はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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ヴァルードと今後

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「ふっふふーん!しっしょー!戻ったぜっっっと」





 鍾乳洞の洞窟が見えて直ぐ、並走していたズィーリオスの側をスピードを上げて駆け抜け、ヴァルードに戻って来た報告をしながら、穴から飛び降りる。



 体はこちらに向いていたが、顔は体に乗せて丸くなって横たわっていた。どうやら寝ていたようだ。ゆっくりと目を開けてこちらを見る。





『・・・その声は、戻って来たか』





 飛び降り、片足で着地するが、着地と同時に降りかかる地面へ向けたベクトルを、強引に進行方向、前へと向ける。流れるようにヴァルードの前へと到着し、脚を止める。





「そ!戻って来た!そしてちゃんと合格したぜ!」





 ピースサインを作り、ヴァルードの目の前に腕を突き出す。顔に笑顔を浮かべたままで。





『・・・それはそうじゃろう。・・良かったわい。流石じゃよ』





 温顔に微笑むヴァルードの欣然とした様子に、ほっと息を吐く。ここ最近強く感じていた漠然とした感情を胸中に抱えたまま、その胸の内を悟らせないように表情に気を付ける。







 笑顔を保てているだろうか。





「師匠の弟子なんだから当然の結果だろ?」

『・・・・・何を言ってるんじゃ。頑張った成果であろう』

「そうか?」

『・・・そうじゃよ』





 頬が引き攣ってはいないだろうか。











 ヴァルードの願いで暫く滞在していたが、その”暫く”は俺が”魔力制御を身に付けるまで”の間である。そうだとすると。





 俺が魔力制御が出来るようになったということは。





 つまり。





「もう、お別れ、か」





 その時期が来たということ。





 分かっていた。俺たちは旅の途中であり、ここにずっと留まり続けることは出来ないことぐらい。





 それに、指名手配されて半年も経っている。今街に降りたとしても最後に寄った街の様な、警戒態勢は敷かれていないはずだ。





 だけど。





『・・・そうじゃな』





 寂しい。





 寂しいものは寂しい。





「なあ、師匠。本当に一緒に、外に出るつもりはないのか」





 一緒に外に出て旅をしよう?ずっとここに籠っていないでさ?





『・・・ない、のぉ』





 気は変わらないのか。





「・・・そうか」





 存在すら疑わしい消滅の邪龍が、今の世の中に突如現れると混乱を招くことぐらい分かっている。





 でも、それでも。





「一緒に旅がしたかったんだ。だって今更別れるなんて」





 時が経ち、ヴァルードが見ていた世界がどのように発展したのか、あの広い大空を自由に翼を広げて、飛んで、見てほしかった。





 だってもう、次のチャンスは早くても500年後。再びズィーリオスが、結界の張り替えに戻って来る時。





 その時にはもう、俺はいないのだから。飛んでいる姿を見たかった。





 でも、それは俺の我儘で。





『ふぉっふぉっふぉ。・・・・・嬉しいことを、言ってくれるのぉ』





 寂しいと感じているのは、ヴァルードもだろ?だから、ここ最近、返答が遅いんだろ?





 そう感じるのは、俺の間違いではないよな?





「そりゃあ、なんだかんだと長期間ここに滞在して、色々と師匠に教わったしな」





 ヴァルードにとっても、短期間で濃い時間だったんじゃないか?俺はそうだ。





『・・・・そうじゃのぉ。楽しい時間じゃった』





 楽しい時間だと感じていたのは、お互いさまだ。





『・・のぉ。・・・直ぐに旅立つか?』

「いや、今日はまだここに居るつもりだぞ」





 いきなりどうしたのだろう?流石に「はい、それじゃあ」とは立ち去らないぞ。そこまで俺たちは、浅い付き合いではないだろう?





『・・・・・・ならば、せめて。・・・後1週間ほど、いや半分の4,5日でよい。・・・居ってくれぬか?』





 それぐらいの日数ならば全く問題ない。別に半分の日数でなくとも、1週間でも良い。大して変わらない。



 ズィーリオスに視線を向けると、好きにしていいと念話が届く。





「それぐらいお安い御用だ。半分なんて言わずに、1週間でも2週間でも良いぞ!」





 流石に1か月は長すぎだからな。2週間、18日ぐらいならセーフだろう。





 ・・・セーフかな?きっとセーフだ!





『ふぉっふぉ!・・・・そこまでは要らぬよ』





 別に遠慮する必要はないのに。





「遠慮はいらんぞ」

『・・・・・遠慮はしておらんよ。・・渡したい物があっての』

「渡したい物?」





 なんだそれは?ヴァルードって何か持っていたっけ?





『・・そうじゃ。・・・今日の合格祝いじゃよ。師匠は、弟子が十分に独り立ち出来ると判断した時に、その門出に・・・贈り物を送るものなんじゃろ?』





 なるほど。そういうことか。





「確かにそういう文化はあるけど・・・。師匠が俺に何かくれるということなのか?」

『・・・・・そういうことじゃ。・・・じゃが、準備に時間が掛かるでのぉ。・・目安として、それぐらいは必要なのじゃよ』

「分かった。何かは分からないけど、楽しみに待ってるな!」





 別れは辛い。けれど、悲しい思い出だけではないから。





 笑顔で。





『・・・是非とも、期待してくれて良いぞ。・・この世で唯一無二の、わししか渡せない物を準備するでのぉ』





 楽しそうにヴァルードは伝える。本当に幸せそうな顔で。

























 その後、ズィーリオスがお祝いだと言って獲物を取って来たのだが、それが巨岩亀ジャイアントロックタートルだった。この辺りで獲れる獲物の中で、最も美味しいものがこいつらしい。



 それはそれはもう、ズィーリオスは張り切っていた。ズィーリオスが食べたいから捕まえて来たんじゃないか、と疑うほどに張り切っていた。張り切り過ぎて、獲って来た量が量であった。



 巨岩亀ジャイアントロックタートルは、確かにこのロザロ山脈での強者であるが、数はそこまで多くない。だからこそ、見つけることも大変なぐらいであり、以前のように偶然見つけるなんてこともほとんどない。なのにそんな巨岩亀ジャイアントロックタートルを、乱獲と言ってもいい程獲って来たのだ。



 自然に返しなさい。は出来ない状態で。

 ならもう、食べるしかないだろう。





 慣れた手つきでズィーリオスが人化して解体していく。既に塩胡椒は底を尽きているので、調味料は無い、と言いたいが、実は調味料代わりになる物は見つけていた。



 ロザロ山脈ではないが、ある日訓練中に、ズィーリオスがロザロ山脈を突き抜けて見つけた森に、ハーブなどの調味料を複数見つけていたのだ。



 亀肉、スッポンの様な物だが、きっと使えるはずだ。



 スープや鍋を中心として、巨岩亀ジャイアントロックタートルの肉をふんだんに使用した料理が、続々と完成していく。



 本日俺は主役の為、一緒に調理はしていない。ズィーリオスは、一体どこから料理の仕方を学んできたのだろう。先代のアーデからだとしても流石に有り得ない。





 意外と、とぅるんとぅるんの肉が入ったスープや他の料理に舌鼓を打ちながら、堪能していく。皆であれこれとおしゃべりをし、騒ぎながら楽しみ、夜は更けていった。

















 それから数日間は、ただのんびりとした時間を皆で過ごした。ヴァルードも一緒にいて、いつ準備しているのかと思ったが、どうやら時間をかける必要があるものらしい。その為、ヴァルードは準備で会う時間があまりないと思っていたが、そういうことが無いようで常に一緒にいた。



 しかし、俺が寝ている間にプレゼントの準備をしているのか、起きている間はいつも眠たげで、会話はほとんどせず、聞いているだけが多かった。会話の返答も、時間差が生じて返って来るが、段々とその時間差が長くなっている様だった。





 そしてついに、来るべき日を迎えた。

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