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向かう先

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 騎士団の追っ手から逃げた翌日。

 既に日が暮れかけていたこともあり、あまり長距離の移動をせず近くの森に降りて、身を隠し一夜を明かした。

 この辺りは既に王都近郊ではないため、そこそこの強さの魔物が夜に現れていたようだが、ズィーリオスの気配で逃げ、襲い掛かって来ることもなかったそうだ。



 ズィーリオスだけでもいると安全だが、今はさらに精霊王もいる。追われている身だが、不安は一切感じない。精霊王とはまだ契約をしていないが、普段出て来ない精霊の園フェアリーガーデンからわざわざ出て来て、契約したいと言っているほどなのだから既にもう仲間だ。やっぱり、信頼出来る仲間が側にいるというのは心強い。







「これからどこに行こうか。とりあえず、この国からは出ないといけないけど」





 地面に木の枝で、ハーデル王国の周辺国の地図をおおまかに描く。大体の方角と位置だけの簡易的なものだ。



 現在いるのは王都の西側。ハーデル王国の北西端辺りの地域だ。その地域に持っていた枝で刺し跡を付け、現在地を確認する。





 この大陸は中央部に、巨大な中央砂漠と呼ばれる魔境が存在する。砂漠全域が魔境なのではなく、さらに中央部に強力な魔物が跋扈する別名、死の砂漠と呼ばれるエリアがある。この砂漠を中心として、東から南の土地に人間を中心とした人の文明国家が存在する。



 そしてハーデル王国は、人が住む大陸の東側の北に位置している。数ある内陸国のうちの1つだ。ハーデル王国の北には南北を切り分けるように山脈が連なり、さらに北部への人間国家の侵攻を防いでいる。

東には英雄の森があり、森を超えた先に海洋国家がある。ハーデル王国の西側、中央砂漠との間には人間最大の軍事国家のルガーディン帝国が。南にはラドニア神聖国と商業国家が存在する。



 ハーデル王国は周辺諸国と国交を築き、その仲は比較的良好だ。罪人のために国境の取り締まりを強化し、多少の騎士団が国境沿いに派遣されても騒がない程度には。3年前の情報だが、関係が悪化したという話は聞いていないので、きっと変わらず良好な関係だろう。



 ズィーリオスがいるので、態々出入国を監理している通行管理署の越境門を利用する必要はない。通常は、この通行管理署から許可が出ないと越境門を利用することは出来ないのだ。この許可は身分証の提示が必要なため、冒険者はギルドカードを使用するが、今の俺には指名手配犯はここに居ますという自己発信になってしまう。勿論、そんな馬鹿な真似をするつもりはなく、相手方も俺が簡単に越境する手段があることは、目の前で逃げる時に見たのだから知っているだろう。



 ギルドは世界各地に存在しているので、国外に逃げても安心は出来ない。騎士団の公の追跡は断ち切れるが、それでも完全には断ち切れないはずだ。



 俺が逃げた方角的には、ルガーディン帝国が近い。だが、追っ手も俺が逃げた方向に一先ず追ってくるはずだから、ルガーディン帝国に行くのはまずいか。なら大回りになるが、南に逃げる手もある。







『ねえ、リュゼ。以前、王都方向に聖域があるっていう話したの覚えてる?行先を迷っているなら、そこに行ってみないか?聖域なら追っ手も来れないし』





 南に行くならどの国がいいか考えていると、ズィーリオスから行先の提案をされる。確かに、聖域なら安全で、元々行く予定だったのでいいかもしれない。ただ、王都方向とは王都の南に位置するネーデから見た時だ。つまり北を指す。

 枝先を、スーとハーデル王国の北にある山脈に持っていく。







「場所はこの辺りということか?」

『うん。多分そうだな。王都にいた時も、聖域の場所はさらに北って感覚があったから』







 なるほど。山脈地帯か。無意識に除外していたが、人が来ない所の方が目撃される心配もない。例え騎士団が追って来ても、この山脈一帯は王都周辺の魔物とは比べ物にならない強さの魔物が跋扈しているので、深入り出来ずにあまり執拗に追ってこないだろう。





 そして追っ手は、逃げるなら他国、それも近場の帝国か遠くても帝国を経由し南の国に行くと考えそうだ。実際、俺はズィーリオスに言われるまでそう考えていた。しかし、その逆を突くのはどうだろう。山脈沿いに英雄の森を迂回しながら、東の海洋国家ベッツェ共和国に行こう。その方が面白そうだ。肉ではなく新鮮な魚介類が食べたい。



 ベッツェ共和国は、英雄の森やハーデル王国の南の国を経由しないとたどり着かない地域なので、ハーデル王国とはあまり国交がない。ハーデル王国周辺国家の中では、比較的俺にとって安全な国と言えるだろう。



 ハーデル王国側も、西に逃げた相手がまさか東にいるとは思わないだろう。検問は全て回避して街に入り込めばいいし。うん、決めた。そうしよう。海鮮物を食べに行こう。





 立ち上がり、木の枝を放り投げながら、足元の地図を足でかき消す。





「決めた。ズィーの言う通り、まずは北の聖域に向かおう。そして、英雄の森を迂回するように東に移動して美味しい海鮮物を食べよう」







 俺の動きに合わせてズィーリオスも立ち上がる。そして早速出発しようと、ズィーリオスに乗ろうとした俺をズィーリオスが止める。







『そのまま移動してはまずいんじゃないか。どこで誰が見ているか分からないし、顔が見られているから、以前買ったフード付きのマントでも着ていた方が良い』

『確かにそうねぇ。多くの人にバッチリ顔を見られているものぉ』





 ズィーリオスと精霊王に言われ納得し、マジックバッグの中からマントを取り出し、羽織る。







『それにぃ、白い髪の人なんて他にはいないのだからぁ、顔がバレてなくてもすぐにバレてしまうわよぉ?白は聖属性を表す色だものぉ。まあぁ、ほとんどの人は聖属性の存在すら知らないからぁ、なんで白い髪なのかは分からないでしょうけどねぇ。でもその分印象に残ってしまうでしょうぉ?』







 そう言われて気付く。王都では、俺たち以外に若くして白を身に宿した人は誰もいなかった。歳を取った人であっても、白髪の色は俺たちの白とは明らかに違った。くすんだ白だったのだ。自分の髪を手に取り、目の前に持って来て光に翳す。キラキラと光るような、瑞々しい若さ溢れる白だった。

 こんな色の髪をしていればすぐにバレるのは確実だ。ズィーリオスも姿を見られている。王都内では人化していたが、同じく白い髪をしていたので、聡い相手であればズィーリオスが人化していたのだとバレるだろう。

 俺の側に、獣のズィーリオスがいる時は同じ髪の青年はおらず、青年がいれば獣のズィーリオスがいないのは調べればすぐ分かることなのだから。





 聖獣だから人化出来るのであって、普通、獣が人化することはないが、獣人の中で強い者は獣化と呼ばれる、ズィーリオスとは反対の変身が出来ることは知られている。もしかしたらズィーリオスは獣人だと思われるかもしれない。ズィーリオスの種族は申告でしか伝えていないので、確実なことだという保証はないからだ。聖獣だとバレるよりは遥かに良い。

 だが、獣人は耳や尻尾といった特徴があるが、ズィーリオスは完全に人間の形態をしている。希少獣人だと勘違いしてくれないだろうか。





 いくら考えても答えなど出ない。頭を振り、とりあえず今後のことを考える。ズィーリオスはなるべく人がいるところでは人化していてもらい、俺と一緒にフード付きマントを被って髪色を隠す。人前でモフれないのは残念だが、宿で思いっきりモフることにしよう。



 そしてふと気付く。ネーデのドワーフのおっさんに渡された手紙を、王都にいるという知り合いに渡せていないと。何が書いてあるか分からないが、紹介状だと言っていた気がするのですぐには届けなくてもいいものだろう。この状況で王都に戻ることは出来ないしな。



 マジックバッグの奥深くにしまっておこう。ほしい物を想像し手を突っ込んで、それが中に入っていれば手に触れるマジックバッグの仕様上、奥深くがあるのかは分からないが。















 フードを深くかぶり、ズィーリオスの背に乗る。念の為ズィーリオスにお願いして、光の屈折を利用した幻影の魔法を掛け、飛び上がる姿を見えないようにする。



 安全な地上から姿が見えない高さまで上がる。そしてゆったりと、北の山脈地帯へ向け移動を開始した。

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