はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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ゴブリンと馬車

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 ふゎーーーぁ。ねっむ。



 大きく口を開けあくびをする。洞窟の入口には、やけにテンション高く尻尾を振っているズィーリオスがいた。今日、俺はいつもより早く、ズィーリオスに起こされていた。



 こんな早い時間に起きるのなんて久しぶりだ。眠すぎる。だってまだ、日が傾き始めてないんだぜ?ありえないだろ、昇りかけとか。















 もう一度眠り込もうとしたが、即座にズィーリオスにバレたので、仕方なく顔を洗う。洗い終わると、間髪無く風魔法で乾かされ、いつの間にか昨日の残りの肉が焼かれ、朝食が完成していた。

 生肉を冷やすことが出来ないため、腐ってそうなものだが、殺菌、腐敗防止の効果のある植物の葉に包めば、1日ぐらいは常温で置いておいても腐らないのだ。だから翌日に同じ肉が出てきても気にする必要はない。





 美味しい物が目の前に用意されているのなら、眠るわけにはいかない。朝からがっつりと食べていく。やっぱ美味い。











 満腹になったころには、在庫の肉は全て無くなっていた。

 俺が全て食べたわけではない。ほとんどはズィーリオスが食べている。大食いなのだ。あれ程の大きさの獲物が2食分とは、今後の旅が不安になる。





 その後洞窟内の片付けを行う。多分もう戻って来ることはないだろう。元々冒険者になる予定だったのだ。それが少し遅くなったに過ぎない。街に行ったら冒険者になって、ズィーリオスと共に旅をしよう。



 ズィーリオスは、聖域の管理者としての役目がある。世界中を移動するのだが、俺と共に行く気でいる。それがわかっているからこそ、その想いに答えたい。というか、俺がズィーリオスなしでは生きていけない。あのもふもふでないと安眠出来ない。

 共に行くのは当然のことだ。昨晩、そう決意した。







『行くよー!早く!』

「ちょっと待て!街がどこにあるか知ってるのか?」

『・・・あっ。崖の上?』

「まあ、そうなんだけど」







 案の定、何も考えてなかった。仕方ないな。この周辺の地図を脳内に、思い浮かべる。





 バルネリア領は、バーデル王国の東の端、辺境の地でもある。すぐ東の方にはここ、英雄の森があり、森を超えた更に先には、海がありそこには他国が存在している。そこに向かうのもありだが、森が広く到着までに時間がかかる。ここは却下だ。





 森の北側にも国があるが、海沿いの国よりは近いが、ここも遠いので却下。



 南の方の国はここから近いが、どうしようか。一旦保留で。



 バルネリア領の南、ここから最も近いハーデル王国内はどうだ?確かあそこは、どこかの子爵領だったはず。バルネリア家と繋がりがあったような話しはなかった気がする。

 近いし、そこでいいか。そっちの方向に向かって、見つけた街に行けばいいや。









「行くとこ決めたから出発するぞ」

『おー!どこ行くんだ?』

「ハーデル王国だ。ここから1番近いしな。方向は指示するから、とりあえず上空に上がって、周辺の地形を確認させてくれ。」

『わかった!』









 向かう先は決定した。荷物もないのですぐに移動できる。

 洞窟内の見回し、3年間世話になったと呟く。そして振り返ることなく、前もって話しあっていた移動方法、ズィーリオスに跨り、洞窟を、いや、聖域を後にした。









 だが、この時の俺は知らなかった。

 聖域内で長期間過すという、前代未聞のことをした者が、どのような影響を受けているのかが。







































 聖域から飛び立ち、暫くして。

 俺達は快適な空の旅を楽しんでいた。跨った体勢を崩し、抱きつく様にもふもふを堪能しつつ、もふもふと空を飛び、旅をするという夢の様な状況に、結構楽しんでいた。



 ズィーリオスも機嫌が良く、大空を俺と自由に飛び回ることが出来るのが嬉しいらしい。お前は猫なのか?と思うレベルで、ゴロゴロ言っていた。狼、イヌ科でもゴロゴロするのが普通なのか?聞いたことないんだけど。

 楽しんでるなら、イヌ科でもネコ科でもどうでもいいや、と思考放棄することにした。





 すでに英雄の森は抜けており、眼下には林や、時折畑が広がっていた。長閑である。

 街に行くのが目的なので、途中の村々は今回全スルーだ。今後は、地上の移動の際によってみるのも、異世界ならではで良いかもしれない。









 それからまた暫く進んでいると、そこそこ大きな街が見えてきた。



『ズィー、あの街にしよう。目立たないよう少し離れたところで降りてくれ』

『わかった』



 上空での会話は、口を開くと喋りにくく、口の中が乾燥するので、念話でやりとりする。

 近づくにつれ、良からぬものが見えてきたが、あんなものはスルーだ。





『なあ、リュゼ。馬車が魔物に襲われているようだが』
『気にするな。気にしたら負けだ』
『負けって、何に負けるんだよ。魔物自体は弱そうだが、数が多い。このままでは全滅するぞ』
『はぁ、仕方ない。なら、今から言う選択肢の中から選んでくれ。



 1,無視して先に行く

 2,挨拶して先に行く

 3,引き返す

 4,迂回する



さぁ、どれがいい?』

『全部無視じゃないか!!』









 全く、4つも選択肢を用意したのに全部嫌とは。なら、どうしたいと言うんだ。





『俺は先代から聞いたぞ。人の街に入るのには、身分証かお金が必要だと。俺達にはそのどちらもない。あの馬車を助ければ、どうにかしてもらえるのではないか?そしたら、中に入って冒険者登録とやらをして、そこでお金を稼ぎ、服や剣を買おう。なあ!どうだ?』







 なるほど。タダではないのか。だったらまだいいか?でも人に、自分から関わりに行くのはちょっとなー。しかし、中に入れないと来た意味ないし。途中の村で、魔物を狩って売り、資金を調達してこれば良かった。そうすれば面倒にはならなかっただろうに。







『わかった。恩を売ろう』
『言い方・・・。まあ、助けるだけマシか』







 進路変更を決め、馬車から離れた所で地上に降り、馬車まで駆け出す。勿論、俺は乗ったままだ。近づくと敵の正体がわかった。ゴブリンだ。

 緑の肌に、醜悪な顔。鼻にこびり付いて、消えないんじゃないだろうかというほどの臭い。腰にボロ布を巻き、手には棍棒を握り締めている。



 馬車の周りには、騎士の姿をした護衛らしき人が5人。そのうち2人は怪我をしているのがいるが、馬車の入り口を体を壁にして塞ぎ、辛うじて剣を握っているようだ。残りの3人で馬車を囲むように守っているが、ゴブリンの数は見た感じ、30~40ほど。圧倒的に護衛が不利な状況だ。







『ズィー。攻撃は風魔法のみにしろ。そして、絶対にあいつらに噛み付いたり、爪で切りつけたりするなよ』
『何でだ?魔法はわかるが・・・』
『ゴブリンなんて直に触ったら、お前まで臭くなりそうじゃないか。あと不潔。返り血なんて以ての外だ』
『なるほど?まあ、魔法だけでどうにかなりそうだし、構わないか』





 馬車に後数十メートルという所で、ズィーリオスが先制を仕掛け、あちらも俺たちのことに気付いたようだ。ズィーリオスが攻撃を仕掛けたタイミングで俺も飛び出し、全身に身体強化をかけ、戦闘区域に突っ込む。





 突っ込んでまずすべきこと。それは武器の調達だ。

 怪我人の騎士に近づき、「借りる」と一言だけ言い、剣をかっさらう。そのまま、周辺にいたゴブリン達の首を跳ね飛ばす。そして、騎士を背後から狙っていたやつの首を、背後から突き刺し、今まさによろけてしまった別の騎士に、殴りかかろうとしていたゴブリンに投げ飛ばしながら、剣から引き抜く。体勢を崩したゴブリンにとどめを刺す。

 その時にはもうゴブリンは全滅していた。







 役目の終えた剣を手放し、ズィーリオスの元へ向かう。なんの問題もなかったようだ。







 唖然とし、身動き1つしなくなってしまった騎士達を振り返る。どうしよ。動いてくれないと、話しが進められないんだけど。



 話しかけようか、いやいや、話しかけられるのを待つべきかと悩んでいると、馬車の扉が開かれる音がした。
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