はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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食事と訓練

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「ズィー?それ、どっから持って来たんだ?この辺じゃないだろ」





 岩肌で覆われた見た目岩の魔物を、食料と言われて持って来られるよりはいいんだけど。血抜きはして来たようで、滴り落ちる様子は見えない。







『そうだな。この辺ではないぞ』

「巨岩亀ジャイアントロックタートルを狩りに行ったんじゃないのか?」

『そうなんだけど。探していたんだが見つからなくて、ちょっと足を延ばしてみたんだ』

「ちょっとってどれぐらい?」

『そうだなー。全力で飛んでみたから所要時間は分からないが、視界に入った森に行ってみたんだ。そんなに時間はかかってないはずだから、たぶん近くじゃないか?』







 全力で飛んだって・・・。絶対、ちょっと足を延ばすの範疇じゃないだろ。ここから一番近い森は、英雄の森だぞ?ズィーリオスが英雄の森を分からないはずがない。確認するだけしてみるか。







「ズィー。英雄の森ではないんだよな?」

『当たり前だ。あの場所なら直ぐに分かる』







 だよな。それならすぐ分かるよな。なら、近くの森なわけがないなー。英雄の森の次に近い森は、ハーデル王国の王都近郊か、王国の西に位置するルガーディン帝国の北東一帯の地域しかないんだよなー。



 王都近郊にアーマーベアはいない。ルガーディン帝国側のロザロ山脈は、麓に森が広がっているのだ。ロザロ山脈で巨岩亀ジャイアントロックタートルを探しながら飛んでいたのならば、方角的にも可能性が高い。”ちょっと”で行けるような距離ではないのだけれどな。速く飛び過ぎて獲物を見落としたのだろう。きっと。見落としてしまう様な動体視力だとは思わないが、きっとそうに違いない。





「・・・・・」





 もう何も言うまい。普段乗せてもらって飛んでいる時の速さは、全力で飛んだ時よりも抑え気味だということは良く分かった。そして全力で飛べば、何日もかかる距離はズィーリオスにとって、ちょっとそこまで、の気分で行けるということも。



 ・・・今夜は久しぶりのきちんとした食事にありつけそうだな。熊肉は硬そうだし熊鍋にでもしよう。ただ、どう調理すればいいのだろうね?臭み消しのハーブって必要だよな。ハーブ持ってないから、天然ものを手に入れて来るか。外に出てもすぐは見つからないだろうしなー。ついでに鍋に一緒に入れる食材でも調達してこようか。

 ああ、鍋にするのにハーブで臭みが取れるのだろうか。熊肉を食する時は、味噌で臭み消しをする地域もあるって聞いたことがあるな。うん、味噌ないねー。肉を柔らかくするための酒・・・もないなー。香辛料使って臭みを抑えて、叩いて肉質を柔らかくするしかないかなー。ははっ。鍋、出来なくない?









『リュゼ?どうしたんだ?黙り込んで』

「気にするな。自らの至らなさを色々と再確認しただけだから。あと、今日の夕食に何を作ろうかと思ってな」

『ふーん。至らない所はこれから直していけば良いだけだぞ。食事もリュゼが食べる分だ。あまり気負う必要はない』

「ははっ。そうだねー」

『本当に大丈夫か?訓練で疲れたのか?』







 乾いた笑みを浮かべて視線を奥の鍾乳石へと向ける。このまま意識を手放して思考を放棄したい。でも、ズィーリオスがわざわざ俺の為に取って来てくれた獲物だ。解体しては運べないから、そのまま首を落とした状態で持ってきたのだろう。そしてこれからまた、外に向かうそうだ。出て行く後ろ姿を見送る。先ずは解体することが最優先だな。



 以前に購入していた解体用のナイフをマジックバッグから取り出して手に持ち、ポツンと取り残された首のないアーマーベアへと近づいて行った。













































 狩りから戻って来たズィーリオスにもたれ掛かりながら、寝る前に、溢れ出た魔力の制御を試みる。



 アーマーベアを解体し終わった頃にはもう夕方になっており、外に出ることは出来なかった。その為、マジックバッグ内を漁り臭み消しになりそうなものを使い、肉を叩いて柔らかくして鍋へと放り込んだ。具材はそれだけだ。それと乾パンである。なんと物悲しい食事だったことか。干し肉と乾パンだった、ここ数日の食事内容に比べたらマシだろうけど。



 臭みは消えてないし、肉は柔らかいとまではいかなかった。ただ、スープの味付けだけは美味しく出来たと言っておこう。本当にマシな程度だ。俺が熊肉を嫌いになる前に、美味しい熊肉の料理を食べたいものだ。





 集中しきれなかったからだろう、魔力を抑えきることは出来ず、未だに溢れ続けている。何とか集中して抑えようとするものの、忍び寄って来た睡魔に意識を刈り取られた。































「はー。やっぱスパッといけると気持ちいいな!」





 魔力制御訓練を初めて1週間が過ぎた今日。洞窟から外に出てきていた俺は、今しがた切り捨てた魔物を一瞥して振り返る。そこには俺の足取りをなぞるように、遠くの方からすぐそばまで、ロックリザードやロックバードと呼ばれる魔物の亡骸が点々と続いていた。



 ロックリザードは、体表がゴツゴツとした岩に覆われたオオトカゲのことだ。体長2メートルほどの大きさで群れることはなく、動きが素早いが対処できない程ではない。尻尾の先がトゲトゲした鉄球のようになっており、見た目に反してしなやかに動く長い尻尾で、敵を粉砕せんと迫る近接戦闘を得意とする魔物だ。しかし、Dランク程度の強さなので大したことはない相手である。



 ロックバードは、こちらも同じく体表がゴツゴツとした岩に覆われ、体長が3メートルほどと少し大きめの鳥だ。重くて飛べそうにない見た目をしているにも関わらず、助走をつけることによって飛ぶことが出来る鳥だ。その為、遠距離からの魔法攻撃が多く、広げた翼の内側からは雨のように鋭くとがった大きめの礫を飛ばす。地上にいても、翼を広げれば礫を飛ばせるので厄介な相手だ。

 しかし、近接戦闘が苦手ということはなく、柔肌を抉り取ろうとする、その鋭利な嘴や爪を持つCランクの魔物だ。





 他の種類の魔物も混じっているが、ほとんどはこの2種類だけであった。









 一向に進展しない魔力制御訓練にストレスを感じ始めていた俺は、魔力を戦闘で消費したら制御しやすくなるはずだ!という以前に脳裏に浮かんだ方法を言い訳として、外に出て暴・・・ストレス発散していた。



 一応訓練の一環なので、精霊王が付き添っている。だからこそ、ただ身体強化を掛けるだけでは魔力をあまり消費出来ないので、どうしようかと考えていると、ふと腰に下げている剣に目がいった。



 俺が持っている剣は、低純度のミスリル合金の剣だ。仮にもミスリルが含まれているのならば、魔力伝達率が鉄などの一般的な金属よりも良いはずである。その為身体強化をかけ、その上で剣に魔力を流し強化していく。体外に出た魔力をまだ上手く操作出来ていないため、魔素となって霧散していく分もあるが、魔力は余るほどあるので湯水のように量で剣の強化を施していく。そしてその状態を維持しながら、俺の溢れた魔力に引き寄せられてやって来た魔物を相手どると、気持ちいい程スパッと両断出来たのだ。



 無意識で溢れ出る魔力も、今では簡単に魔物を呼び寄せられる便利なもの、という位置付けになっていた。拳でぶん殴るのも爽快だが、素手なのでいくら自己回復が出来るとは言え痛みを感じる。痛い物は痛い。



 けれど剣であれば痛くはないので、同じく爽快感を得られるのであれば剣を振るった方が良い。もっと早く気づけば良かった。そうすれば、あのわらわらと湧き出るように集まって来た岩軍虫共を触らずに済ん、だ、の・・・いや、忘れよう。あいつらのことは思いだしてはいけない。





 ブルブルと体を震わせ、寒いのかと心配させてしまった精霊王に何でもないことを告げる。







 無駄に贅沢な魔力の使い方をしたが、全体の1割も使っていないようだ。確認している端から回復していっている。洞窟内であればここよりも遥かに濃い魔素濃度なので、今頃ほとんど回復しきっていたかもしれない。やっぱり外に出て良かった。



 良し、今のうちに魔力制御をしよう。外に出て来た理由である魔力制御訓練の為に、溢れている魔力に意識を向けて集中することにした。

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