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順調な旅路
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馬車から降りたアイゼンは周囲を見渡し、俺を見つけるとニヤニヤとした顔を向けて来た。
「なんでアイゼンがここにいるんだ?」
暫くアイゼンを見つめた後に、言葉を発する。その間の俺の表情が余程間抜け面になってしまっていたのか、肩を震わせながら腹を抱えるアイゼン。アンナはそれを、溜息を吐きながら首を横に振って見やる。
「よろしく頼むと言ったはずだぞ。ぷっ。くっくっく」
「いやいやいや!アンナのことを、だと普通思うだろ!護衛対象が増えてるじゃないか!」
「なに、英雄ならこれぐらい大した問題ではないだろう?それに、”普通”に生きる気はないんじゃなかったのか?」
「くっ!確かに普通に生きる気はないが、護衛対象が1人増えるだけでだいぶ負担が大きくなるぞ?しかも護衛依頼初受注の人にこんなことをやるなど、リスクが大き過ぎる。理解出来ない」
「安心しろ。この王都に繋がる道では強い魔物が出ることはない。英雄ほどの実力者なら手こずることはないだろ」
「対処可能なレベルであれば構わないが。あ、あと、その英雄って呼ぶの止めてくれ。他の場所ではただの冒険者だ。ガルム達もいて、その呼び方の人が多すぎて一々訂正はしなかったが、これからはそうもいかない」
アイゼンを護衛するのはもうこの際構わない。付いてきてしまっている時点でどうしようもない。それよりも、気になっていた英雄呼びについて止めるように伝える。ネーデでは仕方ないと思っていたが、今いるメンバーでネーデの英雄といえば俺を指すことになる。そんな小っ恥ずかしい状況に陥りたくない。良い意味でも悪い意味でも目立つ。余計なトラブルはお断りだ。
「”普通”なら何故と問うところだが”普通”じゃないお前なら理解出来なくもない。目立ちたくない、余計なことに巻き込まれたくないというところか?」
「そうだ。」
「わかった。では、一貫してリュゼと呼ぶことにしよう」
良かった。英雄呼びは回避できたようだ。それにしても、アイゼンとはあまり交流をしていないのに、俺の性格を大体把握出来ているのが凄いな。ギルマスたちとの会話も把握しているようだが、以前聞いたとは言っていた程度からこれほどのことがわかるものなのか?ストーカー?だとしたら、ズィーリオスが気付くだろうし、視線に関しては俺も感じることは得意なんだがな。やっぱり、本人のスキルなのかもしれない。だから陞爵出来たのかもな。
アイゼンとアンナは、いつの間にか準備されていたテーブルとイスに座り、休憩に入る。その側では、昼食の準備が進められていた。
周辺に魔物の気配はしないので、ズィーリオスの昼食は確保出来そうにない。人と同じもので、且つ魔力が含まれているもので我慢してもらうしかないだろう。こんな時にマジックバックがあれば、ズィーリオスの食料を持ち歩くことが出来るのにな。早いとこダンジョンに潜ろう。
昼食を食べ終え、再び進路を王都にとる。夜になるにつれて魔物は活発になっていくので、襲撃の1回や2回はあると思っていたが全くなかった。本当に強い魔物はいないようだ。
ズィーリオス曰く、かなり遠く離れたところにそれなりの魔物の気配がする時もあるが、近づいて来ることはないらしい。
強くランクの高い魔物が現れず文句を言うのは俺たちぐらいだろうな。今後護衛依頼を受ける必要はないのだから、自分たちのみで移動する時は、獣道や道なき道を進んでいく方がいいかもしれない。ズィーリオスの食料を確保したい時は特に。
夜になり、到着した町でアイゼンたちとは別行動になり、宿の確保を行う。その後、ズィーリオスと一緒に町の壁を超えて外に出て、狩りに出かける。この辺りの魔物はランクが低いからか、道中ズィーリオスに恐れて近寄ってこなかった。夕方ごろになると昼間よりは近寄ってはいたようだが、それでも結果に変わりがないため、ズィーリオスの食材を確保しに近くの森へと向かった。多くの生物が森のあちらこちらから様子を窺っているのがわかる。だが、ズィーリオスと一緒にいては魔物が逃げてしまうため、今夜の鍛錬代わりに俺が狩りに行くことにした。つまりズィーリオスは森の入口でお留守番である。
ズィーリオスに教えてもらった方向に向かって、身体強化をかけてひたすら走る。夜の森の中だが、慣れ親しんだ状況であるため、いつものように20分近く森を走り抜ける。すると魔物の気配を感じたので、気配を消し、近づいて様子を窺うと、はぐれらしきオークがいた。血の匂いに反応して集まって来てもらった方が都合がいいので、サクッと首を刎ね、血の噴出が止まるのを待つ。気配が消えたことで倒したことが伝わったのか、ズィーリオスが近づいて来る。後の処理は任せ、近くに他の魔物が寄ってきていないか気配を探り、見つけたら狩るという流れで狩りを行っていく。
このような日々を繰り返しながら、王都までの道のりを進んでいった。初めて訪れたネーデの街でのトラブルが嘘のように、危険のない穏やかな旅が続いていた。通常なら多少の魔物の襲撃があるようだが、ズィーリオスのおかげで予定よりも2日程早く着くようだ。明日の昼過ぎには到着できそうというわけで、のんびりと長めのランチタイムを取っていた。
「明日にはもうお別れしてしまいますのね。わかっていたとはいえ、寂しくなりますわ。このまま旅を続けたいぐらいです」
「そんなに学園に行くのはいやか?」
「ええ、あまり気が乗りませんわ」
食後の暖かい日差しの中で、ズィーリオスにもたれながらウトウトしていると、アイゼンとアンナの会話が聞こえた。そうか、アンナは学園に通っていてもおかしくない年齢だ。だが何故、遠く離れたネーデにいたのだろう。
「アンナは学園生だったのか」
「ええ、そうよ。夏期休暇中よ。だけどそろそろ学園が始まるから、帰っていた領地から王都に戻っているところよ」
「ふーん。そうだったのか」
「あまり興味なさそうね」
「関係ないからな」
行く可能性もあった学園だが、今は大した興味もない。生返事になるのも仕方ないだろう。すると急にアイゼンが何かに思い至ったような顔をし、出発前に見せたような表情を向けてくる。また嫌な予感がする。
王立学園は基本貴族の学び舎だが、平民であっても入学することは出来る。商人のように多額のお金を支払うか、どこかの貴族の支援を受けて入学する方法だ。そのままにするには勿体ないと思われるほどの優秀な者が、貴族にパトロンになってもらう方法として一般的だ。
このような可能性があるからこそ、嫌な予感が掻き立てられる。
「そういえば、アンナ。夏期休暇明けに合同訓練があったよな?」
「ええ、ありますわ。休暇明けの1週間後です」
「そこにリュゼ達を連れて行くのはどうだ?」
「なるほど!いいですわね!是非ともお願いしたいですわ!」
どうやら入学に関することではなかったようだ。だが合同訓練とはなんだ?昔はなかったはずだが。そこに俺を連れて行くということも意味が分からない。俺は部外者だぞ?
アンナが凄く期待した目を向けて来るが、分からないものに返答は出来ない。
「合同訓練とはなんだ?」
「合同訓練は、中等部を卒業予定の3年生が、入学したばっかりの1年生の後輩とグループになり、泊りがけで戦闘訓練を行う合宿というものですわ。下級生が上級生との交流を図りつつ、上級生は下級生に理解してもらえるように、野営の仕方から戦闘の注意点等を教えるためのイベントらしいのです。1年生の頃は目的を理解していませんでしたので、今年は身の締まるイベントなのですよ。特に教えるということは、自分が理解できていないと出来ない行為なので、評価にも関わってきますね。」
なるほど。そういう意味での合同訓練なのか。小学校の時にやる自然教室の、上級生有り、戦闘有りと考えればいいのだろう。王都に近いこの辺りも強い魔物はいないのだ。学生の訓練にはうってつけなのだろう。
「そしてこの合同訓練には、高位貴族の子女も多く参加する。だから念のために冒険者を護衛に付けるのだが、その護衛依頼を受けるつもりはないか?最終的には学園が選定するが、高位貴族からの推薦があれば大体通る。俺が推薦してやるぞ。アンナの護衛に付いてくれないか?」
アイゼンが思いついたのは、まさかの護衛依頼の延長願いだった。
「なんでアイゼンがここにいるんだ?」
暫くアイゼンを見つめた後に、言葉を発する。その間の俺の表情が余程間抜け面になってしまっていたのか、肩を震わせながら腹を抱えるアイゼン。アンナはそれを、溜息を吐きながら首を横に振って見やる。
「よろしく頼むと言ったはずだぞ。ぷっ。くっくっく」
「いやいやいや!アンナのことを、だと普通思うだろ!護衛対象が増えてるじゃないか!」
「なに、英雄ならこれぐらい大した問題ではないだろう?それに、”普通”に生きる気はないんじゃなかったのか?」
「くっ!確かに普通に生きる気はないが、護衛対象が1人増えるだけでだいぶ負担が大きくなるぞ?しかも護衛依頼初受注の人にこんなことをやるなど、リスクが大き過ぎる。理解出来ない」
「安心しろ。この王都に繋がる道では強い魔物が出ることはない。英雄ほどの実力者なら手こずることはないだろ」
「対処可能なレベルであれば構わないが。あ、あと、その英雄って呼ぶの止めてくれ。他の場所ではただの冒険者だ。ガルム達もいて、その呼び方の人が多すぎて一々訂正はしなかったが、これからはそうもいかない」
アイゼンを護衛するのはもうこの際構わない。付いてきてしまっている時点でどうしようもない。それよりも、気になっていた英雄呼びについて止めるように伝える。ネーデでは仕方ないと思っていたが、今いるメンバーでネーデの英雄といえば俺を指すことになる。そんな小っ恥ずかしい状況に陥りたくない。良い意味でも悪い意味でも目立つ。余計なトラブルはお断りだ。
「”普通”なら何故と問うところだが”普通”じゃないお前なら理解出来なくもない。目立ちたくない、余計なことに巻き込まれたくないというところか?」
「そうだ。」
「わかった。では、一貫してリュゼと呼ぶことにしよう」
良かった。英雄呼びは回避できたようだ。それにしても、アイゼンとはあまり交流をしていないのに、俺の性格を大体把握出来ているのが凄いな。ギルマスたちとの会話も把握しているようだが、以前聞いたとは言っていた程度からこれほどのことがわかるものなのか?ストーカー?だとしたら、ズィーリオスが気付くだろうし、視線に関しては俺も感じることは得意なんだがな。やっぱり、本人のスキルなのかもしれない。だから陞爵出来たのかもな。
アイゼンとアンナは、いつの間にか準備されていたテーブルとイスに座り、休憩に入る。その側では、昼食の準備が進められていた。
周辺に魔物の気配はしないので、ズィーリオスの昼食は確保出来そうにない。人と同じもので、且つ魔力が含まれているもので我慢してもらうしかないだろう。こんな時にマジックバックがあれば、ズィーリオスの食料を持ち歩くことが出来るのにな。早いとこダンジョンに潜ろう。
昼食を食べ終え、再び進路を王都にとる。夜になるにつれて魔物は活発になっていくので、襲撃の1回や2回はあると思っていたが全くなかった。本当に強い魔物はいないようだ。
ズィーリオス曰く、かなり遠く離れたところにそれなりの魔物の気配がする時もあるが、近づいて来ることはないらしい。
強くランクの高い魔物が現れず文句を言うのは俺たちぐらいだろうな。今後護衛依頼を受ける必要はないのだから、自分たちのみで移動する時は、獣道や道なき道を進んでいく方がいいかもしれない。ズィーリオスの食料を確保したい時は特に。
夜になり、到着した町でアイゼンたちとは別行動になり、宿の確保を行う。その後、ズィーリオスと一緒に町の壁を超えて外に出て、狩りに出かける。この辺りの魔物はランクが低いからか、道中ズィーリオスに恐れて近寄ってこなかった。夕方ごろになると昼間よりは近寄ってはいたようだが、それでも結果に変わりがないため、ズィーリオスの食材を確保しに近くの森へと向かった。多くの生物が森のあちらこちらから様子を窺っているのがわかる。だが、ズィーリオスと一緒にいては魔物が逃げてしまうため、今夜の鍛錬代わりに俺が狩りに行くことにした。つまりズィーリオスは森の入口でお留守番である。
ズィーリオスに教えてもらった方向に向かって、身体強化をかけてひたすら走る。夜の森の中だが、慣れ親しんだ状況であるため、いつものように20分近く森を走り抜ける。すると魔物の気配を感じたので、気配を消し、近づいて様子を窺うと、はぐれらしきオークがいた。血の匂いに反応して集まって来てもらった方が都合がいいので、サクッと首を刎ね、血の噴出が止まるのを待つ。気配が消えたことで倒したことが伝わったのか、ズィーリオスが近づいて来る。後の処理は任せ、近くに他の魔物が寄ってきていないか気配を探り、見つけたら狩るという流れで狩りを行っていく。
このような日々を繰り返しながら、王都までの道のりを進んでいった。初めて訪れたネーデの街でのトラブルが嘘のように、危険のない穏やかな旅が続いていた。通常なら多少の魔物の襲撃があるようだが、ズィーリオスのおかげで予定よりも2日程早く着くようだ。明日の昼過ぎには到着できそうというわけで、のんびりと長めのランチタイムを取っていた。
「明日にはもうお別れしてしまいますのね。わかっていたとはいえ、寂しくなりますわ。このまま旅を続けたいぐらいです」
「そんなに学園に行くのはいやか?」
「ええ、あまり気が乗りませんわ」
食後の暖かい日差しの中で、ズィーリオスにもたれながらウトウトしていると、アイゼンとアンナの会話が聞こえた。そうか、アンナは学園に通っていてもおかしくない年齢だ。だが何故、遠く離れたネーデにいたのだろう。
「アンナは学園生だったのか」
「ええ、そうよ。夏期休暇中よ。だけどそろそろ学園が始まるから、帰っていた領地から王都に戻っているところよ」
「ふーん。そうだったのか」
「あまり興味なさそうね」
「関係ないからな」
行く可能性もあった学園だが、今は大した興味もない。生返事になるのも仕方ないだろう。すると急にアイゼンが何かに思い至ったような顔をし、出発前に見せたような表情を向けてくる。また嫌な予感がする。
王立学園は基本貴族の学び舎だが、平民であっても入学することは出来る。商人のように多額のお金を支払うか、どこかの貴族の支援を受けて入学する方法だ。そのままにするには勿体ないと思われるほどの優秀な者が、貴族にパトロンになってもらう方法として一般的だ。
このような可能性があるからこそ、嫌な予感が掻き立てられる。
「そういえば、アンナ。夏期休暇明けに合同訓練があったよな?」
「ええ、ありますわ。休暇明けの1週間後です」
「そこにリュゼ達を連れて行くのはどうだ?」
「なるほど!いいですわね!是非ともお願いしたいですわ!」
どうやら入学に関することではなかったようだ。だが合同訓練とはなんだ?昔はなかったはずだが。そこに俺を連れて行くということも意味が分からない。俺は部外者だぞ?
アンナが凄く期待した目を向けて来るが、分からないものに返答は出来ない。
「合同訓練とはなんだ?」
「合同訓練は、中等部を卒業予定の3年生が、入学したばっかりの1年生の後輩とグループになり、泊りがけで戦闘訓練を行う合宿というものですわ。下級生が上級生との交流を図りつつ、上級生は下級生に理解してもらえるように、野営の仕方から戦闘の注意点等を教えるためのイベントらしいのです。1年生の頃は目的を理解していませんでしたので、今年は身の締まるイベントなのですよ。特に教えるということは、自分が理解できていないと出来ない行為なので、評価にも関わってきますね。」
なるほど。そういう意味での合同訓練なのか。小学校の時にやる自然教室の、上級生有り、戦闘有りと考えればいいのだろう。王都に近いこの辺りも強い魔物はいないのだ。学生の訓練にはうってつけなのだろう。
「そしてこの合同訓練には、高位貴族の子女も多く参加する。だから念のために冒険者を護衛に付けるのだが、その護衛依頼を受けるつもりはないか?最終的には学園が選定するが、高位貴族からの推薦があれば大体通る。俺が推薦してやるぞ。アンナの護衛に付いてくれないか?」
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