はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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前世の記憶

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 馬車に乗り込んで、九元教の教会へと向かった、シゼ、母様、姉様を、玄関ホールの階段上から見送る。
 先日、5歳の誕生日を迎えたシゼの、判定の儀が行われる日だった。玄関前には、去年の私の判定の時のように、邸宅のほぼ全ての人がお見送りに出ていた。だが、その中に私が入ることは出来ないため、シゼとは朝のうちに見送りを済ませていた。それでもやはり、近くで見送りをしたくてここまでやってきていた。
 父様達が戻って来て、私に気付く前に部屋に戻ることにする。


 部屋に戻って直ぐ、もはや手慣れた紅茶の準備をする。淹れた紅茶を持って、ソファに移動し、カップに口をつける。まあまあ、美味しい味になってきたな。やる事もないので、ひたすらダラダラする。
 そうして過ごしていると、お昼になってお腹が空いたので、食堂へ向かう。
 食堂内へ入ると何か違和感があった。違和感の正体を探していると、カイザス兄様から声がかかる。



「残念だったな。お前の席はねぇよ!」



 そう言われてやっと、違和感の正体に気付いた。こんな状況なのに、父様も、ロベルト兄様も無反応だ。ロベルト兄様はまだしも、父様までこの扱いを黙認しているのを、今になってやっと、はっきりと感じた。
 悲しくて、悔しくて、複雑な感情を悟られたくなくて、一目散に自室へ戻って鍵を閉め、上がった息を整えながら、気持ちも落ち着かせる。





 よし。もう大丈夫。落ち着いて、空腹だったことを思いだした。そして、もしもの時の為の、食料の存在を思い出す。部屋に隠してした非常食の存在だ。
 これは、この家での確保が難しいと考えた、シゼとレオが、シゼを通して渡してくれていた。乾パンの様なものを紅茶に浸し、ふやかして食べやすい様にして、口にする。最近のいつも出される食事より美味しいかもしれない。
 食べていると、窓の外から早馬が邸宅に向かっているのが見えた。よし。暇だし、何事か覗きに行こう。

 部屋をそっと抜け出て、玄関ホールに向かう。そこには、早馬の騎士と思しき人と、父様がいた。どうやら、母様達からの連絡らしい。よくよく聞いていると、教会の近くの街で、母様と姉様の友人の貴族に会ったので、今日はそこで一泊してくる、とのことだった。つまり、夕ご飯もない事が確定してしまった。
 まあ、最近、別ベクトルで料理人の腕が上がっており、めちゃくちゃ不味いから、いつも食べてないのは変わらないのだけど。
 そうと分かれば、あまり体力を消耗させることは出来ない。さっさと部屋へ戻り、眠ることにしたのだった。









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 最近お母さんの様子が変だ。何だか、私の顔を見る度に嫌そうな顔になるのだ。私は見に覚えのないことで、どうすればいいのかわからない。



 だが今日は久しぶりに、お父さんが帰ってくる日だ。今日のお母さんは機嫌がいい。
 お母さんは、お父さんのことが大好きなのだ。お父さんは、日本の大手企業の重役で、特に企業間の取引にもの凄い実績を残しているらしい。
 以前お母さんが話していたこととしては、若くして色々な企業との取引を成功させ、お父さんが交渉すれば、確実に取引を結べるとまで言われているらしい。だからか、全国あちらこちらへ出張に行ったり、外国企業との取引のために、海外出張に行ったりしている。
 そんなお父さんが、今日は帰ってくると言うのだ。





 久しぶりに家族皆で、食卓を囲む。
 お父さんの仕事柄、給料はかなり良くて、都内の高層マンションの最上階に家があった。窓から見える大パノラマは、絶景だ。
 そして今、お父さんはお酒を飲み、かなり上機嫌だ。だからか、やたらと私に構ってくる。いや、女子高校生になる娘なんだから、もっと距離をとってよ。距離を。そんな様子を、いつも以上に不機嫌な顔でお母さんが、見つめる。
 お父さんは娘の目から見ても、イケオジと言われる見た目をしている。だからよくモテるらしい。しかも、出張であちこち行くので、その先々で女性から声がかかるとか。更に質が悪いことに、お父さんは女好きなのだ。よく浮気をしているが、それでもお母さんは、お父さんのことを愛しているようで、分かれることが出来ない。他の女には奪われたくないとのことだった。

 だが、今日はお父さんの12回目の浮気がバレた時より、お母さんの機嫌が悪い気がする。



「もういい加減にしなさいよ!!」




 突然、お母さんが怒鳴る。

 パンッ!
 怒りのままに、何故か私に平手打ちをして来た。え?何故?




「ずっとずっとずっと!気に食わなかったのよ!」
「なっ!お母さんなんで・・・」
「お母さんなんて呼ばないで!私はあんたの母親じゃないわ!」
「おい!そんなこと言う必要はないだろう!」
「何よ!あんたがあの女の子供を勝手に連れて来たんでしょ!」




 お父さんとお母さんの言い争いが始まる。私、2人の子供じゃなかったんだ。ショックではあるが、何だか妙に納得出来た。最近お母さんが私に冷たい理由も、私の顔がお父さんにもお母さんにも似てない理由も。
 言い争いの内容を聞いていくと、どうやら私は、お父さんの浮気相手の子供のようだ。しかも、お父さんが本気で愛してしまった相手らしい。しかも、当時まだ21歳の大学生で、その女性は出産後、体調が急変し亡くなってしまったようだ。
 それでお父さんは私を連れて来た様で、私の成長した顔が、当時のその女性とそっくりらしい。年々、浮気相手に似てくる私をお母さんは毎日見なくてはならず、苦しかったようだ。
 
 
 それにこの家は、色々と家族として破綻している。お父さんは、出張の度に違う女性と遊び、お母さんへの愛はなくなってしまっている。だが、お母さんは、お父さんただ一人をずっと愛し続けている。その愛が返ってくることはないのに。

 お父さんは世間体を気にし離婚しないだけ。世間体を気にしているとは、笑いが込み上げてくるけど。ああ、本当に笑いがこみあげて来る。この人は愛を囁いたその口で、嘘を吐き出し重ねて生きていくんだ。


 お母さんは、愛する人を他の女性に取られたくないから離婚しない。ただそれだけの関係だろう。そしてお父さんは、私を娘としては見ていないのだろう。かつて愛した女性を重ねて見ているだけだ。これを破綻していると言わずに何というのだ。




  ・・・バカらしい。


 その日から、私の居場所は家にはないのだと理解した。





















 嘲り、見下す目線が周りから集まる。ヒソヒソと話しながら、その様な目線を向けられるのは、何時まで経っても慣れることはない。


 ドンッ!
 後ろから肩へ衝撃が来る。振り返ると、安心する馴染みの顔があった。


「おはよう!○○!全くいつもいつも飽きないよね、あの子達も。全部嘘なのにさ。でも、私はあの噂は全て、嘘ってことがわかってるからね?」


 親友の彩乃だ。彼女とは、小学生の頃からの付き合いで、高校生になった今でも仲良しだ。特に今は、何故か変な私の噂が学校に広がっている立場としては、頼れる親友の存在は心の支えだ。
 それに今は家にも居場所がないし。私の居場所は彼女の側だけだ。



「おはよう。彩乃。彩乃が側に居てくれているだけでも安心だよ。」
「まあ、親友の沈んだ顔は見たくないからね!あ、授業始まる!またね!」




 鐘の音を聞いて、離れたところにある席に戻っていく。




 この学校は公立の普通校だ。中学生入試で私立の中高一貫校を、高校入試で女子高を親に勧められたが断って、公立のこの高校を選んでいた。理由は単純。ただ、親友の彩乃と同じ学校に通い、共に青春を過ごしたかったからだ。
 楽しい高校生活を夢見ていたが、現実はいじめの毎日だった。だけど、彩乃がいるから転校もせずに頑張って来ていた。それに転校ともなると、手続きが面倒そうという考えもあったのだ。後は私の意地だ。転校したら、負けた様な気がするのだ。



 ホームルームも終わり、放課後。
 私は学年主任から呼び出しを受けていたので、学年主任の元へ行っていた。そこでの話は、交換留学に関してだった。
 うちの学校の生徒と、アメリカの学校の生徒との交換留学に、チャレンジしてみないかというものだった。根も葉もない噂が広まっている今、留学はとても魅力的だった。
 しかし私は、彩乃と共に卒業したいという思いの方が強かった。だからこの提案を断り、かばんが置いてある教室へと、窓から差し込む西日を見ながら、早足で向かった。




 教室に近づくと、男女の話し声が聞こえた。まだ、残っている人いたんだ。そっとドアを開けようとすると、馴染みのある声が聞こえ、思わず立ち止まる。




「本当っ!あいつ何時までこの学校にいるんだって感じよね。さっさと出てけばいいのに!」
「まあまあ、荒れるなって。お前は"いい人"でいたいんだろ?なら、仕方ねぇじゃん。」
「まあ、そうなんだよねー。なら今度は何してあげよっか!かばんの中身とゴミ箱の中身を交換するとか?あとはー、机ごとかばんも水でびしょ濡れにするとか?」
「うわっ!地味に嫌なやつだな!お前、あいつから色々と貰っているのにいいのか?」
「ええ!いいの!〇〇は私が欲しいと言えば買ってくれる、言わば財布よ!」
「ひっでぇ!あ、それか、今もだけど最近あいつ放課後に、学年主任のところに呼ばれているだろう?だから、あいつらが付き合っているって噂を流すのはどうよ。」
「あっ!それいい!あの学年主任もウザかったんだよね。丁度いいかも。」


 


 この声は、彩乃の声だ。他にも男子が居るようだが、そんなことはどうでも良かった。心の支えである彩乃が主犯格だったなんて。








 私の居場所は、何処にもありはしない。





 かばんを取りに教室へ入るのを辞め、離れた所から、彼らが出ていくのをただ遠くから眺めていた。
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