はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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魔石と成果

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 木々の合間からやって来たズィーリオスも、美しい白い毛並みを斑模様に赤く染めていた。所々、血ではなさそうな汚れも見受けられる。







「ズィー、お疲れさん。怪我はしてないか?」
『大丈夫だよ。ちょっと汚れたけど。そっちこそ怪我はしてない、ようだね。良かった!』







 ズィーリオスが俺の周りを回りながら、スンスンと鼻を鳴らし怪我の確認をしていく。クリーンをしてもらったから、臭いはしないだろう。







「ズィー・・・、何だったか?リュゼの相棒の周りに浮いているのは、まさか魔石か?」
「ズィーリオスっすよ、ガルムさん。確かに気になるっすよね。あれは」







 ズィーリオスの周りには、拳大程の大きさの血が付着した魔石が3つ浮かんでいた。

 ズィーリオスと普通に会話が出来るのは、黙っていた方がいいかな?意思の疎通が問題なく行われているのは、おかしかったりするかもしれない。ズィーリオスが聖獣だから出来ているのであって、普通の魔物とテイマーでは不可能のことだった場合、切り札となり得る秘密がバレることになる。この2人が今は優しいからと言って、今後も俺に優しくしてくれるとは限らない。



 何となく意思の疎通が出来ている、という体にしよう。先程の会話程度は大丈夫だろうし。







『ズィー、これって魔石?』
『そうだ!これは必要だろう?いくら魔力があるといっても、石は食べないしな。だから持って来た!』





 凄くキラキラした目で俺を見つめてくるズィーリオス。





「よくやったぞ!ズィー!ありがとな!」





 お礼を言って、わしゃわしゃもふもふと撫でてあげると、尻尾がめちゃくちゃブンブンと振られていた。そして俺の顔中を涎まみれにする。ベトベトだ。





「ぷはっ。落ち着けって。魔石を持って来てくれ」
『わかったー』





 差し出した両手の平の中に3つの魔石が落とされる。そのどれもが、俺が今日倒した魔物よりも大きかった。オークは分からないが、以前に見たオークの魔石と同じ大きさなら負けているだろう。



 魔石は大きければ大きい程、強い魔物の証と言われている。だからこの3つは、最低でもCランク以上の魔石だろう。









 洞窟の聖域で暮らしていたときは、魔石は特に使い道がなかったので、部屋のインテリアとして何となく飾っていたが、気付けば魔石内の魔力がなくなっていた。この現象をズィーリオスと話し合った末出た結論は、聖域の維持に使われたのではないか、ということだった。

 聖域内のあらゆる浄化に、水の一定量の確保、太陽の昇降に合わせた壁面の発光。これらの設備には、やはりエネルギーが必要では、ということだ。



 結界の維持に関しては別ものらしく、これは聖域の管理者の仕事らしい。あの結界はアーデが張っていたようで、魔石の魔力は使われていないようだ。この結界を張るという仕事は莫大な魔力を消耗するようで、1度張ると何かしら問題が起きない限り600年ほどは保たれるらしい。

 ただ、聖域の管理者の代替わりが起きると、まだ結界が切れる時期でなくとも聖域を巡り張り替えるのだ。ただし例外として、俺たちが暮らしていた聖域は先代が最後の力を使って張り替えているため、生まれたばかりの次代の管理者が張り替える必要はないとのことだった。だから生きている間は、最低2度は各地の聖域の結界を張り替える必要がある。





 だから聖域を出ているため、ズィーリオスが魔石を集めないと思っていたが、ギルマスの部屋での会話から魔石は必要なものだと判断していたようだ。











「本当にうちの子は賢くて可愛くてもふもふだ」
「確かに賢いが、この流れにもふもふは関係なくないか?」
「何を言っている!一番大事なところだろう!!」
「お、おう。すまない。とても大事だな」







 魔石を運んで来てくれたズィーリオスを褒めていると、おかしなことをガルムが言ってくる。もふもふの偉大さが何故わからないんだ。







「2人ともそんなことはどうでもいいっすよ!早く戻らないと門が閉まっちゃうっすよ!?」
「げっ!?もうそんな時間か!?リュゼ!すぐに戻るぞ!その魔石はちゃんと持っとけよ!クリーンだけは掛けとくぞ。”クリーン”行くぞ!」





 それだけ言い残して2人は木々の間を高速で駆け出して行った。空を見上げると、いや見上げなくとも辺りが黄昏時に入っていることがわかった。

 顔が綺麗になった俺は、同じく綺麗になり美しい白さを取り戻したズィーリオスに乗り、街に向かって走り出した。

































「リュゼ、説明してもらおうか」





 森から返って来た俺は、ガルムとジェイド、途中でばったりと会ったエルフのナルシアと共に、ギルマスの部屋に2度目ましての連行を受けていた。

 ギルドに戻って来ると、俺がDランクの依頼を3つも受けたと知らされたギルマスが待ち構えており、依頼処理をする間もなく連行されていたのだった。そして、部屋に全員が入ってガルムが何があったのかの説明を行った後に、冒頭の発言である。

 たった今説明していたじゃないか。





「今ガルムが言った通りだ」
「・・・・・はあー。もういいや。そういうことにしておこう。で、素材はガルムとジェイドが持っているんだよな?その確認と買取をしよう。何か欲しい部位でもあるか?あるなら手数料分は引かせてもらうが、引き取れるぞ」
「いや、いい。全部買取で構わない。あと、この魔石も買い取ってくれ」







 手に持っていた3つの魔石をテーブルの上に置く。その瞬間、ギルマスとナルシアの目が見開かれるが、既に知っていたガルムとジェイドは苦笑いを浮かべている。







「おい、リュゼ。この魔石はどうした。ガルム達に手伝ってもらったのか?」
「いや、ズィーの戦利品だ。俺らは別行動していたと言っただろう?俺が依頼を受けている間のズィーの成果だ。魔石だけでも買い取ってくれるんじゃないのか?」
「勿論だ。これほどの魔石は、逆にこちらから買い取らせてくれと頼みたいぐらいだ」







 どうやらちゃんと買い取ってくれるようだ。ズィーリオスの成果だからな、毛並みのお手入れ用のブラシでも買おうか。良いものがなければ特注でもいいかもしれない。







「さすがエレメンタルウルフとでも言えようか。普通じゃないテイマーのテイムしている魔物は、同じく普通ではないということか」
「馬鹿にしてる?」
「褒めてるんだよ。Cランクの魔石が2つにBランクの魔石が1つとなれば、今日の依頼のDランクの内容と合わせて、十分にランクを上げる実績として成り立つ。ギルドカードを出せ。Dランクに昇格させる」







 おお!もうランクが上がった。これで中級ダンジョンに挑めるぞ!

 ポケットからカードを取り出し、昨日もランクアップの手続きをしてくれた職員に手渡す。そして、ガルムとジェイドは素材の引き渡しに行くため、職員と一緒に出ていった。







「全く、直ぐにDランクになるとは思っていたがこんな直ぐとは思わなかったぜ。昨日の今日だぞ」







 呆れた、とでも言う様な言葉だが、表情は何だか嬉しそうだ。中年おじさんのツンデレを見せられてもな。
 そしてナルシアさんや。そんなに見つめてこないでくださいな。こんな感じに脳内がおかしくなっちまうんですっ!





 平常心を取り戻すために、ズィーリオスにもたれかかる。いつもの定位置に、だ。ズィーリオスも当たり前のように俺を包んでくれる。かなり運動したからだろう、眠気がやって来る。手続きの間は寝てしまおう。が、そうはさせぬとばかりにギルマスが声をかけてくる。







「リュゼ。領主に呼ばれていた件はどうなった?午前中に行って来たのか?」







 ああ、そんなこともあったなー。それは明日行く。明日。
 返事をする気力すらなく、もふもふに意識も体も沈んでいった。
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