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不穏な影
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ガンッ!
「おい!どういうことだ!もう1か月も過ぎたんだぞ!何故未だに、たかがガキ1人見つけられない!」
男の怒号と共に、その怒りの矛先を向けられたテーブルが軋み、揺れる。テーブルの上、男の前にはジョッキが置かれていたが、幸いなことに中身は空で、衝撃で倒れたそれから零れるものは何もない。
「うるっさいわね」
男の行動に眉をひそめ、睨みつけながら椅子に深く腰掛ける女。その2人の様子を表情を全く変えることなく眺めながら、もう1人の男が優雅にワイングラスに口付ける。その中身は毒々しい程の赤。
そこには3人の人物がいた。彼らがいる室内は明るく、質素でこじんまりとしているが、狭くは感じない広さがある。部屋には窓が無く、完全な密室となっており、唯一の出口である扉の先から漏れ聞こえる音は一切ない。外部からの干渉を受け付けない空間になっていた。
「白い髪のガキなど他にいねぇーんだから、簡単に見つけられるはずだろ!なのにまだ、捕まえるどころか見つけることすら出来ないとか、騎士団の連中も冒険者の連中も無能だな」
「事前に情報は共有していたはずよ。その坊やは短期間でBランクに上がるほどの人物だって。あはっ。何?とうとうアルコールにやられて頭が使えなくなったの?」
「んだとっ!貴様ぁ!死にてぇようだな!」
「私を殺せるとでも?」
「・・・チッ。良かったな!お前に利用価値があって!お前の価値がなくなってればさっさと殺していたのによ」
この中で1番若く血気盛んな男と、女の言い争いはすぐに収まる。そんな状況であっても、無表情な男は動かない。側に置いてあったワインボトルを手に取って開ける。そのまま、いつの間にか空になっていたワイングラスに中身を注ぎ、ワインボトルを置いた後、グラスを回しながら香りを堪能し、口にする。その仕草は、身に纏っている質の良い高価そうな服に似合う雰囲気を醸し出していた。
「てめぇもなんか言ったらどうだ!おっさん!」
ターゲットを変えたのか、静かにワインを飲んでいた男に荒々しい男は声をかける。おっさんと呼ばれた男は、相手の言葉を無視するようにゆっくりとワインを飲み込んでいく。そのわずかな時間さえも我慢できなかったのか、男の額に青筋が浮かび、勢いよく立ち上がってテーブルに片手を突きつつ、握りしめた拳を振りかざして、止める。振り下ろそうにも振り下ろせないような、空中でピタッと止まった腕は、次第に力が抜けていき、動かなかったのが嘘のように下がっていく。
そして立ち上がっていた男は、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、大人しく自分の席に座り直す。
「騎士が動いているのに見つからないということは、上手く潜伏しているか国外に逃げているということだろう。それに現在、奴は冒険者ギルドのブラックリスト入りだ」
飲みかけのワイングラスを持っている男は、中身を僅かに残したままテーブルに置く。
「簡単には越境も街へも入れないだろう。そして、裏でも見つからない。そうだろう?」
尋ねた男の視線の席には、いつの間にか葉巻を咥えていた女の姿がある。
「ええ。一切情報が入ってきていないわ。似た人物を見かけたとか、白髪の人物がいたとか。あれだけ大きい従魔を引き連れた白髪の少年なんて、目立つことこの上ないのにね。ただ・・・」
「なんだ?」
「王都に滞在している時に、白髪の兄弟があちらこちらで目撃されているのよ」
女は天井に向かい口から煙を吐き出す。もったいぶるように明かした内容は、いるはずのないもう1人の少年の存在だった。それを聞いた無表情の男の頬がピクリと動き、何かしら考え込む。だが、その様子を無視するように、女はさらなる情報の存在を匂わす。
「その件について調査をお願いしたはずだけど、どうだったの?」
女は、先ほど言い争いをしていた男に葉巻の先を向ける。その視線に男は舌打ちをして答える。
「部下に調べさせたら、王都でも有数の従魔同伴可の宿に泊まっていたようだ。初め、泊まっていたのはガキと従魔だけだったが、次の日宿から出掛けるた時に、そいつの兄らしき男も連れて来たらしい。それからは、兄弟が一緒の時は従魔は一緒じゃなく、従魔が一緒じゃない時は兄と一緒ではなかったようだ。ガキと従魔が消えたころから、その兄の姿も蒸発している」
「へー。ちゃんと調べられたのね。あんたとは違って、あんたの部下は使えるみたいね」
「うるせえ!ババア!」
「ふん。青臭いガキには大人の魅力など分かるわけもないものね?」
「あ゛ぁ!?」
またしても煽られ罵声を吐いた男は、自身が座っていた椅子を蹴り飛ばしながら女に詰め寄ろうとするが、静観していた男が声を上げ介入したことで、渋々ながら椅子に座り直す。その不満は目に見えるほどで、憎々し気に女を睨みつけているが、当の本人は我関せずとばかりに新たな葉巻に火をつけていた。
「我々は仲間であり、共犯者だ。仲間割れは止めろ。我々はそれぞれが対等なのだからな」
「はいはい、そうっすね。貴方様がそうおっしゃるならばそうなんでしょうね」
「お゛い」
「チッ。もうしねぇよ。たっく」
「で、兄とやらは同じ白髪だったのか?」
「ああ。そうだ。15,6ぐらいの見た目をしていたようだ」
返答を聞いた男はスッと女の方に視線を向けると、女はその視線を一瞥して葉巻から口を離し、煙を吐き出しながら口を開く。
「坊やと一緒に行動していた男は、ギルドには登録していないようね。ただ、依頼には一緒に行くこともあったようよ」
それだけ答えて再び葉巻を口に咥えると、満足そうに息を吐く。
「そうか。こちらでも調べて見よう。だがそうなると、そのガキは今頃この国から完全に逃げ切っているというわけか」
「ええ。そうね」
「ああ?どういうことだ?」
「今の流れで理解出来なかったの?やっぱり、脳まで筋肉のアルコール漬けになってるんじゃないかしら」
今度ばかりは女の方に無表情の男が止めに入る。これ以上煽られて脱線しまくってしまえば、時間が長引いてしまう。
「表も裏も探して見つからないなら、国外に出ているだろうという話だ。国外となると俺はあまり動けない。君たち2人の本領発揮とも言えるだろう。分かっているな?」
男の言葉に、女ももう一人の男も頷く。この2人は国内でも力を持っているが、国外までの広範囲に渡ると、再び優雅にワイングラスを傾け出している男より力があった。逆に、この男は国内においてはこの2人よりも力があった。
1つの目標を成し遂げるために集まった3人ではない。それぞれがバラバラの目的の下に集まっている。今回は大筋の目的のもと協力しているが、その過程で自らの目的に沿う結果が得られるからこそ協力し合うだけの関係。自分に持っていない力を有する者と補い合う、利害関係が一致するからこその平等な関係であった。
「ガキの従魔だという、エレメンタルウルフについて詳しいことは解明されていない。だからこそ可能性の話ではあるが、従魔とガキの兄が同一人物の可能性も念頭に入れて置いておけ」
「やっぱり貴方もそう考えるのね」
「お前もか」
「ええ」
「??何故だ?」
「この男は分かっていないようだけど」
「はあ。説明しても分からないだろ。その可能性もあると知っていればいい」
「チッ!ああ、そうかよ!」
噛みついて来る男に、噛みつかれた男は取り合う気はないようで、ワイングラスの中のワインを一気に飲み干す。ワインボトルの中身は既に空になっていた。その様子を見た男は舌打ちをした後、荒々しく部屋を出て行った。倒された椅子が無情にも転がっている。
「全く。自分の仕事の領域となると頭がよく回る有能な男なのにな。なんで毎回、ああも噛みついて来るのか」
「ただの青臭いガキだからでしょ」
「君から言わせれば、私も青臭いガキ、ということかな?」
「へぇ?貴方も私に喧嘩売っているの?」
「ハハッ。冗談だよ。君は若々しいよ」
「ふーん?」
残された2人は出て行った男について、本人の前では絶対に言わないだろう会話を交わす。同等に扱うほどには、彼かの男の事を2人共認めていた。
そして男が出て行ったあと、葉巻を吸っている女が1人残される。暫く葉巻を吸って、吸い終わる頃に部屋を出て行く。
倒された椅子と空のジョッキに、ワインボトルとグラス、落ちた葉巻の残骸と部屋に立ち込める煙だけが彼らがいたことを物語る。しかし、それはすぐさま片付けられ、跡形もなく存在が消されていった。
「おい!どういうことだ!もう1か月も過ぎたんだぞ!何故未だに、たかがガキ1人見つけられない!」
男の怒号と共に、その怒りの矛先を向けられたテーブルが軋み、揺れる。テーブルの上、男の前にはジョッキが置かれていたが、幸いなことに中身は空で、衝撃で倒れたそれから零れるものは何もない。
「うるっさいわね」
男の行動に眉をひそめ、睨みつけながら椅子に深く腰掛ける女。その2人の様子を表情を全く変えることなく眺めながら、もう1人の男が優雅にワイングラスに口付ける。その中身は毒々しい程の赤。
そこには3人の人物がいた。彼らがいる室内は明るく、質素でこじんまりとしているが、狭くは感じない広さがある。部屋には窓が無く、完全な密室となっており、唯一の出口である扉の先から漏れ聞こえる音は一切ない。外部からの干渉を受け付けない空間になっていた。
「白い髪のガキなど他にいねぇーんだから、簡単に見つけられるはずだろ!なのにまだ、捕まえるどころか見つけることすら出来ないとか、騎士団の連中も冒険者の連中も無能だな」
「事前に情報は共有していたはずよ。その坊やは短期間でBランクに上がるほどの人物だって。あはっ。何?とうとうアルコールにやられて頭が使えなくなったの?」
「んだとっ!貴様ぁ!死にてぇようだな!」
「私を殺せるとでも?」
「・・・チッ。良かったな!お前に利用価値があって!お前の価値がなくなってればさっさと殺していたのによ」
この中で1番若く血気盛んな男と、女の言い争いはすぐに収まる。そんな状況であっても、無表情な男は動かない。側に置いてあったワインボトルを手に取って開ける。そのまま、いつの間にか空になっていたワイングラスに中身を注ぎ、ワインボトルを置いた後、グラスを回しながら香りを堪能し、口にする。その仕草は、身に纏っている質の良い高価そうな服に似合う雰囲気を醸し出していた。
「てめぇもなんか言ったらどうだ!おっさん!」
ターゲットを変えたのか、静かにワインを飲んでいた男に荒々しい男は声をかける。おっさんと呼ばれた男は、相手の言葉を無視するようにゆっくりとワインを飲み込んでいく。そのわずかな時間さえも我慢できなかったのか、男の額に青筋が浮かび、勢いよく立ち上がってテーブルに片手を突きつつ、握りしめた拳を振りかざして、止める。振り下ろそうにも振り下ろせないような、空中でピタッと止まった腕は、次第に力が抜けていき、動かなかったのが嘘のように下がっていく。
そして立ち上がっていた男は、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、大人しく自分の席に座り直す。
「騎士が動いているのに見つからないということは、上手く潜伏しているか国外に逃げているということだろう。それに現在、奴は冒険者ギルドのブラックリスト入りだ」
飲みかけのワイングラスを持っている男は、中身を僅かに残したままテーブルに置く。
「簡単には越境も街へも入れないだろう。そして、裏でも見つからない。そうだろう?」
尋ねた男の視線の席には、いつの間にか葉巻を咥えていた女の姿がある。
「ええ。一切情報が入ってきていないわ。似た人物を見かけたとか、白髪の人物がいたとか。あれだけ大きい従魔を引き連れた白髪の少年なんて、目立つことこの上ないのにね。ただ・・・」
「なんだ?」
「王都に滞在している時に、白髪の兄弟があちらこちらで目撃されているのよ」
女は天井に向かい口から煙を吐き出す。もったいぶるように明かした内容は、いるはずのないもう1人の少年の存在だった。それを聞いた無表情の男の頬がピクリと動き、何かしら考え込む。だが、その様子を無視するように、女はさらなる情報の存在を匂わす。
「その件について調査をお願いしたはずだけど、どうだったの?」
女は、先ほど言い争いをしていた男に葉巻の先を向ける。その視線に男は舌打ちをして答える。
「部下に調べさせたら、王都でも有数の従魔同伴可の宿に泊まっていたようだ。初め、泊まっていたのはガキと従魔だけだったが、次の日宿から出掛けるた時に、そいつの兄らしき男も連れて来たらしい。それからは、兄弟が一緒の時は従魔は一緒じゃなく、従魔が一緒じゃない時は兄と一緒ではなかったようだ。ガキと従魔が消えたころから、その兄の姿も蒸発している」
「へー。ちゃんと調べられたのね。あんたとは違って、あんたの部下は使えるみたいね」
「うるせえ!ババア!」
「ふん。青臭いガキには大人の魅力など分かるわけもないものね?」
「あ゛ぁ!?」
またしても煽られ罵声を吐いた男は、自身が座っていた椅子を蹴り飛ばしながら女に詰め寄ろうとするが、静観していた男が声を上げ介入したことで、渋々ながら椅子に座り直す。その不満は目に見えるほどで、憎々し気に女を睨みつけているが、当の本人は我関せずとばかりに新たな葉巻に火をつけていた。
「我々は仲間であり、共犯者だ。仲間割れは止めろ。我々はそれぞれが対等なのだからな」
「はいはい、そうっすね。貴方様がそうおっしゃるならばそうなんでしょうね」
「お゛い」
「チッ。もうしねぇよ。たっく」
「で、兄とやらは同じ白髪だったのか?」
「ああ。そうだ。15,6ぐらいの見た目をしていたようだ」
返答を聞いた男はスッと女の方に視線を向けると、女はその視線を一瞥して葉巻から口を離し、煙を吐き出しながら口を開く。
「坊やと一緒に行動していた男は、ギルドには登録していないようね。ただ、依頼には一緒に行くこともあったようよ」
それだけ答えて再び葉巻を口に咥えると、満足そうに息を吐く。
「そうか。こちらでも調べて見よう。だがそうなると、そのガキは今頃この国から完全に逃げ切っているというわけか」
「ええ。そうね」
「ああ?どういうことだ?」
「今の流れで理解出来なかったの?やっぱり、脳まで筋肉のアルコール漬けになってるんじゃないかしら」
今度ばかりは女の方に無表情の男が止めに入る。これ以上煽られて脱線しまくってしまえば、時間が長引いてしまう。
「表も裏も探して見つからないなら、国外に出ているだろうという話だ。国外となると俺はあまり動けない。君たち2人の本領発揮とも言えるだろう。分かっているな?」
男の言葉に、女ももう一人の男も頷く。この2人は国内でも力を持っているが、国外までの広範囲に渡ると、再び優雅にワイングラスを傾け出している男より力があった。逆に、この男は国内においてはこの2人よりも力があった。
1つの目標を成し遂げるために集まった3人ではない。それぞれがバラバラの目的の下に集まっている。今回は大筋の目的のもと協力しているが、その過程で自らの目的に沿う結果が得られるからこそ協力し合うだけの関係。自分に持っていない力を有する者と補い合う、利害関係が一致するからこその平等な関係であった。
「ガキの従魔だという、エレメンタルウルフについて詳しいことは解明されていない。だからこそ可能性の話ではあるが、従魔とガキの兄が同一人物の可能性も念頭に入れて置いておけ」
「やっぱり貴方もそう考えるのね」
「お前もか」
「ええ」
「??何故だ?」
「この男は分かっていないようだけど」
「はあ。説明しても分からないだろ。その可能性もあると知っていればいい」
「チッ!ああ、そうかよ!」
噛みついて来る男に、噛みつかれた男は取り合う気はないようで、ワイングラスの中のワインを一気に飲み干す。ワインボトルの中身は既に空になっていた。その様子を見た男は舌打ちをした後、荒々しく部屋を出て行った。倒された椅子が無情にも転がっている。
「全く。自分の仕事の領域となると頭がよく回る有能な男なのにな。なんで毎回、ああも噛みついて来るのか」
「ただの青臭いガキだからでしょ」
「君から言わせれば、私も青臭いガキ、ということかな?」
「へぇ?貴方も私に喧嘩売っているの?」
「ハハッ。冗談だよ。君は若々しいよ」
「ふーん?」
残された2人は出て行った男について、本人の前では絶対に言わないだろう会話を交わす。同等に扱うほどには、彼かの男の事を2人共認めていた。
そして男が出て行ったあと、葉巻を吸っている女が1人残される。暫く葉巻を吸って、吸い終わる頃に部屋を出て行く。
倒された椅子と空のジョッキに、ワインボトルとグラス、落ちた葉巻の残骸と部屋に立ち込める煙だけが彼らがいたことを物語る。しかし、それはすぐさま片付けられ、跡形もなく存在が消されていった。
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