はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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兄弟

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「-兄!ルー兄!ルー兄ってば!」

「う、うーん?」







 目を開けるとシゼがいた。は?何で?窓の外を見ると、もう既に日は高く登り切り、心なしか若干傾いているような気もする。だいぶ眠り続けていたようだ。







「ルー兄ってば、僕が帰って来て直ぐここに来たのに寝ているなんて!」

「ごめんって!」







 この1年ほどの間で、シゼははっきりとした発音が出来るようになっていた。したっ足らずなシゼが見れないのは少し悲しいが、シゼが可愛いのは変わらない。









「お帰り、シゼ。どうだった?」

「光属性だったよ」

「おお!希少属性を持っているなんて流石シゼだね!」

「そんなことないよー。あ、お腹空いているでしょう?お土産買ってきたよ。一緒に食べよう」









 夜中にシゼの属性は知っていたが、あの部屋でのことは、何も聞いていなかったことにしなければならない。それに、こういうことは自分の口で言いたいだろう。今だって否定してるが、とても嬉しそうだ。

 シゼからお土産を受け取る。サンドイッチに近いだろうか。パンの間にレタス的なものと、何かの肉が挟まっている。食べてみると、鶏肉の香草焼きのような味した。久しぶりの美味しい食べ物に涙が出そうだ。出てこないけど。







「シゼ。シゼに言っておかないといけないことがあるんだ」

「何?」







 お腹いっぱい食べ終え、いつも通り誰も部屋にいないことを確認して、シゼに声をかける。

 私の真剣な雰囲気に、シゼも居座りをただす。”聞いたこと”は言ってはいけないけど、私が”言ったこと”であれば何も言われてないし、いいよね。









「実はね。父様に、シゼの頭脳の高さについて言ってしまったんだ。だから近いうちに、呼び出される可能性がある。約束したのに。本当にごめん!」

「そっか。わかった」

「何で責めないの?シゼ、誰にも知られたくないって言ってたじゃん」

「だってルー兄のことだよ?ルー兄が理由もなしに、そんなことするわけないでしょう?僕の為だってことぐらい分かるよ」









 責められると思っていた。だから嫌われたとしても、正直に言っておこうと思ったのに。本当に、シゼは優しい。















 その数時間後、シゼは父様に呼び出された。夜話を聞くと、どうやら知能テストを行っていたらしい。内容は、王立学園の高等部の入試問題だったようだ。手を抜くことなく全て答え、全問正解だったようだ。全問正解なのは当たり前だろう。現代地球の知識を理解出来ているシゼが、それよりレベルの低い、高等部の問題さえ解けるのだ。入試問題ぐらい余裕だ。

 ただ、この結果に父様がとても気分を良くし、王家の教師に授業を依頼したようだ。その教師がエルフで、父様の補佐官と旧知の間柄のようで、その繋がりで、王族と一緒に授業を受けることが決まったようだった。









 王城での授業決定から1週間後、シゼは毎日王城に行くことになった。授業を受けるためと、契約者としての役目のためだ。シゼは父様と一緒に登城することになり、会えるのは1日に朝と夜だけになっていた。



























 シゼと会う時間が少なくなってからは、いかに省エネに生きていくかを極めていた。と、言えば聞こえはいいかもしれないが、実際はひたすら寝ていただけだったりする。

 もし、昼頃に起きて、母様がお茶会などで出かけていなければ、母様のところに行くようになった。そこでは、一緒にお茶をしながらおいしい軽食を食べられた。

 学園が休みで、お茶会に呼ばれたりしていなければ、姉様のところに行っていた。そのころには、姉様の妹願望はなくなっており、心安らかに姉様との時間を楽しめていた。そして気付けば、毎日2人のどちらかのところで過ごすようになっていた。



























 学園が休みのある日。いつものように母様と姉様とお茶を飲んで、会話を楽しんでいた。そこに、コンコンという音が来客の存在を告げる。母様が許可を出すと、扉が開いたそこにいたのは、ロベルト兄様とカイザス兄様だった。







「お茶を楽しんでいるところ失礼します。ルーデリオに用があり来ました」

「あら、カイザス。ルーちゃんに何の用かしら?」

「お姉様には関係のないことです」







 カイザス兄様と姉様が睨み合う。この2人が私に用だなんてどうしたんだ。今までそんなこと一切なかったのに。特に、ロベルト兄様は興味ないと言っていたのに、今更なんだというんだ。







「リルシーア、カイザス、2人ともやめなさい。カイザス、急にそんなことを言われたら驚くわ。理由を聞いてもいいかしら?」

「僕ら兄弟はもう少し、お互いに歩み寄る必要があると思ったんです。ですからまず、男同士で話し合いの場を設けたいと思いました」









 母様の一声で、2人が睨み合いを終える。そして、カイザス兄様の言葉はとても驚くものだった。急に仲良くしたいと言ってきたのだ。どんな心境の変化だろう。







「なるほど。そういうことなのね。ならいいんじゃないかしら」

「お母様!何を仰ってらっしゃるのですか!」







 母様の言葉に姉様が反応する。そんな姉様を宥めながら母様は、今のうちに行きなさい、とばかりに男兄弟達の方を見る。その視線の意を汲み取った兄様たちが、私を連れて部屋の外に連れていく。というか1つ言いたい。









 私の意志は?

































 兄様たちに連れてこられたのは、何故か邸宅の側の森だった。因みにこの森、英雄の森と呼ばれている。別に、英雄に関する伝説があるわけでもない。ただ英雄が、幼少期をここでよく遊んでいたと言われているだけだ。この森の名前を付けた人は、きっと重度の英雄ファンだったのだろう。

 それで、この森で何の用だろうか。まさか僕たちも、英雄にあやかって遊ぼうとしているわけじゃないよね?というかこの世界での遊びって何があるんだ?玩具の類ならあるけど、他の遊びは知らないぞ。貴族だから、か?









「あのー。ここで何をするんですか?」

「狩だ」









 誰にとも無く聞いてみると、今まで黙っていたロベルト兄様が答える。しかも、やる事は狩らしい。









「何を狩るのですか?」

「決めてない」

「えっ?」











 狩をやるが、狩るものを決めてないとは、だいぶ勢いで決めたのではないだろうか?ロベルト兄様は、それ以上は答える気はなさそうたったので、カイザス兄様に目を向ける。すると、いるやつを狩ればいいだろうとのことだった。やっぱりテキトーである。









 喋ることもなく、森の中を歩き続ける。なんだかんだで、この森に入るのは始めてだ。魔物はほとんどいないが、多少野生動物の気配がするので、狩るとしたら小動物辺りだろう。だけど、私はどうやって狩に参加すればいいんだ?



 私は現状手ぶらだった。お茶を楽しんでいるところ、直接森に連れてこられた。狩に使う道具は渡されていない。兄様達も手ぶらだが、魔法があるのでいいのだろう。石でも使って狩ればいいのか?当たるだろうか?当たらないだろうな。









 そうやって暫く歩き続けるも、一向に狩れそうな相手が見つからない。そもそも森の中だから、火魔法は使えなかった。準備不足過ぎる。そんな時、ふと顔に冷たい何かが当たった。何だろうと上を見上げると、少しずつだけど、どんどん強烈な雨が降ってきた。







 私達はすぐに家に戻ろうと駆け出した。だが、歩き慣れない森の中で、雨に濡れて泥濘んだ地面は、走り辛い。私は場所なんて分からないので、兄様達に付いていくのに必死だった。

 そんな時に、足元が剥き出しの木の根に引っかかり、転けそうになった。反対の足で何とかふん張ろうと踏みしめた地面は、何故か"変形した"ような気がした。そのまま滑り転げる勢いを、止めようとするが止まらない。

 すると、急にフワッとした浮遊感に襲われる。回転する景色から見えたのは、崖から飛び出していた自分と、僅かに口角が上がった様に見えるカイザス兄様だった。

























そして重力に従い、多くの魔物が跋扈する英雄の森、その内心部へと落ちていった。







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