はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

文字の大きさ
上 下
66 / 340

国外逃亡

しおりを挟む
 ハーデル王国最北端の街。

 北に聳える山脈地帯、ロザロ山脈の麓の街に来ていた。姿がバレないように飛び立つ時と同様に幻影魔法を掛け、直接街中の裏路地に降り立った。そしてズィーリオスは予定通り、人化してフード付きのマントで俺と同じく髪を隠した。

 街に寄ったのは当分の間、物資の調達が出来ないので、今のうちに必要なものを手に入れておくためだ。特に、在庫を切らしている塩胡椒が欲しいがこの街にあるか分からないので、あれば買いたい。資金の方が少々心許ないが、ここでダンジョンの魔石を換金しようものなら、足取りがバレてしまうので上手く遣り繰りしないといけない。

 お金には余裕が出来たはずなのに、何故また逆戻りしているんだ。以前に比べたら圧倒的に身の回りの物は良くはなっているが、やはり人里ではお金を気にしないといけないのか。はあー。



 街中を歩きながらお店を物色し、必要そうなものがあれば購入していく。しかし、先ほどからズィーリオスや精霊王が無駄なものばかりを欲しがり、却下するのに忙しい。

 食事の要らない精霊王が食べ物を欲しがったり、何に使うか分からない小物を手に取るズィーリオス。王都では大人しくしていてくれたのにどうしたというのだズィーリオス。まだ何も買っていないのに疲労感が半端ない。









『人の街には随分久しぶりに来たけどぉ、昔は見なかったものがたくさんあって面白いわねぇ!あっ。あれは何かしらぁ?』







 またどこかの屋台のお店にフラ~と行ってしまった精霊王の背中を見送りながら、ズィーリオス伝づてに精霊王に勝手に物を盗らないよう伝えてもらう。問題を起こさないか心配だ。昔とはどれ程昔なのだろうか。数十年のレベルではないだろう。精霊にお金と年齢の概念はあるのだろうか。



 危険な状態になることはないだろうが、トラブルを起こしそうで怖い。ズィーリオスは視界内におり、人の生活について知っているので大丈夫だが、今度新たな街に着くまでに、精霊王とは今の経済知識とのすり合わせを行うべきかな。流石に盗ることはないと思うけど。物々交換の時代の知識だったら困るし。

 所々に騎士が巡回しているので尚更だ。位置的に、この街は王都から早馬を飛ばしても4日かかる距離だ。まだここの騎士達は俺のことを知らないはずだが、記憶に残されちゃあいずれバレるだろう。



























「それにしても、今朝からずっと騒がしいわね。早く収まればいいのだけれど」





 パン屋さんで、乾パンと日持ちするパンと昼食用のパンを大量購入していると、パン屋のおばさんが迷惑そうに呟いた。







「いつもとは違うのか?」







 現状でさらに面倒ごとには巻き込まれたくないので、情報収集をすることにした。何かあるならさっさと街を出よう。







「今日、この街に来たの?それなら知らなくても無理はないわね。今朝は普段より、騎士の巡回が多いのよ。それに街の門の検問も厳しくなったらしいわよ!この街を出る時は、時間に余裕を持って出た方が良いわね!」

「それは何故かはわかる?」

「お兄さんはたくさん買い物してくれたし、特別に教えてあげるわ!実はね・・・・・どうやら王都の方で、王族の方を襲った人がいるそうなの!それも高ランクの冒険者だったらしくて、逃げて来る可能性があるから、王都から国全体にお達しが行っているそうよ。それで罪人がこちらに逃げてきて来るかもしれないから、今から調べているんですって!こんな北の端の街に来るとは思えないけどねー」







 おばさんは楽しそうに笑いながら教えてくれるが、俺としては全く笑えない。情報提供の礼を言って店の外に出る。



 いくらなんでも情報の伝達が早すぎる。騎士団と冒険者たちの包囲網から抜け出たのは、昨日の夕方遅くだ。既に最初から、俺を犯人として仕立て上げる用意がされていたということだ。それも、包囲網から逃げ出すことも想定済みのようだ。それも国全域に情報が広まっている。ギルドも絡んでいるので、俺が元々行こうと考えていた国々には、この様子では既に伝達済みだろう。





 これほどまでに国が早く動くとなると、国の上層部も関与しているのか?だが俺がバルネリア家の人間だったことは知られていないはず。バルネリアの人間も俺が生きているとは思わないはずだ。魔封じの耳飾りが外れたら、魔法を掛けた本人に分かるようになるという仕組みにはなっていない。俺のことを知っている貴族は、アイゼンの身内の少数だけだ。身内も伯爵位の地位しかなく、さすがのアイゼンでもこれほど迅速に国を動かすことは出来ない。いくら国に影響力があると言っても、所詮家督を退いた一介の貴族でしかない。そうなると、やはり考えられるのは、伯爵位より上の権力者が関与している可能性だ。



 完全に俺を狙っている。それに相手が高位貴族で、ほぼ国と同等となれば、俺にはどうしようもない。だがきっと、レオとシゼがこの件については動いてくれるだろう。簡単には動けなくなるだろうが、あの2人に任せよう。そしてその間、俺は逃げ続けることにしよう。





 騎士の動きに注意しながら、脇道に入る。必要なものは買い終えた。塩も胡椒も持っているお金で買えるだけ買ったが、以前と同じ量まではいかなかった。購入し持っていた荷物をマジックバッグの中に詰め込む。









『リュゼぇー。こんなところにいたのねぇ。追っ手が既にこの街にも来ているそうよぉ』

「精霊王。丁度いい所に。その話聞いたんだな」

『ええ。貴方たちも既に知っている様ねぇ。もっと早く分かれば良かったのだけれど』

「いや、情報を集めてきてくれたんだろ。ありがとな。そういうわけだから、今から街を出るがいいか?」

『いいわよぉ』

『いいぞ』





 荷物を詰め込んでいると、精霊王と合流する。精霊王も同じ情報を聞いて来たようだ。問題を起こすかとハラハラしていたが、逆に、既に知ってはいたが情報を持て来てくれたのは予想だにしなかった。今後は安心して目を離すことが出来る。











 再び幻影魔法で姿を消し、人化を解除したズィーリオスに乗って街を離れる。そして今度こそ山脈地帯、ロゼロ山脈へ向かった。

































 飛び立って暫くし、街から離れた麓の岩場で遅い昼食を取り、軽く休憩を入れる。



 ロザロ山脈は、木々の生えない岩だらけの山脈だ。雪が積もることもないため寒くはないが、中腹までは、頂上に行くにつれて吹きすさぶ。目を開けていられず、気を抜いたら吹き飛ばされそうな環境だ。中腹辺りまで来たらこの風が止むらしいので、現在そこまで登山をしている。前世では、整地された難易度の低い山しか上ったことがないので、登山の大変さが身に染みて分かる。



 現在魔物には遭遇していないが、この風の領域を抜けて中腹のあたりに行くと出没してくるらしい。山脈の移動は基本的に、中腹辺りを進むことになっている。風の中よりも、魔物を相手にする方が遥かに楽だからだ。だが俺は不慣れな足場である為、修行がてら戦闘を行い、危なくなったらズィーリオスがフォローに入ることになった。精霊王は、不測の事態が起きた時のために魔力を温存だ。





 暴風の中進むこと2時間近く。抜けきった先は見晴らしが良いため、遠くに魔物がいるのが分かるが、比較的穏やかな空間があった。もう既にへとへとだ。後はズィーリオスの案内に沿って聖域へ向かうだけだ。



 だが、その前に休憩させてくれ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―  “賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。  だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。  当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。  ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?  そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?  彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?  力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...