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アイアンゴーレム戦
しおりを挟む無機質な2つの赤い光が頭部に相当する場所に現れる。
その瞬間、悪寒を感じて左側に飛び退き、空中で体勢を整え先ほどまで自分がいた場所を確認する。そこには、巨大なハンマーのような握りこぶしが叩きつけられていた。
早い!
見た目は重々しく鈍足そうな鉄の塊だが、その見た目に反した速度を有している。
地面に着地していつでも動けるように構える。動きは目で追える程度だが、何せ足場が悪い。地面から離れたアイアンゴーレムの拳は、その地面に小さなクレーターを作っていた。
『あらぁ。祠の中に魔石はないわよぉ』
「なるほど。ゴーレムの核はこいつから採れということか。それもゴーレムはゴーレムでも、アイアンゴーレムと」
場の雰囲気にそぐわない、緊張感のない声が脳内に響いた。そしてその声に答えたようにも、独り言ともとれるズィーリオスの言葉が聞こえる。ズィーリオスのことだ、無事なのは当然だ。
動きが早くて厄介な相手だ。ここはズィーリオスに任せて、魔法により速攻で落としてもらおう。黒の書は威力も効果範囲も広すぎて使えない。ましてや、ジュリアがいる前で黒の書は使うことなど出来ない。
アイアンゴーレムが相手なら、火魔法で十分落とせるだろう。
「良し!リュゼ!あとは頼んだぞ!」
「は?」
なのに。
何故俺がズィーリオスに任せようとしたのに、ズィーリオスが俺に任せることになるんだ?いつの間にか、ズィーリオスとジュリアの気配がだいぶ後方の離れた位置にある。
「いや!ちょっと待て!ズィーが火魔法で攻撃した方が早いだろ!!」
後方に向けて、アイアンゴーレムの拳を避けながら叫び主張する。声が聞こえていないのか、はたまた聞こえていないフリをしているのか。返事はない・・・。
『何を言っているんだ。魔法耐性持ちだぞ、このアイアンゴーレム。俺は人型で武器もない。そしてジュリアの護衛をしないといけない。安心して良いぞ!しっかり護衛はするから、こちらのことは気にするな!』
・・・こともなかった。返事は念話だった。それも傍観宣言。
チラリと見えた様子は、完全に観戦の姿勢に入り岩の上に座り込んでいるズィーリオスと、その横に青ざめた顔で、こちらとズィーリオスの顔を交互に見ているジュリアが座っている。
振り下ろされたアイアンゴーレムの拳を避ける。・・・ぶん殴って良いだろうか。ぶん殴られる方ではなく、俺がズィーリオスをぶん殴りたい。いや、切実に。さらに精霊王も混じって、念話で談笑している。ジュリアには聞こえないだろうが、聞こえて来る念話からは楽しそうな笑い声が聞こえる。
ドゴーーン!
俺は今、潰されかねない状況なのに?
それにゴーレム相手の接近戦闘は打撃系の武器が最も効果的だ。しかし、俺の武器は剣だ。鉄を切れってことだ。”出来ない”と普通の常識を持つ者なら思うが、生憎とこれが”出来る”から尚更質が悪い。
ジュリアは俺が”出来ない”と思っているからあのように震えているのだろうが、ズィーリオスは俺が”出来る”と信じているから精霊王と共に談笑しているのだ。俺に任せて。
まあ、信じてもらっているのは嬉しいけど。でもさ?一緒に戦おうとは思わないのだろうか。・・・思わないか。ジュリアがいるし、目を離している間に別の魔物が来る可能性もあるからな。戦闘音に釣られて。
戦闘はズィーリオスに任せて、その間は寝ておこうと思っていたのに。長引くと疲れる。さっさと終わらせよう。ロックゴーレムと思っていた相手がアイアンゴーレムという上位存在であったが、”所詮”アイアンゴーレムだ。どうにでもなる。
横なぎに振るわれる巨大な掌を飛び上がって躱し、そのまま右腕伝いに一気に肩まで駆け上がる。体を回転させながら振り落とそうとするアイアンゴーレムは、勢いそのままに左フックを繰り出す。回転により振り飛ばされないよう、空中へと避けた俺を、アイアンゴーレムの拳は的確に捉えて迫る。だが体を捻り、拳をスレスレのところで回避し、両手に持った魔力を流している抜き身の剣を、目の前に伸びている鋼鉄の腕を断ち切るために振り下ろす。空中で剣を振るっているため、力の伝わりが悪いが、前回りに前転する要領で体重を乗せて、体ごと剣を振るう。
ズダーーーン!
肩のすぐ下の辺りから切り落とされたアイアンゴーレムの左腕が、地面に激突し轟音を立てる。足が地面に着いたと同時に、頭の横に剣を地面と水平になるように構え、繰り出された蹴りを半身をずらして躱しながらカウンターをいれる。蹴り出していた勢いのままのアイアンゴーレムの足が切り飛ばされ、あらぬ方向へ弧を描きながら吹っ飛んでいく。
重心が崩れ、蹴り出した先にあった支えを失ったアイアンゴーレムは、前のめりに倒れ込む。そして再び立ち上がれぬように、失った足の反対側も駆け抜けざまに切り飛ばす。
アイアンゴーレムは戦闘続行は困難になった。しかし、問題はここからだ。通常、ゴーレムは自身の体を構築している物質が近くにある場合、魔力を体内魔力を利用して、体の再構築を行う。それを止めるためには、魔力が空になるのを誘発するか、核となっている魔石の破壊であった。
切り落とし近くにあった元”腕”や元”脚”は、マジックバック内へ回収し、体の再構築のための材料とならないようにした。そのため、未だ1本の残された腕で起き上がろうとするアイアンゴーレムが目の前にいた。
今回はゴーレムの核が目的だ。その為活動の停止のために核を破壊する事は出来ない。
ならばどうすればいいのか。
アイアンゴーレムに直接手を当てて魔力を流し込む。魔法であれば耐性があるので無理だが、純粋な魔力を直接流し込む。するとどうなるか。
ゴーレムの体に流れている操作のための魔力回路を侵し、乗っ取る。そのまま魔力を”逆流”させて核の場所を見つけ出す。見つけ出した核の周囲の魔力回路を、乱雑にかき混ぜ破壊する。
核という”電池”が周辺の回路から外されたことにより、供給源であるエネルギーが消失。活動に費やされていた魔力の流れが絶たれ、その動きは停止した。
魔力制御が扱えるようになっていて良かった。
赤い光が消え、動かなくなったゴーレムを見て浮かんだ最初の感情だった。
「お疲れー」
「おい!大丈夫か!」
ニコニコの笑顔でゆっくりと近づいて来るズィーリオスと、安堵の表情を浮かべたジュリアが走って来る。精霊王はズィーリオスと一緒であり、こちらは当然の結果だと言わんばかりに、普段通りのにこやかな表情であった。
ジュリアに大いに心配されたが、どこにも怪我がないことを確かめてやっとジュリアは落ち着いた。核を取り出す時に、ズィーリオスの地属性魔法でどうにかならないかと聞いたが、鉄は土ではないため無理だと断られた。同じ鉱物であるのに。鉱物の大きさの問題か、はたまた密度の問題か。答えは出ないが、無理なものは無理だという答えは変わらない。
何とか切り分けて核を取り出し、ゴーレムの核の採取を達成した。目的のロックゴーレムの核ではないが、上位存在のものであれば許されるはずだ。
残されたアイアンゴーレムは全て鉄の素材となるので、マジックバックに入れて持ち帰ろうと思ったが、これほどの巨体を全て収納するほどの余裕はなかった。泣く泣く、入らなかった分は置いて行くこととなった。
祠の様子を見ると、中には精霊王が言っていた通り核らしき魔石は無かった。しかし、何かよく分からない不可思議な形をした物体が入っていた。何かは分からないが、目的の物は手に入ったのだから触る必要はない。静かに扉を閉めて、ジュリアの案内のもと町に向かって祠を後にした。
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