はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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リュゼとズィーリオス

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『いい?絶対に寝ないでよ?起きててよ?』
「わかったって。早く行って来いよ。」



 追い払うように、シッシと手を振る。見慣れた存在が出かけたのを確認し、砂埃一つない綺麗な地面に仰向けに寝転ぶ。



 聖域内で暮らし始めて、既に3年の月日が過ぎていた。

 あの日、アーデに助けられ、聖域の洞窟へとやって来て直ぐ、台座の上にある卵が、強烈な光を発し始めた。あまりの強さに、その光が収まるまで目を閉じざるを得なかった。

 目を開いた時には、アーデに似た神々しい程に美しい白い体毛に、金の瞳をした小さな存在がいた。そして同時に、アーデがこの世から消え、世代交代が行われたことを意味していた。だからこそ、アーデによろしくと言われた、この目の前の小さな命を守ろうと固く心に誓った。











 そしてその時から、シゼとは会っていない。あれだけの騒ぎでは、離れにいた時点で死んでいてもおかしくないだろう。

 実際、ルーデリオ・バルネリアは死んだのだ。シゼをあの家に残して行くことは、心苦しいが悪いようにはしないだろう。











 それからは、本当に色々なことがあり変わった。

 特に変わったのは、自身の在り方だろう。前世で好きなように自由に生きたいと願いながら、実際は何も変わらず、様々なものに縛られ、外面のみを取り繕って生きていた。



 だけどもう、取り繕う必要も、縛り付ける存在もいない。



 ”俺”は、”俺”のやりたいように自由に生きていくのだ。

 そして、”リュゼ”として生きていくことを決意した。









 新たな聖獣が生まれた日と、”俺”が生まれた日は同じで、俺が名前をプレゼントしようとした時のことだ。

 前世の留学中に仲良くなったドイツ人の女性がいたのだが、彼女はとても星が好きで、中でも特に、おおいぬ座のシリウスが好きだと言っていた。シリウスは、太陽を除いた全天の中で、最も明るい恒星と言われており、その色は白く輝いて見える。この名が、この小さな聖獣にはピッタリだと思い、ドイツ語読みの”ズィーリオス”と名付けた。



 その時に、どうやら契約を結んだようで、感覚でそれがわかった。

 ズィーリオスとは、契約と同時にお互いに念話が可能となった。俺は契約の証として、髪の毛の色が全て白に変わっていた。



 因みに髪の毛は、切るものがないため、伸ばしっぱなしだ。今では腰辺りまで伸びている。紐も随分前に切れてしまったので、下ろしたままだ。















 名前を決めたら、次の問題は食料の確保だった。これがまた凄かった。本来は、ズィーリオスだけで生きていく予定だったからか、数回の失敗だけで、その日のうちに狩りを成功させたのだ。というのも、物凄くチートだったのだ。1度見た魔法を再現して見せた。属性関係なく。



 最初の1年ほどは、一緒に狩りに行き成功するたびに、褒めて褒めて!と子犬のような反応だったが、もうズィーリオスだけで大丈夫だろうと、狩りを任せ、次第に色々と任せていったら、今では達観したような反応になってしまっていた。

 俺も週に1度ぐらいは狩りに行く。その際に使う武器は、以前、近くに出来ていたオークの集落を壊滅させた時に盗って来た、大剣だ。しかも、集落だったのでかなりの数があった。



 だが、昔の鍛錬時は、常に木剣を使っていて、ただでさえ、普通の剣ですら振ったことがないのだ。なのに、まだ13歳の少年が、2メートル近い大剣を手に入れてどうすんだ、と普通なら思うだろう。しかし、そこは身体強化の出番である。この大剣を持つ為だけに、部位強化を身に付け、今では片手で振るうことが出来る。

 いくらたくさんあると言っても、所詮オークの武器である。たいして強い個体もいなかった集落だ。使うたびに折れていき、今ではもう残り1本しかない。



 また近場でオークの集落が出来ていたりはしないだろうか。本当に豚肉の味で美味しかったんだよな。

















 そして、この聖域で暮らしていくうちに、いくつか面白いことに気付いた。

 まず、壁と床の発光現象だ。これは、その日の太陽の昇降に連動していた。

 次に、洞窟の空間全体に浄化魔法がかかっていて、空間内は常に清潔に保たれている。服の汚れも綺麗にしてくれるので、とても便利だ。

 最後は、ズィーリオスに関してだ。どうやら、魔力が含まれているものしか食べないようだ。それも、多ければ多いほど、質が良ければ良いほど、美味しく、能力の強化になるようなのだ。

 だから最近は、Cランクの魔物を狩ってくるので、今出かけている狩りでも、きっと同じランクのものを持って来るだろう。ランクが高い魔物の肉は、基本的に美味い。













 そして今日は、俺が料理をすることになっている。さて、何を作ろう

か。あれこれ考えてると、ズィーリオスから連絡が入る。









『リュゼ!手を貸してくれ!この数は手に負えない!』
『わかった。直ぐ向かう!』









 切羽詰まった声だった。即座に身体強化を全身にかけ、入り口に立てかけていた大剣を掴み、森の中に飛び込む。そしてズィーリオスのいる方向に走り出す。

 これは契約者同士が、"視界外"にいる場合に相手のいる方向が分かるという能力だ。念話の最大距離は半径100メートル程で、検証した結果だった。近場にいることはわかっていたので、直ぐに合流する。すると、ズィーリオスは30近い数のトレントに囲まれていた。











 トレントは、木の姿をした魔物で、普段は木に擬態しているが、攻撃時は擬態を解くため、心臓部にある核を破壊すれば倒すことが出来る。

自身の枝葉を巧みに操り攻撃してくる、Cランクの厄介な相手だ。火に弱いらしいが、森に火魔法を使う相手がいないので、ズィーリオスは火魔法を使えない。

 現状で使えるのは、風、地、植物の3種類だ。風魔法でスパスパ切り裂いてはいるが、邪魔な枝が多く、核まで到達していない。魔法を色々と使いながら、爪や牙で攻撃もするが、敵の数が多過ぎる。















 俺は到着の勢いのまま飛びかかり、大剣をトレントの核に叩きつけて破壊する。確認する間もなく、ズィーリオスの背後に迫った枝を切払い、更に接近して、横に薙ぎ払うように剣先で数匹まとめて核を破壊する。



 お互いをカバーしながら順調に数を減らしていき、最後の1体をズィーリオスが吹き飛ばして来たので、核にグサッと突き刺す。

 やっと全部倒せたと、息を吐いた瞬間、バキッと嫌な音が聞こえた。手元が異様に軽いので、目線を下ろすと大剣が真っ二つに折れてしまっていた。どうしようか。どうせ使えないし。



ポイっと投げ捨てることにした。そんなことよりも、なんでこんなところに、トレントの群れがいたんだ?もっと奥の方に居たはずだが。







「お疲れ様。怪我はないか?」
『ああ、問題はない。助かった。』
「何であんなにトレントがいたんだ?」
『今日の獲物はいいのがとれて、ついトレントの領域内を突っ切って来てしまったんだ。』









 尻尾が下がり、耳がペタンとなってションボリとしていた。うっ、可愛い。モフりたいが、状況を考えて我慢する。









「獲物はあるのか?見当たらないが・・・?」









 辺りを見渡しても、それっぽいものはどこにもない。するとズィーリオスは、ちょっと待ってと言って何処かへ向かって行く。

 少しして戻って来たズィーリオスの背後には、巨大な個体が宙を浮いていた。



 ビッグボアである。見た目は大きな猪なのだが、性格は意外にも臆病で、滅多にお目にかかれない。そのビッグボアを、風魔法の応用で浮かし運んでいた。







「よし!許す。そいつが獲物なら仕方ない。なら戻って、早速食べよう。」









 かつて食べた旨さを思い浮かべ、トレント騒ぎは大したことないと判断し、くるりと向きを変え、洞窟に向かって歩き出す。その後ろには、ズィーリオスが尻尾を振って付いて来ていた。
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