はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

文字の大きさ
上 下
112 / 340

しおりを挟む
「昨日の約束は覚えているよね?」

「だから!覚えているってば!」





 校外学習に出かける時の引率の教師のように、何度目かになる確認を行うズィーリオスを、ウザったそうにしながらも律儀に答える少女ことジュリア。



 名前は可愛らしいのに、それ以外は全く噛み合っていない。特に口調が。





 ジュリアがいるため、移動は徒歩だ。朝っぱなから元気な2人の後ろ姿を見ながら、大きな欠伸を噛み殺すことなく付いて行く。



 昨夜は結局、どちらが寝袋を使うか決まらず、2人して寝袋を使わないで地面に直接寝た。体のあちらこちらが痛く、眠りは浅かったので疲れが取れていない。それなのに朝早くから動き出したことで、寝不足であるのは仕方のないことであった。ボーっとしながらも2人の背中を付いて歩く。精霊王がそばにいるため、違う方向に向かってしまうことはない。





『それにしてもあの2人ぃ、仲が良いわねぇ』

『んー』





 歩きの為進みが遅いからだろう、暇なのか精霊王が俺の周囲をぐるぐる飛び回りながら話しかけてくる。俺が起きた時には既に2人とも起きており、仲良く会話をしていたのを思い出す。なんだかのけ者にされた気がする。・・・別に気にしてないし。精霊王がいるし。



 そうだ、そろそろ精霊王との契約を考えないと。材料は手に入っているのだから。





「そういえばジュリアは剣が使えるんだよな?持って来ていないようだが、何故持ってこなかったんだ?」





 前方を歩く2人の会話が聞こえてくる。





「それは・・・。持って来たけど、折れて使えなくなったんだよ。だから捨てた」





 不貞腐れたようにジュリアはズィーリオスに告げる。





「そもそも剣なんかでここの魔物を切り捨てる奴がおかしいんだよ。岩を剣で真っ二つなんかに出来るかってんだよ。ふつー刃こぼれすっからやらんだろ。そんなこと出来るのはじーさんしか見たことないっての」





 前から感じた視線に、焦点の合っていなかった視線を合わせようと動かすも、その間に感じていた視線は逸れた。なんだ?





「あの寝坊助の剣どーなってんだ?」

「あれはミスリル合金の剣だよ」

「はあ!?ミスリルだぁ!?」

「合金ね、合金」

「合金だとしてもミスリルが入ってるんだろ!?アイツは何者なんだよ!?」





 やっぱり朝から元気だな。うるさい。ふぁあー。・・・眠い。



 その後も途切れない会話を聞き流しながら歩いていると、次第に頭が少しは動き出してくるようになってきた。魔物が現れることもないため暇だ。





「それで、ジュリアはどうしてロックゴーレムの核が欲しいんだ?弟の為って言ったって、結局のところは魔石だよ?他の魔物ではなくロックゴーレムでなければならない理由はなんだい?」

「分かった。あんた達は恩人だから教えてやる。俺の住んでいる町は、主に漁で生計を立てているところなんだ」

「漁?もしかして海の国ベッツェ?」

「そうだが?ああ、そういえばあんた等はロザロ山脈を移動して来たって言ってたな。てことは他国の奴か」

「そうだよ。もうこの辺りはベッツェの近くなのか」

「ああ。俺のとこの町はベッツェの中でも最北端に位置するんだ。是非来てくれ!良い所だぞ。たくさん美味い物があるし、人もいい奴等ばっかりだしな!」





 ほう!海鮮ものか!地元ならきっと生で食べる風習があるだろう。是非とも食べに行かないと!



 俺の頭の中が海鮮もので溢れ、ジュリアの話が町の自慢話に逸れていると、ズィーリオスの軌道修正の一言でそれぞれの意識が戻って来る。





「んんっ!そ、それでだな。弟が・・・病気になってしまったんだ・・・。それに町の人たちも同じ病気の人たちがいる。だけど他の人たちは動こうとはしなくて。俺の家は父さんも母さんもいなくて、じーさんと弟の3人だけだ。だから俺が弟を助けてやらないといけない!じーさんは忙しいから動けない。だから俺が動こうって・・・」

「そうだったのか」

「その病気の治療には、特別な薬草が必要なんだ。」

「薬草が必要なのにロックゴーレムの核を手に入れる?商人と取引でもしたのか?」

「いや、商人じゃない。相手は人魚だ」

「人魚か」





 え?人魚?人魚ってあの人魚だよな?上半身が人間で、下半身が魚のあの?





「そうか、ベッツェは人と人魚が共存している国だったな」

「そうなんだ。そして、弟たちの病気に効く薬草は海の中にある。だから人魚達から手に入れないといけないんだが・・・」

「だから物々交換ってことか?共存してお互いに助け合っているのだから、お願いしたら分けてくれるんじゃないのか?」

「それが今は出来ない状態なんだ。最近、人魚達との関係がギクシャクしていて、今まで人魚達から得られていた物が一切入って来なくなっているんだ。だからって諦められるわけなくて、仲の良い人魚の人に何度もお願いしたら、条件としてロックゴーレムの核をって言われて」

「なるほど。人魚達はロックゴーレムの核が欲しくとも自分たちでは取りに来れないから、交換条件として要求して来たってわけだね」







 そういう事情があったのか。海の中で育つ薬草を手に入れるために、山に来ることになるとは。そういえば、ジュリアの爺さんは腕っぷしが強いと言ってたよな。町の人達や自分の孫のために、その爺さんがロザロ山脈に来るということにはならなかったのか?でも、忙しいって言ってたか。孫の命よりも仕事が優先だと?孫は大切じゃないってか?





「あ!着いたぞ!ここだ!」





 憤りを感じていると、ジュリアの声で目的地に着いたことが分かり、目の前のことに集中するため息を吸って、気持ちを切り替え落ち着ける。



 そこには小さな祠があった。

 大小さまざまな大きさの岩や石で囲われ、その内部にひっそりと存在した。





「多分、この祠の中にあると思うんだ。昔じーさんが祠の中にゴーレムの核がなんたらって言っていたんだ」

「祠の物を取って良いのか?」





 祠の前に立ち止まったズィーリオスの側に行き、ジュリアに疑問に思ったことを聞いてみる。祠ということは、何かしらの神を祀ったもののはずだ。話しぶりから、ジュリア達のところで祀っているものなのではないだろうか。





「ダメだろうな」

「おい!」

「けど、弟や町の人たちの命が掛かっているんだ。仕方ないだろ。でも大丈夫だ!バレなければいい!あんた等が黙っててくれればバレやしない!」





 親指を立てて握った手をこちらに向けて、いたずらっ子の笑顔で俺たちを共犯者に仕立て上げようとするジュリア。

 これ以上罪を重ねた犯罪者にはなりたくないんだが。今のところの罪諸々は全部冤罪だけど。





 ジュリアが祠の中に頭を突っ込む。御神体が入っているのだろう扉を開けた。その時、丁度同じタイミングで精霊王が話しかけて来た。





『ねぇ、リュゼェ。あの祠魔法が、』





その瞬間。







 ゴゴゴゴゴゴーー。







 地面が大きく揺れ、とっさに祠から後方に飛び退き距離を取る。ジュリアはズィーリオスに回収され、同じく飛び退いていた。





「そー言えば、じーさんが祠の扉を開けたら危険だから、開けてはいけないって言ってたような?」





 ズィーリオスの腕の中に納まったままジュリアがぽつりと呟く。その顔はかなり青ざめていた。





「そういう重要情報はもっと早く言えよっ!!」





 愚痴ってしまうのもしょうがないよな!未だに揺れる地面にバランスを崩さないように立ちながら、祠の前の地面が盛り上がっていくのを見つめる。

 元日本人として地震は平気だが、足場の悪い岩だらけの斜面は動きにくい。





 足元の地面に注意を払いながら、祠前の地面の盛り上がりを警戒する。

 盛り上がりは次第に、二足歩行の人型の形を模かたどっていく。







 歪な人形。岩ではなく金属特有の金属光沢を持つ、巨大な人形。アイアンゴーレム。







 7~8メートルに及ぶ大きさのアイアンゴーレムが、手を出した泥棒から守る守護者のように、祠の前に立ちふさがった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...