上 下
18 / 340

ゴブリンと馬車

しおりを挟む
 ふゎーーーぁ。ねっむ。



 大きく口を開けあくびをする。洞窟の入口には、やけにテンション高く尻尾を振っているズィーリオスがいた。今日、俺はいつもより早く、ズィーリオスに起こされていた。



 こんな早い時間に起きるのなんて久しぶりだ。眠すぎる。だってまだ、日が傾き始めてないんだぜ?ありえないだろ、昇りかけとか。















 もう一度眠り込もうとしたが、即座にズィーリオスにバレたので、仕方なく顔を洗う。洗い終わると、間髪無く風魔法で乾かされ、いつの間にか昨日の残りの肉が焼かれ、朝食が完成していた。

 生肉を冷やすことが出来ないため、腐ってそうなものだが、殺菌、腐敗防止の効果のある植物の葉に包めば、1日ぐらいは常温で置いておいても腐らないのだ。だから翌日に同じ肉が出てきても気にする必要はない。





 美味しい物が目の前に用意されているのなら、眠るわけにはいかない。朝からがっつりと食べていく。やっぱ美味い。











 満腹になったころには、在庫の肉は全て無くなっていた。

 俺が全て食べたわけではない。ほとんどはズィーリオスが食べている。大食いなのだ。あれ程の大きさの獲物が2食分とは、今後の旅が不安になる。





 その後洞窟内の片付けを行う。多分もう戻って来ることはないだろう。元々冒険者になる予定だったのだ。それが少し遅くなったに過ぎない。街に行ったら冒険者になって、ズィーリオスと共に旅をしよう。



 ズィーリオスは、聖域の管理者としての役目がある。世界中を移動するのだが、俺と共に行く気でいる。それがわかっているからこそ、その想いに答えたい。というか、俺がズィーリオスなしでは生きていけない。あのもふもふでないと安眠出来ない。

 共に行くのは当然のことだ。昨晩、そう決意した。







『行くよー!早く!』

「ちょっと待て!街がどこにあるか知ってるのか?」

『・・・あっ。崖の上?』

「まあ、そうなんだけど」







 案の定、何も考えてなかった。仕方ないな。この周辺の地図を脳内に、思い浮かべる。





 バルネリア領は、バーデル王国の東の端、辺境の地でもある。すぐ東の方にはここ、英雄の森があり、森を超えた更に先には、海がありそこには他国が存在している。そこに向かうのもありだが、森が広く到着までに時間がかかる。ここは却下だ。





 森の北側にも国があるが、海沿いの国よりは近いが、ここも遠いので却下。



 南の方の国はここから近いが、どうしようか。一旦保留で。



 バルネリア領の南、ここから最も近いハーデル王国内はどうだ?確かあそこは、どこかの子爵領だったはず。バルネリア家と繋がりがあったような話しはなかった気がする。

 近いし、そこでいいか。そっちの方向に向かって、見つけた街に行けばいいや。









「行くとこ決めたから出発するぞ」

『おー!どこ行くんだ?』

「ハーデル王国だ。ここから1番近いしな。方向は指示するから、とりあえず上空に上がって、周辺の地形を確認させてくれ。」

『わかった!』









 向かう先は決定した。荷物もないのですぐに移動できる。

 洞窟内の見回し、3年間世話になったと呟く。そして振り返ることなく、前もって話しあっていた移動方法、ズィーリオスに跨り、洞窟を、いや、聖域を後にした。









 だが、この時の俺は知らなかった。

 聖域内で長期間過すという、前代未聞のことをした者が、どのような影響を受けているのかが。







































 聖域から飛び立ち、暫くして。

 俺達は快適な空の旅を楽しんでいた。跨った体勢を崩し、抱きつく様にもふもふを堪能しつつ、もふもふと空を飛び、旅をするという夢の様な状況に、結構楽しんでいた。



 ズィーリオスも機嫌が良く、大空を俺と自由に飛び回ることが出来るのが嬉しいらしい。お前は猫なのか?と思うレベルで、ゴロゴロ言っていた。狼、イヌ科でもゴロゴロするのが普通なのか?聞いたことないんだけど。

 楽しんでるなら、イヌ科でもネコ科でもどうでもいいや、と思考放棄することにした。





 すでに英雄の森は抜けており、眼下には林や、時折畑が広がっていた。長閑である。

 街に行くのが目的なので、途中の村々は今回全スルーだ。今後は、地上の移動の際によってみるのも、異世界ならではで良いかもしれない。









 それからまた暫く進んでいると、そこそこ大きな街が見えてきた。



『ズィー、あの街にしよう。目立たないよう少し離れたところで降りてくれ』

『わかった』



 上空での会話は、口を開くと喋りにくく、口の中が乾燥するので、念話でやりとりする。

 近づくにつれ、良からぬものが見えてきたが、あんなものはスルーだ。





『なあ、リュゼ。馬車が魔物に襲われているようだが』
『気にするな。気にしたら負けだ』
『負けって、何に負けるんだよ。魔物自体は弱そうだが、数が多い。このままでは全滅するぞ』
『はぁ、仕方ない。なら、今から言う選択肢の中から選んでくれ。



 1,無視して先に行く

 2,挨拶して先に行く

 3,引き返す

 4,迂回する



さぁ、どれがいい?』

『全部無視じゃないか!!』









 全く、4つも選択肢を用意したのに全部嫌とは。なら、どうしたいと言うんだ。





『俺は先代から聞いたぞ。人の街に入るのには、身分証かお金が必要だと。俺達にはそのどちらもない。あの馬車を助ければ、どうにかしてもらえるのではないか?そしたら、中に入って冒険者登録とやらをして、そこでお金を稼ぎ、服や剣を買おう。なあ!どうだ?』







 なるほど。タダではないのか。だったらまだいいか?でも人に、自分から関わりに行くのはちょっとなー。しかし、中に入れないと来た意味ないし。途中の村で、魔物を狩って売り、資金を調達してこれば良かった。そうすれば面倒にはならなかっただろうに。







『わかった。恩を売ろう』
『言い方・・・。まあ、助けるだけマシか』







 進路変更を決め、馬車から離れた所で地上に降り、馬車まで駆け出す。勿論、俺は乗ったままだ。近づくと敵の正体がわかった。ゴブリンだ。

 緑の肌に、醜悪な顔。鼻にこびり付いて、消えないんじゃないだろうかというほどの臭い。腰にボロ布を巻き、手には棍棒を握り締めている。



 馬車の周りには、騎士の姿をした護衛らしき人が5人。そのうち2人は怪我をしているのがいるが、馬車の入り口を体を壁にして塞ぎ、辛うじて剣を握っているようだ。残りの3人で馬車を囲むように守っているが、ゴブリンの数は見た感じ、30~40ほど。圧倒的に護衛が不利な状況だ。







『ズィー。攻撃は風魔法のみにしろ。そして、絶対にあいつらに噛み付いたり、爪で切りつけたりするなよ』
『何でだ?魔法はわかるが・・・』
『ゴブリンなんて直に触ったら、お前まで臭くなりそうじゃないか。あと不潔。返り血なんて以ての外だ』
『なるほど?まあ、魔法だけでどうにかなりそうだし、構わないか』





 馬車に後数十メートルという所で、ズィーリオスが先制を仕掛け、あちらも俺たちのことに気付いたようだ。ズィーリオスが攻撃を仕掛けたタイミングで俺も飛び出し、全身に身体強化をかけ、戦闘区域に突っ込む。





 突っ込んでまずすべきこと。それは武器の調達だ。

 怪我人の騎士に近づき、「借りる」と一言だけ言い、剣をかっさらう。そのまま、周辺にいたゴブリン達の首を跳ね飛ばす。そして、騎士を背後から狙っていたやつの首を、背後から突き刺し、今まさによろけてしまった別の騎士に、殴りかかろうとしていたゴブリンに投げ飛ばしながら、剣から引き抜く。体勢を崩したゴブリンにとどめを刺す。

 その時にはもうゴブリンは全滅していた。







 役目の終えた剣を手放し、ズィーリオスの元へ向かう。なんの問題もなかったようだ。







 唖然とし、身動き1つしなくなってしまった騎士達を振り返る。どうしよ。動いてくれないと、話しが進められないんだけど。



 話しかけようか、いやいや、話しかけられるのを待つべきかと悩んでいると、馬車の扉が開かれる音がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

処理中です...