はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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先輩冒険者と勉強

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 一息入れて少しして、はっとした。

 魔石の回収はしたが手をそのままに出来ないし、カバンが無い現状で、18個もの魔石をどのように持ち運べばいいのだろう。ポケットにはさすがに入りきらない。

 手刀で皮を剥ぎ、風呂敷のようにして魔石を運ぶのも無理がある。魔石だって血が付着しているため、ポケットに入れることも出来たとしてもやりたくない。



 どうしよう無計画過ぎた。倒した魔物は、種類によっては素材にもなる。それを売ればさらに報酬になる。そうすれば、カバンやナイフや剣も買えるかもしれない。今はまだ夕方前だ。時間がある。



 どうするべきか悩んでいると、ネーデの方向から何かが接近してくる気配がする。

 斧を手に取り、気配を殺し、木の陰に隠れる。相手は、気配を消す気は一切ない様で、どんどん近づいて来る。







「うわぁー。凄い有り様っすね。ガルムさん、見て下さいよー」
「ほう。血の匂いがすると思ったら、こんなことになっていたのか」
「首が綺麗にスパッとなってるっすよ」
「ん?まだ血が乾いてないな。時間はそれほど経っていないのか。しかも魔石も取り出してそのまま放置しているな」
「まだ近くにいるんじゃないっすかね?」









 なんでこんなところに、ガルムとジェイドがいるんだ?もしかしてつけられた?何が目的だ?









「あっ!あれは!ガルムさん、あそこ見て下さいっす」
「フフッ。可愛らしいな」
「それは禁句っすよ」
「そうだった。つい、な」







 なんだ?小動物でも見つけたのか?そんなに可愛いのか。見たい。だが動いたらバレるだろうし。







「しかし何で隠れているんすかね?」
「警戒してるからじゃないか?だがあれではバレてしまうのにな」







 ガルムとジェイドは談笑し続けている。

 そんなに面白くて可愛らしい小動物なのか!見たい!余計に見たい!チラッと見るだけならバレないだろうか。バレないはずだ。バレないに違いない!



 そろーっと顔を出す。目を擦ってみる。目の前の光景が夢や幻覚の類ではなかった。合ってしまったのだ。目が!2人と!・・・うん。つまり、小動物は俺の背後にいるというわけだな。振り返って探す。どこにいるんだ?







「えっ!いやいやいや!今、目ぇー合ったっすよね!?何で後ろ見るんすか!?」







 やはり目は合ってしまっていたか。仕方ない。木の陰から出て、2人の前に行く。







「隠れ切れていない、可愛くて面白い小動物が俺の後ろにいるのだろう?どこだ?」
「え?・・・・・ああ、い、いたがもういなくなってしまったぞ」
「そ、そうっす!さっきまではいたっすけど、いなくなってしまったっすよ!」
「そうか。残念だったな。もっと早く見つけられていれば見れたのに・・・」
「そんな落ち込むことないっすよ!またチャンスがあれば教えるっすから!」
「これから冒険者として活動するなら、今後色々な可愛くて面白い小動物に会う機会はたくさんあるぞ。」







ちょっとばかし落ち込んでいると慰められる。確かに、次の機会があると立ち直ったところで。





「(おい。小動物がいると思ってたのか、リュゼは)」
「(そうみたいっすね。長い髪が尻尾のように木の陰から見えていただけで、小動物なんていないっすのに)」
「(動物が好きなのかな?)」
「(そうかもしれないっす)」









 小声でひそひそと話しているが、身体強化のおかげでばっちり聞こえてるんだけど。しかも小動物いないのか。やっぱり、合理的に考えても髪を切る方がいいな。隠れているのに、髪のせいで敵に見つかってはたまらないしな。







「リュゼ。もうちょい近くに来い」
「え、何で?」
「お前その状態で帰ろうとしてないよな?街に入れんぞ」







 自分の姿を見直してみる。両手が血まみれの半乾き、黒い服のおかげで目立たないが帰り血を浴びていた。このまま入ろうものなら、衛兵に取り押さえられそうだ。







「近くに川でもあるのか?」
「いいや、ねーよ。だが冒険者の大半にはこれがある。”クリーン”」







 その一言で全身が綺麗になる。おお、凄い。







「よし。綺麗になったな。クリーンは冒険者の常識だぞ。属性に関係ないから誰でも出来るしな。なら今度は、リュゼが魔石にクリーンをかけてみろ、と言いたいが、その魔封じを付けていては発動しないだろう。俺らがやる」
「わかった」









 先ほどのクリーン、俺も試したことがないわけではない。どれも発動しなかったのだ。魔力が体外へ放出されるような魔法は、魔封じで使えないようになっているらしい。









「リュゼ、いつも一緒にいる相棒はどこ行ったんだ?姿が見えないが」
「別行動中。あいつはズィーリオスという名前だ。後で合流するから問題ない」
「テイマーなんだよな?この魔物はリュゼが仕留めたのか?」
「テイマーだけど、俺も戦えるが?」
「そういうテイマーがいないわけではないから、問題はないが。まあ、ただの確認だ」
「ふーん」
「そうそう、リュゼはカバン持ってないだろ?この魔物を運ぶ手段が必要だと思ってな。俺らマジックバック持ってるから、運んでやろうかと思っているんだがいいか?」







 マジックバック!?あのダンジョンでたまに手に入る魔道具か。容量に差はあるが、最低でも大金貨10枚からだと聞いたことがある。

 持っていくのは大変だしありがたいが、自分たちのものにしようとはしてないよな。ランチの時にAとBランクのギルドカードを見せてもらったから、わざわざDランクのものは要らないだろうし。ちょっと様子見して試してみるか。盗まれたらその時はその時で。







「ありがたい。よろしく頼む」
「いいっすよー。その為に追いかけて来たんすし。ただここまで大量とは思わなかったっすけどね。あははははー」







 魔物がどんどんカバンの中に入っていき、魔石もまとめて入れられる。2人のマジックバックはなかなかに容量が大きいようだ。







「いいなそれ。ほしい」
「マジックバックは便利だからな。だったら、Dランクまで頑張ってあげて、中級ダンジョンの入場資格を得ればいいぜ。俺らはそこで手に入れたしな。ただ、手に入れたらあまり人に言わない方がいいぞ。奪いに来る奴がいるからな。だが、上位ランクの冒険者のほとんどは皆持ってるぜ」









 そうか、ダンジョンか。

 ダンジョンは、レベル別で分けられていて、初級、中級、上級と分かれている。それぞれ、F~Eランク相当。D~Bランク相当。B~Sランク相当となっている。その為、その最低のランクに相当する実力があるという証明、つまりギルドカードを提示しないと入れないのだ。これは冒険者ギルドが管理しており、分不相応の実力の冒険者たちを守るための処置だ。



 そしてダンジョンは属性別に存在し、各級共に必ず9つずつある。初級ダンジョンがクリアされても、また新たに同じ属性の初級ダンジョンが世界のどこかに生まれる。

 その生まれる場所は、初級であれば人里の近くにでき、レベルが上がるほど人里から離れる。だから9つの上級ダンジョンは、その場に到達することすら大変なのだ。



 ネーデから1番近いダンジョンは地の中級ダンジョンで、途中に村があるが物資の調達にはネーデが便利なため、この街に冒険者が集まるらしい。余談だが「大地の剣」はこのダンジョンから名付けたようだ。



 そして、中級では稀にマジックバックなどの希少アイテムが手に入る。特に、階層が深くなればなるほど、希少価値の高い物が手に入りやすい。彼らもここでマジックバックを手に入れたようだ。











「それとその魔封じについてだが、ダンジョンで極稀に見つかる、真っ白くて薄く光っている遁走とんそうの花と呼ばれるものの蜜で、解除可能かもしれない。そうなれば、クリーンも使えるだろ」







 これは余計に挑まなければならない。

 さっさとランクを上げてダンジョンに挑む。そう決意するのだった。

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