はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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訓練

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 溢れている魔力の放出に意識を向けて、その流れを断ち切る。うん。上手く出来た。精霊王に顔を向ければ、バッチリという言う様にウインクをしてくる。そして今、僅かに意識が別のところへと向いたにも関わらず、きちんと抑え込むことが出来ている。



 暫くこの状態を維持し続けていると、魔力が回復しきり、押し返されるような力と共に抑えきれずに溢れさせてしまった。





『あらぁ。だいぶ良くなってきたわねぇ。魔力が十分にある時は難しいようねぇ』

「ああ。魔力の回復中であれば、そこまで集中しなくても止められるんだがな」

『そうみたいねぇ。その時には回復速度が少し上がっていたわぁ。流出してないからでしょうねぇ』

「そうだったのか。それは気付かなかった」

『仕方ないわぁ。私だってよぉーく見ないと気付かない程度だったものぉ』





 魔力量が多過ぎて体という器に入りきらないことが、体外に溢れてしまうことが原因であるのは確かだったようだ。そして、その解決策として魔力を消費し続けることが、今のところ一番効果があるようだ。だが、常に消費し続けることは難しい。現状でそれは、剣を振るい続けることと同義なのだから。





「ずっと魔力を消費し続ける方法なんて無いもんな」

『一応あるわよぉ?』

「ん!?あるのか?」

『ええ。元々予定していたことではあるけれどねぇ』

「予定していた?どんな方法なんだ?」

『契約よぉ。ねぇ?予定していたことでしょうぉ?』

「契約が?」





 考えてもいなかった魔力の消費方法だ。契約は確かに予定していたことではあるが、魔力を消費し続けるものとは知らなかった。契約している精霊の力を借りたい時に、契約者が魔力を渡すものだと考えていた。それだけではないということか。





「契約をすると常に魔力が消費され続けるのか?力を借りたい時だけでなく?」

『ええそうよぉ』





 精霊王から詳しい説明がなされる。

 精霊は常に魔力を消費し体の形を保ち続けているため、契約を行えば契約者からこの魔力が提供される。これは前にも聞いたような気がするが、姿を消している際は魔力の消費が行われない。そして多くの契約精霊は姿を消している時間の方が長いため、常にという形にはならないらしい。現状、精霊王が姿を現し続けているのは、本人が有している魔力量から考えても微々たるものであり、俺から溢れている魔力を勝手に補給として取り込んでいるらしい。



 契約の必要性について、またこの魔力補給について小一時間程話し合いを行いたいが、俺の捨てているに等しい魔力である為、なんも言えない。





 さらに、魔力が多い者しか見えない現状を変える方法があり、それが”顕在化”と呼ばれる方法だ。この方法を使うと、全ての者に精霊の姿が見えるようになるが、代わりに、体の形を構成するために必要な魔力が通常時の3~5倍程必要になるらしい。この必要な魔力量は精霊の格によって大方決まっており、王位精霊である精霊王は5倍は必要なようだ。



 契約者のいない野良の精霊でもこの顕在化は出来るが、顕在化している間は常にこの3~5倍の魔力を消費し続けるため、契約者がいる契約精霊しかほとんど行わない。契約者がいれば、この契約者から顕在化に必要な魔力を供給してもらえるからだ。





 そして今現在、精霊王は契約していないため俺からの魔力供給を受けられない。顕在化するにしても自身の魔力を消費するため、俺の魔力は減ることはない。俺の溢れている魔力分では、顕在化に必要な魔力として使えないらしい。どうやら、消費される魔力の優先順位があるようで、野良精霊は基本的に自分の魔力が最優先で消費されるようだ。俺の溢れた分を勝手に貰っていても、その全てを効率よく補給は出来ない様で、必要な魔力分に至らない。だからこそ、契約をすれば”顕在化”を利用して魔力消費を行えるというわけだ。



 勿論、契約をしていれば”顕在化”をしなくても魔力は消費されるが。やはり俺の魔力をいかに多く消費するか、ということが目的なので、契約という形がベストである。







「契約をするにも媒体が、ってことだな」

『結局そうなるのよぉー』





 精霊王は非常に残念そうに頬に手をあて、首を傾げて斜め下を見つめる。媒体に成り得る素材である魔晶石が見つかったとしても、そのままでは持ち運びにくく、また俺の持ち物として身に付けられるものではないので、活用が出来ない状態だった。







『そもそもぉ、魔力が体内に収まりきらないってことがおかしいのよねぇ。そんな状態が続くとぉ、負担が大きくなって体がもたないわぁ』





 ちょっと待て。なんだその不穏な情報は。今のところは体調不良を感じないけど、今後体調が崩れやすくなるのか?え、嫌なんだけど。てか、崩れるだけで済むのか・・・?身の危険が生じるなんて聞いてないぞ。これは一刻も早く、どうにかする必要がある。





『それで体が自己防衛的に魔力を放出してぇ、負担を減らしているのでしょうねぇ』

「ん?自己防衛?」

『ええ。一定の容量しか入らない容器に無理やり物を詰め込んではぁ、その容器にヒビが入ってしまう可能性が高いでしょうぉ?最悪ぅ、容器が破裂してしまうかもしれないしぃ』

「・・・その容器が俺ということか」

『そーゆーことぉ』







 だったら俺、魔力を抑え込まない方が良いってことだよな?あれ?訓練は無意味だった?







「訓練が無意味だったならもっと早く言ってくれよ」







 額を抑えながら精霊王を見る。しかし、当の本人はニコッと笑って口を開く。







『でもお陰で魔力操作がかなり上達したでしょうぉ?それに初めは本当に垂れ流しているだけだと思っていたものぉ。今日の様子を見てそうじゃないってぇことが分かったんだからいいじゃなぁい』







 精霊王の朗笑が響く。この1週間、精神的に疲弊しながら魔力制御を行っていたことで、精霊王の言う通り、魔力操作がかなり上達していた。体外に出てしまっている魔力を、自分の意思で動かすことが出来るぐらいには。



 わざと拡散させて魔物をおびき寄せたり、逆に自分の周りから拡散されないように身に纏う様にしたりと、大雑把には操作が出来ていた。



 外にある自分の魔力を動かす方が、抑え込むよりも楽であった。







『明日からは魔力を抑え込むのではなくてぇ、操作の方に重点を置いて訓練しましょぉー?剣の強化もまだまだなんでしょうぉ?ねぇ?』







 ずいっと顔を近づけながら精霊王が提案してくる。近い近い。いくら触れないって言っても、超絶美女の顔が至近距離にあるのは無理だ!目がやられる!

 後ろに下がって精霊王から離れるが、離れると同じ分だけ詰めて来る。





『もっと細かな操作が出来るようになったらぁ、魔法の制御に直接介入しての制御が可能になるわぁ!あの魔法書。使えるわよぉ?』

「はぁー。わかったから。近すぎ。離れて」





 一歩も引かない精霊王に諦念を抱く。両手を上げながら告げたその言葉に、どこか満足げな表情で離れて行った。一体何がしたかったんだか。訓練内容の変更について文句などないと言うのに。



 そろそろ夕方に差し掛かるということで、今日のところはここまでとし、聖域へと戻ることにした。どうやら、一度訪れた聖域ならば場所がどこか分かるのは、依然変わらないようだ。感覚と、目に見える点々と続く戦闘跡を辿りながら、聖域まで向かって行った。

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