はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

文字の大きさ
上 下
95 / 340

無意識

しおりを挟む
 ズィーリオスが、思っていたよりも元気そうなのは良かった。だが、朝一番から誰かを潰していい理由にはならない。昨日、ズィーリオスが魔力欠乏でぶっ倒れた後、俺の魔力をあげたり、あげたり・・・あげたりと世話をしたのに。こんな目に合う謂れはない!







『今何時かって聞いてるんだけど』

「だから知るわけ『何時?』・・・・・昼過ぎ?」







 抗議の意思を示すために、ズィーリオスの質問に答えないつもりだったが、ズィーリオスからの見えない圧に屈し、今までの経験から現在時刻を割り出す。うーん。だけどこれほど機嫌悪いなら、もしかしたら夕方頃なのだろうか。え?だとしても、これほど機嫌悪くなることではなくないか?







『・・・』

「えーっと。夕方?」

『朝方だ』

「は?」





 なんか空耳が聞こえた気がする。





「今、なんて?」

『朝方だと言っている』

「・・・はぁ?」





 空耳ではなかったようだ。朝とか言っていたよな?そんなに早い時間に起こされて、何故ズィーリオスが機嫌悪いんだ?機嫌悪くなるのは俺の方だろう。朝とかまだまだ眠る時間じゃないか!







「なんでそんな早い時間に起こされなくちゃいけないんだ!今日は特に用事はないだろ!俺は寝る!」







 ズィーリオスの反対側へ向くように、地面に横向きに寝転がってキツく目を閉じる。なんで朝っぱなから・・・。







 ・・・っは!まさか、結界を張ったのは昨日じゃないとか!?一昨日だったり?もし、そうなら・・・あれだけ機嫌が悪いのも納得出来る。



 ゆっくりと体の向きを反対に転がし、ズィーリオスを見上げ、バッと視線をズィーリオスの足元に向ける。

 めちゃくちゃ冷たーい視線だったのだが!やっぱり、丸一日俺が寝てた、に一票!







『なんで怒ってるかわかる?』







 いいえ、わかりません。なんて言ったら丸かじりされるだろうな。素直に認めよう。きっと俺は、丸一日寝ていたのだと!







「ごめん。結界を張ったのは一昨日だったんだろ?昨日は丸一日寝ていて悪かった!」







 寝ていた体勢から身を起こし、正座で頭を下げる。土下座だ。1番頑張って疲れたズィーリオスを差し置いて、のんびりと眠り続けていたのだ。土下座しか俺の打てる手はない。一流のプロの様に滑らかとはいかないが、身体能力をフル活用した動きで素早く手と頭をくっつけた。

 ぶつかった手が痛むが、自己回復で一瞬で痛みを消す。







『結界を張ったのは昨日で合ってる。丸一日寝ていたわけではない』

「ん?」







 頭を上げてズィーリオスの顔を覗き込む。そしたらなんで俺、怒られてるわけ?普段より早起きじゃないか!







『何をしたか覚えてない?無意識なのか?』







 話の意図が読めないんだけど。俺は何かしたのか?おかしなことをした記憶はないんだが。首を傾げながら頭をひねる。やっぱり、怒られるようなことをした記憶はない。







『本当に覚えてないのぉ?』







 不審げに、驚愕気味に精霊王が尋ねる。疚しいことは何もない。頷き、その言葉を肯定する。







「魔力を渡したことではないだろう?」

『違う。本当に覚えていないのか・・・』







 どうやら信じてくれたようだが、呆けた顔をしている。精霊王とヴァルードも同じだった。俺は俺の知らない何かをしてしまっている様だ。一体何を仕出かしたというのだ。







「俺は何かしたのか?それと時間を聞いていたのと、何か関係があるのか?」







 ズィーリオスは黙り込み、その顔に苦悩の色が浮かぶ。精霊王とヴァルードは先ほどから俺と目を合わせようとしない。俺以外は何かしら知っている。しかし、俺に伝えるかどうかの判断はズィーリオスに託されている様だ。







「なあ、ズィー。教えてくれ。俺は何をしたんだ?」

『・・・・・』







 5分、10分と、いや本当はほとんど時間が経っていないのかもしれない、無言の時間が過ぎる。そのズィーリオスの様子はあの時の、聖域内で俺が黒の書の所有者になった時の様子とダブって見えた。

 何かあるのだろう。だけど、その何かが分からない。俺には検討もつかない。ただ教えられるのを待つことしか出来ない。





 ・・・本当に?教えられるのを待つだけで本当に良いのだろうか。自分に関わりがあることだからこそ、自分自身の力で見つけるべきなのではないだろうか。言い伝えられていることであるのなら、それを知っている誰かに教えてもらえるように、その相手を見つけ出す必要があるのでは・・・?





 だけど、その”相手”はズィーリオスが良いな。ズィーリオスに教えてもらえないからといって、他の誰かに教えてもらうのは何か違う。俺がズィーリオスの立場だったとしたら、ズィーリオスは俺を信用していないように感じる。感じてしまう!それだけはしてはいけない行為だ。俺はズィーリオスを信じて待つと決めたのだから。だから・・・、俺は動かない。ズィーリオスが話してくれるまで、待つ!



 だってズィーリオスのことだ。きっといつかは教えてくれる。ただそれが、今ではないというだけで。タイミングが合わないだけだ。ズィーリオスが俺に対して何かをするときは、悪いようにならないように色々考えてくれていることは分かっているのだから。







「ズィー」





 努めて柔らかな声で呼びかける。ビクッとズィーリオスの体が跳ねて、全身の毛も逆立ったのが見える。だが、俺の声から負の感情は感じ取れないことが分かったようで、落ち着きを取り戻す。





「いい。今はまだ答えてくれなくて構わない。ズィーのことだ。いつかは教えるつもりだろ?だから俺は、その時を楽しみに待っているよ。・・・・・無理に話そうとしなくていい」







 金の瞳をこれでもかと大きく見開き、ただ真っ直ぐ、真っ直ぐ俺を見つめる。そして、そっと目を閉じて頭を下げる。





『ごめん・・・。ありがとう、助かる。』





 何がズィーリオスの負担になっているのかは分からないけれど、いつかはその抱えている負担を俺にも担ぐ手助けをさせてほしい。俺たちは同じ日に生まれた兄弟で相棒なのだから。



 息を吐き、俺を見据えるズィーリオスの表情は未だ少し硬いが、肩の荷が下りたようだ。





 一区切りついたことで、精霊王とヴァルードもホットしたように体から力が抜けて、ゆっくりと動き出す。精霊王はズィーリオスのところへ向かい、ヴァルードはブクブクと水の中に顎下まで沈んでいく。











 でもな?俺は、何かあったことと時間に関しての質問との関連性について”は”もう何も聞かないと言ったのであって、寝ている人を押しつぶしていた件に関しては、見逃すとは言ってないぞ?



 ズィーリオスに詰め寄ろうと立ち上がろうとして、脚に力が入らず座り込む。あ゛~!まただ!忘れてた!正座していたんだったーーーー!



 痺れた脚を抱え込み地面を転がる。ズィーリオスと精霊王が、何してんだと言いたげな顔をしてこっちを見ているが、俺はする必要もない正座という罰を受けたのだぞ!酷い!自己治癒能力をフルに使用して痺れを取っていく。怪我だけでなく、痺れにまで効果があるのは有難い。お陰で正座をしても大丈、夫って大丈夫じゃない!もう正座はこりごりだ!なんで次も正座をしても問題ないって思考になっているんだ俺!







 脚の痺れは取れたが、自分の思考のおかしさに思わず再び地面を転がりまくる。頭の中からふざけた思考回路を放り出さんとするように。今度こそ、頭おかしくなったんじゃない?と精霊王が呆れた顔をしているのが、転がりながら見える視界の端に映る。だがそんなことを気にしている余裕は欠片もなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―  “賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。  だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。  当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。  ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?  そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?  彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?  力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...