はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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手刀とオーク

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「よし。じゃあ移動するか。もう帰るだろう?」
「いや、まだ帰らないが?」
「あんなに狩っていたのにか?」
「まだオークを狩ってないし」
「あー、目的はオークだったのか。関係ない奴らの相手することになったのは、ドンマイだったな」
「ん?コボルトもグレーウルフも目的だったぞ?」
「へ?まさか初めての仕事っすのに、ワンランク上の依頼を3つも受けていたんすか!?」
「そうだ」
「マジか」
「マジっすか」







 何故驚くんだ?1度に3つまで受けられるのだろう?

 ガルムとジェイドは感嘆符で頭がいっぱいのようだが、俺は疑問符で頭がいっぱいだ。

 森の中で男3人が見つめ合う。見つめるのが、面白く可愛い小動物じゃないのが残念だ。







「まあ、リュゼならそれだけの実力があると分かってたからいいか」
「冒険者の常識を教える必要があるっすけど、俺達も妥協が必要っすね」
「そうだな」







 冒険者の知識は必要だから、教えてもらえるのは素直に嬉しい。が、俺は前世で現実逃避しながら学習して・・・ないな。

 この世界ではこの世界の法則があって、ルールがある。特に、前世に冒険者などという職はなかったのだから、実際のプロに聞くほうが正確だろう。知ったかぶりをして死にたくないし。

 ただ、時間帯とかの命に関わらない常識は無視させてもらおう。欲しいのは常識ではない。知識だ。







「最近、その3つとゴブリンの依頼は常駐みたいになってるからな」
「そうなのか?」
「そうなんすよ」
「数が増えていてな。だから少しでも数を減らすために、今は1匹からの常駐依頼になっているんだ」
「ふーん。そうなのか」









 さて、そろそろオーク狩りに行くか。でないとズィーリオスとの集合に間に合わないだろう。空の色合い的には後1時間ちょっと、かな?









「そろそろオーク狩りに行ってもいいか?」
「そうだな。移動しないと日が暮れてしまう。俺らも付いていくが、手を出さずに見守っているさ」









 森の奥側に向かいながら、生き物の気配を探る。小動物の気配ばかりだな。たまに鳥が飛ぶことがあるが、ほとんどの小動物は姿が見えない。あ、小動物を探しているんじゃなかった。オークだ。オーク。



 30分程歩き続けるが全く見当たらない。他の魔物にすら出会わない。本当に数が増えているのか?狩られ過ぎで減ったか?



 豚肉だったら角煮が食べたいなー。でも醤油が無いと確か作れないよな?醤油は今まで見たことないし、そもそも大豆どころか米も含め、和食の食材が無いんだよな。どこかの国にはあるだろうか。あるといいな。あー、和食食べたい。味噌汁とご飯が欲しい。魚も食べたい。

 この国は内陸国なため、新鮮な魚が手に入ることはない。確か英雄の森を超えた先の、大陸の沿岸部に沿って細長く領土を持った、海洋国家があったな。いつかはそこも行こう。







 食べたい物リストを脳内で作り始めて15分程後。右前方から、俺たちの進行方向にかけて移動している気配を捉えた。数は・・・3?いや5、か?

 後ろを振り返り、目線で気配を捉えたことを伝え、身体強化をかけ、気配を消しながら近づいていく。目線では分からなかったとしても、上級冒険者なら察するだろう。



 近づくと5体のオークがいた。こちらの存在には気付いていない。3体が大剣を持ち、1体が盾持ちにもう1体が獲物らしき、アーマーベアという骨の鎧を身にまとった熊の魔物を運んでいた。奇襲のチャンスだ。



 先頭にいる大剣持ちのオークに向かって、未だに持っていたコボルトの斧を投げつける。これで仕留められるとは思っていない。意識をそらしている隙に、盾持ちの背後に周り、手刀で首を切りつけ、って浅い!完全には切り落とせなかったが、勢いそのままに、対応が遅れている獲物持ちの首を切りつける。

 何とか2体共出血多量にもって行けたが、そのころには大剣持ちの3体が完全に戦闘態勢に入っていた。完全に息の根を止めたと確認できるまでは、例え出血多量であろうとも気を抜けない。





 じりじりと睨みあいをしていると、首を切りつけた2体が倒れ完全に動かなくなった。そのタイミングを合図に、2体が同時に左右前方から切りかかってきたので、左側の奴の脇をすり抜けざまに足を引っ掛けて、前のめりに体勢を崩させる。体制を崩したオークが、右側から切りかかって来ていたオークの目の前に飛び出すが、勢いを止めることは出来ずそのまま大剣が振り下ろされ、仲間の命を絶つ。

 仲間を切りつけたオークは、驚いたのか固まって動かなくなってしまった。そのようなチャンスを見逃す気はなかったが、様子を見守っていたもう1体が、それを許してはくれなかった。

 大剣を振り回しているはずなのに、その動きは他のオークよりかなり俊敏だ。何度も懐に踏み込み首を狙うが、当たらない。学習されてしまっているようだな。至近距離からの攻撃は、大剣使いにとっては狙いにくいだろう。相手は防戦一方だ。何とかして距離を取ろうとしているが、後ろに下がるとすぐに広がった距離を詰めなおす。



 ちっ!固まっていた後ろのオークが動き出す気配を感じる。面倒だな。目の前の奴をさっさと倒すことにしよう。オークの首を狙うふりをして途中で軌道を変え、右手の手刀で手首を切り落とす。そして左手で相手の大剣を奪い、後ろに下がりながら剣を回転させ、オークを切りつける。



 さすが剣だ。手刀なんかより断然切れる。いや、切れ味の悪い剣よりは手刀の方が切れ味はいいな。もっと身体強化の魔力密度を上げたら、もっと切れ味が上がったりしないだろうか。後でやってみよう。



 血を噴出させたオークに接近し、背後から迫ってきていた大剣の攻撃を避ける。殺気が駄々洩れすぎて、奇襲の良さを活かしきれていない。オークだから仕方ないか。接近したオークは武器を奪われ防御することも出来ずに、首を刎ね飛ばされ絶命する。

 残り1体は怒りで攻撃が単調過ぎて、呆気なさ過ぎるほどに一瞬で終わった。





 これで依頼の仕事が全て終了である。終わったのを見計らってか、ガルムとジェイドが木の陰から出てきた。







「お疲れさん。全く危なげなく終わったな。武器が無いのにどうやって戦うのかと思ったが、まさか手で切りつけたり、相手の武器を奪い取るとはな!はっはっはっ!」
「良い動きだったっす。そんな戦い方だから、両手が血まみれなんすね。怖いんでクリーンしとくっすよ。”クリーン”」







 返り血で、まだらに赤くなっていた髪が白に戻り、手も服も綺麗さっぱりだ。やっぱりクリーンいいな。ズィーリオスなら覚えられるよな?後でズィーリオスの前でもやってもらお。





「にしても、アーマーベアまで手に入れられるとは運がいいな。こいつはCランクの魔物だ。高く買い取ってもらえるぞ。良かったな、リュゼ」
「それは良かった。買わないといけないものはたくさんあるしな」
「それは確かに」







 俺の全身を眺め、笑いながら納得する2人。おおかた荷物や武器のことだろうな。

 2人がそれぞれのカバンに、魔物たちを入れていくのを眺める。一瞬、上級冒険者達をただの荷物運びに使っているのを、他の冒険者が見たらやばいことになるな、と感じたが、本人たちが進んでやっていることだし、大丈夫だろうと頭を振る。

 その動きのせいか、戦闘中に緩んでしまっていたのもあるだろうが、髪紐が外れる。髪の毛がばさりと落ちて来たので、改めて結びなおす。



 結び終えたころには、魔物の回収も済んでいた。どうやら、2つのカバン共に容量ぎりぎりらしい。

 魔物たちの解体作業も、魔石の回収も、どうやらギルドに持っていけば手数料は報酬から引かれるがやってくれるらしい。

 わざわざ血まみれになって、コボルトとグレーウルフの魔石回収をしなくても良かったようだ。まあ、あの時は俺だけだったのだから仕方ない。そう仕方ないのだ。





 必要なかった労働を、自分で正当化させていると、ズィーリオスがこちらに近づいて来るのがわかった。



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