はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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聖獣とは

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「そういえばさ、聞きたいことがあるんだけどー」

『どうした?』





 巨岩亀との戦闘の次の日。

 ズィーリオスの背中に乗って揺られながら、聞きたかったことを思い出す。やることもなく移動するだけで、暇なのもあり聞いてみることにした。







「この前、精霊王が白は聖属性の証とか言ってただろ?」

『確かに言ったわねぇ。それがどうかしたかしらぁ?』







 精霊王が俺の前に回り込みながら聞く。後ろ向きに移動しているが、浮いているのでコケる心配はない。精霊王に視線を合わせて頷く。







「聖属性は、聖域で3か月間過ごしたら体内魔力が聖属性に適応されて取得するものって、以前、ズィーリオスに聞いたんだけど、だが俺の髪は、3か月も滞在する前にズィーとの契約で色が変わったんだ。これはどういうことなんだ?」







 聖属性はほとんどが後天的に手に入れる属性。生まれつき属性の色を宿す肉体が、後天的に見た目の色が変わることに、今まで特に疑問に感じていなかった。契約した証なのだろうと、ただ何となくそう思っていた。

 しかし先日、精霊王が白は聖属性の色と発言したことで、時期的な錯誤に疑問が生じたのだ。







『あらぁ?そうだったのぉ?生まれつきではなかったのねぇ』

『髪の色が変わったのは俺と契約を結んだからで間違いはない』

『なんで貴方との契約が原因だと分かるのぉ?昔に他の聖獣と契約を結んだ人がいたのだけれどぉ、その人は体のどこかの色が変わるということはなかったものぉ』







 俺以外にも、聖獣と契約関係を結んだ人物がいたのか。まあ、長い歴史の中でそりゃあ1人2人はいてもおかしくないか。だが、その過去の人物は見た目の変化はなかったようだ。ならば何故、ズィーリオスは俺の見た目の変化が、契約を結んだ影響だと断定できるのだろうか。

 ズィーリオスの後頭部をジーっと見つめる。







『それは、俺が聖域の管理者という立場にいるからかな。管理者は、他の聖獣とは役割が違うんだ。まず、聖獣が何なのか説明しようか』







 こうして、ズィーリオス教授による聖獣についての講義が始まった。



 聖獣は、ズィーリオスを含めて世界に5体存在する。聖獣は基本的に聖域にいることが多いが、必ず聖域にいるわけではない。今のズィーリオスのように、世界中を好きに移動している者もいる。だが、その存在は知られることはなく、人に上手く紛れ込んでいるようだ。信用できると判断し気に入った者には、聖獣だとばらして契約をするものもいる。この聖獣との契約は、通常のテイマーと魔物が行う契約とはものが違うらしい。



 テイマーと魔物の契約は、魔物側が屈服し服従を決め、与えられた名を受け入れたら成り立つものだ。

 しかし聖獣との契約は、聖獣側が契約者を選び、対等な関係で成り立つものだ。代替わりして初めての契約であれば、契約者に名を貰い、聖獣側がそれを受け入れることで契約が完了する。また、過去に契約していたことがあるが、その契約者がもう亡くなってしまっている場合は、その時に付けられた名を新たな契約者に教えることで契約が完了する。





 聖獣が名を付けてもらう、または教えるということは、契約者と共に生きることの宣言であるのだ。









 そして、彼ら聖獣が世界中を旅することは、聖獣としての役割を果たすためでもあるようだ。

 聖獣の世界への役割として、世界を危険に晒す物を歴史から排除することだ。時代が進むと、人が人の身では余りうるモノを作り出してしまうことがある。それを再び生み出されないように取り除き、記録を消し、聖域と言う場所で封印しているのだ。破棄できるものであれば破棄するが、破棄できない程のモノが作られる場合もあり、それらを監理する意味も含めて聖域内に封印しているらしい。この封印するモノの中には、人が作ったものだけではなく、ダンジョンから発掘されたモノも含まれている。



 これらの聖獣は、ズィーリオスのように代替わりを繰り返しながら、大陸を東西南北の4つのエリアに分け、各自の担当場所としている。他のエリアに行くことも可能だが、誕生した聖域の場所を中心として自然とそのようになったようだ。そして自分の担当エリアに特に問題が無ければ、自由にしていいということでもある。



 だがズィーリオスは担当のエリアというものはなく、その代わり、聖域の管理者としての役割がある。管理者は以前に聞いた通り、全ての聖域に赴き、聖域の結界を維持する役目だ。勿論、聖域に封印しなければならないモノが見つかれば、他の聖獣と同じように聖域へ封印する。



 管理者と呼ばれているが、聖獣間に上下関係はなく、対等な関係性らしい。ズィーリオスが聖獣のまとめ役というわけではない。





 しかしズィーリオスのその役割上、600年近く効果が持続される強力な結界を張る為、他の聖獣たちに比べて保有魔力量が違うらしい。対等な関係ではあるが、能力差は存在する。







 一連の聖獣についての講義が終わり、俺の聖獣についての知識が蓄えられる。ただ自由に生きているだけではなく、きちんとズィーリオス以外の聖獣もやるべきことがあるようだ。











『そこで、説明していて思ったことなんだが、リュゼが疑問に思ったことに関しての俺の見解があるんだ。真実はどうなのか分からないが、それを説明してもいいか?一番現実味があると思うんだ』

「俺にはさっぱりだから、可能性でも教えてくれ。きっとズィーの考えが正解に近いだろうし」

『俺が知っている限り、今までの歴史上、聖域の管理者が誰かと契約を結んだことはない。俺とリュゼの契約は意図したものではなかったが、俺がリュゼを気に入っていたのは確かだ。契約したいと思うぐらいには側にいたいと感じたのもな。まあそれが結果として、リュゼは歴史上初の聖域の管理者の契約者となったわけだ』











 そしてズィーリオスの話は続く。聖獣との契約について、先ほど述べたことも含め、さらなる情報が追加される。





 契約は聖獣側が認めた相手であれば誰でも良いというわけではない。契約の際に魔力交換を行うが、そのお互いの魔力を受け入れられるだけの相性の良さも必要になる。

 魔力量の差が激しいと、膨大な量の魔力の激流に飲み込まれてしまうこともあるらしい。また、魔力の質が合わないと、異物を体内に無理やり流し込まれたような激痛が走るようだ。



 魔力が開放された時の感覚を思い出す。あの時確かに、お互いの魔力を交換し相手に流した。だが、合わないと感じることはなく、むしろ心地いいぐらいだった。あれが相性が良いということなのだろう。

 聖獣はその相性の良さを、契約候補者の側から判断できる。なので、相性の悪い相手に契約を持ちかけることはないようだ。





 このことから、俺は聖域の管理者と契約が結べるほどの相性の良さだったことが分かる。ズィーリオスの魔力量に飲み込まれない程の魔力の持ち主など、滅多に現れないだろう。そのため、今まで聖域の管理者と契約したものが存在しなかったのだ。





 ズィーリオスは聖獣であるため、聖属性の素質は持っている。その質は魔力が影響している。そして俺は、ズィーリオスの魔力の質と相性が良い。つまり、俺の魔力の質が、聖属性に成り得る素質であったということだ。しかし、契約での魔力交換は、お互いの魔力を相手に馴染ませる意味も含まれているらしい。







 そして、聖域の管理者と契約するという前代未聞の状況において、俺の髪の色が変わったのは、俺の魔力が外部に漏れないように封じられていたのが原因ではないかというのだ。契約において、俺からの魔力が提供されず、ズィーリオスからの魔力だけが提供されたことで、魔力が馴染まず、ズィーリオスの魔力の質が見た目に影響してしまったのではないかと言う。だが、時間が掛かったが元々相性は悪くなかったので、悪影響が起きることもなかった。ゆっくりとズィーリオスの魔力が馴染み、定着してしまったのだろう。



 聖獣の白という色が。















 事実はどうなのかは分からない。しかし、胸の中にストンと落ちた。







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