はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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『面白いことを考えたわねぇ』







 感心したように呟かれた精霊王の言葉に同意するように、ズィーリオスもヴァルードも頷く。俺自身が考え出したアイデアではないので苦笑いをして受け流す。このアイデアは、前世で聞いたことがある誰かが考え出したアイデアだ。それをただこの場で発言しただけに過ぎない。だが皆にとっては、俺が考えたついたアイデアになっているのだろう。他者の功績を横取りしたような居心地の悪さを感じるが、この場だけの利用目的なので見逃してほしい。

 どこの誰とも知らない人物に、とりあえず心の中で謝っておく。









 この空気を抜け出すために質問を投げかけ思考を逸らす。







「じ、実際問題としてどうだ?出来そうか?別にズィーリオスじゃなくてもいいが」

『リュゼの頼みなら出来なくても出来るようになってやる。だからこいつらに頼る必要はない』







 ぷいっと顔を背けられてしまう。そして普段より声色が低いズィーリオスの声が届く。先ほどとは違う居心地の悪さに襲われる。明らかにズィーリオスがご機嫌斜めだ。

 出来なくてもいいという発言でプライドを傷つけてしまったのか。あらゆる魔法をマスターしてしまうのだ。出来ないことがあるという状況に、プライドが許さないのかもしれない。軽率な発言だった。







「ごめん、ズィー。出来ないと決めつけたつもりはないんだ。ただ、無理してまでやらなくてもいいってだけで・・・」

『分かっているよ。けれどこれだけは言わせてくれ。今まで、リュゼの突拍子もないアイデアを形にしてきたのは俺だ。それはこれからだってそうだ。確かに最初は大変だった。けれど、リュゼのアイデアは面白い。挑むだけのめり込んでしまうんだ。だから他の奴に譲る気はないぞ』







 俺の目を見つめながら宣言する。その目は何処までも本気で、本心からの言葉だということが分かる。







『つまり、今代の管理者は、その人の子が大好きだということなのじゃな』

『そうなのよぉ。お陰で私が最初の契約者にはなれなかったのよぉ』

『まだ契約してない奴が良く言う』

『これから契約するものぉ。適当な媒介がないんだから仕方ないじゃなぁい』

『それでも一番は俺だ!』

『何!?闇の。お主、あの契約を結ぶつもりなのかのぉ!?』

『ええぇ。そうよぉ』

『なんと!』







 重苦しい空気が霧散し、賑やかに騒ぎ出す。

 ほっ。詰めていた息を吐きだす。良かった。ズィーリオスは怒ってはいなかったようだ。ただ、俺に相手をして欲しいと、渡したくないと駄々をこねているだけのようだ。



 他者から「好きだ」と言われることはやっぱり嬉しいものだ。必要とされていると感じることが出来る。特に、大好きなもふもふに言われると、その嬉しさは倍増どころか累乗で増加する。









 だらしなく緩み切った顔を見られないように、ズィーリオスに顔を埋めていると、ズィーリオスから声がかかる。









『俺としては、リュゼの周りに空気の膜を作るのが一番簡単な方法だと思うんだ。それにその方法だと出来ると思う。だけど、水に入った時にその膜が押しつぶされないかが心配だ。ヴァルード曰く、水中は深くなる程水の圧力が強くなるらしいんだ。だから常に、空気の膜の維持を気を付けるつもりだけど、もし深い所で膜が維持できなくなってリュゼが溺れてしまったらって考えると、その・・・』









 なるほど。水圧を気にしているのか。深くなればなるほど、徐々に水圧は強くかかるから維持をするのは難しいかもしれない。息が出来ない深い水底で、空気の膜の維持が上手く出来なければ、溺れるだろうことは容易に想像がつく。だが、ズィーリオスならば大丈夫だろう。それに対処法も考えてある。







「だったら、空気の膜を包むように物理結界を張れないか?そうすれば、空気の膜に掛かる圧力の対応に一々気をもむ必要はないだろ?あとその方が、連れて行くにも楽だろ?」

『なるほど!それはいいな!』

「だけど問題があるとすれば、そんなことにズィーリオスの魔力を使わせてしまうと、結界の魔力が足りなくなってしまうんじゃないかと思うんだけど」

『大丈夫。気にする必要はないぞ。先ずは一度行ってみて、確認をするだけだから。暫くここに居るんでしょ?なら多少の時間が掛かってもいいんじゃないのか?』

「そうだな。そうだった。急ぐ必要はなかったな」







 無意識に1度で終わらせようと考えていたようだ。なぜ急ごうとしていたのだろう?考えてみても分からない。







『じゃあ、早速試してみるね!行ってきます!』

「え?」





 ドボーーン。







 俺が考え込んでいる間に、ズィーリオスが地底湖に飛び込んだ。唖然とし、一瞬思考が停止したが直ぐに岸のギリギリまで急いで移動して、水中を覗き込む。そこには、もう薄っすらとしか見えなくなった白い塊が、奥へ奥へと進んでいくのが見えた。深い蒼に白が塗りつぶされていく。



 試すと言ってはいたがどのように試すつもりだったのだろう。そもそも、ズィーリオスはどのようにして聖域までいく予定だったのか。犬かきで泳ぐわけでもないのに、初めての水泳で潜水までこなすのは一体どうなっているのか。これが管理者のチートの一角なのだろうか。頭がこんがらがってきた。







『心配する必要はないから、大人しく待っておれ。聖域の管理者が溺れるわけが無かろう。その程度でどうにかなる相手ならば、わしはここに閉じ込められてはおらぬよ』





 ヴァルードが俺を安心させようと声をかけてくるが、心配なものは心配なのだ。ズィーリオスが生まれた瞬間からずっと一緒にいて、短い間だったが世話もしていた。ズィーリオス自身が大丈夫と言っているから、本当に大丈夫だとは頭では分かっているが、湧き出て来る気持ちはどうしようもない。俺のためにしてくれているのだから尚更だ。





 じっと水中を見つめていると、蒼一色だったそこに白い点が現れ、次第に大きくなっていく。それと共に、張り詰めていた糸がゆっくりと緩んでいくような錯覚を見た。







 バシャーーン。





 水面から突き出した顔は見慣れた、もふもふとした毛におおわれたズィーリオスだった。そう、もふもふな毛だ。岸に上がったズィーリオスの体は、一切濡れていなかった。地底湖に出入りした様子を見なければ、今まで潜っていたとは思えないだろう。







『リュゼの言っていた通りに上手く出来たぞ。だから問題なく、安全に移動出来ると保障する』







 ズィーリオスに近づき体を触るが、触れる毛はどこも濡れてはいない。本当に俺のアイデアを形にしたようだ。しかも自分自身で試すことで。

 そのまま首筋に抱き着きながら、温もりを確かめる。温かい。冷えていることもないようで安心した。







「ありがとうな」







 ぽつりと呟く。小さすぎて聞こえなかったかもしれない。だが、ズィーリオスは顔を俺に押し付けるように、擦り付けて来る。聞こえていたらしい。







『はいはぁーい。離れてぇー?流石にこれ以上は妬けちゃうわぁ』





 突然、精霊王の声が聞こえたと思ったら、ふわっと背後から首に抱き着くように魔力に包まれる。ズィーリオスが俺を、じゃなくて、背後にいるだろう精霊王に向かって睨みつける。







『なに邪魔してくれるんだ』

『いいじゃなぁい。邪魔したくなったんだものぉ』

『良くない』







 お2人さん。俺を挟んで睨み合いをしないでくれないか。全く、いつになったら仲良くなるのか。頭をかきながら溜息をつく。俺も慣れるしかないようだ。







『はっはっはっ!面白い。誠にお主ら面白いのぉ』







 全然面白くない。ズィーリオスからも精霊王からも離れて、地底湖の側に寄る。







「もう、喧嘩してないで行くぞ。ほら、ズィーリオス。後は頼むぞ。精霊王はそのままついて来れるだろ?」

『任せて!』

『行けるわよぉ』







 睨み合いを止めたズィーリオスが俺のところまで駆け寄る。精霊王は余裕な表情で、ヴァルードのところへと移動して行った。どうやら、ヴァルードに掴まって移動するらしい。







 やっと聖域へ移動出来そうだ。まだ見ぬ新たな聖域に胸が高鳴る。まるで、待ちわびていた会いたい人に会えるかのように。無意識にその目を輝かせた。

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