はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

文字の大きさ
上 下
75 / 340

地底湖の続く先

しおりを挟む
 冷え冷えとした冷たさを宿す暗闇の中を進む。

 光の届かない地下深く。



 俺達は、鍾乳洞の地底湖を潜った先にある聖域へ移動していた。事前の予定通りに俺は、空気の膜に包まれさらにその上に防御結界を張った中で大人しくしている。自分自身の力で、泳いで潜って前に進むことは現状出来ないので、大人しく運ばれているのだ。



 ヴァルードに。



 初めは、ズィーリオスが俺を押しながら運ぼうとしていたようだが、水の中で動くことがまだ2度目であるので、上手く運ぶことが出来なかったのだ。それを見かねたヴァルードが、ガシっと俺を拉致るようにして掻っ攫い、先に潜って行ったのだ。



 流石にベテランなだけはあり、俺がいるからといって負担がかかっている様子もなく、スイスイと潜って行って行った。そんなヴァルードを追いかけるようにズィーリオスが地底湖内に飛び込み、追従している。



 ズィーリオスも最初のうちは俺がやると騒いでいたが、ヴァルードがまるで空を滑空しているように、翼を広げることもなく進んでいくのを見て、俺を連れて行く係りをヴァルードに譲ったようだった。ヴァルードは片手で俺を鷲掴みしているので、移動にほとんど支障が無いからだ。





 そうしてただ、されるがままに揺られていると、一番近いはずのヴァルードの姿さえ見えない程の暗闇に包まれた。360度暗闇で、ポツンと1人存在しているような孤独感が沸き上がる。しかし、見えなくともズィーリオスがついて来ていることも分かるし、念話で会話が出来るので閑寂ではなかった。

 ヴァルードや精霊王の念話も聞こえるので、存外賑やかだ。俺からはズィーリオス以外とは念話が出来ないので、少し寂寥感に苛まれた。そんな俺を気遣ってか、ズィーリオスが俺の言葉を伝えようとしてくれたのは有難かった。そうして色々なことを話しながら進んでいく。







 ヴァルード曰く、魔力の扱いが上手く出来るようになれば、契約という方法以外でも念話が出来るようになるらしいのだ。ヴァルードや精霊王のように。





 どうやら俺は、今までは押し込めて溢れていた分の魔力だけを扱っていたようなのだ。魔力が全開放されたことで、押し込んでいた分の魔力の扱いを覚えるようにと言われた。





 俺の魔力は、聖獣と相性が良い程上質なようなので、そんな魔力は魔力が強い物ほど魅力的に見えるらしい。そんな魔力が駄々洩れで、雑魚の魔物程度なら恐れて寄ってこないだろうが、強い魔物は上質な獲物がいると嗅ぎ取って襲い掛かって来るらしい。



 ここに来る前の外でのことを思い出すと、身に覚えのあることばかりであった。

 ズィーリオスも精霊王も駄々洩れなことは知っていたようだが、俺がわざと強い魔物をおびき寄せるためにしていると思っていたらしい。そんなわけあるか。





 だからこそ、滞在中の間はヴァルードが魔力の扱いの指導をするという提案に、一も二もなく受け入れた。





 精霊王もズィーリオスも、本能的に魔力を扱うので、俺に教えられないということが分かったからだ。





 ドラゴンも本能的に魔力を扱えるが、存在自体が魔力で出来ている精霊王や、魔法・魔力チートなズィーリオスよりは劣るらしい。扱い方は分かっても、そのコントロールはほとんどの生物と同じく、何度も練習をして努力し身に付けるものだそうだ。その為、ヴァルードが適任者として指導してもらうことになった。



























 暗闇という場に似つかわしくない、明るい空間が形成されて暫く。その空間を転写するように、突如、暗闇に光が差し込んだ。するとグングン上に引き上げられる感覚と共に、ものの数秒で水面から顔が飛び出た。行よりもかなり浅かったようだ。



 久しぶりの光は目に辛く、暫く閉じていたが、次第に慣れてきたためそっと瞼を上げる。そこは、行の鍾乳洞よりも小さい空間だが、とても幻想的だった。







 地底湖を囲む壁は、ヒカリゴケで覆われているのは同じだったが、クリスタルのようなものがあちらこちらから生えていて、光が反射しキラキラと輝いていた。控え目に言っても絶景だ。







「・・・・・凄いな」

『中々のものじゃろ?この光景はここでしか見れぬよ。何故かこの魔晶石はここにしかないのじゃよ』

『へぇー。魔晶石なんて珍しいわねぇ。それにこれだけの純度の高い物なんてぇ、そうそうお目にかかれないわぁ。媒介としても有能そうねぇ。加工してアクセサリーにでもしたら持ち歩けるものぉ』







 これ、全部魔晶石なのか・・・。目の前にある魔晶石だけでも、50センチほどの長さがある。これ1つで、ハーデル王国の王都内の貴族街に、それも王城の近くに、邸宅が1軒は余裕で建てられるだけの価値に相当する。









 魔晶石は透き通るような美しさのある鉱物の一種だ。宝石としても扱われることがあるほど美しく、精霊王がいう通り、アクセサリーにするのは良くある話だ。





 ただし採掘量がとても少なく、魔素が濃い場所でしか採掘されない。魔素が濃い場所では、強い魔物が多く存在するため危険だからだ。そして、魔晶石はミスリルよりも脆いが、魔力浸透率が桁違いに高い。そもそも魔力を多く保有している為、魔石の役割を担うことも出来る。出来るが、魔石よりも圧倒的に高品質であるのは間違いない。



 小指の爪ほどの大きさで、Bランクの魔石と同等かそれ以上の魔力を有している。その為、魔晶石を加工しアクセサリーにして、魔道具として身に付けることも可能な程のものだ。









「やっぱ聖域って凄いな」

『まだ入ってないけどな』







 聖域だからと思考停止させようとしたが、ズィーリオスが即座に否定してくる。分かってる。まだ結界を通った感覚がしてないから、入ってないのは分かっている。だけど聖域のせいにしてしまった方が、俺は納得出来るんだよ。









 ヴァルードと出会った場所の魔素濃度も、中々高かった。あれは、その場所の魔素と、ヴァルードが発している魔力が合わさって強くなっている感覚がした。しかし、ここはこの空間全体から魔力が発せられているような、まるで魔晶石から魔力が放出されているのではないかと思ってしまうほどの魔素の濃さだ。



 魔晶石は、取り込んだ魔素を魔力として保管する変わった鉱石なのだ。貯め込んだ魔力を自然に放出することはない。吸収はするが、貯め込みはしないのだ。





 つまり、魔晶石が吸収しきれない程の濃厚な魔素が、この空間には溢れているということだ。少し気分が悪くなってきた気がする。





 魔素の過剰摂取は体に毒だ。魔力酔いに似た症状を引き起こす。



 自身の魔力量の多さで今まで魔力酔いになったことはないが、流石に今回は危ないかもしれない。頭痛がしてきた頭を押さえる。









『にしてもおかしいのぉ。先日とは比べ物にならない程魔素に溢れておる。何故じゃ?』

『本当よぉ。ここまで魔素が多い所は来たことがないわぁ。少し気分が悪くなるわぁ』







 どうやらこの魔素量はいつものことではないようだ。それを聞いて安心する。こんな状態が通常な場所等、普通の人間である俺には厳しすぎる環境だ。それに精霊王ですら気分が悪くなるほどの魔素濃度の中で、俺は良く意識を保てているものだ。









『・・ゼ!リュゼ!』

「うわっ!なん、だよ」

『顔色が悪い。今だってずっと声をかけているのに、ボーっとしていたじゃないか!』

『いくら聖獣の契約者と言っても人間だものぉ。この魔素濃度は毒よぉ』

『確かにそうじゃ。今すぐ休ませてやらんと。先ほどの部屋まで急ぎ戻るぞ』

『何を言っているのぉ!またあれだけの時間がかかるのよぉ!』

『落ち着けよ!とりあえず魔法をぶっ放して暴れて魔素を減らせばいいだろ!』

『聖獣!貴方が落ち着きなさぁい!生き埋めにするつもりぃ!?』







 あー。うるさい。頭の中でガンガン響く。頭痛がさらに酷くなっているような気がする。聞こえる声から逃げるように意識を手放した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...