はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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ベイスの問題

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 空中に漂いながら、何故か腹を抱えて爆笑している美女を睨みつける。おい。今までの妖艶な美女はどこに行ったんだ。見た目は相変わらず美女だけれども!こっちが素なのか!?







『精霊王!何笑っているんだよ!』

『ふふ。あはは!え、ええ。わかったわぁ。っふ。敵以外の言葉はそのままの意味で受け取ってしまうのがぁ、ちょっとぉ。ねぇ?ふふっ』

『どういう意味だよ』

『何でもないわぁ。ふふふ。この町の中を偵察して来るわねぇ』







 口元を抑えたままスーーっと町の中へと飛んで行った。逃げたな。







「なるほど。事情は理解出来た。ジュリアを助けてくれて感謝する。是非ともお礼をさせてくれ。それと、ズィーリオス殿の弟君にも挨拶をさせてくれないかな。礼を言いたい。・・・おや。空中を睨みつけて不貞腐れているようだが・・・何かあったのかな?」

「あーー。大丈夫です。気にしないで下さい。直接お礼を言う必要はないですよ。代わりに伝えておききますので」

「いやいや。ここは直接伝えておきたいのだ」

「ですが、その・・・態度がちょっと悪いので、不快に感じられる可能性が高いですから」

「ふん!海の漢はそんな程度では気にしない。特に強者であれば尚更だ」

「・・・・わかりました。リュゼ!」







 ズィーリオスに呼ばれる声が聞こえて視線を向けると、ジュリアに叩かれていた男がズィーリオスの側にいてこちらを見ていた。ズィーリオスに手招きされたので近づいていく。





「お兄さんから話は聞いている。俺はジュリアの祖父のダガリス・ポートライトという。孫娘のジュリアを助けてくれたんだってな。それだけでなく、ゴーレムの核の調達まで手を貸してくれたと聞いた。そしてここまで連れて来てくれて助かった。礼を言う」

「あんたがジュリア自慢の爺さんか。それと俺は弟でなくてだ、もがっ!」





 話している途中、いきなりズィーリオスに口を覆われ言葉を強制的に止められる。いきなり何すんだよ!離せーー!必死に抵抗し、ズィーリオスの腕を引き剥がそうとしているが、力が強すぎて剥がせない。

 これ、身体強化してる!なんという拘束力。腕に部位強化も掛けている様で、俺も部位強化で応戦しても勝てない。ズィーリオスは背後から抱き込むように抑え込んでいるからか、腕の力だけが頼みの現状の俺では逃げることが出来なかった。







「すみませんね。ダガリスさん。弟はリュゼと言います。どうか多めに見てやってください」

「ハハハハハ!大丈夫だと言っただろ。それぐらいの歳の男であれば皆そんなものだろう。うちのジュリアなんか女だと言うのに、リュゼ殿よりも生意気盛りだからな!」

「ちょっと!じーさん何言ってんだよ!」

「もががっ。もご!」

『あらぁ。賑やかねぇ』







 ズィーリオスがダガリスと和やかに会話をし、その側でズィーリオスに口元を抑えられ拘束されている俺は抵抗し、顔を真っ赤にして自身の祖父に対し憤慨しているジュリア達の様子を見て、偵察から帰って来た精霊王の、のほほんとした声が頭の中に響き渡る。







『町はどうだった?』

『大丈夫そうよぉ。指名手配は出ていなかったわよぉ』

『離せってば!』

『そうか。なら入っても大丈夫だな』

『ええ。けれど念の為にフードは取らない方が良いでしょうねぇ』

『なあ!離せよ!』

『そうだな。そのつもりだからリュゼも取るなよ』

『話を聞け!』





 念話であれば会話が出来るはずなのに。喋れないではなく聞いてもらえないだと!?





『もう、暴れるなって。身長差的に俺が兄で、リュゼが弟にしておいた方が説明しなくともいいだろ?弟を俺にすると、この身長差の説明が面倒じゃないか。それに、俺が兄の方がリュゼは面倒なことをしなくて良いんだぞ?』

『確かに。・・・そうだな。わかった。そういう設定にしておこう』





 そうだな。先ほどもズィーリオスが任せろって言ってたもんな。俺は何もせずに、全部ズィーリオスに任せることにしよう。めんどくさいことは何もしなくて良いなど楽じゃないか。俺が弟だという設定にするだけで、これほど楽になるとは。なんで今まで気付かなかったんだ?今後もズィーリオスには兄設定で任せよう。そしたら俺は眠っていられるしな!



 抵抗を止めて神妙に頷き、ズィーリオスの提案に乗る。すると口の拘束が開放された。大きく息を吸い込む。うん。美味しい。息が吸えるって素晴らしい。





「リュゼ殿も落ち着いたようだな。改めて挨拶は必要かな?」

「いや、その必要はないだろ」

「そうか。では君たちを歓迎する。ベイスへようこそ」





 この場で一番偉いらしいダガリスの案内の下、門の中へと俺たちは足を踏み入れた。













 門の内側に入り、案内されるままに歩いて行くと、たくさんの露店の様なお店が連なった市場になっていた。細い道幅の両サイドに店がある。しかし、お客さんの数はまばらで、店員の人たちも元気が無いように見える。



 日用品を扱うお店以外の、食品系のお店が特にそのような印象だ。

 鮮魚店らしきお店があったが、商品は並べられておらず、それが一店舗だけでなく、全ての店舗で同様の有様である。新鮮な魚介類を買いたかった身としては残念であった。八百屋や肉屋もありはするが、こちらはどれも他の街で見た値段より高い。





「魚介類を扱っているお店が全てしまっているのは、人魚との仲が悪くなったという件と関係しているのか?」

「聞いたのか?」

「ああ、ジュリアに聞いた」

「そうか。残念ながらその通りだ。今は海に入ることも、船を出すことも出来ない状況だ」





 ぽつりと独り言として呟いた言葉をダガリスが拾う。きまり悪そうに呟かれる言葉がその気持ちを表していた。後頭部しか見えないが、この状況に頭を悩ませているのは何となく分かった。





「ダガリスさん。私からも1つ質問をしてもいいですか?」

「ああ。なんでも聞いてくれ。君たちは恩人だからな。俺が答えられる範囲で答えよう」

「ありがとうございます。野菜や肉の値段が上がっている様ですが、これも関係あるのですか?」





 グッジョブ!ズィーリオス。俺も聞きたかった!





「良く分かったな。そうだ、関係している。この町は人魚達と共存し、お互いに物資の取引を行っているんだ。海の物を人魚からもらったり、海に入る時は人魚達の許可が必要だったりするんだ。その代わり、陸地の物を人魚達に渡したり、海の恵みを分けてもらったりな。それを狙って商人がたくさんやって来る。人魚と共存しているこの国や、この町でしか買えない特産品を買い付けに来るんだが、その代わりに商人たちは陸地の物を持って来てもらう。そうやって3者の関係が保たれていたんだ」





 ダガリスが歩みを止めて、周りの店を見渡して溜息を吐く。





「けれど、人魚からの品が入らなくなると、必然的に商人達は買い付けに来たのにそれが出来なくなる。そして最近では、嫌がらせとばかりに野菜や肉の値段を高くして売りつけに来るんだ。海の物が食べられないなら、他の物を食べないといけない。そしてこの町は海沿いだから野菜もあまり育たず、ロザロ山脈に近い場所故、簡単に肉も手に入らない。ロザロ山脈の魔物は強いからな」

「そういうことになっているのですね」

「ああ。それにジュリアから聞いたと思うが、流行り病が出ている。早く薬を手に入れなければならないが、食べ物もまともに手に入らない状況にいつなってもおかしくない状況では、まずはそこから解決しなければならないと思っていたんだ。だから正直、君たちが薬の調達のめどをつけてくれたのは本当に助かったんだ」





 その弱弱しい微笑みが、ダガリスが孫を助けたいが、それどころではないと苦悩していることを表すようであった。
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