はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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アンナの祖父とネーデの領主

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 来客の知らせにアンナが反応し、入室の許可を出す。

 え?現状ここは俺の部屋のはず。だがそんなことは関係ないらしい。



 入って来たのは60代ぐらいの白髪の爺さんに、30代ぐらいの水色の髪のおじさんだった。その姿を見た俺以外の皆が、席を立ち頭を下げる。こんな反応をするとなると、誰かという問題はだいたい答えが出ているだろう。







「お。結構人が集まっているな。皆速い。ここは公の場ではないから、気にしなくていい。頭を上げてくれ」







 お爺さんの発言に、頭を下げていた皆が従う。そして、4つの水色の目が俺を真っ直ぐに見据える。







「はじめまして。おじょッ!?ん、んんっ。・・・はじめまして。えーーー、リュゼ君。私は、アイゼン・カストレアという。よろしく」







 あれは確実に、お嬢さんかお嬢ちゃんと言おうとしていたな、この爺さん。言い切る前に、隣のおじさんに肘打ちされて止まったけど。







「はじめまして、リュゼ君。私はこの街一帯の領主をしている、ラウス・ネーデ子爵といいます。今挨拶したアイゼンは私の父で、アンナは私の兄の現カストレア領主の娘です。君のことはアンナから聞いていますよ。今回、街の防衛に尽力していただきありがとうございました。また、先日はアンナを助けていただきありがとうございました」







 言葉と共に深く頭を下げられる。

 兄弟で別々の爵位持ちというものは、たまに見受けられる。親が爵位を2つ持っている場合に、分け与えることがあるからだ。だが、今ではかなり珍しく、滅多にこのような状況にはならない。これは、国にとって多大なる功績をあげた爵位持ちの者に、国王から贈られるものだ。下位貴族であれば陞爵しょうしゃくになるが、高位貴族だと陞爵はほとんどない。起こりえるとしたら、戦争の時ぐらいであろう。

 前カストレア領主の実績についての記憶はない。8年前から今に至る間に何かあったのだろう。







「どうも。それで?目覚めたばかりの俺に何の用?」







 次の瞬間、領主たちの騎士が一斉に剣を抜き、こちらに向けて構える。その様子にズィーリオスが僅かに反応し、背後からうなり声をあげる。部屋の中が静まり、誰も動かなくなる。



 ふわぁーーあぁ。大きな欠伸が口から飛び出す。





「ふっ。はっはっはっ!この状況下で欠伸が出るか!面白い!流石英雄というべきか!」





 アイゼンが笑い出し、多少空気が柔らかくなる。





「お前ら、剣を収めろ。お前らでは敵わない。街を救ってくれた英雄にそれこそ失礼だ」





 渋々ながらも剣を収める騎士たち。それを見て、ズィーリオスも唸るのを止める。アイゼンが迷いなく近づき、手を差し出す。









「改めて自己紹介させてくれ。アイゼン・カストレアだ。お前が変異種を倒したという報告は、どうやら真実っぽいな。ラウス。俺の言った通りだっただろ?」
「確かに父上の仰る通りでした。しかし、あのような話し方はどうかと思います」
「実力のある冒険者なんだ。多少のことは目を瞑れ。こんな些細なことで一々角を立てていたら、後々後悔するぞ」
「わかりました」









 少し話し方が変わったな。これが本来の話し方なのだろう。差し出された手を取りはしたが、すぐに放す。すると親子同士の会話が始まる。ここでやらないでほしいし、打算的な思惑があると本人の前でいうのはダメだろう。こんなのが一体何で功績をあげたというんだ?





「お前、リュゼと言ったか」
「ああ」
「俺の専属護衛にならないか?」
「「「「「「「っ!?」」」」」」」





 専属、か。久しぶりに聞いたな。





「断る」
「なっ!なに言っているの!?貴族の専属護衛だなんて将来安泰じゃない!冒険者が憧れるものよ!」





 アネットに詰め寄られるが、俺は安泰を求めてはいないから仕方ない。やっと自由になったのに、再び縛られる人生などごめんだ。







「そう言われてもな。嫌なものは嫌だね」
「ふむ。ならば、専属冒険者はどうだ?」
「断る。俺は誰かの専属になる気はない」
「そうか。仕方ない、もし気が変わったら連絡してくれ。いつでも歓迎するぞ」





 それだけ言い残し、部屋を去って行った。そして領主が俺に顔を向け、告げる。







「此度の件の報酬は後ほど渡します。リュゼ君が来ていた服はボロボロになっていたので、処分しました。今着ている服は代わりに用意した、あなたのものですから。他にも数着用意させています。好きに使って下さい。貰って行っても構いません。では、失礼します」







 そして領主は部屋から出て行く。

 服はくれるのか。ありがたい。宿に置いていた服は、もう着れなくなっていそうだしな。それにこの服、前の服より質がいい。着心地がいいと気持ちよく眠れる。





 その後、夕食は領主一家と一緒に食べることになっているようで、それまでの間に色々と会話をして過ごす。



 現在、復興の作業中のようで、ギルマスを含めた男組は作業の仕事に出て行った。復興作業は順調のようで、地属性の魔術師が簡易的な建物を作ったおかげで、家が無くなってしまった人たちの居場所が確保出来たようだ。



 ズィーリオスについては何も突っ込まれず、逆に気になって聞いてみると、俺の従魔だから、という理由で納得されていた。若干不服だが、突っ込まれても困るので黙っておく。魔物の襲撃中にズィーリオスに攻撃した者がいたんじゃないかと思ったが、街に訪れた初日の騒動で、俺の従魔だということがほとんどの人が分かっていたので、問題はなかったようだった。騒動が起きて良かったのかもしれない。





 そして寝る前に見て気になっていたこと。ジェイドとナルシアの関係について聞く。





「ナルシアはジェイドと付き合っているのか?」





 そう聞いただけでナルシアの白い肌が赤く染まる。とんがった耳の先まで真っ赤だ。それを見て、アネットはニヤニヤとナルシアを眺める。どうやら事情を知っているらしい。





「そう!付き合っているのよ!やっとよ!やっと!リュゼのお陰よ!」





 答えないナルシアに変わって、我慢できなくなったのかアネットが答える。その答えを肯定するように僅かにナルシアがうなずく。そしてゆっくりとだが、ナルシアが口を開く。



 ナルシア曰く、ジェイドからの好意には気付いていたらしい。ただ、同じパーティ内での恋愛は、他のメンバーとの関係に影響を与えるかもしれず、気付いていないフリをしていたようだ。例え、ジェイドの想いに応えても、人間とエルフという種族の壁があり、寿命の問題で確実にジェイドの方が先に亡くなるので、看取った後1人取り残されるのが怖かった為らしい。しかし、先の襲撃戦の時、今までの冒険にない程の命の危機が何度もあり、俺に押されてジェイドに抱き締められた時、想いを伝えず、死に分かれる方が嫌だと感じたらしい。

 そして俺に言われて後方に下がっているときに想いを伝えたようだ。



 両想いだと分かり、パワーアップしたジェイドがガルム達のフォローに入り、何とか前線を維持し続けていたという話は、アネットからの情報だ。





 俺が持久戦を仕掛けている間に、そんなことが起きていたとはかなり複雑だ。ちょっとだけ、ジェイドの背を押してやろうと思っていただけなのだが、まさかナルシアの方に大きく影響が出ていたとは。吊り橋効果が出ないかな?と少し期待はしていたのは内緒だ。





 そして夕食の呼び出しが来たので、ズィーリオスを含めた4人で、侍女の案内のもと食堂へと向かった。

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