はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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謎の存在

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 30階層をクリアした俺たちは、その後も順調に次の階層への階段を見つけて攻略していた。既にダンジョンに来て4日目を迎えていた。きっと今頃、外は大変な騒ぎになっているだろうに、当事者のレオとシゼは仲良くダンジョン攻略を楽しんでいた。常に戦闘を行うことはしないが、実践形式の訓練ということで、俺が剣の指導及び戦闘での立ち回りについて教えながら日々を過ごしている。少しずつだが確実に上達していく2人を見ていると、普段から毎日鍛錬を積んでいたことがわかる。基礎がしっかりしているからこそ実戦での動きに応用が利く。





 順調に攻略を進めている俺たちだが、最近少し気になることができた。ズィーリオスの様子がなんだかおかしいのだ。



 時折ズィーリオスが鼻息荒く息を吐き、犬歯をむき出しにすることが時々あった。そう、今だってそうだ。







『ズィー、どうかしたか?最近なんだかおかしいが、体調でも悪いか?』

『いや、体調には問題ない。デカい虫が顔の周りを飛んでいるだけだ』

『デカい虫?え、それは嫌だな。鼻に入らないように気を付けろよ』

『ああ、入りはしないが気を付けよう』





 ドーーーン。





 ズィーリオスの返答があったその瞬間、急にズィーリオスの前に、真っ黒の何かが落ちた。急なことに驚き、剣を抜いて辺りを警戒するが何の気配も感じない。遠距離攻撃か?

 その攻撃は地面の石を破壊し、少し陥没を作っていた。落下地点の中心から、半径1メートルほどの大きさまでひび割れが広がっていた。攻撃前の魔力の気配も感じず、2発目もなくここに向かってくる魔物の気配も感じない。一体どこから?



 一番先頭を歩くズィーリオスの目の前に落ちたのだから、敵は前方にいると思われるが、気配はやはり感じず光球の光の範囲外なため、確認することは出来ない。本当に一体何者だ?レオとシゼも警戒し、大人しくズィーリオスの背中の上でいつでも動けるように準備していた。







『全く。リュゼ、警戒しなくていい。大丈夫だ。相手は俺たちをどうこうする気はない。ただの嫌がらせだ』

「は?嫌がらせ?誰が?」







 ズィーリオスがやれやれとでも言いたげに、俺に振り向き、真っ直ぐ目を見つめている。ズィーリオスが俺に嘘をつくわけがないので、本当に大丈夫なのだろうと剣を収める。俺の行動からレオとシゼも警戒と解くが、言葉の内容から、先ほどのものがどういう意図のものだったのかは理解出来たようだ。しかし、俺たち以外誰もいないこの場所で、ズィーリオスは俺たち以外の者がいると認識している。ズィーリオスだけが見える何かがいるのかもしれない。







『デカい虫の嫌がらせだ。』





 ドゴーーン!





 また、ズィーリオスの目の前に先ほどと同じものが落ちてきた。しかし、ズィーリオスは全く意に介していない。だが今の出来事からして、本当に”デカい虫”とやらが攻撃してきてるようだ。







『な?虫の嫌がらーーーーー」





 ドンッ!





『今、俺が喋ってるだろうが。虫。』





 ドガガーーン。





『うるさいな。虫!』





 ドンッ!ドンッ!ドンッ!





 それに嫌がらせというもの納得で、攻撃が必ずズィーリオスの顔面すれすれの目の前に落ちるのだ。攻撃のコントロールが正確過ぎる。本当に害する意思はないようだが、何だか虫と呼ばれることに怒っている気がするのは気のせいだろうか。



 念話での状況把握が出来ないレオとシゼは、急にズィーリオスに対しての攻撃が激しくなったタイミングで、ズィーリオスの背中から降りて俺のところまで来ていた。どういう状況だと視線で問われるが、とりあえず大丈夫だということと、諦めようという思いを込めて頷き、首を横に振る。伝わったのかは分からないが、2人とも溜息をついているので多分伝わっているはずだ。昔は声に出さずとも大体伝わっていたので、伝わっていることを信じる。



 そしていつの間にか、攻撃がズィーリオスを狙っていて、ズィーリオスが攻撃を避け続けるという状況になっていた。マジで何がどうなっているんだ?意味が分からん。







 そんな中、戦闘音を聞きつけた魔物が集まって来る。今いる階層には、真っ黒い甲殻に全身を覆われたサソリ型の黒毒蠍ブラックポイズンスコーピオンという魔物に、臭いは無いがヘドロの様な見た目をしたアサシンスライムと呼ばれるスライムの魔物がいる。



 両者ともにかなり面倒臭く、黒毒蠍は光魔法以外の魔法攻撃の無効化、頑強な鋼並みの甲殻を有しながら、高速で移動し尻尾からは麻痺毒を噴出する。だが、魔法攻撃は完全には無効化出来ないようで、どうやら一定の攻撃力以上は無効化出来ないようだ。ズィーリオスの高火力の火魔法で一撃だった。



 甲殻が熱を持つことで、内部に火が通り、プリップリの程よい歯ごたえのある焼き蠍になった。尻尾の部分にしか毒はないので、それ以外の肉は食べることが出来、その海老の様な味は大変美味でした。その後、肉以外の味と食感を気に入ったズィーリオスが乱獲しまくりましたとも。ええ。



 アサシンスライムはその名の通り、隠密系の技術に特化した、体長30センチほどの大きさのスライムだ。体内で作成した強酸性物質の分泌液を飛ばしてきたり、敵に取り付いて分泌液で溶かすというのが攻撃法だ。分泌液を避けた後の地面は、石造りというのにジュッという音を立てて溶けるのだ。人の皮膚なんか簡単に溶けてしまうのが容易に判断出来るだろう。核さえ破壊できれば簡単に倒せるが、分裂し増殖しながら、音もなく襲い掛かるので厄介だ。さらに、影の中に潜むことが出来るので非常に手強い。ダンジョンの下層に入っているからか、これらはBランクの魔物である為、そのランクに見合った能力と言える。





 そんな厄介な相手と、レオとシゼを守りながら戦うのは非常に大変で、防御で手一杯だ。シゼが俺の後ろから光魔法を黒毒蠍に飛ばしてくれているが、弱点とはいえ相手はBランク。一撃で倒れてはくれない。



 アサシンスライムに対してはレオが魔法攻撃を行ってくれているが、影の中に隠れられては攻撃出来ない。所々避けられない攻撃が被弾していくが、被弾した瞬間に自己治癒を行い回復させる。



 5歳児の時でさえエルフに並ぶと言われるほどの魔力量を有していたが、成長と共に増えていった魔力は今では無尽蔵とも言えるほど膨大なものとなっている。実際には無尽蔵ではないと思うが、身体強化と自己治癒にしか魔力を使わない俺にとっては無尽蔵に等しい。さらに、魔力を使っていく傍から回復していくのだ。

 故に、防衛に徹し続けていることは出来るが、先ほどから魔法をバカスカ打っているレオとシゼの魔力は、そろそろ底をつきかねない。だが、反撃することも出来ない。時間が経てば経つほど、状況が悪化していくのは目に見えている。





 な・の・に!一向に終わる気配の見せないズィーリオスと謎の存在との攻防に、イラつくのは仕方ないよな?絶対あいつ等遊んでやがる。







「おい。ズィーリオスと姿が見えないお前」







 自分で思っていたよりもドスのきいた低い声に、後方のズィーリオス達のところから音がピタリと止む。魔力切れか、レオとシゼの魔法攻撃の詠唱も止み、辺りには俺の防御音のみが響き渡る。勿論、後ろを振り向いてズィーリオス達の様子を見ることは出来ないので、あちらこちらから迫って来る攻撃を防ぎながら、気配だけで様子を探ると、ズィーリオスはピタリと動きを止めて動かない。謎の存在は元から気配がつかめないため分からないが、何となくズィーリオス同様に動いていない気がする。







「お前たちのせいで、このようなっ、状態になっているんだ。どー落とし前っ、付けるつもりだ?」







 剣を振るいながら問いかける。危ない。今、影に潜り込んだスライムに側をすり抜けられるところだった。



 直後、いきなり目の前の魔物達に魔法攻撃の数々が直撃していく。驚くほどの連帯により、僅か数秒で全ての魔物が殲滅された。
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