はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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学園生〈第四王子レオナード視点〉

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「殿下!バルネリア様もご無事で何よりです!」







 久しぶりとなる学園への登校は、いつもより多くの者達が朝から集まって来ていた。



 合同訓練での事件後、俺とシゼルスは王城内の自室で、療養という名の監禁状態であった。シゼルスは俺の専属護衛だと言うにも関わらず、この監禁中は会うことが出来なかった。それもなんと2週間もの間である。リュゼから引き離される時といい、今回の療養といい、王族である俺の発言は無視されていた。リュゼは犯人ではないという言葉も。所詮、第四王子の言葉など、耳を傾ける気はないとでも言う気か。











 あの時あの場には、王都の冒険者ギルドのギルドマスターと呼ばれる者がいた。冒険者ギルドは、国に属しない独立した組織だ。騎士団は主に、街の治安維持や有事の際の戦力として存在している。だからこそ騎士団では対処しない様々なことに、依頼と言う形で冒険者に仕事として斡旋する。騎士団と冒険者はお互いの仕事が似ている所もあるが、そのような割り振りがされていることから、持ちつ持たれつの関係を保っているのだ。



 そして王都のギルドマスターと言えば、そこらの貴族より大きな権力を有している。もしも、国の一大事の時に、騎士団の戦力だけではどうしようもならない状況の際、冒険者に協力してもらうこともある。だが、冒険者は国に縛られない存在の為、必ずしも力を貸す必要はない。そんな時に、彼ら冒険者を動かす権限を有しているのがギルドマスターという存在なのだ。だからこそ、ほとんど書類仕事で現場に出てくることはない。何かあっても職員などの部下にやらせればいい。冒険者を動かす出来事など滅多に起こり得ないのだから。





 そして今回の件で、リュゼがダンジョンから出て来た時に、多くの冒険者を伴って彼かのギルドマスターは現れた。ギルドマスターが冒険者を引き連れて出て来るほど、本気だったということだ。そして、彼女は言っていた。リュゼの冒険者資格を剥奪すると。



 明らかに冤罪で、リュゼは国に追われる身となってしまった。Bランクに上げるまで、きっと色々と大変なことがあったはずだ。本人は自分の力ではなく、相棒の聖獣のお陰だと謙遜していたが、リュゼ本人だって十分に強い。確実にあの実力だけでも、Bランクの他の冒険者に劣らないことだろう。





 今のリュゼは、平民の身分だ。けれど、身分証となる冒険者資格が剥奪されてしまえば、この国から出ることが出来ても、街へ入ることは出来なくなる。きっと今頃は既に、資格が剥奪された冒険者として、他国のギルド含めた全ての冒険者ギルドで、ブラックリスト入りしてしまっているだろう。









 今回の件、明らかに何者かがリュゼに罪を押し付けている。

 ギルドマスターは利用されているのか、それともこの一連の件に関与しているのか。誰が関わっているのかが見えない。騎士団も動いているのだ。確実に、貴族の中にも関与している人物がいる。それも、かなりの大物が裏で糸を引いている可能性が高い。





 この事件は俺とシゼルスが、リュゼに誘拐されたことになっている。そして療養中にも、何度かその説明を受けた。俺たちがリュゼは悪くないと言っていたことを騎士から報告をされていたのだろう。まるで、これが事実だと刷り込むかのようだった。だから誰が敵かが分からない以上、行動には気を付けないといけない。俺たちがその説明を信じたことになっているからだ。そう、俺たち、なのだ。

 シゼルスも俺と同じような状況だったらしいので、協力して敵の目を欺きながら、真相を探っていくことにした。





 学園へ再び復帰することになり、真相究明には本腰を入れにくいが、だからこそ敵の目を欺きやすい。王城で監禁されているよりも、遥かに情報を集めやすいのは確かなのだから。





























 シゼルスと共に教室へと入ると、一度静まり返った後騒めき出し、教室中の視線が俺たちに集まる。そして、ご機嫌伺いに忙しい高位貴族の者達が群がって来る。中でも、女生徒たちが多く群がるのはいつものことだ。シゼルスに対しても同様だった。下位貴族の者達は各々の席からこちらを窺っている。







「皆、心配をかけたね。私達はもう大丈夫だから。ね?」

「殿下!お怪我はございませんでしたか?」

「バルネリア様もお怪我の方は大丈夫でしたか?」

「ご無事で何よりですわ!」

「やはり冒険者とは野蛮な方々ですのね」







 笑顔を顔に張り付けて、周りにいる女生徒たちに声をかける。その中の発言に、横にいるシゼルスが僅かに反応したようだ。学園内では常に無表情でいるこの男が、その”野蛮な冒険者”の前では満面の笑みを浮かべていることなど、シゼルスの無表情を見つめながら惚けている彼女たちには想像も出来ないだろう。いや、今は冒険者ではないか。内心ニヤつきながらも、外面では務めて綺麗な微笑みを意識する。自分の顔が彼女たちにどう見えてるかは理解している。だからこそ彼女たちが好きな、王子の笑みを浮かべ続ける。その方が情報収集がしやすい。







「そういえば、殿下方を攫った冒険者の少年は、従魔に乗って逃げたと聞きましたが、本当のことなのですか?」

「ええ。事実ですよ」

「まあ。まだ捕まってないようですが、未だにどこかに隠れ潜んでいると思うと怖いですわ」







 この女生徒は侯爵家の一人娘だったか。俺の腕に抱き着きながら聞いてくる。確か伯爵家の婚約者がいたはずだが、このような行動をするとは。乱暴にならないように、優しく彼女の腕から自身の腕を引き抜き、その目を見据えて微笑みかける。







「安心して下さい。我が国の騎士達は優秀ですし、この王都内にはいないことが確認出来ています。貴女方に危険が降りかかることはないですよ。この学園の警備も厳重ですしね。それに何か起きれば、私が貴女方をお守り致しますよ」







 周りにいた女生徒たちの顔が赤く染まり、意識が緩んだ隙に、軽く挨拶をしてシゼルスと共に席へと移動する。そろそろ授業が始まる頃だった。









 いつも通りに授業を受け、学園を休んでいる間に関しては、レポートを書いて提出するだけで良いようだ。



 お昼になり、ランチを食べに中等部の食堂へシゼルスと共に向かう。朝の女生徒たちが一緒について来るが、これもいつものことだった。





 向かい合う様にして座った俺たちの両隣を、付いて来ていた女生徒たちが座っていく。談笑しながら食事をしていると、ふと思い出したかのように、1人の女生徒が声を上げる。朝の侯爵家の令嬢か。







「そういえば、殿下は中等部3学年の、アンナ・カストレア様をご存知でしょうか?」





 カストレア家の令嬢か。確か、あの前カストレア辺境伯が溺愛していると噂の孫娘のことか。





「知っていますよ。そのご令嬢がどうかしましたか?」

「実は先日の合同訓練で、朝にお話ししました冒険者を雇っていたのが、彼女の家だったらしいのですの。学園で選んだ冒険者ではなく、指名依頼で護衛に付いていたらしいですよ」

「その話は本当なんですか?」

「はい。私の知り合いの方の兄君が、騎士として取り調べた際に判明したことらしいのです」







 知り合いとは彼女の婚約者のことだろう。婚約者の兄に騎士団に所属している者がいたはずだ。俺が彼女の婚約者のことを知らないとでも思っているようだな。伯爵家の子息ではなく、俺に取り入って未来の王弟妃でも狙っているのだろう。

 彼女を妻にする気はないが、情報をくれると言うのであれば、ありがたく提供してもらおう。しかし、騎士団の連中が捜査内容を外に漏らすなど、職務怠慢甚だしいな。







「ですから、その責任を取るために領地に戻されて謹慎中らしいですよ。今は学園を退学なされたそうです。来年の高等部の入学は厳しいでしょうね」





 貴族にとって、この学園の高等部を卒業することは当たり前のステータスだ。ここで社交界の人脈作りや、パートナー探しを行うのだ。学園の卒業をしていないなど、今後パートナーになる人物が現れないと決まったようなものである。そしてそんな者を、他の貴族たちは見下すことがほとんどだ。彼女の今後は厳しいものになるだろう。





 だが、リュゼを指名依頼で雇っていたということは、リュゼについて何かしら知っている可能性がある。





 チラッと視線を上げると、シゼルスが俺の方を見ていた。シゼルスも俺と同じことを考えたに違いない。





 アンナ・カストレア嬢か。これは接触してみる価値があるな。



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