はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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ズィーリオス

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 洞窟方向に歩くが、洞窟を通り過ぎ、50メートルほど離れた位置の開けた空間に着く。

 ここであれば、5メートル近くあるビックボアのような大型の魔物でも、解体出来るだけのスペースがあった。



 普段であれば、狩った獲物はその場で解体をするのだが、トレントの領域を突っ切って連れてきて、自分では処理しきれなくなってしまうほど、俺に見せたかったらしいので、ここでやることにしたのだ。別に、もうちょいで寝落ちしそうだったのに邪魔されたから、と根に持っているわけではない。核を破壊しない限り、永遠に攻撃してくるのがうざいとか、倒しても美味しくないからっていうだけだ。うん。



 ズィーリオスに解体をしてもらっている間に、洞窟に戻り、以前に作った土器性のコップと深皿に水を汲んで、コップの水は飲み干して元の場所に戻し、水の入った深皿だけを持ち戻る。











 戻って来ると、おかしな光景が広がっていた。

 この短時間で、ビックボアの片面の皮剥ぎが終わり、肉がブロック状にカットされ、骨になっていたのはまだいい。だがその側で、所々に血の付いた全裸の少年の後ろ姿があった。白くさらさらしていそうな髪、白く柔らかそうな肌、そこに映える赤。それは目を奪われるほど、っ!いかん!見つめるのは色々とアウトだ!



 顔を背け、近くの木の幹に背中を向け、隠れる。何なんだあいつは!てか、ズィーリオスはどこ行った!



 契約者の能力を使い、ズィーリオスの位置を探ってみると、後方にいることがわかった。

 そっと木の影から、後方のズィーリオスの位置を確認するも、先程の少年しか見えない。



 えーと。これはもしかして、まさかのやつ?





『ズィー。ちょっと確認させてくれ。聞こえてたら、その場でジャンプしてくれるか?』







 最終確認に、念話を使って聞いてみた。

 するとどうだろう。白い少年が、ジャンプをしてるではないか!





 隠れているだけ無意味である。そもそも、相手も俺の位置が分かるのだから、バレていたようだ。



 木の影から出て、少年に近づいていく。勿論、目線は解体中のビッグボアに固定だ。







『先程から何をしてたんだ?』
「お前が誰かの確認だ。ズィーだよな?」
『そうだけど?』
「その格好は何だ。服を着てくれ」









 いくら、今は男同士とはいえ、直接見るのは出来ない。でも、会話中に他所を見ているのは不自然だ。うーん。







『いや、服を着てくれって言われてもな。その服がないし』







 確かに、服がない問題があった。俺の今着ている服も3年前のもので、あちらこちら破けてしまっており、かなり小さく、ヘソは見え隠れしてしまっている。



 なら仕方ないのかもしれない。あっ、少年、いやズィーリオスの顔に集中して、そこだけを見ていよう。2対の金の瞳が見つめ返す。





「そうだった。服は仕方ないとして。いつの間に、人型をとれるようになったんだ?」
『だいぶ前からだよ。逆に今まで、どーやって解体も料理もしてきたと思ってるわけ?』







 本当だ。どうやって料理してきたんだろう。解体は、風魔法でやっていると思ってたんだけどな。料理に関しては、魔法でやるには難しすぎる。





「確かに。全部魔法は無理だな。なるほど。人型で作業していたのか」
『そーいうこと』
「でも何で裸なんだ?」
『人型になったらこーだけど?』
「・・・」







 これは、俺の為にも服が必要だな。毛皮ならいくらでも手に入るが、糸や針は簡単に手に入らないな。どうしようか。







「服がいるな・・・」
『っ!!なら、街に行こうよ!そこでなら2人分の服も手に入るし、それに、リュゼの剣も用意出来るよ!!やっとだ!ずーーーっと、リュゼ街に行きたがらないんだもん!もう決定だからね!明日行くからね!この格好で、居てほしくないんでしょ?目を反らしてるので知ってるよ。もし行かなかったら、このままウロウロしまくる!』









 何だか、明日の予定が決定してしまった。人とはもう、関わりたくはなかったんだがな。



 ズィーリオスは、前から街に行きたがっていた。だが、ずっと行かずに伸ばしてきていた。1度行くのは、物資の調達が出来て丁度良かったのかもしれない。







 未だに、テンション高めのズィーリオスはおいといて、持っていた深皿を地面に置く。人型にこれはないな。



 テンション高くなると、精神年齢が引き下がるのは相変わらずで、現在の見た目年齢、15,6歳の少年には違和感がある。

 しかし、美形だから可愛く見える。流石、狼。体の成長は早い。



 現在のズィーリオスの狼時の大きさは、アーデよりはまだ小さいが、高さは大体2メートル、全長は3メートルほどだ。





 そして気づく。人型になったら裸になる。だから、アーデは人型を見せてくれなかったのだろう。





 そしてふと、気になった事を尋ねる。







「なあ、何で人型なのに念話してんだ?話せはしないのか?」







 そう。念話のことだ。いつもの狼の姿であれば、声帯の問題で話せず、念話を使っていることは理解出来る。しかし、人型になっている現在では、念話を使わなくても会話が可能ではないか?







『あっ、そうだった。癖でつい。ちょっと待ってね』





 何だ。ただの癖か。喋れないのでは、と心配したからちょっと安心だ。本人には言わないけど。







「んっ!んん。あー。よし。こんな感じだね」
「人型の時はこれに慣れてくれよ。特に街に行きたいならな」
「わかった。気を付けよう」







 念話は契約者間でしか使えない。街に行ったら、他の人と会話が出来ないだろうに。





 だがその時の俺は、アーデが契約もしてないのに、俺との念話が出来ていたことに気付いてなかった。そしてその理由は後日、知ることになる。







 ズィーリオスは、機嫌よく解体作業に戻る。ズィーリオスが解体する時には、ブレードウッドと呼ばれる植物魔法を利用し、ナイフ代わりに使っていた。これは、刃のように鋭い木を、敵の進行方向に出現させたり、物量で切り刻むといった、戦い方が出来る魔法だ。





 解体もそろそろ終わりそうだ。魔法って本当便利だな。ズィーリオスが居なければ、1人では生きていけないな。頼ってばっかだ。





 乾燥している木の枝を集め、火打ち石で火をつける。

 今日は、昔アーデが作ってくれた、串焼き肉を作ろう。あれは美味かったからね。





 解体が終わったズィーリオスに、串代わりになる長い枝を出してもらい、肉にぶっ刺して火の周辺に、地面に持ち手の部分を刺してじっくりと焼いていく。時折聞こえる、パチッパチッという脂が跳ねる音がする。









 あたりが夕焼けに染まり出していた。そっとズィーリオスがやって来ると、狼型に戻り、俺を包み込むように横に寝そべる。どうやら、血を洗い流してきたようだ。





 もふもふのズィーリオスにもたれながら、ボーっと焼き目が付いていく肉を眺める。





 明日訪れるだろう、人との関わりについて考える。

 ずっと分かってはいたのだ。特に、ズィーリオスが狩りに苦戦しなくなってからは。ズィーリオスは聖獣であり、いつかはこの聖域を出て、別の聖域に行く日が来る。その時旅をするだろう。人型にもなれるため、街にも行くことがあるだろう。

















 明日までには、覚悟を決めないといけないな。







 火の光を反射しながら落ちていく肉汁を見ながら思うのだった。







 でも、その前に、もう食べてもいいよね?じゅるっ。
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