はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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プレゼントは?

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 この日もいつものようにズィーリオスによって起こされる。

 未だ開き切らない瞼をそのままに、周囲に魔力を広げながら周りの様子を確認する。これもこの半年の間で身に付いたものだ。



 重い瞼を開けずとも、魔力を自分の手足のように動かすことで状況の把握が出来る。つまり、半覚醒状態でも行動が出来るため、完全に意識を手放しさえしなければズィーリオスに怒られないというわけだ!





『おい。リュゼ。起きろよ』

『何言ってるんだ。起きているだろ』

『はあ?目を瞑っているじゃないか』

『動いて会話が成立しているんだから、起きてるに決まっているじゃないか』





 ズィーリオスの念話に同じく念話で返す。口を開き、声を出すのさえめんどくさい。疲れる。眠たい。



 起き上がる気力も湧かないが、これ以上じっとしていると本当に二度寝してしまいそうだ。のそりと起き上がり、ズィーリオスに圧し掛かりながら抱き着く。



 さあ、ズィーリオス。俺の代わりに動くのだ。そして俺はそのまま眠・・・ん?





『なあ、ズィー』

『なんだ?』

『なんでどこにも師匠がいないんだ?』





 魔力を広げても、ズィーリオスと精霊王、そして俺以外は他の魔力を感じなかった。俺たちは今、聖域のある魔晶石の空間にいる。しかし、魔力を魔晶石の空間の隅々まで広げても、ヴァルードと思わしき魔力反応がどこにもなかった。



 つまり、ヴァルードは今ここにはいないわけで、別の場所に行っているということだ。鍾乳洞の空間に行っているのだろうか。





『あー、そのことな。それについて話があるから、とりあえず起きろ』





 ズィーリオスが体を揺らし、俺を起こそうと揺さぶる。しかし、逆に眠気、に、誘わ、れ。





『起きろってば!』

「はっ!」





 頭に直接響く声が、音の暴力として直接脳に殴りかかる。

 あまりの衝撃に刮目し、余韻として残る脳へのダメージがキィーーンと響いている為、跳ね起こした上体がバランスを失って揺らぐ。そのままズィーリオスから転げ落ち、ゴロゴロと転がって止まる。

 ズィーリオスが立ち上がっていなかったお陰で怪我もない。



 だが。



 うっ。今度は目が回る。右手で頭を抑えながら、三半規管が通常運転に戻るのを待つ。





 やっとフラつかずに立ち上がれた頃には、完全に目が覚めていた。







 なんという新たな起こし方。

 朝からダメージがデカい。もっと優しく起こしてほしいものだ。相棒だから怒りはしないが・・・全く。









「それで?師匠はどこ行ったんだ?」





 朝ごはん代わりのスープを飲みながら、誰にともなく尋ねる。スープは、数日前にズィーリオスによって乱獲された巨岩亀ジャイアントロックタートルの出汁だ。正直、美味い。これにパンでもあれば尚、良し。





『プレゼントの準備よぉ。直接来てほしいってことだから食事を終えたら行きましょう。案内するわぁ』

「案内?」

『そうよぉ。最初のところとぉ、ここ以外にも空間はあるのよぉ。それでぇ、どぉーしてもそこに連れて来てほしいってぇ頼まれたのぉ』

「ふーん。分かった。案内よろしく」

『任せてぇ』





 なるほど。プレゼントの準備だったのか。だからここにはいないんだな。一体、何をくれるのだろう。俺の知らない空間があったのなら、そこに何かあったのかもしれない。時間が掛かる代物なら、手作りのものだったりするのだろうか。







 プレゼントを受け取ってしまったら、もうここに滞在する理由はない。







 頭を振って、浮かんだ現実を思考から振り払う。ただ、目の前のイベントにだけ目を向ければいい。そうだ。今は今後のことなど考えるな。

 ・・・・・プレゼントは何かな!楽しみだ!





 自分自身を洗脳するようにそれだけを繰り返し考えながら、味がよく分からなくなり冷めたスープを飲み干していく。



 プレゼントは何かな?と会話をしていると、ズィーリオスの顔に違和感を覚える。何だか無理して笑っているような、声もわざとらしい明るさを含んでいた。精霊王には違和感はない。



 きっとズィーリオスもなんだかんだで、ヴァルードとの別れを惜しんでいるのだろう。でもズィーリオスはまた会えるのに。もしかして、俺に気を遣ってくれているのだろうか。だとしたら、俺も気付かなかったことにしよう。







 残っていたスープを飲み干し、タプンタプンになった胃の中を落ち着かせるために暫く休み、そして立ち上がる。





「さて、そろそろ行こっか」





 俺の声を合図として、ズィーリオスに引かれながら地底湖の中を潜り進んで行った。











































『そろそろ着くわよぉ』





 精霊王の声が頭に響くと同時に、水の中に光が差す。光がある方へと浮上していくと、水面から一気に顔を出す。





 そこは魔素の比較的少ない空間だった。

 ヒカリゴケは何処にもない。けれど、空間の一部に差し込むように入る光があった。





 外の、太陽の光であった。





 頭上には穴があり、そこから日が差し込んでいた。



 スポットライトのように差し込む光の先には、ヴァルードがいた。陸地で丸まり、日向ぼっこをしているように、微睡んでいるようだ。



 地底湖の中から這い上がり、陸へとあがる。ヴァルードの側まで近づくが、夢現の状態なのか、俺たちが来たことに気付いていないようだった。







『まだ寝ちゃダメよぉ!起きなさい。自分の言葉で伝えたいってぇ言ってたのは貴方でしょうぉ』





 精霊王の言葉に、ゆっくりと大きな瞼が持ち上がる。起きたようだ。





『・・・・・おお。・・・来たか。間に合ったようで、良かった』





 ん?間に合う?プレゼントの完成がってことではなさそうだし、もしかしてこの場所に呼んだのだから、今から何か面白い出来事が起きるとか!?それがプレゼントかな?













『・・・・・わしが渡したい物は、・・・・わしじゃよ』

「・・・・・は?」





 え?何?プレゼントがヴァルード?え??

 脳内にリボンでラッピングされたヴァルードが浮かび上がる。リボンの色はピンクだ。黒い鱗を持つヴァルードに映える彩色。



 頭を思いっきり振って、想像した光景をかき消す。いやいやいや。それはない!それはないって!





 いや、本当に待って!待て待て待てぇい!

 俺にそういう趣味は無い!!無いったら無い!誰がなんと言おうと無い!





 流石にドラゴン相手は・・・。しかもおじいちゃん。さらに言えば師匠。そして消滅の邪龍!せめて人型で若くて可愛ければ・・・・そう可愛ければ、イケる????いやいや俺は何を考えているんだ!危ない!危ないぞ!可愛ければ良いって問題じゃない!確かに可愛い子は好きだけれども!性別!俺は男!相手も男!元女だとしても男!恋愛対象がどうなるかは分からないけど、今のところはどちらでもないです!はい!その辺は考えを放棄していたので、これからも放棄していく所存です!はい!





 はあー、はあー、はあー。落ち着くんだ俺。思考がおかしなことになっているから!そういう意味とは限らないだろ!?そう、えーと、んーと、あ!サプライズで、実は一緒に付いて行くよっていう意味なのかも知れない!そうだ!きっとそうに違いない!



 ヴァルード自身をプレゼントするから、旅に同行するっていうことだ!良かった。お別れはしないんだな!はあー、ひと安心。







『凄い百面相ねぇ』

『・・・これ、絶対何か勘違いしていると思うぞ』

『そうかもしれないわねぇ。クスクスクス』

『リュゼ』





 ズィーリオスの声に意識が戻って来る。精霊王が笑っているが、笑っている場合じゃないだろ。旅の一行にヴァルードも加わるんだぞ!絶対に目立つ!対策を考えないと!





『ーと言う意味なんだよ。って聞いてる?おーい?』

『精霊王!笑っている場合じゃないだろ!一緒に旅をするなら色々と対策を考えないと!緊急会議だ!』

『アハハ!』

『・・・やっぱり聞いてなかったんだね。リュ~ゼ~?』

「何だよズィー。話し合いが必要だろ?」





 やたらと低いズィーリオスの声に意識を向けると、半目でこちらを見つめていた。何故に?





『良く聞くんだよ。良い?』

「分かった」





 俺の意識がきちんと向いていることを確認したズィーリオスが、ヴァルードにバトンタッチする。





『・・・・わしは、多分・・・今日で死ぬ。・・・・故に、・・・わし亡き後、この身を素材として・・・・持って行くが良い。我最愛の弟子よ』

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