はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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ネーデ襲撃

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 ガシャーン!ドン!ガラガラガラ。





「うわー!やめろ!」「早く逃げろ!」「キャーーーっ!」





 ドッガーーン。ドガーーン。ドガーーン。ミシ。





「グルアァァァーー!」「ガァァァ!」「キシャー!」

「くそっ!限がねぇ!」「ぎゃあーーーー!」





 ガンッ!ガガンッ!ドゴーン!ミシミシ。





「やめて!あっち行って!」「助けてくれ!誰か!」





 ギィーン。ガガガガッ。ギギィッ。ドガンッ。ガタガタ。ミシミシミシッ。





「キィー。キキィー!」「ワオーーーーーン!」「「「「「「ワオーーーーーン!」」」」」」





 カサカサ。タタタタッ。ばっさばっさばっさ。





「クルルルゥゥゥ」





 カタカタカタカタ。ギィー、ギィー。ミシミシミシッ。ミシミシミシッ。バキバキバキバキ。





「っ!?」
『リュゼ!?』





 ガシャーン!ガラガラガラ。 













































「うるぅっっっせーーーー!」



 一瞬の浮遊感と衝撃。そして先ほどから聞こえてくる騒音。完全に目が覚めた。覚めてしまった。

 浮遊感を感じた瞬間にかけた身体強化をそのままに飛び起きると、見覚えのある食堂に瓦礫が散乱している中にいた。頭上は大穴が開いており、いつの間にか寝かされていたらしい、ベッドごと落ちたことがわかる。

 宿の一部は崩壊している所もあった。また、一部は壁が無くなり開放的になっていた。そこから見えるのは、未だ夜が明けていないことを示す月の光に、淡く煌めく多くの星々。だがその闇を晴らし、光を塗り消すように辺りに灯りをまき散らす炎。家々を飲み込み、その領域をじわじわと拡大させている。炎の灯りは、辺り一帯を見渡すのに十分だった。



 多種多様な魔物が我が物顔で跋扈していた。その中を逃げ惑う人々に、冒険者と思わしき人たちがあちらこちらで守りながら戦っているが、数の差が圧倒的に違い過ぎて押されていた。



 ここは街の中だったはず。何故魔物がいる?ざっと見ただけでも、森の中で見た時よりも多い。







『リュゼ!無事!?怪我してない!?崩壊に巻き込まれたよね!?』







 ズィーリオス。近くにいるのか?ああ、壁の穴からは見えない反対側にいるのか。だから姿が見えなかったんだな。







『問題ない。無事だ。だがこれはどういうことだ?』
『そのー、2時間ぐらい前かな?急増した魔物たちが街に襲撃してきて、外壁が破壊されて一気に雪崩れ込んで来たんだ。当初は皆パニックになっていてかなり酷かったんだけど、今はギルマスの統率の下、戦えない人たちを戦える人たちで守りながら逃がしているんだけど、戦力が足りてないんだ。だから、俺も今参戦しているんだけど・・・。リュゼ?』
『へーー。なるほど、なるほど。つまり、事前通知なく、魔物共が俺の睡眠妨害をしてくれやがったってことかー』
『リュ、リュゼさん?』
「『殺す。』」
『やっぱそうなる!?』







 壁の穴から今まさに入り込もうとしていた、ライデンツラットという体長30センチ程の、剣のように鋭いやたらと長い歯を持つ、ネズミ型魔物の奴を踏み潰しながら外に出て、近くにいたコボルトの頭をぶん殴り、爆散させる。



 通常の部位強化は魔力密度を2倍にしているのだが、現状即席で、出来る限り最大で部位強化をしてみれば、3.5倍程の魔力密度になっていた。







「フフッ。ハハハハッ。てめーら、覚悟は出来てんだろうな。人の睡眠妨害をしやがった罪は、重いっ!!!」







 気配を、殺気を、辺り一帯にまき散らす。逃げることなく、馬鹿みたいに突っ込んでくる魔物たちを片っ端からぶん殴って、蹴り飛ばして、一撃で沈めていく。仲間が次々にやられていっても止まることはない。依頼の時は少し手間取ったオークでさえも関係なく、一撃で終わらせる。











 それからどれぐらい経っただろうか。単純作業ばっかりで長く感じたが、案外短かったかもしれない。お陰でだいぶ落ち着いた。

 気付いたころには魔物の死体が積み上がり、見渡す限り魔物の姿はどこにもなかった。









『ズィー、今そっちはどうだ?』







 いつの間にか解けてしまった髪をかき上げながら、念話でズィーリオスの様子を尋ねる。

 返事がない。念話の有効範囲から離れてしまったか?まあいい。どこにいるかは分かるしな。あれは・・・、門の方向か?とりあえず行ってみるか。







 瓦礫を避けて、なるべくスピードを落とさないように駆ける。すると前方に、誰かがアーマーベアと戦っているのが見えた。だがどうにも動きに違和感を覚える。

 さらに近づいていくとはっきりと分かった。戦っているのはドワーフで、どうやら背後に少年と思わしき子供がいるようで守っているようだ。



 だが俺には関係ない。知り合いというわけでもないし、こいつらを守ってやる義理はない。たとえこのまま放置したら、2人とも死ぬだろうとしても。

 通り過ぎようとした瞬間、子供と目が合った。薄茶色の中に恐怖と不安、僅かばかしの希望の光を含んだ、ごちゃごちゃの感情を詰め込んだ目だった。











 直角に近い角度で方向転換をして、アーマーベアの横っ面を殴りつける。

 無視することは出来なかった。何故かあの目に、シゼの目が一瞬重なって見えた。色も、そこに映した感情も全く違うのに。何でかなんて自分でもわからない。考えるよりも先に体が動いた。今分かることは、目の前の敵が立ち上がりかけている、ただそれだけだ。



 一撃で倒すことは出来なかったが、骨の鎧は砕け散り、原形を留めているところは大きくヒビが入っていた。完全に立ち上がる前に接近し、脳天に踵落としをいれ、再び地面に這いつくばらせる。その衝撃で折れた骨を拾い、その鋭利に尖った部分で頭と首に勢いよく突き刺す。ぴくぴくと痙攣を起こした後、完全に動かなくなる。







「お前さん冒険者か?助かった。ありがとう。息子共々助けていただき感謝する」
「ありがとう!」







 2人揃って頭を下げてくるが、一向に上げる気配がないので頭を上げさせる。







「お兄さんのお陰で、お父さんが死なずに済んだんだ。本当にありがとう!」





 少年の言葉を聞いても父親は驚いた顔をしない。それどころか、再び頭を下げそうだったので止める。

 場違いな感情だとは思うが、男として認識されているようで良かった。きっと皆の目が悪いか、認識するための脳が悪いのだろう。日本にいたら、良い眼科と脳外科を紹介してあげれただろうに。







「お礼と言ってはなんだが、お前さん体術を使っていたが、本来は剣士だろう?この通りの先に俺の鍛冶屋がある。そこから好きなもんを持って行け。まだ戦闘が続いている門の方へ、向かっている途中だったんじゃないか?だったら武器は必要だ。遠慮せずに、必要だと思ったものは持って行けよ?じゃあまた、これを乗り切った後に会おうぜ。というか会いに来い」







 言うだけ言って息子の手を取り、俺とは反対側、街の奥の方に歩いて行った。見ただけで使う得物の種類が分かるのか。流石鍛冶師、と言えば良いのか。



 それにしても、”会いに来い”か。ふふっ。ならば遠慮なく良い武器を持って行くぞ。多少寄り道になってしまうが、戦力増強だとすれば構わないだろう。ドワーフのおっさんが示した道へ、進行方向を変える。















 暫く道なりに進むと、倒壊を免れていた武器屋が見えてくる。扉を開け中に入ると、部屋中にみっちりと武器が鎮座していた。剣が置かれている方向へ向かい、試しに手に取ってみる。



 長さ、重さ、振った時の感覚、重心の位置。これらを軽く確認し、しっくりくるものを探す。急がなければいけないが、焦り過ぎるのも禁物だろう。最後の一つを手に取ってみると、今までで一番しっくりくる剣だった。うん、これにしよう。帯剣用のベルトも探し、装備を完了させる。



 よし、行くか。店から出て再び門の方へ、ズィーリオスのいる場所へ向けて駆け出す。次第に、戦闘の気配が辺りに漂い出した。
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