はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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ネーデの街

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 うん?なんかやたらと煩いな。あー、俺寝てたんだった。何してたっけ。街の門まで行くっていう話だったような?







『リュゼ!起きろって!着いたぞ』
「ん?あぁ?ふわーあ、ふぅ」







 ズィーリオスの声に、もぞもぞと身を起こしながら大きなあくびをする。長く伸びた左右に分かれていた髪が、自然と1つに合わさる。さらにざわつきが大きくなり、何があったのかと目をこすりながら周りを見渡してみる。

 現在俺たちは門の目の前まで来ていて、隣に長い列があった。その門の前から長く伸びた入場待ちの列から、多くの視線が集まっていた。なるほど、ズィーリオスに皆目が奪われたのだな。







「ズィーは俺のだ」
『何を言っているんだ。ほら、門番の人の説明を聞け』







 皆、ズィーリオスが欲しいのだろう。わかるぞ。このもふもふを一度味わいたいのだろう?抱き心地抜群の魅惑のボディだからな!一度味わうともう抜け出せない、だからこそ!絶対に誰にも・・・





「やらん」
「なっ!何を仰っていますの!これを受けないと中に入れないのですよ!?入りたいのではなかったのですか!?」







 うん?水色髪と同じ色の瞳の、キツそうな顔立ちの少女?誰だっけ?見覚えあるな。うーん?ああ!









「ゴブリンに襲われてた奴か」
「え?ええ、そうですけど。もしかして、まだ寝ぼけてます?話を聞いてらっしゃいましたか?」
「なんの話だ?」
「・・・やっぱり。聞いていらっしゃらなかったのですね・・・」









 何だかよく分からないが、少女、いや確かアンナだったか、が侍女に慰められていた。



 そしてもう1度話をしてもらい、犯罪記録確認を行った。

 ズィーリオスについては、どこかのギルドで従魔登録をするように言われただけで、他には特に何も言われなかった。

 ギルドとは、冒険者、商人、鍛冶等の仕事斡旋の場という組合のことである。

 ズィーリオスは、まだ成体ではないが、それでも大きいのだがな。ま、面倒がないのなら良しとしよう!









「この後はどうなさるおつもりで?」
「冒険者登録と従魔登録をするつもりだ」
「でしたらその前に、服を買った方がいいですね」







 アンナはそういって自身の侍女を呼ぶ。





「お金は私が持ちますので、服を買ってからにした方がよろしいですわ。彼女にお金を渡してあります。そのまま行けば、良からぬことに巻き込まれてしまうことがありそうですし」
「そうか。ありがたい」





 お!服をくれるのか!ラッキー!







「私は暫く、従兄弟家族の家に滞在しております。そして後日、改めてお礼をさせていただきます」
「ああ、わかった。じゃあな」







 分かれの挨拶をし、門を潜り街に入る。後ろから何か言われた気がするが、きっと空耳だろう。



 入って直ぐに、目に飛び込んできたのは多くの人、人、人。あちらこちらに、獣人や人間がおり、前世以来の人の多さに酔いそうだった。そして、王都よりは劣るが、立派な石造りの建物が軒を連ねていた。





 侍女の先導に続きながら人波を抜け、暫く歩くと一軒のお店の前に着く。中へ入ると、かなり質のいい服を扱っている場所のようだった。肌触りは気にしてしまうから、質がいいもので助かった。

 だが、後はされるがままだった。初めは、女の子用の服を着させられそうになったが、男の子用を持って来てもらい、それらを着させられる。昔のようだ。



 結局、普段着とズボン、下着をそれぞれ2着に、パジャマも2着買って貰った。普段着の1つは現在着用しており、動きやすさを重視した黒のシャツに、紺の長ズボン、そして靴下に黒のブーツだ。



 靴はだいぶ前に履けなくなり捨てていた。狩った獲物の毛皮で足を包み、植物のツルで縛っていたのだ。聖域の洞窟暮らしの時は、他に人もおらず、またCランクの魔物素材なので、足裏を怪我するということもなかった。だから全く気にしていなかったのだが、流石に街では浮いてしまっていたようだ。



 最後に、オマケで髪紐を貰った。目の色と合わせたのか黄色の紐だった。勿論、貰ってすぐ髪を結った。久しぶりに顔周りがスッキリである。









 これで解散かと思ったら、まだ解散しないようで、買い物袋を持った侍女さんに付いていくと、一軒の宿の前に着く。

 高級宿というわけではないが、上品ながらも温かみのある内装だった。1階は食堂になっているようで、2階から3階が客室のようだ。どうやらここに、1週間分の宿をとってくれるようだった。それも朝夕の食事付きで。

 ここの宿は獣人の家族が経営しており、従魔はダメだったり、従魔だけ別部屋の宿も多いらしく、ここは従魔と一緒に寝ても大丈夫な宿だったらしい。



 お金がない現状では、街の外で野宿でもしようかと思っていたのだが、嬉しい誤算だ。

 買い物の荷物を、2階の奥の方の滞在する部屋に置き、宿の外に出て行く。



 冒険者ギルドまでは案内してくれるようで、到着して分かれた。



 冒険者ギルドは大きな建物だった。扉も大きく、ズィーリオスでも余裕で入れる。先程の宿の扉も大きくはあったが、これほどではなかった。



 扉を開けて中に入ると、中の視線が一斉に集まり、一瞬止まったざわめきが、次の瞬間には再び再開される。視線は向けられたままだが。



 カウンターはいくつかあり、夕方前という時間帯のせいなのか、少し混んでいた。そのうちの1つに並び、順番を待つ。





 ズィーリオスのおかげか、絡んでくる人はいなかった。





「お待たせしました。あら、初めて見る顔ですね。本日はどのようなご用でいらっしゃいましたか?」

「冒険者登録と従魔登録だ」
「畏まりました。ではこちらの用紙に、必要事項を記入して下さい。代筆はいりますか?」
「いや、大丈夫だ」







 順番が来たので、カウンターのお姉さんに声をかける。そして登録用紙を受け取り、中身を埋めていく。名前。年齢。職業。職業はテイマーでいいか。従魔。従魔の種族か・・・。エレメンタルウルフにしておくか。



 エレメンタルウルフは、魔法が使える魔物の中でも、種族特有の属性というものがなく、育った環境によって、属性が変化する特徴がある。そして見た目は、白く、美しい肢体をしているが、警戒心が強く、人前に姿を表すことがほとんどない魔物なのだ。だからこそ、多少の違和感があっても、誤魔化すことは出来るだろう。



 最低限の必要事項のみを書ききる。







「書いたぞ。確認してくれ」
「はい。確認いたします。大丈夫ですね。えっ!エレメンタルウルフ!?私、エレメンタルウルフなんて初めて見ました!何処で出会ったんですか!」







 その瞬間、ギルド内が一斉にざわつく。

 この受付嬢、仕事できるタイプだと思ったが、そんなことはなかったようだな。









「・・・」
「あっ、すみません。つい興奮してしまって」
「もういいから。登録はこれでいいのか」
「はい。完了です。こちらが、スタートになりますFランクのギルド証です。身分証にもなりますので、無くさないようお気をつけ下さい。再発行には銀貨1枚かかります。奥の方の掲示板に、依頼内容が貼られていますので、依頼を受けられる際にはそこから剥がして、カウンターまで持って来て下さい。受けられる依頼は、ご自分のランクの1つ上までです。一定数の依頼を完了させましたら、ランクが上がります。上がっていくと、ダンジョンにも挑戦出来ますので、是非ランクアップを目指して頑張ってください!」







 受付嬢からギルドカードを受け取り、ポケットにしまう。鞄も買わないといけないな。必要なものが他にないか、夜にでも確認しよう。



 それに無くすと再発行に銀貨1枚もかかるのか。高いな。







 この世界のお金は、全部で5種類ある。そのどれもが硬貨だ。

 1番低い硬貨が、銅貨で、その後に小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨となっていく。これらを日本円で換算すると、大体、百、千、万、十万、百万ほどの価値だ。それぞれ10枚で次の硬貨1枚に等しい。





 無くさないように注意しようと考えながら、カウンターから離れ、依頼内容を見に移動する。







 掲示板まであと少しという、ギルドに併設された食堂で、後ろから声がかけられた。





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