はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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王宮3

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 裏の仕事を担当する影が出て行ったのを見送ったレオナードとシゼルスは、途中だった報告を再開する。







「陛下はお変わりなく。第二王子殿下は、最近少々お疲れ気味のようです」

「そうか。・・・これは、・・・チャンスか?」







 レオナードが顔をシゼルスに向けて尋ねると、シゼルスが頷く。そして口を開く。







「自然と情報を手に入れられますね。それに、レオが第二王子殿下のお仕事を手伝うことで、一部の相手の目を逸らすことが出来るでしょう。残りの方に関しては、・・・レオの頑張り次第ですね」

「頑張り次第って具体的には?」

「・・・・・」

「おい!」





 ニッコリとした笑顔を張り付けたシゼルスがレオナードに顔を向けている。レオナードの問いかけに答える気はないようで、笑顔のままスルーしていた。





「お前は俺の参謀だろ?」

「僕は貴方の専属護衛ですので」

「専属護衛兼参謀」

「ただの専属護衛です」

「・・・右腕?」

「なんで疑問形なんですか」





 どうしても自分で考えたくないレオナードと、教える気はないシゼルスの無駄な攻防は、シゼルスの呆れ顔によって収束した。





「えー。教えてくれよ。俺の頭脳だろ?」

「は?嫌です。ご自分の頭をお使い下さい」

「冷たいなー」





 収束・・・、しなかったようだ。友人同士の気軽な雰囲気に変わった話し合いは、段々脱線していく。





「質問は、自分の頭で考え抜いて、それでも分からないことがあった時にしてください。何でもかんでも直ぐに他人の脳を使おうとする人は、脳の老化が早くなりますよ。あと僕は忙しいんです。人の時間を奪わないでください」

「いつもは自分で考えているだろ。たまにはいいじゃないか、俺たちの仲なんだし。それと、忙しいってどこがだ」

「常にご自分の頭で考えて下さい。成長しませんよ。専属護衛なので忙しいのはお分かりのはずです」

「はあ!?俺はお前よりも背は高いぞ!成長している!それに専属護衛って言っても、常に暇そうに立っているだけじゃないか!片手間に書類作業ぐらい出来るだろ!」

「馬鹿ですか。身長の話はしていませんし、身長差だってそんなに変わらないじゃないですか。マルチタスクは効率が悪いです」

「まるちたすく?」







 うるさいな、とばかりに顔を顰めてそっぽを向くシゼルス。レオナードは、未だに執務机の上に置かれた書類の山を見ながら、呼吸を整えて自身を落ち着かせる。そして息を吸って口を開く。







「お前なら専属護衛の片手間に、俺の右腕としての仕事も出来るだろ。現に、ちょいちょい手を貸してくれるじゃないか」

「・・・・・」





 シゼルスは思わずレオナードに振り向き、そのまま書類の山に視線を向ける。

 レオナードの言葉は事実であった。専属護衛として側にいるが、仮契約の現状では友人として、また、右腕としての側面が強かった。レオナードが忙しそうな時は、アドバイスをしたり少し手伝ったり、色々と手回しをしておいたりと動いていた。それをレオナード本人に気付かれないようにしていたつもりだったが、どうやら気付かれていたようで気恥ずかしくなる。



 そしてシゼルスは、自分が肉体系の仕事の護衛よりも、頭を使う頭脳系の仕事の方が自身の性分に合っていると知っていた。けれど、今シゼルスがレオナードの側で王宮で暮らせているのは、専属護衛として王に許可を得ているからだ。しかし、最近の誘拐事件でレオナード共々攫われたことで、専属護衛としての自身の地位が危ぶまれていたのだ。



 レオナードに手を貸したい気持ちは山々だ。しかし、シゼルスは自分が一般的な騎士よりは強いことは分かっているが、専属護衛としての強さは足りていないことは十分すぎるほど自覚していた。圧倒的な剣の才能を持っている兄ですら、専属護衛を続けることは出来なかった。剣の腕も魔力もそこそこな自分が、専属護衛として主たるレオナードを守るには常に集中していないといけないと思っていた。



 だからこそ自身が嬉々として動くことで、レオナードに手を貸せなくなったり、さらに窮地に追い込んでしまうのではないかという危惧があった。







「ま、無理にとは言わん。でも、お前なら、どちらも”上手くこなせる”だろ?」





 レオナードの言葉に含まれた意味を理解したシゼルスは、目を見開き、彼の兄に見せるような、花の蕾が綻ぶような柔らかな笑顔を浮かべた。



































 「さて、話を戻そうか」





 可愛い弟を見る目でシゼルスを見ていたレオナードは、表情を引き締めてシゼルスに声をかける。対するシゼルスも直ぐに、部下の顔に戻って報告を再開する。レオナードは対応云々に関しての話を掘り返さないようだ。報告に耳を傾ける。







「第三王子殿下に関しましては、普段通りに訓練のみに勤しんでおります。最近は特に、王国近衛騎士団長殿と懇意にしている様です」

「ほう、近衛騎士団長か。確かそいつはこの前・・・」

「ええ。副宰相殿と頻繁に接触している者です。その後調べましたところ、副宰相殿の息子と、近衛騎士団長殿の令嬢が婚約候補の関係にあるようです。候補とは言いますが、内定しているようですね」

「騎士団を統括する近衛騎士団長が、ここ最近やたらと周囲を気にしながら、夜にこっそりと出かけている副宰相と繋がりを持とうとしている、か」







 脚を組み、手を顎に当てて考え込む仕草は、国を背負うものとしての自覚を持っている、13歳とは思えない為政者としての貫禄があった。







「副宰相チェロス侯爵の第一子、次期当主のロバートは、現在17歳の学園生です。浮いた話もなく、品行方正で優秀。学園高等部の生徒会に所属し、生徒会長を努めています。お相手となる近衛騎士団長殿のご令嬢ですが・・・」

「ああ、知っている。有名だからな」







 近衛騎士団長、スペーラム伯爵家の一人娘であるカナリア・スペーラム嬢は、社交界でも有名な問題児であった。傲慢で金遣いが荒く、癇癪を良く起こし、22歳となる今年まで、独り身で婚約者もいない状況だった。



 女性は、18歳の学園卒業と成人になると同時に、結婚する事が貴族の間では一般的だ。そのため、18歳を過ぎてしまうと行き遅れと言われてしまう。行き遅れとなってしまった女性は、政略結婚の駒として、彼女たちとは父親程の歳の離れた貴族の下に嫁ぐことになってしまう。



 それを避けるために、女性たちは学園で相手を見つけることに必死になるのだ。しかしカナリア嬢は、その性格から相手が見つからなかった。けれど、愛妻家であったスペーラム伯爵の妻の忘れ形見である彼女を、スペーラム伯爵は政略結婚の駒として扱うことは出来なかった。



 彼女が社交界でどのような評判を得ているか知ってはいるが、良い相手が現れれば、自ずと令嬢らしく振る舞うだろうと安易な考えを持ったまま今に至っていた。



 そんな時に、降って湧いた婚約話。相手は、評判の良いチェロス侯爵の子息であり、娘と歳もそれほど離れていない。愛娘の幸せを願う父としては、この話に飛びつかないわけがなかった。









「怪しい動きをしているからと言って2人が頻繁に会っていることを問い詰めても、婚約に関する話をしていると言われれば言い逃れが出来るからな。そしてそこに、第三王子、か」







 レオナードは眉間に皺を寄せて考え込む。



 第三王子は王妃の子であり、皇太子よりは真面目ではあるが、極度の脳筋であった。万年筆よりも、ひたすら剣を握っているような人物である。頭を使った攻防戦では全く役に立たない、むしろ操りやすい人物だ。そして第三王子が、近衛騎士団長にあこがれを持っていることは周知の事実だった。そして今までは、そんな第三王子と近衛騎士団長はそれほど親しくなかった。だからこそ、そんな第三王子に近づく近衛騎士団長には裏があるのでは、そうレオナードとシゼルスが考えるのも自然な流れであった。

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