口で構わない。むしろその方が良い。堅苦しいのは苦手でな。だから君も砕けた口調で話してくれ。そしてリュゼ殿を怒らないでやってくれないか」

「そうで・・・んん、そうか。貴方たちも仲が良いということだな」

「そちらもだろう?ズィーリオス殿」

「それに今まで、ジュリアが歳の近い者とこれほど仲良くなるなんてことはなかった。アイアンゴーレムを相手に剣で戦い、無傷で圧勝するほどの実力の持ち主なら俺も文句は言わない。それにジュリアはちょっと俺を大好き過ぎるところがあってな。俺よりも強い奴で、きちんとした技量が無いと扱えない、ミスリルの武器を扱える技量がある奴じゃないとダメらしい。クックックッ」





 抵抗するのに疲れ、大人しくズィーリオスとダガリスに会話を聞いていると、どうやら俺はお咎めなしらしい。ニヤニヤと笑っているダガリスの視線の先にいるジュリアは、真っ赤な顔でダガリスの足を蹴っていた。あれか。酸素不足か。酸素不足にしては元気なようだけど。これ以上暴れたら、余計に息がし難くなるのではないだろうか。まあ、そのうち諦めるだろう。



 その後、使用人の1人に客室に案内された。ベッドが2つ並んでいる2人用の部屋であった。領主邸であるようだが、外から見ても分かる通り、今まで見て来た貴族の屋敷と比べ物にならない程部屋も小さい。本人が言っていたように、あまり貴族というものではなく、町の代表者といったものなのだろう。とはいっても、一般的な宿に比べたら広い。狭すぎず、広すぎず、丁度いい広さだ。



 部屋で休んでいるとダガリスの呼び出しがあったので、呼び出しに来た使用人の案内でダガリスのもとまで移動する。通された部屋は会談室のようだった。



 中に入り、促されるままズィーリオスと隣同士で、ダガリスとジュリアの向かいの席に座る。するとタイミング良くお茶が出される。カップを手に取り、お茶を口に含む。美味い。







「早速ですまないが、ゴーレムの核についてだ。ロザロ山脈は今は立ち入り禁止なのだが、そこにある祠を開けたと聞いた。そして、その時にアイアンゴーレムが現れた。そうだな?」

「その通りだが・・・、今は?」

「昔はロザロ山脈は立ち入り禁止ではなかったのだ。強力な魔物のいる場所だが、許可さえ取れば行っても構わなかった。けれど、・・・半年ほど前か?地を割り開かんとする巨大な雷が落ちた。それも、峰を1つ消し飛ばすほどのな。だからそれ以降は危険だということで、立ち入りを禁止にしたんだ。その時、快晴だったのにも関わらず落ちたため、これからもいつ落ちるか分からないからいっそのこと通行を禁止にしたんだ。そういえば、君たちはロザロ山脈沿いにやって来たと言ってたな。知らなかったのか?」

「「・・・・・・」」







 半年前の雷って・・・アレだよな?俺のせいだよな?・・・・・おい!そこのやたらとナイスバディな美女!笑うんじゃない!知られているとは思わないじゃないか!







『リュゼ』

『うむ。なんだね、ズィーリオス君』

『絶対に「自分がやりました」とか「俺のせいです」とか言うなよ』

『勿論だとも』

『俺がテキトーに話をしておくから合わせてな?』

『了解した』







 現実逃避でふざけた返答をするが、ズィーリオスが突っ込むことはない。話をでっちあげるのに色々頭を使っているのだろう。





 あー。めんどくさいことはズィーリオスがやってくれるなんて。任せたぞ!俺は・・・・雷なんて知らん。だから精霊王・・・、こっちを見て笑うんじゃない!

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