はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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ランチタイム

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 ズィーリオスの尻尾に叩き起こされて翌昼。

 宿の朝食が食べれなかったので、ギルドまでの道にある屋台の食べ物を物色していた。正直どれも美味しそうで、全て食べてみたいが、如何せんお金がない。何種類も買うことは出来ないのだ。精々1種類程度だろう。









「おい!そこのお嬢ちゃん!うちの串肉はどうだい?」
「いやいや、うちのジュースはフレッシュで美味しいよ!」
「白いお嬢ちゃん!今なら1個だけでなく2個まけとくぜ!」







 うーん。悩む。どうしよう。やはり髪を切るのが先か?でもお腹空いたしな。女顔ではないのに何故なんだ。まさか、髪が長い人は全員女性だとでも思っているのか?偏見だぞ。あ、そう言ったら、男性が全員髪が短いと言うのも偏見だな。あれ?自分で自分の首を締めた?









 悩んでいると、冒険者ギルドに着いてしまっていた。仕方ないギルドの食堂を見てみよう。中に入ると、昨日とは違い人はあまり居らず空いていた。ただ、食堂の辺りは人がそれなりにおり、昼間からお酒を飲んでいる人達も見える。だいぶ出来上がっていそうだ。







「よっ!リュゼ!昨日ぶりだな!」
「やっと来たんすね」









 食堂に行くと、昨日のパーティの男組に声をかけられた。やっと来たとはどういうことだ?待ち合わせをした記憶はないんだが。









「どうも。やっと来たとはどういう意味だ?」
「何でもないっすから気にしないでイイっすよ」 









 気にしなくてもいい様なことなら、気にしないでおこう。食堂のメニューを見に行く。各テーブルにメニューが置いてあるということはない。荒くれ者の多い冒険者ギルドの食堂でメニュー表を置いていると、汚されたりなくなってしまったりで使い物にならないのだ。

 その為、注文と受け取り口と同じカウンターの上にメニューが貼られている。



 イメージとしては、フードコートの店舗の様な感じだ。但し、メニューは絵ではなく字のみな為、異世界食材の名前で全く想像がつかないものが多い。









「ちょっと、リュゼ君!?俺らを気にしなくていいってことではないっすよ!?」







 先程の男2人組がやって来る。俺は彼らよりも、食事について気にしないといけないのだ。辺り一帯に漂う美味しそうな匂いに、もう我慢などできんぞ!









「リュゼはまだ食事をしていないのか?なら、俺達もまだ食べていないから、一緒に食べよう。お金は俺が出すから好きなもの選んでいいぞ」
「っ!?ああ、一緒に食べよう!だが、俺は何がいいかわからないから、ガルムのオススメで頼む」









 奢ってもらえるとは何たる幸運。更に、オススメであれば外れはないばすだ!



 そして受け取った料理は、巨大なステーキだった。これは、所謂1ポンドステーキ、どころの話じゃないほどの大きさだった。重量的には3キロ近くありそうだ。厚さが10センチ近くあるとか意味がわからない。火はちゃんと通っているのだろうか?

 そして、同じ物をズィーリオスにも用意してくれた。ズィーリオスの目が輝いているから、それなりに魔力を持った魔物肉なんだろう。







 ガルムはなかなかに良い奴なのかもしれない。







 ナイフとフォークを持ち、肉に刺し切り分けていく。結果、焼き加減はミディアムレアといった具合で、問題はなかった。聞いたところ、塩、胡椒は高価で手に入らないらしく、ステーキは味付けなしで食べるのが一般的なようだ。肉自体が美味しいためわかるのだが、ずっと肉を食べ続けてきた身としては、味変を希望したい。



 いや、この肉も美味しいのだけれどね?脂が甘く、程よい歯応えがあり、肉を食べていると実感できる。というか、切り分けが疲れるな。腕に部位強化を掛け、さっさと切り分ける。まさか食事で、身体強化を使う日が来るとは思わなかったぞ。









 頑張って食べたが量が多すぎた。無理だ。残りは全てズィーリオスにあげた。4分の1ぐらいしか、食べ切れていないのではないだろうか。

 それにズィーリオス的には、まだまだ足りないだろう。このあと、依頼をこなしながらズィーリオスの食料調達を行うのも、腹ごなしがてら丁度良いかもしれない。











 だが流石に直ぐには動けない。暫く休憩だ。

 そんなのんびりとした時間が流れる中、ふとガルムが口を開く。







「そういえば、昨日ジェイドはすぐ、リュゼは男だ!って気付いていたが、何でわかったんだ?」







 確かに、ジェイドは迷うことなく言い切っていた。そもそもそれは普通なはずだ。間違える方がおかしい!

 じっとジェイドを見つめ、先を促す。







「そんなの顔つき、体つき、骨格を見ればわかるっすよ?」







 ゾワゾワゾワッ。鳥肌が立ち、急いでズィーリオスを盾にして隠れる。つまり、それは・・・。







「舐め回すように見たということか。・・・お前そういう趣味だったんだな。ナルシア一筋の男だと思っていたんだけどな。」
「なっ!何言ってんすか!そんな訳あるわけないじゃないっすか!てか、何で俺の好きな人知ってるんすか!」







 何だ、そういう趣味ではなかったのか。身の危険がないなら良かった。再び席に着く。それに、元女子としては、聞かずにはいられない話が出てきたぞ。







「ジェイドはナルシアが好きなのか?」









 先程から顔が赤かったが、さらに赤くなった。茹で蛸状態とは、まさにこのことであろう。めちゃくちゃわかりやすいな。



 これは、いじり甲斐があるな。口角が上がり、ニヤッとしてしまう。そして更に、ガルムがジェイドに追撃をかける。











「こいつチャラそうに見えるが、実際、根は初うぶでな。反応がわかりやす過ぎなんだよ!アネットも勿論気付いてるし、周りの連中も気付いてるだろうよ。気付いてないのはナルシア本人だけなんだよ。頑張ってアタックしてるんだけどな」







 そう言ってガルムは笑い、ジェイドの背中をバシバシ叩く。すっげぇいい音なってる。痛そう。







 そして男達の、というかジェイドの恋バナを楽しみ、一区切りついたところで、俺は席を立った。







「今から依頼受けてくるからまたな」
「今からか?もう昼過ぎだぞ?」
「ああ、だから何だ?」
「普通は朝から行くものだろう。てっきり今日は休むのかと思っていた」
「何を言っている。普通朝は寝ているものだろう」
「いや、逆っすよ!?」











 全く、普通という名の常識が何だと言うのだ。そんなチンケなものに囚われていたら、やりたいことも何も出来ないではないか。常識などという、社会が作り出した暗黙のルールを守って生きるのは、自らものを考えず流されるままに生きる、自我の失われた人形ではないか。



 俺は人形に舞い戻る気はない。自分の人生は自分の意思で決め、自分で責任を持つと決めている。だから俺にとっては、常識というものはぶち壊すものだ。従うものではない。

 変人だと思われても構わない。普通に生きていても、人に嫌われるのだ。だったら自分らしくありたい。











「街の門が閉まる前に帰って来ればいいだけだ。さて、初仕事は何をしようかな?」















 ガルムとジェイドの元から去り、掲示板に向かって歩いていく。

 そもそも、今から依頼をこなしに行くのはお金を得る目的もあるが、本命はズィーリオスの食事だしな。







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