はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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「B!B-!え?まだ、3年ぐらいしか経ってないのに!?」

「流石兄様!ズィーリオスが優秀でも、テイマー関係なく、こんな短期間でBに上がれる冒険者はなかなかいないよ!剣の腕は昔から良かったもんね!」





 ズィーリオスのことと、王都での裏ギルドの動きに関して探っていたことしか話していなかったからか、どうやら2人とも俺がリュゼになってすぐに、冒険者として生きていたと思ってるっぽいな。まあ確かに、お金がないと普通、人里では生きていけないからな。隣人のぶつぶつ交換でどうにかなるわけでもないし。





「2人とも違うんだ。」

「遠慮することないぞ!本当に凄いことなんだから!バルネリアの連中馬鹿だな!」

「そうだよ!兄様はもっと誇っていいんだよ!Bランクなんてハーデル王国内でも10人ぐらいしかいないんだよ!最速最少年齢だったはずだよ!?」





 2人の興奮度が凄すぎて、ズィーリオスの上から落ちそうになっている。ギリギリの角度で耐えているのは、普段の鍛錬で培った体幹の賜物か。こんなところで体幹力を発揮しないでほしい。見てみろ。ズィーリオスのこの迷惑そうな顔を。あ、上に乗ってるから見えないのか。いや、俺に助けを求められても。俺だって今の2人には近づきたくな、って待って待って!分かった!止めるから!なんで俺、壁際に追い詰められてるの!?分かったから、無言で俺の顔面を涎塗れにするなーー!













 ズィーリオスの説得に成功した俺は、顔中の涎を袖で拭い、興奮している2人を落ち着かせて話を聞いてもらえる態勢にする。









「あのな、2人は勘違いをしているんだ。俺が冒険者になってまだ1か月も経ってない。それに、昇級実績のほとんどがズィーリオスのおかげだ。俺がおまけみたいなものだ。」







 実際俺だけだと、今頃E,良くてもDランクぐらいだろう。ゴブリン討伐は数が多く厄介だが、どうにか出来ただろうが、他の実績はほとんどがズィーリオスのおかげだ。ネーデ襲撃事件の時でも、ズィーリオスが大量の魔物達を抑え込み続けていてくれたからこそ、俺は安全に敵の後方に回れ、敵将との戦いに専念出来たのだ。護衛依頼に関しては、俺は何もせずに過ごしてランクが上がったわけだしな。



 あれ?何かしら言ってくると思ったが静かだな。あ、2人とも意識が飛んでいるのか。うるさくないのはいいけど。先ほどの騒ぎ声を聞きつけたのか、集まって来ていた魔物達を殲滅していく。この階層、シャドークロウしかいないのか?カラスは見飽きたんだけど。







『なあ、リュゼ。もうこの2人下ろしていいか?重くはないが動き過ぎて乗せずらい。乗せるならリュゼだけがいい』

『そう言ってくれるのは嬉しいし、俺も乗れるなら乗りたいが2人を置いていくわけにはいかないだろ。でも今なら動いてないし、大丈夫じゃないか?2人にもあまり動かないように言っておくから。それに、シゼは俺の実の弟でもあるから、ズィーの兄でもあるんだぞ。無理に仲良くしろとは言わないから、仕事だと思ってここは頑張ってくれ』

『俺の兄、か』

「そうそう、シゼの弟」

「僕の弟?」





 思わず声に出してしまった言葉に、シゼが反応に正気に戻る。どうしよう。なんか不穏な気配が・・・。レオも側のシゼの異変に反応して正気に戻る。







「兄様?僕に弟なんていないよ?」

「ズィーも俺の弟だから、生まれた順に考えればシゼがズィーの兄になるだ、ろう、と・・・」

「ふーん?そうなのかー」







 シゼが、大量に魔石が転がっている地面に降り立つ。いつの間にか、レオはズィーリオスから降りていたようだ。シゼがズィーリオスの正面に回り込み、真正面から見据えている。きっと、仲良くしようと挨拶でもしているのだろう。ほら、目だけで会話してるっぽいし。この2人から不穏な気配が漂っている気がするが、シゼは笑顔だからきっと気のせいだな。シゼは感情の表現が豊富で分かりやすいタイプだし。









「お、おい。良いのか、あのままで」

「仲良く交流しているみたいだし、大丈夫じゃないか?お互いが兄弟になったことの確認作業みたいなものだろう」

「本気で言っているのか?」

「だってシゼ、笑顔じゃないか」









 レオが信じられないモノを見るような目を向けて来る。酷いな。ここからは聞こえないが、小声で何か話し合っているようだ。ズィーリオスの言っていることを、念話なしで理解出来るようになるなんて流石シゼである。こんな短時間で仲良くなれるとは。やっぱりシゼも、もふもふの虜になったのだろう。









 その後辺りに散らばった魔石を回収し、再び今までと同じように移動する。しばらく進むと、階段ではなく大きな両開きの扉のある空間に出た。親切にも、扉の上に30という数字が刻み込まれている。どうやら今までいたのは30階層だったようだ。







「ボス部屋」







 ぽつりとレオが呟く。本の中の情報から考えると、ボス部屋で間違いないだろう。そして中のボスは、シャドークロウの系統の魔物がいる可能性が高い。









「よし、なら最後の確認だな。前に話した通り、レオとシゼは中に入って直ぐに、壁際に退避。ズィーは2人に防御結界を。戦闘は俺とズィーがやる。良いな?」







 全員が頷いたのを確認し、武器の確認を行う。流石ドワーフ作の剣。ここまでたくさん切りまくって来たのに、刃こぼれ1つない。あ、そういえば、王都の鍛冶職人の知り合いに渡してくれと頼まれた手紙があったの忘れてた。帰ったら渡しに行かないと。

 レオとシゼも戦闘には参加しないが、念の為の武器の確認、そして自身への防御魔法を掛け終えたようだ。俺も身体強化をしておく。







「さて、初めてのボス戦、行くか!」







 両腕で思いっきり扉を押す。すると簡単に扉は大きく開いていく。思っていた通り、中は真っ暗で何も見えない。中に入るとすぐさまレオとシゼが壁際に移動し、ズィーリオスが光属性の結界を張る。そしてズィーリオスが光球をいくつも作り出し、周囲に拡散させる。おかげで視界が確保出来た。

 内部は半径50メートルほどの広さの、丸い舞踏会ホールの様な場所だった。視界が確保できたと同時に、扉が音を立てて閉まる。その直後、頭上から物凄い殺気と気配が膨れ上がり、間髪入れずにその場から離れる。衝撃音と砂埃が見やすくなった視界を覆い隠す。





 視界が悪い戦闘は慣れている。それに、これほど強烈な殺気をばら撒いていれば、気配だけでどこにいるか把握できる。







「カアーーーーー!」







 砂塵の中から響く雄たけびに、空気が震え、ホール中の光球がかき消された。そして完全なる暗闇に沈む。光の結界で覆われていたはずの、レオとシゼの姿さえも見えない。







『あの2人は無事だ。目立って標的にされる可能性があったから、闇の結界でさらに覆っといた。気にしないでいい』

『了解!』







 不安が完全に消えたことで、未だに晴れない砂塵の中に意識を完全に向ける。敵の位置がどこにあるか分かるからいいが、壁の位置が分からないことで自滅する可能性があるのが1番不安なところだ。魔力を拡散させることが出来れば、自身の魔力を広げて手足のように空間を把握することが出来るらしいのだ。結局どこでも魔力がネックになる。特に戦闘においては。



 ボス階のくせに遁走の花はなかった。もしかしたらこいつを倒した後に咲くものかもしれない。ボスなら、今までのシャドークロウより強く質がいいだろう。よし、禿にしてやる。んでもって、こいつで焼き鳥パーティーだ!



 ズィーリオスが風魔法で、砂塵を飛ばした中にいたボスを見て、一瞬前の決意が揺らぐ。







 そこにいたのは、頭が2つあるシャドークロウだった。









 禿にする手間が2倍。絶対に腕が疲れるやつだ。戦闘後の疲れを想像して、やる気が一瞬萎えるが、その通常種の2倍の高さの目の位置に、2倍どころじゃない量の肉が手に入ると認識したことで、開始前よりもやる気が跳ね上がった。



 今夜は焼き鳥パーティーだな。

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