はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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フードの人物達

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「やあ、おばあさん。また来たぞ。今日も前回と同じものを同じだけもらいたい」
「あら、この前の少年かい。よく来たね」


 6日前に買った塩胡椒が在庫切れになったので、明日のダンジョン攻略に備えて、スパイスを売っているおばあさんの店に来ていた。



「この前にだいぶ買っていたと思うけど、早すぎやしないかい?」
「うちには大食がいるからな。すぐ無くなるんだよ」
「もしかして一緒にいたお兄さんのことかな?」
「そう、あいつだ。だけどあいつは兄じゃなくて弟だ」
「ほっほっほ。そうかい、そうかい」


 絶対に信じてないな。俺が見栄を張っていると思っているな、あれは。くっ!やはり身長なのか。身長なんだな!仕方ないじゃないか!俺は人間だから成長はゆっくりなんだよ!長命種に比べたら早いけれど。ズィーリオスは聖獣だから、長命種だけど成長が早いんだよ!

 不毛なことに悩んでもしょうがない。気持ちを切り替えよう。大きく深呼吸をする、が鼻で吸い込んでしまったせいで、強烈な匂いにやられ咳き込む。


「おやまあ、大丈夫かい?」
「ふー、ふー。大丈夫だ。落ち着いた」
「なら良かったよ。はい、品物だよ」
「ありがとう。これ代金な」
「うん。丁度だね」


 俺が落ち着いたのを見計らい、おばあさんが商品を渡してくれる。そして代金を手渡し、塩胡椒の入れ物として使っていた瓶を回収してくれるというのでこれも手渡す。今回も瓶なので、次回に手渡すのだ。



「君たち兄弟は冒険者なのかい?」



 受け取った瓶をカバンに詰め込んでいると、ふと、おばあさんから質問される。顔を上げてみると、憂色を浮かべていた。隠すことでもないため肯定すると、ますます憂色を深めた。



「これだけの品物が買えるから、強い冒険者なのかもしれないけど、十分に気を付けるんだよ。ダンジョンに挑むというなら特にね。しっかり準備して、慢心せずにいるんだよ」
「ああ、ありがとう。勿論そのつもりだ。命あっての物種だからな」
「そうだねー。あの子達も、君みたいに慎重に考えてくれればよかったのだけれどねー」
「あの子達?」
「ええ、息子達のことだよ。3人兄弟で冒険者だったのだけど、ある日ダンジョン攻略に出かけたっきり帰って来なくてね」
「・・・そうか。すまない」
「いやいや、良いんだよ。もう10年も前の話だからね。辛気臭くてごめんね。とにかく、君たちは気を付けるんだよ」
「ああ、また来るよ」



 おばあさんの店を出て考える。やはりダンジョンは、死の危険と隣合わせの空間なのだろう。本にもあったが、毎年自身の実力を過信し過ぎた、若い冒険者達が亡くなるということはよくあることらしい。きっとおばあさんの息子達も、そのタイプの冒険者だったのかもしれない。それか、他の冒険者に襲われたか、か。

 ダンジョン内部は冒険者間のルールが存在するが、ガラの悪い一部の冒険者はルールを守らず無法地帯
のようになることもあるらしい。ダンジョン内部は魔物も冒険者も関係なく、死んだ者は一定時間を置くと、ダンジョンに吸収されるように跡形もなく消えてしまう。これを利用して、証拠の残らない犯罪行為が起こる可能性があるようなのだ。
 魔物だけでなく、人にも気を付けないといけない。


「リュゼ?ボーっとして大丈夫?」
「ん?あ、ああ大丈夫だ」


 考え事をしていたせいか、ボーっとしてしまっていたようだ。意識を戻し、街中を歩きだす。

 人通りが多い所に向けて歩いていると、右の脇道からフードを被った2人組が目の前に飛び出してきて、そのまま左の脇道に入っていく。その数秒後に、同じくフードを被った5人組が飛び出して来て、2人組の後を追っていく。



「なんか追いかけられている感じがしたね。今の。ってリュゼ?」
「追うぞ!」
「うぇ!?」


 身体強化を掛け、屋根の上に登りフードの5人組を追う。気配を悟られないように、慎重に屋根を伝い追跡する。小道をグングン進んでいく。ズィーリオスもついて来ているようだが、念のためある指示を出しておく。すると5人組が立ち止まるのが分かった。どうやら2人組は袋小路に追い詰められたようだ。
 屋根の上から様子を見る。



「ははっ!もう逃げられねぇぜ!自ら行き止まりに飛び込んでくれるとは有り難いな!そのまま抵抗せずに殺されてくれや!」
「大人しく死ぬわけがないだろ!僕たちが誰だか分かっててやっているのか!?」
「勿論だとも。俺らは報酬さえ払ってもらえば、どんな依頼でも受けるからな!」
「このクズ共が!」
「おお、怖い怖い」



 ぎゃはははと下品に笑う、襲撃者の5人組。フードで体型が分かりにくいが、今までに見た動きからして、喋っていたリーダー格らしき者はそれなりに実力があるようだ。冒険者のランクで言えば、Bランクに近いCランクぐらいだろうか。それ以外の4人は、Dランク相当だろう。


 先手必勝とばかりに、辺り一帯に光が放たれる。2人組のうちの1人の魔力の高まりが感じられていたので、事前に”目を覆っていて”正解だったようだ。光が消えた時には、5人組のうちの2人が倒れていた。後の3人のうち雑魚の2人は目を抑え、蹲っていた。ただ、光魔法を使った人は魔力切れが起こったのか、息も絶え絶えに、血の付いた剣を地面に突き刺し、もう1人を庇う様に前に立ちふさがっていた。



「ほう、流石だな。しかし、魔力制御がなっていない。まあ、もう今後練習することもないから、気にする必要はないがなっ!!」


 リーダーの男だけは、光の影響を受けることはなかったようで、剣を支えにしている人に切りかかろうと抜き身の剣を持ち前に飛び出した。その瞬間、守られていたもう1人から電撃が放たれ、その隙に狙われた魔力切れの人が後方へと下がる、ことをせず、カウンターの要領で電撃を避けてバランスが崩れたリーダーの男に剣を振るう。しかし男は空中で身をひねり、攻撃を避け、逆にカウンターを決める。脇腹に入ってしまったようだ。見る限り傷は浅そうだが、魔力切れの影響か膝を突き立ち上がれない様だ。



「くっ!!」
「大丈夫か!!」



 電撃を飛ばしたフードの人物が怪我をした仲間に駆け寄り、傷口に手をかざし、詠唱を行う。



「そんなことしている場合かなああ!?」
「ちっ!」



 そのような隙を見逃すような襲撃者ではない。即座に、治療しようとしていた人が剣を引き抜き応戦する。しかし、体格差がかなりあった。襲撃されている2人組は、まだ少年と言っていい体格なのだ。何とか少年は剣を捌き続けるが、圧倒的に力も技量も足りていない。時々剣に電撃を流しながら応戦しているが、流した瞬間に襲撃者は距離を取って回避してしまう。それに、立ち上がれないもう1人を気にしているようだ。

 そんな中、少年たちにとっては最悪なことに、光で目を潰していた残りの2人が回復したようで、怒り心頭といった様子で少年たちを睨みつけ、立ち上がろうとし出した。



「貴方だけでも逃げて下さい!これでは2人とも共倒れしてしまいます!」
「何を言っている!?お前も、一緒に逃げるぞ!じゃないと、あいつに、顔向け、出来ない!!」



 状況をひっくり返すことが困難だと悟った怪我をした少年が、自分を捨てて逃げるように、もう1人の少年に向かって叫ぶ。しかし、逃げるように言われた少年は、聞き入れようとせず、尚も剣を捌いている。



「そんなこと言っている場合ですか!?貴方を守ることが僕の責務です!兄だって分かってくれます!!」


 応戦していた少年の剣がついに弾かれ、無防備な状態に晒される。そして男が冷笑し、無防備になった少年に剣を振りかざした瞬間に、怪我をしていた少年が剣を支えに立ち上がり、男の背後から掴みかかった。男は油断していたのか、簡単に捕まり、倒れこむ。



「今のうちです!!早く逃げて!!」
「ダメだ!止せ!早く離れろ!」




 舌打ちをした男が、自らを掴んでいる少年に対して、その手に持っていた剣を振りかざす。



「止めろ!止めてくれ!!!」



 悲痛な制止の声も届かず、迷いなくその剣は振り下ろされた。
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