はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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少年の様な少女

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「それで、あんた達こそどうしてこんな所にいるんだ。ここは立ち入り禁止だろ?」





 少女がズィーリオスに向かって話しかけた。



 立ち入り禁止とはどういうことだ?以前は立ち入り禁止と言わずとも、危険地帯であるためそもそも禁止にしなくとも誰も入り込まなかった。ロザロ山脈がこの半年の間に立ち入り禁止になったのか?それとも、この少女が住んでいる所が独自に立ち入り禁止にしているのだろうか?





「俺たちは旅人だよ。ここに居るのは旅の途中なんだ。立ち入り禁止ということは知らなかったけど、それを言うなら、君は立ち入り禁止だと分かっていてここに来たということだよね?大人たちの反対を振り切って、十分な戦闘力もないのに。弟の為って言ってたけど、弟の為に何を探しに来たのかな?」





 にこやかな笑顔で、静かに穏和な話し方をしているのに、何故だろう、頬が引き攣るのは。少女の後ろ姿しか見えないが、今どんな表情になってしまっているのだろう。でも、ズィーリオスと話すと決めたのは彼女自身だからな!俺は知らん!





『えぇー。それは女の子相手に酷いんじゃないかしらぁ?』

『んな!びっくりしたー』





 いきなり聞こえてきた精霊王の声に驚くが、幸いと少女には後方での出来事だったお陰でバレていないようだ。ズィーリオスは聞こえているはずだが、気にした様子はない。





『いきなりなんだよ』

『だって貴方今、あの女の子見捨てたわよねぇ?』

『見捨てたとは人聞きの悪い』

『大丈夫よぉ。彼女には聞こえていないしぃ?それに事実じゃなぁい。顔見ていれば分かるわよぉ』





 心まで読めるのかと思ったが、どうやら顔に出てしまっていたらしい。表情筋を引き締めておかないと。





「い、言ったら協力してくれるのか!?周りの大人たちが無理だと言っていたんだ。あんた達は腕が立つようだけど、言ったとしてもどうせ無理だと言うんだろ!?」

「それは聞いてみないことには判断出来ないねー。もしかしたら、俺たちなら解決出来ることかもしれないけど、君がそこまで言いたくないって言うなら、仕方ないけど明日は君の住んでいる所まで送り届けないといけないね。流石の俺たちも、こんな危険なところに君一人を置いていくわけにはいかないからね?」

「な!無理やり連れ戻そうって言うのか!」

「そうだよ。分かっているのかな?今君が俺たちの側を離れたら遭難して餓死するか、魔物に襲われて死ぬかのどちらかになるよ。今日、自分がどんな目にあったかは覚えているよね?」

「くっそーー!」





 なんでこんなに言葉巧みに誘導出来るんだ?



 この少女が選べるのは2択に見える。死ぬという選択は選ばないはずだから、少女はこのまま明日、少女が住んでいる場所に連れ戻されるか、ここに来た目的を俺たちに教えて一緒に行動することだ。このどちらを選ぼうとも、俺たちは最終的に、少女の住んでいる場所に案内してもらえるだろう。



 だが、ここまで1人出来た行動力からは考えるに、このまま何の収穫もなく、怒られるだろう未来が確定している中、大人しく俺たちに連れられて帰るなどという選択はしないはず。つまり実際のところは1択しかないのだ。



 俺たちに”探し物”が何なのかを教える選択肢しか。





 可哀相に。俺には何も出来ないな。俺も何を探しているのか知りたいから、ズィーリオスに同意だし。強く生きるんだ、少女よ。





「分かったよ!教えればいいんだろ!教えるから協力しろよ!」

「内容次第だけどね」





 おお。少女はまんまとズィーリオスの罠に引っ掛かったわけだ。それに、協力すると確約しない辺りが黒い。何だかレオの奴に似てきたな。でも、中身も分からずに何でもかんでも頷く奴よりは心底信用出来る。流石ズィーリオスといったところか。





「ロックゴーレムの核を探しに来たんだ。ロザロ山脈にはロックゴーレムがいるって聞いた」





 ムスッとした、明らかに不機嫌ですっていう顔で呟く。



 それにしてもロックゴーレムの核か。今までロックゴーレムを見かけたこともないぞ?もしいたとしても、それって・・・。





「核ということは戦闘で勝って手に入れなければいけない物だが、勝てると思っていたのか?」





 そう、俺もそれが気になった。チビロックリザード1匹ですら倒せないのに?





「だ、だってそれは・・・!俺は街で一番強いんだぞ!剣の腕だって他の同世代より強いし、水属性の攻撃魔法だって使える!大人たちだって、俺なら立派な剣士になれるって。爺さん見たいになれるって・・・」





 段々と勢いを無くしていく少女。

 自分の置かれている環境より広い視野を持つことが出来ず、また周りの反応から自信過剰になってしまったのか。同世代の子どもの中でも実力があるが故に。特に少女であるからこそ、他の少年たちより剣の腕が立つということは、その思い込みに拍車をかける要因になったに違いない。そのせいで、自分1人でもどうにかなると思い、こんな所まで来てしまったのか。

 ロザロ山脈の魔物に水属性の魔法は効果的なことも合わさって。



 井の中の蛙大海を知らず、か。



 俺も気を付けた方が良いのかもしれないけど、聖域の管理者たる聖獣のズィーリオスと、王位精霊である精霊王がいると大抵の危険はないからな。常に一緒だし。まあ、1人の時は気を付けよう。





「君の同世代の子ども達がどれほどの強さかは知らないが、あまり自分の実力を過信し過ぎてはいけない。それは今回のことで理解出来たんじゃないかな?どうだい?」

「・・・うん。理解したよ・・・。俺は自分の実力をきちんと把握出来ていなかったって。世の中には俺よりももっとすごい奴等がいるってことも」





 少女はズィーリオスに視線を向けた後、少し振り返って俺を見る。そしてまたズィーリオスの方を向いて俯いた。



 俺はともかく、ズィーリオスと比べたらダメだと思うぞ。規格外の存在なんだから。張り合おうったって無駄だ。まあ、そんなこと少女に分かるはずもないか。







 ふあぁ。ちょっと眠たくなってきた。今日はどうやって寝よう。ズィーリオスは人化したままじゃないといけない。でも寝袋は2人分しかないんだよなー。





「ロックゴーレムは何処にいるか分かっているのか?そして勝手な行動をしないで、俺たちの指示に従うと約束するかい?」

「え!?それって・・・!?」

「どうなんだ?」

「勿論だ!あんた達のいうことを聞く!場所については心当たりがあるんだ!そこには俺が案内する!だから頼む!協力してくれ!」





 やっぱりここは、一番年長者である俺が譲ってやるべきだよな。少女は女の子だから、優先的に寝袋を使わせてあげるのは当たり前だし。ズィーリオスは弟なのもあるが、人化中の防御力は人のそれと同じぐらいまで下がっているらしいからな。





「終わったら君の家まで送る。いいな?」

「ああ!本当にありがとう!よろしく頼む!」





 問題は俺がもふもふのない中、かったい地面の上で気持ちよく眠れるかというところか。うーん。眠れはしても眠りが浅くなりそうだな。疲れもあまり取れないだろう。寝袋があってもやっぱり大して変わりはない。





「自己紹介がまだだったな!俺は、ジュリアだ。よろしくな!」

「こちらこそよろしく。俺はズィーリオスという。そして向こうにいるのが・・・」





 まあ、仕方ないか。この世界に、持ち運び型のマットレスでもあればいいんだけどな。聞いたことないから存在しないだろう。もしあったとしても、ズィーリオスのもふもふには勝てん!





「・・・こちらの話を聞いていない、あの無意識に剣を磨いているのがリュゼだ」

「ズィーリオスとリュゼ、だな!良し、覚えたぞ!」

「リュゼ」

「痛った!」





 いつの間にか近くまで来ていたズィーリオスが俺の頭を叩く。手元では、これまたいつの間にか剣の手入れをしていた。





「んだよー」

「話、途中から聞いてなかっただろ。この子はジュリアという。明日は彼女の探し物に付き合うことにしたけどいいよな?」

「ああ。そうなると思ってたから別にいい。それよりもだ。今日の寝床に関して何だが、寝袋は2つしかないからお前たちで使えよ」





 ピカピカに磨かれている剣を鞘の中に収納し、マジックバッグの中から寝袋を2つ取り出してズィーリオスに手渡す。が、ズィーリオスが受け取ったのは1つだけだった。





「もう1つあるだろ」

「それはリュゼが使いなよ」

「いや、俺が一番年長者なんだから良いんだよ。ズィーが使えって」





 寝袋の押しつけ合いを始めた俺たちを見たジュリアが笑い出す。





「2人とも仲が良いんだな」

「まあ、俺たちは兄弟であり相棒だからな」

「へー。でもズィーリオスが兄貴だろ?リュゼが弟なのに一番年長者な訳が無いだろ?」





 俺の言葉に一瞬だけ何かに耐えるような表情を浮かべた後、何事もなかったかのように、とぼけた顔をして質問してくる。その顔が少し気になったが、俺には関係のないことなのだからと頭の中から追い出す。そしてそこから自分の意識を逸らすために、言葉に熱量を込めて全力で、俺がズィーリオスの弟説を否定した。
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